2019年11月16日土曜日

腸炎

風邪と同じで、ゴミ箱的に使われているのが、胃腸炎という病名です

食欲がなくて吐き気があり、腹痛があり、下痢がある
こういった消化器症状のどれかをみたら、まずは胃腸炎といいたくなりますよね

ですが、急性の消化器症状=腸炎ではありません
そして、腸炎だとしても、どこの何による腸炎かを考えなければなりません




風邪の時と同じで、腸炎というためには、他のいくつもの疾患を除外する必要があります
風邪を適切にみる3つの力と同じように、腸炎も考えていきます

①腸炎ではない他の疾患を見破る力

消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹痛)は消化器の疾患だけで起こるわけではありません

有名なのは下壁の心筋梗塞ですよね
どんな救急の本にもまず、書いてあるのではないでしょうか


なので、まず消化器疾患に飛びつきたくなるところをぐっと我慢して、
(1)全身疾患から考えていきます

(1-1)全身疾患の中でも、消化器以外の感染症をまずは考えます

特に消化管以外の感染症で消化器症状がある時は、重症のことが多いからです
TSSや敗血症、レジオネラ肺炎といった疾患は、下痢もよく起こります


(1-2)次に感染症以外の全身疾患を考えます
甲状腺クリーゼや妊娠、DKAは最初に考えないと、「腸炎」にアンカリングされた後では、鑑別にあがりにくいです



(2)消化管の周辺臓器の疾患を考慮します
腎盂腎炎や膵炎、精巣捻転、下壁の心筋梗塞は、嘔吐を伴うことも多いです


(3)最後に消化管へと目を向けていきます
(3-1)感染症以外の疾患を疑います
画像で見落としてはならないのは、ヘルニアです
閉鎖孔ヘルニアや内ヘルニアは最初に腸炎と診断されていることがたまにあります

(3-2)最後の最後に消化管の感染症が残ります


この思考でいくと、全症例で心電図や血液検査や尿検査が必要になるじゃないか
ということになりますが、一瞬考えて、病歴で除外していくという思考過程です

1mmも考えずに検査しないのと、考えた上で検査しないというのは、全然違います
病歴や診察で除外しきれず、他の有力な対抗馬がなければ、検査が必要になります



②腸炎を適切に診断できる力
明らかに腸炎らしい病歴と身体所見がそろっていれば、
システム1の思考で、「腸炎」と診断してよいかと思います


「腸炎」にしては、何かがおかしい(例えば、下痢がない)と思えば、
システム2の思考で上記のように考えます

では腸炎というためには、どんな症状が必要なのでしょうか?


風邪は、鼻水と咳と咽頭痛の3つでした

腸炎は、吐き気(嘔吐)と軽い腹痛と下痢の3つです

一般的に使われる「胃腸炎」は、ウイルス性の小腸の炎症のことを指していると思われます
そのため、「胃腸炎」(ウイルス性腸炎)というためには、吐き気・嘔吐があって、軽度の腹痛や下痢があり、自然に軽快する疾患です


風邪の時と同じで、消化器症状を何でもかんでも胃腸炎といわないのが、第一段階です
炎症の首座が、

小腸(近位~遠位)か、回盲部か、大腸か

を見極める必要があります

そして回盲部炎の場合、虫垂炎や憩室炎が鑑別になり、非常に難しい判断になりますので、画像評価が必要になる場合が多いです




③抗菌薬を適正使用できる力


感染部位が分かれば、微生物が分かります
小VECA、回CYS、大SECと覚えます

便培養を出すときに、菌名を伝えなくてはなりませんので、この知識はもっておいてよいでしょう

小腸の場合、圧倒的にウイルスが多く、毒素性の腸炎の可能性もあります


細菌性腸炎でも抗菌薬の適応は渡航者下痢症や細菌性赤痢、サルモネラ腸炎、キャンピロバクタ―腸炎に限られており、
抗菌薬の適応になるかどうかは細菌の種類と患者背景次第です

全身状態が悪かったり、免疫不全状態(ステロイド内服、免疫抑制状態、HIV感染あり)、人工物が入っている人は、抗菌薬の投与を検討します
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腸炎まとめ
・消化器症状をみたら、まずは消化器以外から考える
 →全身疾患(感染症→非感染症)→周辺臓器→消化管(非感染症→感染症)の順で

・胃腸炎という病名は使わない、どこの何による腸炎か?を言えるようにする

・抗菌薬の適応は、細菌の種類にもよるが、大事なのは患者背景

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