2022年6月11日土曜日

東京GIM 〜SAB(サブ)はサブじゃない〜

 今回の症例は若い男性の急性の発熱や悪寒戦慄で来院された症例でした


となると、まずは感染症から考えます


感染症を考えたら、いつものように原則に沿って情報収集します



まず一番大事なのは、患者背景です

患者背景は人となりとも言われますが、具体的には、

免疫状態はどうか?

曝露はないか?

余力はどうか?

を考えます


この方の免疫状態は、心臓にVSDが指摘されていたので、
心臓に問題が起こりやすい状態です

他に免疫が破綻するところはありませんでした


曝露はというと、植物に関わる仕事であり、
土(レジオネラ、破傷風)、虫(ダニ、ツツガムシ)、植物(薔薇)を考える必要があるかもしれません


ここの曝露では性行為や海外渡航歴がないかは早々に聞いておく必要があります


「ちゃぶ台返し系キーワード」と呼んでいますが、

それがあると鑑別がガラッと変わるからです


今回の症例ではそういった曝露はありませんでした

余力は若い男性であり、バイタルも問題なかったのでありそうです



患者背景を考えたあとは、focusを探します

市中の感染症の中で敗血症になる頻度の多いものから考えるとよいです

5+1と覚えます


今回はfocusがはっきりしないので、1の感染性心内膜炎が疑わしいですね


あとはfocus不明になりやすい感染症もあります

focus不明になりやすい感染部位
focus不明になりやすい病原微生物があります




focus不明になっている理由は色々あります


診察を端折ってしまっている
→診察に一手間かけましょう


自らは痛いと言わない場所に感染源がある
→本当に痛みがないか、叩きましょう


検査でしか分からない時もある
→狙って検査しましょう


時間がたたないと分からない時もある
→primary bacteremia、結核、皮疹のない帯状疱疹、稀な病原菌による感染症





今回の症例は尿からグラム陽性球菌が見え、抗生剤が開始となりました

翌日、血液培養からも黄色ブドウ球菌が検出されました


いわゆるSAB(Staphylococcus aureus bacteremia)ですね

SABの症例に出会ったら、バンドルに沿ってやることをやります

1、血液培養のフォロー
2、早期のソースコントロール
3、心エコー
4、早期の適切な抗菌薬使用
5、適切な治療期間


IEの合併が多いので、本当にIEでないか?をひたすら疑い続けることになります

毎日、皮膚や心雑音を聞き続け、
背中、頭、関節といった他の部位に痛みが出ないか、診察を行うことが重要です

疑わしい部位があれば、ドレナージの必要が出てきますので、画像評価を行います


SAB(サブ)は全くサブ(副)ではありません

むしろ、「SAB(やIE)は感染症の王様」です



本症例ではIEの診断はつきませんでしたが、
SABもIEも同じスペクトラム上にあるので、適切な経過観察が非常に重要となります


感染症の原則の一番最後の原則ですね


5+1の1には続きがあります

・心臓のトラブル:特に弁輪部膿瘍
・塞栓・播種した先のトラブル:特に脳膿瘍、椎間板炎、関節炎
・免疫介在のトラブル:特に感染後糸球体腎炎


これらが、経過中に出現してこないかを見ていく必要があります




今回の症例は当初から心電図変化がありました

心膜炎と心筋炎は同じ心電図で来ることがあるので、
心膜炎を疑ったら同時に心筋炎も疑います


USGではasynergyはなかったようですが、トロポニンが陽性でした

この時代はコロナワクチン後の心筋炎が多いので、
まずはワクチン接種歴の有無を確認します


心筋炎の証明は、造影MRIか心筋生検(もしくはPET)です

造影MRIは心筋炎の存在証明ができますが、浸潤している細胞まではわかりません


心筋生検の場合は、浸潤している細胞がみえます
特に好酸球浸潤があった場合は、積極的にステロイドの適応となるので有用なこともあります


本症例は結局、心筋炎が発覚したため、
黄色ブドウ球菌の化膿性心筋炎の診断となりました


IEの証明はされませんでしたが、個人的には、
疣贅がエコーでは見えない程度の小さなIEからの心筋や心膜への炎症波及ではないかと思いました


IEの心臓の中でのトラブルは弁輪部膿瘍や弁膜症が有名ですが、
他にも心筋炎や心筋膿瘍、化膿性心膜炎を合併します



化膿性心膜炎


初期の頃は診断しにくい病気です

他の原因の心膜炎と違って、胸痛は少ないと言われています
ECGも正常例があります

そのため、疑わしい場合は、
UCGを繰り返し、心嚢水が増えてこないかをチェックする必要があります


経過中、心膜摩擦音が顕在化してきたり、心嚢水が増えてきたら疑います


化膿性心膜炎の一番多い原因微生物は、黄色ブドウ球菌です



化膿生心膜炎の治療はドレナージや手術になる場合もあります


手術後に収縮性心膜炎のリスクがあるため、
ウロキナーゼを使ったり、コルヒチンが処方されるケースもあります






まとめ

・感染症を疑ったら、常に感染症の原則(三角形)に沿って考える

→患者背景では「免疫」「曝露」「余力」を意識する


・感染部位で多いのは、5+1。focus不明になりがちなのは、1(IE)

→他にもfocus不明になりやすい感染部位と原因微生物がいる


・SABやIEには続きがある

→適切な経過観察が求められる疾患。

 毎日の丁寧な診察が重要

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