2017年11月13日月曜日

急性前庭症候群

急性前庭症候群 
Acute vestibular syndrome(AVS)

まず名前が悪いです

前庭がやられていないくても、前庭と名前がついています
(いろいろな経緯で回りまわって、前庭がやられている可能性はありますが・・・)


急性前庭症候群はめまいの分類の中の急性重度のめまいに分類されるものです

つまり、急に持続性のめまいが出現した時に、この概念に落とし込みます

病歴を上手にとらないと、そもそもめまいを3つに分類できないため、注意が必要です


頭位変換時に誘発されるめまいが、BPPVです

頭位変換時に悪化するのが、急性前庭症候群です

ここを間違えては元も子もありません


ポイントは

頭位変換していない時にもめまいがあるかどうかです

吐き気はあってもよいです


急性前庭症候群は頭位変換をしていないのに、

ずっとめまいが続いているような人なので、

BPPVを疑う必要はありません


なので、めまいと一言でくくってしまうと、

BPPVや前庭神経炎や脳梗塞やメニエールなど

ごちゃごちゃした鑑別になってしまうので、

めまいでくくるよりも、急性前庭症候群(AVS)でくくった方が

鑑別がしぼりやすいです

末梢性 VS 中枢性

AVSは末梢性と中枢性があります

その中でも、末梢性では前庭神経炎がほとんどです

中枢性は脳幹梗塞や小脳梗塞がほとんどです

前庭以外がやられても、持続性のめまいを起こすことはあるので、

前庭が関与していない脳梗塞でも、

急性前庭症候群という範疇に入ってしまいます

中枢性の原因としては、脱随や出血、腫瘍もありえますが、稀です



なので、末梢性 VS  中枢性  という構図は、

結局、前庭神経炎(vestibular neuritis) VS 小脳や脳幹の梗塞 となります

脳梗塞でめまいが起こるのは、多くは後方循環系なので、

小脳失調や脳幹の所見を詳しくとることにつきます


めまいがあり、吐き気がひどい時は、小脳失調の評価をしにくいですが、

それでも最低限、守らなければならないルールがあります


それは救急外来で、

例え、めまいが対処療法で改善して、帰宅できそうな時でも、

帰宅させるときは、自分の目の前で歩いてもらうことです

看護師さんに任せて、「点滴終わって歩けたら帰宅」という指示ではいけません

そこで見るべきは、wide baseかどうかです


有名な逸話があります


救急外来に来ためまいの患者さんで、

特に神経学的な異常所見がなく、

点滴していたら、めまいがおさまり、歩行可能となって

帰宅していった人がいました

帰り際、扉をあけて帰る時に

若干wide baseでひょこひょこ歩いて帰っていきました

なんとなく、wideだなあと思っていたら、

翌日、嚥下ができなくなって、呂律不良が出現し、帰ってきました

ワレンベルグでした


脳幹や小脳梗塞の患者さんは、浮腫が起こると症状が増悪してくるので、

最初は目立たず、徐々に悪化してくることがあります

軽度の小脳失調は非常に難しいですが、

帰宅前には必ず歩行をさせましょう

「歩行できなければ、入院」

という標語はよく聞きますが、

「歩行できれば、帰宅」と置き換えてはいけません

「歩行できても、入院」な時があります




めまい診療の苦手な理由の一つに眼振がよくわからないというのがあります

眼振をとるのも、とられるのも一苦労です

めまいがあると、眼をあけているのもつらく、

ある程度症状を落ち着かせないと評価が難しいです


まず吐き気をとってあげてから評価したほうが、

診察がスムーズなことが多いです


眼振の評価はできれば、フレンツェル眼鏡を使いましょう

そして、眼振の評価に自信がなければ、患者さんに許可をもらって

動画で撮影しておきましょう


動画で撮影するメリットは、

あとでゆっくり眼振の向きを評価できること

時間がたって眼振が消えてしまった時に、

あの時はこうだったという確たる証拠になること

眼振を見た事ない医師への教育として使えること

が挙げられます


急性前庭症候群では、明らかに中枢性である眼振を探すことです

垂直方向性や純粋な回旋性、注視する方向への眼振は、中枢性を示唆します

上記であれば、むしろ、強く中枢性を示唆するので、

診断がついて、ラッキーです


ですが、多くは水平方向固定性眼振で、

水平方向固定性眼振の時が一番、難しいです

これは末梢性でも中枢性でも起こり得る眼振です


前庭神経炎の時は、健側方向へ向かいます

脳梗塞の場合は、健側にいく場合と病側にいく場合があります

眼振では区別できません


頭位を健側下位にしたときに、向地性(地面方向に眼振が増強する)の場合は、

前庭神経炎のことが多く、

向天性(天井方向に眼振が増強する)の場合は、

脳梗塞のことが多いという報告もありますが、

実感としては、

どちらが、増強しているか判断がつかない時も多い印象で、難しいなあと思います

一応、やってみてもよいと思います






ではHITで末梢性と中枢性の鑑別できるかというと、

ほとんどは鑑別ができます


しかし、中枢性の一部では、HITも陽性になる場合があります

まるで、前庭神経炎にそっくりなので、

pseudo vestibular neuritis と呼ばれます

pseudo vestibular neuritisとなる疾患は、

前庭や前庭神経核を栄養しているAICAやPICAの梗塞です

病態が炎症か、梗塞かだけの違いなので、

症状が似ていてもおかしくありません

この場合は、他の症状で見分けるしかありません

AICAの場合、内耳を栄養していることが多いので、

蝸牛症状を拾いましょう





末梢性か中枢性を見分けるために、

必要なのはMRIではありません


病歴や身体所見の方が重要です


後方循環系の脳梗塞では、MRIの感度が発症から48時間以内では悪いので、

必要であれば繰り返す必要があります





急性前庭症候群まとめ
・眼振を伴う急に出現した持続性のめまいのこと
・このカテゴリーに落とし込めば、
 BPPVは鑑別にあがらない
・鑑別は 前庭神経炎 VS 脳梗塞
・末梢性と中枢性の鑑別に大事なのは、
 MRIではなくHINTs Pluse
・眼振の評価が得意になれば、めまい診療が楽しくなる

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