2026年7月19日日曜日

皮疹の見方

皮疹の見方

皮疹の見方と言っても状況によって考え方が異なる。
皮疹だけをみてどう考えるかだけではなく、
どんな文脈で皮疹が出てきたか、が重要である。

我々が皮疹に出会う状況は皮疹と全身症状のバランスによって3つに分けられる。

① 全身症状がメイン(発熱、関節炎、ショックなど)だが、よく見たら皮疹も伴っていた状況:救急外来、入院中でみる状況、本人が皮疹に気がついていない


② 全身症状(発熱、関節痛、呼吸苦、腹痛など)もあるが、目立った皮疹もある場合:主に救急外来や一般外来でみる状況、本人が皮疹に気がついている

③ 皮疹以外に目立った症状がなく、皮疹のみの場合:主に皮膚科や内科の予約外来、プライマリケアでみる状況



 皮疹は皮膚に限局する皮膚疾患のこともあれば、
全身性の疾患の一部として出現することもある。

青木眞先生の有名なパールとして
「昨日元気で今日ショック。皮疹があれば儲け物」という言葉通り、
皮疹は診断のヒントになる。

 皮疹を探しにいくことで診断のヒントとなる状況をいくつか挙げる。
感染症では、感染性心内膜炎(塞栓徴候、点状出血、爪下出血)、
TSS(全身のうっすらとした紅斑)、リケッチア(刺し口)、
自己免疫性疾患では皮膚筋炎(メカニックハンド、ゴットロン徴候)、
SLE(蝶形紅斑)、脊椎関節炎(乾癬)、血管炎・I V L(紫斑)などである。

これらはその目で探しにいかなければ、見落とす可能性が高い。
リケッチアならば、皮膚の柔らかい部位(膝裏、腋窩、鼠径、髪の生え際、臀部など)に刺し口があるはず!という目で探しにいく必要がある。

もう一つ、皮疹を探しにいく時のコツは、ダブルチェックである。
1回で終わらず、2回確認すること。一人ではなく、二人で確認すること。

そして、目だけではなく手でも確認することである。皮疹は手で触って探す。
そうすることで、一人でもダブルチェックができる。

そして、皮疹の暖かさや立体感、ざらざらした感じ、乾燥・湿潤といった
「手触り感」がわかる。これは教科書やネット画像では得難い情報であり、
皮疹は頭ではなく手に記憶させる。

 皮疹を診断する時のポイントは
「文脈(経過)」と「皮疹の性状」と「随伴症状」である。

内科医は皮疹以外の情報(文脈と随伴症状)から主に診断を組み立て、
そこに皮疹をプラスして考える。
そのため、皮疹以外に情報が乏しい時が苦手である。
言い換えると皮疹だけを見た時の考え方が、システム1(直感)しかなく、
皮疹をみてシステム2(論理的思考)で考えることが苦手なのだと思う。
そのため、この章では皮疹をみた時にシステム2で考えられるように解説したい。

鳥の目、虫の目、魚の目を聞いたことがあるだろうか。
皮疹ほどこの概念がハマるものはない。
この3つの目で皮疹を見て、そこから思考していく。

① 鳥の目:全体を見る目である。
ここでは空間軸だけでなく、時間軸にも視野を広げてみてほしい。

(1)時間軸:いつ、どのような経過で出現した皮疹であるかという時間軸である。

まず季節は非常に重要である。春〜秋にかけて好発する疾患といえば、リケッチア症や毛虫皮膚炎、花粉皮膚炎である。

夏の海水浴シーズンでは、クラゲ皮膚炎やプランクトン皮膚炎(海水浴皮膚炎)、
山に行く人では植物かぶれ(ウルシ)、家にいても高温多湿の場合は
汗疹や白癬が増える。

秋〜冬は乾燥し、皮脂欠乏性湿疹やアトピー性皮膚炎が目立つようになる。
季節によって流行するウイルス疾患(手足口病など)もあるので、周囲の感染状況も重要である。

経過としては、突然なのか、急性なのか、亜急性に悪化しているのか、
再発して繰り返しているのか、慢性的に続いているものなのか、
といった時間軸が重要になる。

慢性的に再発を繰り返している場合、どのような状況で皮疹が出現するかを解像度高く聴取する。
熱が出たときだけなら、AOSDの皮疹かもしれない。
寒い時だけなら寒冷蕁麻疹やバージャー病、汗をかいた時ならコリン作動性蕁麻疹、運動や飲酒後なら食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)に代表されるようなコファクター増強型食物アレルギー(CEFA: Cofactor-Enhanced Food Allergy)、天気の良い外に出た後なら日光過敏症といった具合である。

