2021年1月10日日曜日

中腰力

東京GIMカンファレンスの感想


今回のケースのように、超高齢者の食思不振は非常に悩ましいです

原因が見つかることもあれば、原因が見つからないこともある

原因を探すためには、侵襲度が高く体に負担がかかる検査が必要なこともある


そもそも原因があるのか、ないのかがわからないので、

どこまで原因検索すべきか非常に迷います


そして、背景には自分以外の先生なら、原因を見つけられるのではないか?と考えてしまい、

自分がその人の生死を分けてしまうような感覚になりますので、主治医には大変ストレスがかかります


迷っているのは、医者だけではありません

看護師さんやMSWさん、リハビリの方、ご家族も迷いながら過ごしています



高齢者の食思不振は、倫理的な側面が大きく、医師だけでは答えが出せません



このどちらにも進めない状況こそが、内科医としての一番求められる力だと思っています

自分は「中腰力」と呼んでいます



医学界新聞での対談にて、春日先生も同じようなことを語っておられます

〜以下、本文より引用〜

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中腰で耐える

春日 僕はそういう「中途半端なところで時間が経過するのを我慢できるかどうか」っていうのが,

援助者の実力の1つだと思っています

それは言い換えれば,精神の健全さの指標です

我慢できない人は,お手軽なストーリーを借りて妄想に走ることになる。

そういう意味では,内田先生が今回の『死と身体』で書かれていた

「中腰で我慢する力」というのはまさに,そういう力のことを言ってるのだと思いました。

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参考:対談 内田樹×春日武彦 中腰で待つ援助論



中腰で我慢する力、中腰力


みなさん、日々の臨床で、きついなぁ〜・・・と思われる瞬間はたくさんあると思います

その時には、「中腰力」という言葉を思い出して、耐えてください


我慢できなくなって、簡単なストーリーに流れていかないようにしましょう

食べられない高齢者に胃瘻やCVをいれることは簡単ですが、それが本当に正しいのでしょうか




中腰で待ちながら、我々にできることは?


高齢者の食思不振は改善できないかもしれません

原因を見つけられないかもしれません


では主治医ができることはなんでしょうか?



それは患者さんを知ることです


栄養がとれなければ、その患者さんは亡くなります

その人らしい最期を迎えるためには、その患者さんのことを知る必要があります

患者さんのことを知ろうと思えば、誰にでもできます


もちろん、研修医の先生でも


治療することだけが、医者の仕事ではありません

人を幸せにすることが、医者の仕事です


そのための話し合いが、ACPです


どうやってその人らしいケアを行っていくか?

どのような最期を迎えることができれば、その人や家族は幸せになるか?ということを話し合います


決してDNARをとることが、ACPではありません


そしてそのACPを他職種とも共有して進んでいくことが非常に重要です



今回の症例の裏では、おそらく何時間もACPが行われています

それだけでも素晴らしく、中腰力が垣間見えました


今回の症例の表のストーリーは「VD製剤の外用薬による高カルシウム血症」でした

表のストーリーも勉強になり、素晴らしかったですが、

おそらく裏のストーリーも大変だったのだろうと推察されます


GIMのような症例カンファレンスでは、focusされませんが、

裏のストーリーを聞いてみたいなあと思いました


なぜなら、それこそが臨床のリアルだからです


臨床は表と裏が逆です



この患者さんを経験した主治医の先生たちが求められたのは、

高カルシウム血症の治療ではなく、中腰で待つ力です


そして、中腰で待ったからこそ、happyな結末に進んでいったのだと思います


大変、勉強になりました。お疲れ様でした。ありがとうございました。


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