東京GIMに参加しました
とてもいい症例で、学びが多かったので共有させてください
(※発表者や主催者の先生方の許可はいただいております)
90歳 女性 主訴:食欲低下
(※一部症例は加筆や修正を加えてあります)
Profile:ベット上でのADL、認知症あり
現病歴:
1ヶ月前に転倒による圧迫骨折で入院
食欲低下は見られず、リハビリにて退院
4日前 食欲低下と発熱があり、入院
輸液で経過観察となったが、経口摂取は数口のみであった
3日前 尿路感染症としてPIPC/TAZが開始となった
解熱えられたが、食欲低下は持続
当日、食欲低下の原因精査目的に当院転院となった
既往歴:数十年前から乾癬による紅皮症、日向過敏症あり
複数回の尿路感染症、蜂窩織炎、心不全、G群連鎖球菌菌血症
内服歴:
内科より:プレドニゾロン6mg、ST合剤、フロセミド20、アムロジピン2.5mg、フェブキソスタット10mg、ランソプラゾール15mg、クエン酸第一鉄50mg、アセトアミノフェン1500mg
皮膚科より:レボセチリジン10mg、マキサカルシトール外用薬、ロコイド軟膏、プロペト
身体所見
BP120/100, P 75, T 36.5, RR24, SPO2 96%, 意識 E2V3M6
見た目 ぐったり
頭頸部 眼球結膜蒼白なし、黄染なし
口腔内 乾燥あり、リンパ節腫大なし
胸部 呼吸音 清、心雑音なし、腋窩乾燥あり
腹部 平坦 軟、圧痛なし、CVA巧打痛なし
皮膚 頭皮を含めて全身に紅斑があり、鱗屑が付着している
一部、掻爬痕と苔癬化あり
血液検査 軽度の正球性貧血(8)、血小板低下(10万)
BUN(50)、Cr上昇(3)、Na 144, K 3.5, Cl 105
尿検査 タンパク+、潜血+、白血球 1 > 100/HPF
尿培養 ESBL産生大腸菌
経過
ESBL産生大腸菌による尿路感染症として抗菌薬をセフメタゾールに変更され、治療継続
相対的な副腎不全の可能性があり、ソルコーテフ100mg/日の点滴が3日間行われた
入院3日目から食事量が徐々に増え、6日目には7割食事摂取可能となった
Cr1.7とAKIも改善傾向となった
食欲低下の原因は尿路感染症と相対的な副腎不全によるものと考えられた
が、しかし・・・
入院11日目 再度食事摂取不良隣、意識レベルも徐々に低下した
身体所見では、バイタルは著変なし
レベルはE2V3M6
口腔内は乾燥していた
他は変化見られず
血液検査では再度BUN32, Cr 2.0と腎障害が出現していた
入院中に再度出現した食欲低下として、尿路感染症、副腎不全、低活動性せん妄の可能性が考えられたが、終末期の食事摂取量低下の可能性もあった
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ディスカッション①お看取りの可能性もある中、何かを考え、この方にどこまで何をしますか?
K先生「色々問題点はありますが、
アプローチするポイントをシンプルにするのがいいかなと思います。
意識障害がありますので、まずは意識障害のアプローチから入るのが、よいのかなと思います。
具体的にはAIUEOTIPSを使うことが多いです。
神経の局在症状があれば、頭蓋内病変の可能性が高いので、画像評価へいきますし、
髄膜刺激症状があれば、ルンバールを検討します。
どちらもなければ、他の全身の要素や血糖、ショック、内分泌といった原因を考えます。
この人の場合は、副腎不全の可能性があるかと思いますが、
画像評価も必要になると思います。」
N先生「質問なんですけど、ソルコーテフ100mg入れて見違えるように元気になったのですか?」
発表者「見違えるようには元気にはなっていませんが、食事は取れるようになりました」
N先生「なるほど。お看取り間近の人にソルコーテフを入れただけで、ここまで元気になるのかな?というのが疑問です。
ステロイドに反応する何か病態があるのかなと考えたくなりますね。」
T「今回の症例をどうとき解していくかなんですけど、
自分だったら、「入院中のトラブル」という視点と「高齢者が食事」が取れなくなったときにどう考えるか?というアプローチで考えます。
参考:高齢者の見方
入院中のトラブルで有名なのは発熱ですが、入院中のトラブルということで、
同じように考えていきます。
考えることは3つです。参考:入院中の発熱
①まずは入院の原因となった疾患に関係したトラブルです
今回であれば暫定、腎盂腎炎ということで、セフメタゾールが開始となっています
例えば、腎盂腎炎がこじれて、腎膿瘍や腸腰筋膿瘍になっていないか、IEになっていないか、といったことは考慮すべきです
②次に入院中に行った全ての介入による問題を考えます
今回であれば、点滴の抗生剤です
点滴をとっていたことによる静脈炎、
抗生剤によるCDIはすぐにチェックしたいです
ピットフォールとして、
始めたことだけでなく、中止したことも大事になります
アセトアミノフェンを入院後中止したら、熱がでたというのもあります
実は元々熱はあったけど、マスクされていたというパターンです
③最後は偶発的な問題です
家族の面会者にインフルエンザの人がいたとか、
元々の他の疾患(腫瘍など)が顕在化したとかです
この症例では、この3つのうちのどれだろうなあ〜という観点で考えます。
commonなものから考えるのであれば、CDIだと思いますが、下痢はありましたか?」
発表者「ありませんでした。」
T「ありがとうございます。セフメタゾールはいつまで投与されていましたか?」
発表者「7日間です」
T「ありがとうございます。
セフメタゾールは他の抗生剤よりもVKの代謝を阻害するため、出血傾向をきたしやすいので注意が必要です。
特に絶食時には凝固が狂いやすいので、凝固の確認は必要かと思います
今回の症例で注意しなければいけないことは、
①の入院の原因となった疾患が、
「暫定」腎盂腎炎ということです。
腎盂腎炎はあくまで除外診断ですので、他の疾患を見つけられずに、
腎盂腎炎として治療してしまっていることもあります。
例えば、感染症でいえば、髄膜炎や結核、IEに対して
腎盂腎炎として抗生剤を投与することで、パーシャルに治療されてしまうこともあります。
ですので、腎盂腎炎としての見積もりがどれくらいだったかによって、
考えることが違ってくるかなと思います。」
発表者「この方はご高齢で認知症もあったので、所見も取りにくく、熱源を探すのは難しかったです。
お看取りも近いということで、検査もミニマムでした。
腎盂腎炎という診断で前医で治療されていたので、やり切るしかないという形で、引き継きました。」
T「ありがとうございます。そうなりますよね。
あと熱源としては、この方は乾癬があるので、関節炎の合併があったとしたら、
乾癬かな?で流しそうなので、もしかしたら化膿性のこともあるかなと思いました。
関節炎の所見はどうでしたか?」
発表者「関節の腫脹はありませんでした。」
T「ありがとうございます。質問ばかりで申し訳ないのですが、最後にもう一つだけ。
確か、薬をたくさん飲まれていましたよね?
いわゆるポリファーマシーの状態ですので、
入院中にお薬が減量されている可能性もあるかなと思います。
薬の調整は何かされましたか?」
発表者「薬に関しては、減らそうとは思ったのですが、
色々検討して、結局、減らせなかったです。」
T「なるほど、そうだったんですね。
高齢者が食べられなくなったら、どう考えるか?ですけど、
まずは薬を考えます。
高齢者の食思不振は、色々な要素が混在していることが多いです
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