前回のまとめ
若い女性が過量内服で夜間の当直にやってきました
飲んだ薬はベンゾジアゼピン系の薬、市販の風邪薬でした
バイタルは傾眠で頻脈がありましたが、呼吸状態は安定していました
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治療編
T「バイタルが問題なくて、原因薬物がわかったら、次は治療です。
中毒治療の原則のおさらいをしよう。
いいかげんWHATと覚えよう!と福井の林先生が言っていたよ。」
研「付き添いの人に聞いたところ、のんだところは見ていないということでしたが、
おそらく2〜3時間前にのんだんじゃないか?ということでした。
もう1時間は経っているので、胃洗浄の適応ではないですね。」
T「そうだね。今回は致死量にも満たないし、必須ではなさそうだね。
でも抗コリン作用が含まれている薬の場合は、
胃の中にまだ残っている可能性が高いから、1時間を超えても検討してもいいんだよ。」
Pt「あいたたた・・・気持ち悪い・・・」
T「なんだか心窩部を痛がっているね。筋性防御とかはないけど、
胃が張っているのかな?」
Pt「この風邪薬をのむと、いつもこうなります。」
T「ふーむ・・・一回、画像評価しておきますか。」
CT 胃内に高吸収域を示す領域を認める
他に腹痛の原因となるものはなし
中毒研究 24:215-216.2011より
研「あ、まだ胃内に薬がたくさんありそうですね」
T「そうだね、一般的に放射線透過性は物質を構成する原子の原子量が大きいほど、
密度が高いほど低下すると言われています。
睡眠薬では原子番号が大きいbromineを含むブロモワレリル尿素が、
Xpで観察されることが多いね。
錠剤やカプセルも密度が高いから発見されることが多い。
ある研究では腹部CTで急性薬物中毒の診断能は
感度100%、特異度82%だったという報告もある。
原因のよく分からない意識障害の時とか、心肺停止状態の時にも有用だね。
あとは石油誤飲の時も特徴的な画像になるよ。
みたらすぐにわかる。液体の三層構造になるから。笑
石油の場合は、胃洗浄や活性炭は行わないことが多いから注意が必要だね。」
研「わかりました。で、結局胃洗浄はやるべきなのでしょうか?」
T「そうだね、がっつり胃洗浄はかなりきついんだよね。
だから活性炭入れるついでに、なんちゃって胃洗浄しておこうか。
コツは太めの経鼻胃管(腸閉塞時に使うようなもの)を用意して、
先端の穴をハサミでトリミングして、広くするんだ。
こうすると、大きな薬も取りやすくなるよ。」
研「なるほど〜
で、活性炭はどうやって入れるんですか?」
T「のんでもらってもいいけど、ドロドロだしのみにくいから、
胃管から入れることが多いよ。
もちろん、意識が悪くて嘔吐して窒息してしまいそうな人の場合は、
まず気管挿管で気道を守ってからやらないといけない。
T「今回の人は意識もまだ保たれているから、挿管せずに胃管をのんでもらいましょう。
意識がなくなる前に胃管をのんでもらうのがコツですね。」
研「胃管入りました。」
T「微温湯入れて吸引してみてください。」
研「薬らしきものがたくさん引けてきますね。」
T「いいね。たくさん洗えそう。じゃあ、できる限り、薬を回収しちゃってください。
こっちは活性炭スープ作ってます。
活性炭にマグコロールPを入れて、微温湯を一緒に入れて、ぐるぐるまぜ合わせます。
魔女のスープみたいになります。」
研「薬はかなり回収できました。
では活性炭を入れていきますね。
ううう、結構入れるのに力入りますね。」
T「だんだん硬くなってくるんだよね〜 黒いのが飛びやすいから気をつけてね。
活性炭や胃洗浄はやるかやらないか、迷う症例が多いけど、
今回はCTでまだ胃内にたくさん薬がありそうだったので、判断の一助になりましたね。」
T「緩下剤は活性炭と一緒に投与することが多いですが、
単独で投与することはあまりないですね。
あとは、原因薬物に応じて血液浄化や拮抗薬があるか確認しましょう。」
拮抗薬
T「拮抗薬がある薬って実はあんまりないんですよね。
あとは入院後に精神科的な評価を行いましょう。」
今回は死のうとは思っていなかったようで、気持ちが楽になりたかったとのこと
今は死のうという気持ちはないとのことであり、
退院した足で、かかりつけの精神科受診をお願いした
まとめ
・中毒治療の原則は「いいかげんWHAT」の順番で考える
→胃洗浄、活性炭、下剤、全腸洗浄、血液浄化、拮抗薬
・胃洗浄や活性炭をするか迷ったら、腹部CTが有効かもしれない
→がっつり胃洗浄ではなく、なんちゃって胃洗浄も効果的(私見)
・精神科的評価を忘れないこと
→予防は今回から始まっている
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