2021年7月11日日曜日

朝カンファレンス 〜CTを撮らない努力をどれだけしたか?〜

 35歳 女性 主訴:腹痛

※一部症例は加筆修正を加えてあります)


profile:4年前に胆石発作で救急受診歴あり


セッティング:救急車で来院

ディスカッションポイント:診断

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これまでの情報で何の病気だと思いますか?


まずは若年女性の腹痛となので、

子宮外妊娠を含めた婦人科疾患(卵巣捻転、卵巣出血、PID)を思い浮かべたいですね

あとは胆石発作があることから、また胆石発作の可能性もあります


ただ、若年女性が胆石を起こすのは稀な気もしますね

背景に遺伝性球状赤血球症(HS)がないかは気になります

家族歴を聞いてみたり、データを確認したいですね


HSのピットフォールとしては、貧血がないと鑑別に上がりにくいことです


Hbが下がっていなくても間接Bil上昇とLDH上昇だけの人もいますので、

見つかっていない人もたくさんいます


なんでも体質性黄疸としてはいけません


Hbが正常でも間接Bilが上昇していれば、

末梢血塗抹標本とRetを確認しましょう

そして脾腫の有無を確認しましょう


詳しくは・・・



N Engl J Med 2017;377:1778-84.


ではそんなことを考えながら、救急車で来てもらいましょう

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腹痛の人が救急車でくる場合、痛みが強いとうまく病歴が取れないこともあります

そんな時は患者さんに聞くよりも、
お腹に聞いてみた方が早い場合もあります


いつもの・・・現病歴→身体所見→検査→治療の順序で進まず、

身体所見・検査・治療(対処療法)→現病歴になることもあります


今回はいかがでしたか?


M「今回はそこまで痛みが強くなかったので、普通に現病歴から聞けました」

T「はい、ありがとうございます。」


現病歴の取り方ですが、上手にとれていますね

自分の中の病歴の上手な取り方は、フランス料理のコースを順番に聞いていく感じです


今日は朝何時にご飯を食べて、午前中は何時に仕事に行って、
仕事は何をしていたのか
そして、昼ご飯は何時に誰と何を食べたのか?
その後、午後の仕事はどういった内容で、
何時ごろ、何をしているときにお腹が痛くなったのか?
お腹が痛くなって、その仕事を中断したのか?
仕事を早退して、自宅に戻ったのか?
痛みがあって、どうやって対応したのか?
痛み以外に伴った症状はあったのか?
すぐに病院受診せず、しばらく様子みたのはどういった理由か?
救急車できたのは、移動手段がなかったからか?痛みが強かったからか?
救急車は誰が呼んだのか?
車内で揺られて、痛みが増強したか?


みたいな感じで、今日一日の流れを頭に思い浮かべるように病歴をとります

フランス料理何食べましたか?と聞かれても

お肉とスープとフルーツと・・・
えっと、なんだっけ???

ってなるのと同じで、


前菜は何で、次に出てきたのは何で、
メインは何で・・・

と時間を意識して聞いていくと、人は詳細を語ってくれます


OPQRST2は、ピックアップ問診です


お肉の味はどうでしたか?
スープには何が入っていましたか?
料理の時間は何分かかりましたか?


って言われても答えにくいですよね


病歴をとるときは、ストーリーを描けるようにとりましょう


ストーリーとして病歴をとることができたら、今度は痛みの経過図を頭の中で完成させましょう

図を描けなければ、患者さんと一緒に作りましょう
今回はこんな感じのようです



ずっと痛みはあるみたいですが、時折、突出する痛みが出現します

では身体所見をとっていきましょう



腹痛の身体所見は自発痛と圧痛部位、最強の圧痛点を分けて考えることが大事です


圧痛はないけど、痛みがある部位は放散痛のこともあります
圧痛がある場合、突出する圧痛点がないかを探します


最強の圧痛点があれば、カーネット徴候の出番です


今回は2箇所圧痛点があって、一箇所はカーネット徴候が陽性だったようです


ACNESっぽいですね・・・・


何度も言っていますが、ACNESは他の腹痛の原因に合併することがあるので、ACNESを見つけても他の病気がないとは言えません


さて、この身体所見からどんな鑑別を考えて、次に何をしましょうか?





腹痛と聞くと、すぐにCT撮りたくなってしまっていませんか?


