冬の救急といえば、、、
一酸化炭素中毒、餅による窒息・腸閉塞、スノボ外傷、凍傷・・・
そして低体温症ですね
まずは症例から
80歳 男性 主訴:家の中で倒れていた
(※症例は加筆修正を加えてあります)
足腰が弱いが、独居でなんとか生活している
民生員の方が自宅に行くと、家の中で倒れていたため、救急車要請
糖尿病で近医かかりつけではあるが、詳細な既往や内服薬は不明
本人は意識障害があり、不穏で指示は入らず、会話もできない
体は冷たく、体温は測定できなかった
血圧は110/80、脈は50(reg/reg)、SPO2 上手く測定できず
末梢は冷たい
体中に擦りむいた後や打撲痕あり
左膝下には皮下腫脹や紅斑が広がっていた
関節の腫脹は見られず
下肢は浮腫著明
心雑音なし 呼吸音 清
項部硬直あり
瞳孔は縮瞳2/2
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対応は?
意識障害は確実にありそうなので、意識障害の鑑別を始めてみると、
項部硬直があるので、髄膜炎が想起されます
髄液検査の前に頭部CTとって出血や慢性硬膜下血腫だけ否定したいという気になれば、
早くCTにも行きたいですね
採血やルート取り終わったら、すぐにCT行きますか?
CTに行ってはいけない状況は、
バイタルが不安定な時です(もちろん、ケースバイケースです)
バイタルが不安定な時にCTに行くと、死のトンネル(CT)になると口すっぱく言われました
ではこの人のバイタルはどうでしょうか?
血圧も脈もいいですが、SPO2と体温が不明ですね
この時点では、腋窩では体温は測定できていません
低体温症のピットフォールはいくつかありますが、
一つ目のピットフォールは、低体温症に気が付かないことです
低体温症の患者さんに刺激を与えると、致死性の不整脈を誘発すると教科書的には書かれています
重度の低体温の場合はCTにはいかず、まずは復温せよ!といわれます
移動の刺激で不整脈を誘発する危険があるからです
SAHの人と同じように慎重に患者さんを扱うのがよいでしょう
外で倒れていた人や雪山から運ばれた人は、低体温症を想起するのは容易いですが、
室内にいた人の意識障害の場合は、低体温を想起することが難しいです
そのため、体を触って冷たいと感じたのであれば、低体温症を疑いましょう
そして、腋窩温ではなく、深部体温を積極的に測りましょう
食道温が良い指標ですが、膀胱温や直腸温が簡便です
まずはどこでもよいので、深部体温を測ることが大事です
この症例は膀胱温を測ると28度でした
ピットフォール①
室内で倒れていた人や意識障害の人の低体温は見逃されやすい
→体が冷たかったら、積極的に深部体温を測る
次の対応としては、髄膜炎対応しますか?
低体温とわかったら、問題になるのは、髄膜炎対応するかどうかです
結論から言うと、閾値低めにしたほうがよいと思います
髄膜炎対応を全速力でやって、失うものはありません
意識障害、低体温であれば髄膜炎は必ず鑑別になります
実際、そういうプレゼンテーションで来ることも多々あります
髄膜炎対応は、考えずに反射的に行うものです
ゆっくり考えるのは、髄膜炎対応した後です
最初は病歴も揃わず、考えるための材料がそもそもありません
髄膜炎対応が終わった後にかかりつけに電話したり、家族から病歴ととったりして、
髄膜炎対応を継続するかどうかを決めれば良いと思います
もちろん、同時並行で行えればそれがベストです
髄膜炎対応には足し算と引き算があります
足し算は・・・
ステロイド入れるかどうか(基本は入れます)、
ヘルペス脳炎カバーするかどうか、VB1入れるかどうか、
wernicke doseで入れるかどうか、NCSとして対応するか、などがあります
引き算は・・・
髄液細胞数を確認してから抗生剤を減らすか、
血液培養陰性化を確認してから抗生剤を落とすか、
代替診断がつけば、抗生剤を中止するか、
ヘルペスのPCRの結果を待ってアシクロビルをひくか、などです
低体温症の迷うポイント①
髄膜炎対応するかどうか迷う
→基本すればいい
しないのであればしない理由を述べられるようにしておく
髄膜炎対応の足し算
本症例は髄膜炎対応が行われ、ステロイド、CTRX、VCM、ABPCが投与された
民生員からの話では飲酒が相当あるとのことで、
VB1欠乏はありうる状況であったため、VB1の投与を行った
昨日まで普通に食事とれていたとのことでwernicke doseにはしなかった
いつから飲酒できていないか不明でもあり、内服も困難であったことから、
アルコール離脱予防のため、セルシンの投与も行った(復温後)
足し算はこんな感じです
髄膜炎対応の引き算
復温後、CTを撮影し頭蓋内の腫瘤や血腫がないことを確認し、髄液検査が行われた
細胞数の上昇はみられず、髄膜炎は否定的と考えた
CTでは他に感染源となるものはなく、皮膚軟部組織感染からの敗血症が疑われ、
CTRXを継続する方針とし、ABPCとVCMは中止の方針とした
しかし、尿のグラム染色を見ると、GPC clusterが多数いたため、
皮膚軟部組織感染からのMSSAもしくはMRSAの血流感染と診断し、
VCMは継続する方針とした
引き算はこんな感じです
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低体温症をみた時の対応は?
まずは何度かを確認します
軽度:32~35度
中等度:28~32度
重度:28度以下
とされますが、危険なのは30度以下です
不整脈の頻度が多くなりますので、30度以下を重度と定義している文献もあります
32度以下ではAfもよく見られます
体温によって見られる身体所見がありますので、
体温と身体所見に矛盾がないか確認します
矛盾があれば、他に原因を求めた方がよいです
例えば、低体温が重度になれば、教科書的には瞳孔は散大します
ですが、本症例は縮瞳していました
ということは、縮瞳する他の原因がかぶっている可能性があります
橋出血やコリン作動性薬、麻薬、CO2ナルコーシスなどがないか?と考えます
他には低体温が進むと徐脈になるはずですが、頻脈になっていれば出血やPEの合併を考えます
軽度の低体温で昏睡状態であれば、他の意識障害の原因を考えるべきです
これが低体温症のピットフォールその2です
低体温症のピットフォール②
なんでもかんでも、低体温のせいにしがち
→低体温で全て説明できない所見があれば、他の原因を探す
paradoxical behavior
深部体温が32度以下になると、視床下部の体温中枢が障害されて、
実際は冷たいのに体が暑く感じてしまい、服を脱いで発見される人がいます
「あ〜、これはparadoxical behaviorといってね、
寒いのに暑いと感じちゃうんだよ」
と、どや顔で研修医の先生に教えていたら、実は虐待であったという症例もあります
低体温症のピットフォール③
寒そうな格好で発見されたら、paradoxical behaviorと言いがち
→それよりも虐待の可能性を疑う
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