主訴:咳が止まらない
この主訴はとても頻度が多く、診断が難しいです
咳が何日間、続いているかにもよりますが、ここでは急性(3週間以内)の咳と考えます
実臨床では感染症以外の喘息や薬剤性も考慮しますが、ここでは気道感染症にしぼって考えていきます
気道感染症の「BIG7」と岩田健太郎先生は言っていました
①common cold:風邪、感冒
②咽頭炎
③副鼻腔炎
④インフルエンザ・インフルエンザ like
⑤気管支炎
⑥肺炎
⑦中耳炎
気道症状(鼻汁、咽頭痛、咳)があった場合、これらのどれかを考えます
この中で咳がメインの症状になるものは、④、⑤、⑥です
④については、急に高熱がバーンとでて、全身の痛みや頭痛がでてくるので、
流行のシーズンならすぐに分かります
問題は⑤気管支炎と⑥肺炎を区別するのが、非常に難しいです
気管支炎らしさ
急性気管支炎の臨床症状は5日間以上続く咳です
多くは1-3週間ほど持続しますが、自然に軽快します
痰はあってもなくてもよいです
急性気管支炎で38度後半を超える発熱は稀ですので、成人で38度を超える高熱がある時点で、気管支炎っぽくありません
肺炎らしさ
ということでまず肺炎らしさを見積もる上で、自分が大事にしているのは高熱です
酸素化低下があれば、そりゃあね・・・
ということになりますが、高熱(38度以上)はスルーされていることが多い印象です
なので高熱がある時点で、肺炎かも・・・という感じで問診をとります
(1)肺炎らしい病歴
・二峰性の経過
・悪寒戦慄
・胸痛・胸膜痛
・意識障害
・全身症状が強い:頭痛、筋痛、寝汗
・上気道症状(鼻汁)がない
・下気道症状が強い:労作時呼吸苦、息切れ、痰が一日中でる
(2)肺炎らしい身体所見
・低酸素血症
・頻呼吸(20回/分以上)
・高熱
・低血圧
・聴診での異常:crackle、ヤギ音、気管支呼吸音、左右差、呼吸音減弱
覚え方はバイタル異常+聴診異常です
バイタルの中で呼吸数が大事というのは口をすっぱく言われていると思いますが、
実際に自分が気道感染症の人で、全症例呼吸数を数えているかというと、正直とっていません
症例を選んでとっています
呼吸数をみなくても、診断が明らかなことは多いですので、その場合はとっていません
呼吸数をみる時は、診断に迷った時です
気管支炎か、肺炎か迷った時の切り札的に使っていることが多いです
例えば、咳はひどいけど、酸素化は良好でSPO2 96%
38.0度の熱あり、血圧は120/80、脈は95回/分
問診では二峰性ではないが、横ばいで咳が7日間続いており、痰も少しでる
呼吸音は問題なし
レントゲンは微妙・・・
気管支炎?肺炎?
迷いますよね・・・
ここで呼吸数を数えます
数え方は、人それぞれ流儀がありますが、
自分は「脈をとりますねー」といって、脈を触れつつ、呼吸をみます
ここで呼吸数が20回/分だったら、やっぱり肺炎かなと思います
気管支炎か肺炎の診断に迷ったからといって全例でCTとっていたら,
とんでもないことになります
画像で白黒つけるのは、文字通り難しいです
是非、病歴と身体所見(バイタル・呼吸音)で肺炎と気管支炎を見極められるようになりましょう
気管支炎・肺炎~咳がつらいんです!~
①背景
肺に基礎疾患(COPD、間質性肺炎、喘息、肺がん・・・)があれば、肺炎の可能性はぐっと高くなります
さらに肺の基礎疾患がある患者さんが難しいのは、acute on chronicな病態になることが多いことです
健康な人ならウイルスが上気道や下気道に感染しても、感冒程度で自然軽快するものが、肺の基礎疾患がある人はその基礎疾患が急性増悪する可能性があります
そのため、病態を適切に把握するため、積極的に画像評価が必要になります
気道症状が主訴の人は、
まずカルテで肺の基礎疾患がないかを確認し、基礎疾患があるのであれば、CXRやCTの画像をチェックしてから診察に臨みましょう
免疫:免疫抑制剤やPSL内服している人は、TBやPCPが心配になります
そういった人に、ただの風邪や気管支炎と言い切るのは、相当勇気がいります
暴露:感染症なのでどこからか、もらっくる必要があります
海外渡航歴は絶対に聞きます
学校や施設での感染の流行状況を聞くのは当然ですが、
県内の感染症の流行状況をホームページでたまにチェックしたり、
小児科Drに今、何が流行っているかを聞いておくと流行の最先端を知ることができます
②部位
感染部位は下気道の気管支や肺胞です
大雑把に気管支炎を起こすのは、ウイルス
肺炎を起こすのは、細菌
両方起こすのは、マイコプラズマ、インフルエンザ
と覚えておきましょう
その上で例外を知っておきます
肺の基礎疾患がある人は、気管支炎でも一般細菌が原因になり得ます