専攻医の先生が名言を言ってくれました
「CTを撮らない努力をあなたはどれだけしたか?」


確かにおっしゃる通りです
若年者への被爆のことを考えると、CTは極力避けたいです


診断をつけることも重要ですが、検査をどれだけ控えるかも同じくらい重要です




抗菌薬のnarrow is beautifulと同じです

診断の世界では、Minimum test  is kindly for  wallet  and  patient ですね



そして、救急の現場ではスピードも大事です

救急の現場に慣れてきたら、診断できたか?
だけを振り返るのではなく、

どれくらいの時間がかかったか?
ということも意識するといいでしょう




はい・・・ということで、今回は鑑別も大事ですが、
マネージメントの順番が非常に重要です



自分だったら、ACNESっぽい所見があるのであれば、
そこにまずはUSを当てます


そうはいっても虫垂炎や卵巣捻転、
子宮外妊娠に伴う腹腔内出血、憩室炎、尿路結石、上行結腸炎、腹直筋血腫がないかを確認します


USで何もなければ、やはりACNESであろうと考え、
皮疹がないかを背部までしっかり確認します


そして、痛みの最強の部位を同定し、局所麻酔のアレルギー歴を聞いて、
本人にACNESという病気を説明して、皮下注射を行います


それで痛みが全て消えてしまえば、ACNESの診断で良いかと思います

この時点で、CTは本人がとても心配であれば撮りますが、
基本は撮らないと思います


痛みが微妙に残っていたり、効果がなければ、CTを撮ります

痩せ型の女性であれば、読影が難しいので、
虫垂や卵巣などの同定のために、造影も考慮します


ということで、自分なら・・・・

1、超音波検査
2、局所麻酔
(効果微妙なら)
3、血液検査+点滴(アセリオ)
4、尿検査(HCG)
5、3と4を待って造影CT

の流れですね


今回は、検査の流れが非常に大事です
漠然と全部やればいいというものではありません

検査はなるべく少なくしないと、患者さんが負担するお金も高くなります
検査は最小限で診断できるのが理想です


実際はどう進みましたか?




はい、実際は採血とルートがとられて、ブスコパンが使われたようですが、

無効だったみたいです

その後、アセリオが投与されました


超音波検査にて右鼠径部の痛みの直下にヘルニア?のような構造物があり、

肥厚した神経?もすぐそばにあったみたいです


他に胆石や腹水などの所見はありませんでした


局所麻酔はその時点では施行されず、尿中HCG陰性を確認してCTへ進んでいます


CTでも右鼠径部に左右差がある鼠径部の構造物があり、

USの所見と同様でした(読影はスルーされていました)


鼠径ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアのような所見はなく、

虫垂炎や卵巣腫大、憩室炎はありませんでした



そこで、右鼠径部のヘルニア?構造物?による神経の絞扼が疑われ、

右下腹部の痛みに対して、超音波下に神経周囲のリリースが行われました

リリース後、痛みは消失しました


臍の右側の痛みに対しては、腹直筋と腹直筋鞘のリリースが行われ、

こちらも痛みは消失しました



ということで、どちらも神経絞扼が原因だった症例です


超音波やリリースに長けた先生が一緒だったので、

鮮やかに診断・治療ができていますが、

一般の我々だとこのプラクティスは難しかった気がします 笑



今回は皮下への局所麻酔は行われていませんが、

局所麻酔で痛みが消失したかどうかは、試してもよかった気がします


皮下の局所麻酔なら誰でもできます


局所麻酔で効果がなければ、さらにその下のリリースに進むというのが、

よかったのかなと思います


それにしても、今回の構造物はNuck管だったのでしょうか?

CT画像上は超音波で見られた構造物はとても小さいので、Nuck管なのかは不明ですね・・・



ACNESは浅そうに見えて、奥が深いですね 



神経が絞扼されている原因を突き詰めるというのは、大事な思考です


まとめ
・最強の圧痛点がある場合、腹膜刺激徴候を確認するのは当然だが、
 カーネット徴候も一緒にとる
→陽性(痛みが不変)と強陽性(痛みが増強)を分ける
 強陽性の場合、腹壁に問題があることを強く示唆する

・救急の現場では、検査の段取り・順序も大事
→少ない検査と短時間で診断できるのが、理想
 お金と患者さんに優しい医療を

・ACNESっぽい場合、なぜ神経が絞扼・障害されているかを考える
→皮膚に皮疹がないか、皮下に腫瘤や血腫がないか
 局所麻酔で改善なければ、超音波下でのリリースを検討

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