2022年1月6日木曜日

冬が来ました 〜低体温のピットフォール(前半)〜

 冬の救急といえば、、、


一酸化炭素中毒、餅による窒息・腸閉塞、スノボ外傷、凍傷・・・

そして低体温症ですね


まずは症例から


80歳 男性 主訴:家の中で倒れていた

(※症例は加筆修正を加えてあります)


足腰が弱いが、独居でなんとか生活している

民生員の方が自宅に行くと、家の中で倒れていたため、救急車要請

糖尿病で近医かかりつけではあるが、詳細な既往や内服薬は不明


本人は意識障害があり、不穏で指示は入らず、会話もできない

体は冷たく、体温は測定できなかった

血圧は110/80、脈は50(reg/reg)、SPO2 上手く測定できず

末梢は冷たい


体中に擦りむいた後や打撲痕あり

左膝下には皮下腫脹や紅斑が広がっていた

関節の腫脹は見られず

下肢は浮腫著明

心雑音なし 呼吸音 清

項部硬直あり

瞳孔は縮瞳2/2

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対応は?


意識障害は確実にありそうなので、意識障害の鑑別を始めてみると、

項部硬直があるので、髄膜炎が想起されます


髄液検査の前に頭部CTとって出血や慢性硬膜下血腫だけ否定したいという気になれば、

早くCTにも行きたいですね


採血やルート取り終わったら、すぐにCT行きますか?




CTに行ってはいけない状況は、

バイタルが不安定な時です(もちろん、ケースバイケースです)


バイタルが不安定な時にCTに行くと、死のトンネル(CT)になると口すっぱく言われました



ではこの人のバイタルはどうでしょうか?

血圧も脈もいいですが、SPO2と体温が不明ですね


この時点では、腋窩では体温は測定できていません


低体温症のピットフォールはいくつかありますが、

一つ目のピットフォールは、低体温症に気が付かないことです


低体温症の患者さんに刺激を与えると、致死性の不整脈を誘発すると教科書的には書かれています

重度の低体温の場合はCTにはいかず、まずは復温せよ!といわれます

移動の刺激で不整脈を誘発する危険があるからです


SAHの人と同じように慎重に患者さんを扱うのがよいでしょう


外で倒れていた人や雪山から運ばれた人は、低体温症を想起するのは容易いですが、

室内にいた人の意識障害の場合は、低体温を想起することが難しいです


そのため、体を触って冷たいと感じたのであれば、低体温症を疑いましょう

そして、腋窩温ではなく、深部体温を積極的に測りましょう


食道温が良い指標ですが、膀胱温や直腸温が簡便です

まずはどこでもよいので、深部体温を測ることが大事です


この症例は膀胱温を測ると28度でした


ピットフォール①

室内で倒れていた人や意識障害の人の低体温は見逃されやすい

→体が冷たかったら、積極的に深部体温を測る



次の対応としては、髄膜炎対応しますか?


低体温とわかったら、問題になるのは、髄膜炎対応するかどうかです

結論から言うと、閾値低めにしたほうがよいと思います


髄膜炎対応を全速力でやって、失うものはありません

意識障害、低体温であれば髄膜炎は必ず鑑別になります


実際、そういうプレゼンテーションで来ることも多々あります


髄膜炎対応は、考えずに反射的に行うものです

ゆっくり考えるのは、髄膜炎対応した後です


最初は病歴も揃わず、考えるための材料がそもそもありません


髄膜炎対応が終わった後にかかりつけに電話したり、家族から病歴ととったりして、

髄膜炎対応を継続するかどうかを決めれば良いと思います

もちろん、同時並行で行えればそれがベストです


髄膜炎対応には足し算と引き算があります


足し算は・・・

ステロイド入れるかどうか(基本は入れます)、

ヘルペス脳炎カバーするかどうか、VB1入れるかどうか、

wernicke doseで入れるかどうか、NCSとして対応するか、などがあります


引き算は・・・

髄液細胞数を確認してから抗生剤を減らすか、

血液培養陰性化を確認してから抗生剤を落とすか、

代替診断がつけば、抗生剤を中止するか、

ヘルペスのPCRの結果を待ってアシクロビルをひくか、などです



低体温症の迷うポイント①

髄膜炎対応するかどうか迷う

→基本すればいい

 しないのであればしない理由を述べられるようにしておく

 


髄膜炎対応の足し算


本症例は髄膜炎対応が行われ、ステロイド、CTRX、VCM、ABPCが投与された

民生員からの話では飲酒が相当あるとのことで、

VB1欠乏はありうる状況であったため、VB1の投与を行った


昨日まで普通に食事とれていたとのことでwernicke doseにはしなかった

いつから飲酒できていないか不明でもあり、内服も困難であったことから、

アルコール離脱予防のため、セルシンの投与も行った(復温後)


足し算はこんな感じです



髄膜炎対応の引き算


復温後、CTを撮影し頭蓋内の腫瘤や血腫がないことを確認し、髄液検査が行われた

細胞数の上昇はみられず、髄膜炎は否定的と考えた


CTでは他に感染源となるものはなく、皮膚軟部組織感染からの敗血症が疑われ、

CTRXを継続する方針とし、ABPCとVCMは中止の方針とした


しかし、尿のグラム染色を見ると、GPC clusterが多数いたため、

皮膚軟部組織感染からのMSSAもしくはMRSAの血流感染と診断し、

VCMは継続する方針とした


引き算はこんな感じです

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低体温症をみた時の対応は?


まずは何度かを確認します


軽度:32~35度

中等度:28~32度

重度:28度以下


とされますが、危険なのは30度以下です

不整脈の頻度が多くなりますので、30度以下を重度と定義している文献もあります

32度以下ではAfもよく見られます


体温によって見られる身体所見がありますので、

体温と身体所見に矛盾がないか確認します

矛盾があれば、他に原因を求めた方がよいです


例えば、低体温が重度になれば、教科書的には瞳孔は散大します

ですが、本症例は縮瞳していました


ということは、縮瞳する他の原因がかぶっている可能性があります

橋出血やコリン作動性薬、麻薬、CO2ナルコーシスなどがないか?と考えます


他には低体温が進むと徐脈になるはずですが、頻脈になっていれば出血やPEの合併を考えます

軽度の低体温で昏睡状態であれば、他の意識障害の原因を考えるべきです



これが低体温症のピットフォールその2です


低体温症のピットフォール②

なんでもかんでも、低体温のせいにしがち

→低体温で全て説明できない所見があれば、他の原因を探す



paradoxical behavior


深部体温が32度以下になると、視床下部の体温中枢が障害されて、

実際は冷たいのに体が暑く感じてしまい、服を脱いで発見される人がいます


「あ〜、これはparadoxical behaviorといってね、

 寒いのに暑いと感じちゃうんだよ」


と、どや顔で研修医の先生に教えていたら、実は虐待であったという症例もあります


低体温症のピットフォール③

寒そうな格好で発見されたら、paradoxical behaviorと言いがち

→それよりも虐待の可能性を疑う



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