2023年12月23日土曜日

成人を主に診る内科医の弱点とは

 今回のNEJMは勉強になりましたね〜

43歳の女性が成分不明の漢方薬を使用した後に体重減少、慢性の下痢、爪の変化、脱毛、皮膚色素沈着などの複数の皮膚異常を呈し、発症したという症例でした

病歴だけですと、漢方が悪さしてそうですね


漢方による慢性の消化器症状といえば・・・


腸管膜静脈硬化症


ですね!


1991年 小山らにより日本で初めて文献報告され、

1993年 岩下らにより新しい疾患概念が確立されました


ほとんどが本邦からの報告で、長年(10年以上)漢方薬を服用した症例や

肝疾患や膠原病の症例に多いようです


漢方の特にサンシシ含有製剤との関係が指摘されています



2013 年にサン シシ(山栖子:gardenia fruit)含有漢方製剤の長期服用が発症の寄与因子となることが明らかにされました


2018 年 2 月には,厚生労働省からサンシ シ含有製剤に対して添付文書の

「使用上の注意」の改訂指示が出されました



サンシシ含有製剤の長期投与(多くは 5 年以上)により,

大腸の色調異常, 浮腫,びらん,潰瘍,狭窄を伴う腸間膜静脈硬化症があらわれるおそれがあります

長期投与する場合 は定期的に CT,大腸内視鏡等の検査を行うことが望ましいとされています


病変部は右半結腸を中心に強くみられることから、

水溶性の毒素的は刺激物質が上腸間膜静脈支配領域の右半結腸からより多く吸収される過程で、静脈内膜障害を引き起こすのではないかと考えられています


症状は便通異常、腹痛、下痢、腹部膨満、血便、無症状など様々です


発症患者の 93%がサンシシ含有漢方製剤服用を 5 年以上の服用歴があります


今回の症例は4ヶ月程度なので流石に違いそうですね・・・



皮膚側でアプローチすると、色素沈着する病態を考えます


皮膚の色が浅黒くなってくる時はどうやって考えたら良いのでしょうか?


・皮膚の炎症、光線過敏(光線過敏まとめ):ペラグラ

・お風呂に入っていない(アカツキ病)

・透析患者さん

・内分泌・代謝疾患:副腎不全、VB12欠乏

・メラノサイトによるメラニン産生増加

・沈着系:金属(鉄:鉄鍋、チタン:差し歯、鉛:仕事、ヒ素:農薬、水銀:仕事

        アマルガム、セレン)

     薬物(アミオダロン、ミノマイシンなど)


yellow nailはチタンと関わりがあると言われた時期もありましたが、
実際はどうなのでしょうか・・・




最近、ビタミン欠乏やカルニチンの意識はできるようになってきましたが、

次は重金属だと思っています


論文の報告も年々増えています




各金属によって沈着する部位が違うため、ゲシュタルトが異なります



重金属の暴露は、呼吸、消化管、皮膚からの3つです








Toxics 202210(12), 716; https://doi.org/10.3390/toxics10120716


いつか金属中毒でまとめたいと思っています



今回は謎の漢方も怪しいのですが、中国のお茶を飲む習慣があれば、

お茶を入れる容器や調理器材など特殊なものを使っていないかどうかは気になりました


金属中毒は環境や仕事中に知らない間に暴露していることがほとんどです



症例に戻ると・・・


検査所見では、吸収不良と電解質異常が認められ、蛋白喪失性腸症と一致する所見でした


皮膚の色素沈着、爪の異常、脱毛などは栄養障害の結果の可能性もあり、

慢性下痢・吸収不良→様々な栄養障害による二元論でも良いかと思われます


慢性下痢やアルコールによる栄養障害がかぶっていた場合は、

一元論で全ての症状を説明しない方が良いです 


指差し呼称で確認するように、栄養障害・ビタミン欠乏系は全てチェックです



個人的には、何かしらの沈着物が皮膚や腸管に沈着し、

腸管では吸収不良をきたし、皮膚では色素沈着をきたしているのではと考えました


その沈着物は金属に違いない!これはheavy metal poisoningだ!

病歴をもっとしっかりとって、皮膚と大腸内視鏡で診断がつく!


と思いましたが・・・果たして今回の原因は?

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診断:


Cronkhite–Canada syndrome.




はい、全然違いました 笑



Cronkhite–Canada syndromeって、あの腸管にポリープが多発する国試でしか出会わない病気?

学生の頃には勉強したけど、臨床にいる間に出会わなさすぎて忘れてしまったあの病気?