先ほど述べた「文脈」にあたるものであり、この情報がなければ、皮疹だけをみていても診断はつかない。

(2)空間軸:空間的には皮疹以外の随伴症状や他に皮疹がないかを探す。
これは帯状疱疹が良い例である。ちくちく、ピリピリ痛い赤い発疹といえば、
帯状疱疹ではあるが、そこだけ見ておしまいにしてはいけない。
必ず随伴症状や全身をチェックする。随伴症状として頭痛を伴っていれば、
髄膜炎を発症している可能性がある。
そして、デルマトームに沿っていない部位に皮疹が出現していないか、
つまり播種性帯状疱疹に至っていないかを確認する。

皮疹の分布は診断のヒントになる。皮疹の分布が顔、首、手背であれば、日光曝露の部位の可能性が高く、日光過敏症かもしれない。
皮疹は主に外的要因(物理的な圧力、熱、化学物質、虫刺され、植物、塗り薬、白癬菌、疥癬)と内的要因(免疫反応、アレルギー、血流由来、腫瘍)と両者の組み合わせ(血管壁の脆弱な部位への物理的な圧力による紫斑、薬物によって誘発された日光過敏症)によって発症する。

特に皮疹の特徴的な分布は外的要因を示唆することがある。
帯状疱疹の皮疹に見えても、よく見ると皮疹の分布がデルマトームから外れており、服から出ている腕だけに限局した皮疹であれば、毛虫皮膚炎の可能性がある。
前日に庭の剪定をしたという情報が加われば、帯状疱疹と誤診しなくて済む。
手掌と足底にあれば、rash on palms and solesと呼ばれ、手足口病をはじめ鑑別疾患が絞られる。
全身にあれば、中毒疹と呼ばれる。
下肢に目立つ皮疹であればIgA血管炎を疑う。

皮疹の出現した順序も大事である。水痘は頭や顔から始まり、全身に広がる。
一箇所の皮疹を掻きむしっていたら、全身にも同じような皮疹が出現してきたら、自家感作性皮膚炎かもしれない。

このように、全身の皮膚をチェックするという一手間をかけて、皮疹の分布を明確にし、「なぜこの分布なのか?」を自問自答すると、皮疹の原因が見えてくる。

鳥の目まとめ
・時間軸:季節はいつか?経過は急性?慢性?どんな時に起こる?
・空間軸:随伴症状は?皮疹の分布は?

「なぜこのタイミングで、この分布なのか?」を自問自答する


② 虫の目:局所の皮疹をじっくりみてみる。

ここで登場するのが、お決まりの皮疹を表す単語である。
見た目の皮疹を言語化するのが難しいため、皮疹に苦手意識を持ってしまうが、
今の時代、写真で撮っておけば事足りる。
我々が求められているのは正確な皮疹の表現ではなく、皮疹の診断であることを忘れてはいけない。

難しいのは皮疹の言語表現がそもそも分からないことと、様々な皮疹が混在していることである。湿疹三角に代表されるように、紅斑、丘疹、小水疱、膿疱、湿潤、痂皮、苔癬化といったように見た目に皮疹が混在しており情報量が多い。

そのため、ここではシンプルに考える。見た皮疹を全て同じ情報として考えるのではなく、情報に優劣をつける。

「皮疹の新旧」、「水疱の有無」、「色」、「表面の性状」に着目する。

皮疹の新旧については、痂皮や水疱、紅斑などバラバラで様々な段階の皮疹があれば、「新旧混在」と表現され水痘の特徴となる。
逆に単純ヘルペスは、「同相同大」と呼ばれ、同じ時相で、同じ大きさの病変となる。
皮疹も時間が経つと変化してしまい、続発疹と呼ばれる。
皮疹を見た時には原発疹と続発疹が混在しているため、まずは原発疹を探しにいく。

原発疹:紅斑、紫斑、水疱、膿疱、丘疹、膨疹
続発疹:痂皮、苔癬化、鱗屑、ビラン・潰瘍、萎縮


(1) 原発疹で探すべきは、水疱である。水疱が1つでもあれば他の皮疹は関係なく、液疱病変のカテゴリーとして考える。水疱があれば液疱病変となり、水疱性疾患と膿疱性疾患に分けられる。

(2) 水疱がなければ赤いかどうか、赤みがあれば紅色病変、なければ非紅色病変へと進む。

(3) 紅色病変の場合、隆起しているかどうか、表面がざらざらしているかどうかで分けていく。



紅色病変の場合、表皮に問題があるか、表皮に問題がないかを確認する。
見極め方は、表皮の性状と境界である。

表皮に問題がなければ、皮膚はツルツルしており、
皮疹を作り出している解剖学的な部位は真皮以下である。

境界面は表皮→真皮→皮下組織へと深くなればなるほど不明瞭になる。
真皮以下に問題がある病変といえば、蕁麻疹や紫斑、薬疹、ウイルス性発疹症、蜂窩織炎、結節性紅斑、脂肪織炎である。

