2021年7月8日木曜日

尿閉 前半 〜みんなのこだわりポイント〜

 急性尿閉の患者さんを見たことないというお医者さんはいないでしょう

救急に出れば、必ず出会うcommonな症候です


本人の症状は辛いですが、医者としては、

「はいはい、尿閉ですね。尿カテ入れておしまいです。

 後日、泌尿器科受診してください」と楽勝ムードで対応していませんか?


急性尿閉にはいくつか、ピットフォールがあります

急性尿閉を見た時にここは注意している!というこだわりポイントを教えてください



・膀胱直腸障害があるかどうか?

→大事ですね、ただ、どうやって確認しますか?


 全例に直腸診していますか?

 病歴で腰痛があったり、便が我慢できない人は積極的に疑った方がいいですね

 

 ただ、尿閉患者さん全例で直腸診していいと思います

 前立腺炎や前立腺癌、宿便を調べることができるからです

 指の感覚は経験するしかありません

 


・「いつものパターン」で良いか

→そうですね、「いつものパターン」というのは、

 BPHを患っている高齢男性が、夕方にお酒を飲んだり、

 薬を飲んで夜や朝方にやってくる、というのが「いつものパターン」ですね

   

 では、薬は何を聞きますか?



 新しくのみ始めた薬が怪しいです


 新しくのみ始めた薬はない、と言われても、

 「市販や自宅にあった置き薬はのんでいませんか?」

 「吸入薬は使っていますか?」

 「最近、風邪薬や漢方の薬をもらってのんではいませんか?」

 「他の科に通院していませんか?」


という感じで、しつこく聞くことが大事です


「新規に始めた薬はない」と言われてからが勝負です



 抗コリン作用のある薬が代表的ですが、

 忘れがちなのが、

 市販薬、漢方(麻黄が含まれるもの)、

   他科の薬(精神科、泌尿器)、吸入薬(COPD)です



 入院中によくあるのは、不穏で暴れている人にリスパダールを出して、

 さらに不穏になっている


 よくみると、尿閉や便秘の不快感からきている不穏であった・・・


 これはあるあるですので気をつけてください



・膀胱タンポナーデではないか?

→大事ですね。血尿のエピソードがあるので、

 血尿の有無を確認しましょう

 超音波でコアグラがないか確認して、導尿で血尿があれば、

 しっかり洗浄することが重要です

 泌尿器科とも相談しましょう


 コアグラが大きい場合、普通のサイズの尿道カテーテルでは詰まってしまうことがあります

 その場合は洗浄用の三孔式の尿道カテーテルを入れて、

 コアグラをひたすらドレナージします

 その後、3wayバルンカテーテルに交換して持続灌流を行います


 血尿の原因としては出血性膀胱炎、膀胱癌、前立腺がん、抗凝固剤や抗血小板薬、

 出血傾向、シクロホスファミドの治療後、放射線照射後などがあげられます


参考:血尿とショック



・導尿後の利尿に注意する

→そうですね。ありますね。

 尿閉解除後の利尿。閉塞後利尿と呼ばれています


 よくあるのは、近医からひどい急性腎不全です!と紹介があって、

 超音波で確認すると、腎後性腎不全だった


 なんだ〜腎後性じゃん〜

 腎後性は腎機能戻りやすいから、ちょっと安心だね〜

 

 といっていると・・・入院後、5L尿が出ている・・・・


 えーーー

 急に多尿になってるんですけど・・・

 やばい、やばい、腎機能また上がってきているし、輸液しなきゃ〜


 と、どんどん輸液していると・・・・

  

 あれ?これ輸液しているから、多尿が続いているのか?

 どっちなんだ???


 ということになりやすいです


 閉塞後利尿によって多尿となり、必要なinが入らないと腎不全になることもあります

 そしてNaやK排泄によって、電解質異常を呈することもあるので、

 こまめに血液検査を行う必要があります


 たいていは経口の水分補給で対応できますが、

 あまりに多尿なときは、尿量を8時間ごとに評価し、

 その半分の輸液を継続することが提案されていますが、ケースバイケースです

 Hospitalist VOL.5 NO.4 2017.12 



閉塞後利尿について  (日泌尿会誌, 75巻, 1号, 1984年より)

長期間にわたる尿管閉塞の解除後、一過性に多量の利尿を経験することは多い

この現象をpost-obstructiVediuresis(POD)と言うが、はじめて臨床例での報告をしたのはWilsonら(1951)である

稀釈尿であるが、ときに多量のNaが排泄されることもある

ほとんどの症例で2~3日後には自然に尿量が落ちつき

たとえ水とNa のnegative  balanceが続いたとしても意識清明の患者では口喝を満すだけの水分摂取のみでやがて正常の平衡状態にもどる

したがって尿量に合わせてむやみに補液を続けることは

医原性の PODを長引かせることになる



ということで、何も考えず前日の輸液量をdoしていると、一向に治りません

毎日、評価しましょう




閉塞後利尿は入院した患者さんでは経験しますが、

尿閉が主訴で外来に来られた人がその後、閉塞後利尿になっているかをあまり気にしていませんでした


これからは、帰る時に一言伝えようと思います

「この後、大量に尿が出る人もいますので、しっかり水分とってください。

 あまりにも尿が多いときは、点滴が必要な人もいますので、来院してください」



そして導尿後に気をつけることは、一過性の血圧低下を起こすことがあります

そのため、ベッドに寝かせて導尿後、すぐに立ち上がって帰ろうとする、

クラクラして倒れてしまう人がいます


導尿後には一回、血圧は測っておいた方が良いでしょう


最後に導尿後に気をつけることは感染です

悪寒戦慄や発熱があれば、すぐに受診をお願いしましょう





導尿後に気をつけること3つ

1、この後、大量の尿が出る人がいます 

 しっかり水分とってください


2、導尿後、血圧低下する人がいます

 血圧が安定するまで様子みましょう


3、感染を合併する人がいます

 悪寒戦慄や発熱あれば、早めに受診してください




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