厳密にはいろんなウイルス性の肺炎があるようですが、実臨床で同定できませんので、
サイトメガロウイルスやインフルエンザを除いて、
ウイルス性肺炎を診断しにいく必要はないかと思われます
③微生物
もともと健康な人で、咳がひどい人をみたら、まずは肺炎を疑います
そして、肺炎っぽくなければ、気管支炎?という思考になります
気管支炎なら、ウイルスがほとんどであり、肺の基礎疾患がなければ抗生剤はいらない
という思考過程になるのですが、ここでも例外があります
それは、百日咳です
百日咳は抗生剤を使うと周囲への感染拡大を防げたり、症状を緩和できるので、
百日咳を疑った場合は、マクロライド系の抗菌薬の投与を検討します
疑うポイントは、「咳き込んだ後の嘔吐」「吸気性笛声」「発作性の咳」「家族内発症」です
ですがマイコプラズマもかなり咳がひどいので、マイコプラズマと百日咳の鑑別は臨床ではほぼ無理だと思っています
百日咳を疑ったら、抗体検査やLAMP法が主に用いられますが、診断に時間がかかるのがデメリットで、待っている間に感染が拡大してしまう可能性があり、悩んだ挙句、マクロライド系抗菌薬を処方することもあります
ただ、ここで薬を出す出さないよりも、大事なことがあります
それは成人の百日咳が乳幼児の感染源になってしまうことです
百日咳で成人が亡くなることはめったにありませんが、
百日咳が乳児(特に6か月以下)に感染すると、死に至る危険があります
自分の百日咳に我が子が感染して死に至ってしまった・・・
なんていう悲劇は避けないといけません
最近はワクチン接種していない家庭もあるので、特に注意が必要です
なので百日咳かマイコプラズマを疑うような頑固な咳の人をみたら、
家庭内に乳幼児や免疫不全者がいないかどうかと、子供のワクチン接種歴を確認しましょう!
CDCでは、1歳未満の乳児や妊婦、免疫不全の人、肺の基礎疾患がある人、乳児と接触する機会のある人の場合、抗菌薬の予防内服を薦めています
暴露後、21日以内に予防内服をすることが推奨されています
運よく早期に百日咳の確定診断がついたら、上記人々への予防内服も検討しましょう
咳がひどい人を見た時に、百日咳ともう一つ、注意が必要な病気があります
それは結核です
百日咳も結核も周囲への感染が問題で、本人よりも周りが困るという感じですね
特に気管支結核は排菌が多いので、後々、判明すると本当に大変です
咳が長引く人をみたら、早めに痰の抗酸菌染色と抗酸菌培養は出しましょう
④治療
気管支炎の場合、ウイルス性がほとんどであり、抗菌薬を出すことはめったにありません
例外は、
・肺の基礎疾患がある人
→痰のグラム染色で、菌を推定してから抗菌薬を選びます
・百日咳を疑うような頑固な咳がある人
肺炎の場合、細菌性と考え抗菌薬を処方します
グラム染色で菌を想定し、CTをとった症例ではCTの画像所見から菌を想定します
レジオネラはβラクタム系に反応しない、低Naや低P血症、CRP著明高値、消化器症状、意識障害、暴露歴、CT所見から疑い、尿中抗原で診断をつけに行きます
ですが、レジオネラの診断は尿中抗原だけだと見逃しますので、強く疑った場合は、
痰の培養を提出し、治療してしまうこともあります
肺炎の治療で注意が必要なのは、胸膜痛がある場合です
この場合、最初は大したことがない胸水でも、数日で著明に増加し、
すぐに膿胸・肺化膿症へ進展する可能性があります
痛みのある肺炎は要注意です
連日のようにレントゲンをとり、USをあて胸水をチェックし、タイトフォローが必要です
⑤適切な経過観察
抗菌薬を入れても治療が奏功しない場合は、治療抵抗性肺炎になります
→「治療抵抗性肺炎」参照
治療がうまくいっているかどうかは、全身状態と診断した根拠となる症状・所見をみます
・全身状態:食事量、見た目、発熱、倦怠感
・診断根拠:痰のG染色、呼吸数、crackle
レントゲンは改善しているかをみるのではなく、悪化してきていないかを確認する意味合いで使いますので、明らかに改善傾向であれば、すぐに再検する必要はありません
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まとめ
・背景:肺の基礎疾患、免疫状態、暴露をきく
・部位:気管支、肺胞
・微生物:気管支炎ならウイルス性
肺炎なら細菌性
どちらもあり得るのは、マイコプラズマやインフルエンザ
注意が必要なのは、百日咳と結核
・治療:抗菌薬を出すのは、定型肺炎や非定型肺炎、
百日咳、肺に基礎疾患がある人の気管支炎
痰のG染色で菌を想定する
・適切な経過観察:胸膜痛がある場合はタイトフォロー
3日たっても改善なければ、治療抵抗性肺炎として再考する
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