表面がざらざらしていていれば、表皮の炎症(白癬、乾癬)や湿疹の可能性が高い。この考え方は治療に直結し、表皮の炎症であれば外用剤が治療のメインになる。しかし、真皮以下に問題が起きていれば、外用薬の効果は乏しくなる。

虫の目まとめ
・時間的に新しい皮疹、特徴的な皮疹(水疱の有無)を探すことから始める
・皮疹が起きている解剖学的部位を想像する

「どの層に何が起きているか?」を自問自答する


③ 魚の目:魚が水の流れをみるように、
      皮疹の時間経過を追っていく。

 原発疹から続発疹へと変化しているか、新たな原発疹が出現していないか、紅色病変から紫〜褐色調に変化しているかなど、時間とともに皮疹が改善しているかどうかを見極めていく。

例えば、蜂窩織炎であれば、抗生剤治療とともに徐々に改善を認めるが、
壊死性筋膜炎の場合、数時間単位で局所所見が悪化していく。

悪化したかを記憶に頼るのではなく、発赤範囲と痛みをマーキングしておくと良い。壊死性筋膜炎は発赤範囲を超えて、痛みが強いことが特徴である。
マーキングすることで視覚的に悪化していることが証明でき、整形外科や形成外科Drにコンサルトし、試験切開してもらう時の診断根拠にもなる。



時間が診断の鍵になることはよくある。

例えば、典型的な蕁麻疹であれば24時間以内には消退するが、
消退せずに24時間以上も残存し、色素沈着や紫斑が残る場合には蕁麻疹様血管炎が疑われる。

不明熱で入院中に最初はなかった点状出血が入院後に新規に出現すると感染性心内膜炎や小血管炎の診断の糸口になる。

これらの疾患を疑う際には「皮疹がない」ということにも意味がある。
「新しく出現した!」と自信をもって言えるためには、日々の診察が重要になる。

魚の目まとめ
・皮疹を適切に経過観察できるかどうか
・蜂窩織炎の場合は痛みと発赤範囲をマーキングする
「明日、この皮疹がどう変わるか」を自問自答する


<皮疹の因子や機序は?>
3つの目で皮疹を見た後に皮疹の因子や機序を考える。

なぜこのような分布となり、このような性状の皮疹となり、このような時間経過と
なるのだろうか。

その原因は外因性要因か、内因性要因か、それとも両者か。

体の中でどのような機序で皮疹を作り上げているのか。
神経支配に沿ったウイルスの再活性化か(帯状疱疹)、
血流に乗って飛んできたのか(播種性帯状疱疹)、
免疫反応が皮膚で起きているのか、
免疫複合体による血管炎か、
血管壁が脆弱で出血したのか、血小板や凝固因子の問題か、
真皮の血管が拡張しているのか。それとも・・・

このように皮疹の病態生理を考える癖をつけると皮疹をシステム2で考えられるようになる。

例えば、右下肢の痛みを主訴に来院した40歳男性について考えてみる。


 皮疹は昨日から出現して悪化傾向。こういった皮疹は初めて。
皮疹は右下肢のみで他の部位に皮疹や随伴症状もない。
右下肢全体にうっすらした紅斑と紫斑がある。水疱や盛り上がりはない。
表皮はきれいでツルツルしている。
下肢全体の紅斑は圧迫で消退するが、紫色の病変は圧迫で消退せず、紫斑である。

体内の免疫反応や血流に乗って飛び散った皮疹であれば、
片側の下肢だけに限局するのはおかしい。
両側の下肢に目立つ紫斑といえば、IgA血管炎ではあるが、
片側なのは説明がつかない。

となると片側の理由は、なんだろうか?

同部位の感染、つまり蜂窩織炎であればあり得る。
しかし、蜂窩織炎にしては紫斑が目立ちすぎている。

深部静脈血栓症(DVT)ならどうか?片側だけ血流がうっ滞していれば、
片側の下肢の紅斑も説明できる。
うっ滞して静脈圧が高くなれば、出血してもよいだろう。

本症例は蜂窩織炎疑いで近医より紹介されたが、DVTであった症例である。


このように3つの目で皮疹を観察し、

どのような因子や機序で皮疹が成り立っているかを考えていくと、皮疹をみるのが楽しくなる。

システム1だけでなく、システム2でも皮疹を診断できるようにしていただきたい。 

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