ですが、上司は浅黒い手の人を見たら、

この手はCronkhite–Canada っぽいね!」と指導していたそうです

(自分には、ペラグラや副腎不全としか言っていなかった気がしましたが・・・)



慢性下痢+皮膚の異常はよくある組み合わせであり、

いつもペラグラ、副腎不全、VB12欠乏を考えていましたが、

そこにCronkhite–Canada syndromeも入れて考えていきたいと思います



ところで今回、Cronkhite–Canada syndromeが思いつかなかった理由を考えてみました


内科医は病態生理を考えます


下痢をして吸収不良の結果、栄養障害やビタミン欠乏をきたしている

ということは、ビタミン欠乏による症状を出している可能性がある


だが、病態ドミノを巻き戻していくと、なぜ下痢をしているのだろう?と考えます


上流にも下流にも時間を進めるイメージです


下痢の上流まで考えていくと、

炎症なのか、非炎症なのか、沈着病態か、腫瘍か・・・

病態生理や解剖学的な知識を動員して、鑑別疾患をあげていきます



今回感じたことは、発生まで戻ることはしてこなかったということです


Cronkhite–Canada syndromeは1955年 に Cronkhiteらにより、初めて報告された疾患です


消化管ポリポーシスに脱毛,爪甲萎縮,皮膚色素沈着などの

外胚葉系の異常を伴う非遺伝的な症候群です



中年以降の発症が多く,初発症状の大部分が下痢であり,

それと共に外胚葉系異常が顕著になるとされています


治療や合併症の詳細はは今回のNEJMやGastroenterology Report, 8(5), 2020, 333–342をご覧下さい



解説を読んだ感想としては、

・思った以上に予後が悪い(5年で55%の死亡率)

 敗血症や消化管出血が死因になりやすい

・おそらく見逃していはいないと思われるが、出会ったとしても診断はできそう

 症状が進むと大腸内視鏡でわかるため

診断よりも治療が大変な病気

・ステロイドが半分しか効かない

・その後の免疫抑制剤も多種多様で、これが効く!というものがない

 今回の症例もアザチオプリンやネオーラル、レミケードなど様々な治療がされましたが、

 診断後30ヶ月で逝去されています

・治療の最初にピロリ除菌を最初試みるのが興味深い

・非遺伝性ではあるが、急にストレスなどを契機に発症する

・抗凝固因子が腸管から欠乏していくので、プロテインCやSが喪失し過凝固病態になる

 抗凝固療法が重要になる

 実際、本症例もPEを繰り返した

・骨異栄養症によって異常骨折が起こりやすい

 本症例では多発肋骨骨折からフレイルチェストにもなっている




今回の病態を一元論で考えるには、

沈着病態を持ち出さないと考えることができませんでした


外胚葉というキーワードがあれば、今回の皮膚、毛髪、爪の共通した異常を説明できるはずでしたが、

外胚葉ってなんだっけ???となってしまいました



今回の症例を読んで改めて、主に高齢者をみている内科医(というより自分)は

発生学が弱いことに気がつきました



今なら発生学も興味深く勉強できる気がします



2023年11月4日土曜日

肺高血圧っぽいプレゼンテーションに出会ったら一度は考える疾患

前回のNEJM case


 86歳男性が6ヶ月前から労作時の呼吸苦が出現してきました


高血圧や脂質異常症、SAS、GERD、うつ、偏頭痛、腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症があり、PPI、SSRI、VD、ICS吸入を行っていました

SABAを呼吸苦の時に吸入していましたが、改善しませんでした


10週間前に腰部脊柱管狭窄症に対して手術が施行されました

手術後、呼吸苦は徐々に進行してきており、生活に支障が出るレベルになってきました


かかりつけ医に相談したところ、Dダイマーが高値であったことから、

精査目的に救急に紹介となりましたが、肺塞栓はありませんでした

CTでは右室や右房の拡大を認めました

心筋虚血を示唆する所見も見られず、経過観察となりました

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この時点で肺高血圧っぽいプレゼンテーションだね、という議論になりました

肺高血圧のどれか?という視点で鑑別が進んでいきました


もしくは二型呼吸不全を呈するような神経・筋疾患・接合部疾患の可能性もあります


ALSの人に頸椎症の手術を行うと、ALSが悪化する可能性があるように、

腰部脊柱管狭窄症の手術によって、症状が悪化しているようにも見えます


もしくは、臥位の時間が長く、ただ筋力が低下しただけかもしれません


CTではtree in budのような病変もあったことから、結核?も疑われました

結核の人が右心不全をきたしたとすると、考えられるのは・・・



収縮性心膜炎ですね

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退院後、さらに呼吸苦は悪化していきました

そして酸素化が低下し再度入院精査となります


ROSでは体重が3ヶ月で11kg減少していました

下痢や間欠的なめまい、臥位で悪化する咳もありました

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ここでは右心不全はありそうですが、

浮腫もあるのになぜ、体重が減るのか?ということが議論になりました


そこでK先生から右心系がやられつつ、下痢もあり体重も減っているとなると、

カルチノイドはどうでしょうか?とコメントをいただきました


正直、カルチノイドのゲシュタルトが自分の中になく、ピンときませんでした


ピュッピュッとホルモン分泌して、喘息やアナフィラキシーの鑑別になるという漠然とした理解しかなかったため、このような進行性の呼吸苦のプレゼンでくるのか分かりませんでした

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診察では毛細血管拡張を頬に認め、JVPが上昇していました

左傍胸骨で汎収縮期雑音を聴取し、拡張期雑音も聴取されました

肝臓が触知され、下肢に浮腫を認めました


そしてUCGが施行され、三尖弁の肥厚や運動制限が見られ、sever TRがありました

肺動脈弁も肥厚しており、肺動脈逆流もありました


僧帽弁と大動脈弁も少し分厚くなっていました

PFOを認め右左シャントを認めました

 

診断は?

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カルチノイド症候群


カルチノイド症候群がこんなプレゼンテーションで見つかるなんて、全く知りませんでした 



カルチノイドは高分化神経内分泌腫瘍です
ゆっくり大きくなりますが、悪性です

回腸にできやすいですが、大きくならなければ無症状です
腫瘍が大きくなってくると、局所症状(腸閉塞)で発見されます

もしくは他の原因でCT撮影された場合に偶発的に見つかることも増えてきています
小腸に腫瘤を見つけたら、一度は疑いましょう



そしてホルモンを分泌するため、カルチノイド症候群で見つかることもあります


ただし分泌された生理活性物質(セロトニン、ヒスタミン)は肝臓で代謝されるため、カルチノイド症候群を呈するためには、
直接、大循環系へ入るか、肝臓に転移していることが多いです

そのため、カルチノイドがあったとしてもカルチノイド症候群を呈することはまれです



有名なカルチノイド症候群(顔面紅潮、下痢、喘息発作、右心不全、毛細血管拡張)ですが、全てが揃う必要はありません


どれか一つのこともありますので、症状から除外することは難しいです

中でもカルチノイド心は、
肺高血圧を疑うような原因不明の進行性の呼吸苦や右心不全のプレゼンテーションできます




セロトニンなどの生理活性物質が三尖弁、肺動脈弁、心腔心内膜を刺激し、
線維化をきたすと考えられています

TRが最も多いです


TRを見た場合は肺高血圧に伴う二次的な弁膜症と考えず、
三尖弁の厚さや動きに注目することで、三尖弁自体の異常を見逃さないことが重要です



セロトニンは肺で不活化されるため、左心系には障害をきたしにくいですが、
今回のようにPFOやシャントが存在すると、左心系も障害されます

もしくは肺カルチノイドの場合です


薬剤性の場合も両側障害されます
カルチノイド心の一番の鑑別は薬剤性です


カルチノイド症候群・・・いつか診断してみたいものです

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NEJMの解説で勉強になったこと

・Platypnea-Orthodeoxia syndrome

座位や立位になると呼吸苦や低酸素が出現し、臥位になると改善する

姿勢の変化で呼吸苦が出現する時には、Platypnea-Orthodeoxia syndromeを疑う


他のpositional dyspneaのパターンとしては、本患者のように臥位で呼吸苦が出現し、

座位になると改善する場合もある

→それはもはや、Platypnea-Orthodeoxia syndromeじゃなくて、

 ただの起坐呼吸ではないか・・・と思ってしまいましたが、

 「姿勢での変化で呼吸苦が出現する時はシャント疾患を思い浮かべよう」という

 パールに換言しました


 Platypnea-Orthodeoxia syndromeは、肺底部病変や心臓内外の右左シャントが原因になります

 今回の症例はPFOが原因で右左シャントが生じており、

 これがPlatypnea-Orthodeoxia syndromeの原因と考えられました



・TRとPS

 TRの診断は末梢のサイン(JVP、肝腫大、下肢浮腫)でおこないます

 雑音はほとんど聞こえません


 TRがseverになると低速系であり、雑音は聞こえなくなります

 にも関わらず、本症例では収縮期雑音が聞こえており、

 これはTR単独では普通ではないことです

 そのため、他の原因を探した方が良いです

 本症例では僧帽弁や大動脈弁、肥大型心筋症のような雑音ではなく、

 肺動脈弁狭窄症が収縮期雑音の原因と考えられました


→昔からボスには、TRの音は心窩部からやや右側に放散するんだ

 ほら聞こえるだろ!と、圧強めに言われていて、

 聞こえていたような気がしていましたが、TRはseverになると聞こえなくなるのですね・・・


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