2019年12月26日木曜日

昼カンファレンス ~腹痛の問診と腹部診察のコツ~

症例 83歳 男性 主訴:腹痛、発熱

Profile:RA、Afで当院かかりつけ、ADL自立

現病歴:来院前日の夕食まで普段通り
    食事は生ものは食べていない
    寝る前に腹部の違和感はあったがが、痛みというほどではなく、
    21時に就寝した
  
    来院日、深夜の2時に腹痛のため起床
    その後、腹痛が増強し、救急車にて5時半に来院

ROS:下痢なし、吐き気なし、食欲低下あり、黒色便なし、悪寒なし
   胸痛なし、背部痛なし

既存症・既往歴:うっ血性心不全、ラクナ梗塞、Af、鉄欠乏性貧血、高血圧
        脂質異常症、RA、肺炎

内服:リウマトレックス、フォリアミン、イグザレルト、アクトネル、
   ワンアルファ、アムロジピン、レニベース、リピトール

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司会「はい、ありがとうございます。さて、この症例どう思いますか。
   まずは1st impressionで」

学生「動脈硬化が強そうで、Afもあるので、SMA塞栓を考えたいです」


司会「すごいね!SMA塞栓はとても大事な鑑別です。

   腹痛+αは色々あるけど、腹痛+Afがあった場合、
   真っ先に考えるのは、SMA塞栓です。

   なので、腹痛の症例をみたら、必ずAfの有無を確認しましょう。
  
   じゃあ、SMA塞栓を疑ったらこの状況では何を追加で聞きたいですか?」


学生「・・・」

司会「抗凝固薬飲んでいるよね、一応。
   だから、この場合はコンプライアンスや薬の管理を誰がしていたかを聞く必要があります」


発表者「家族が管理していて、しっかり内服はできていたようです」


司会「はい、ありがとうございます、他に1st impressionで考えたことはありますか?


学生「食中毒とか?」


司会「食中毒かー。確かにあってもいいけど、食中毒の中でも○○なら、
   救急車でくるかな。
 
   ○○以外の食中毒の場合は、痛すぎて救急車で来るという事はめったにないかもしれないね。
 
   ○○は何かわかりますか?」

学生「キャンピロですか?
   自分がキャンピロになったことあります(笑)」


司会「そうですねえ、キャンピロはどちらかというと、
   インフルエンザlikeのような頭痛や発熱がメインで、
   その後、下痢や腹痛が出てくるという感じで、腹痛メインっている感じではないかもね。」


研修医「エルシニアとかは虫垂炎と似たような感じになりますよね?」


司会「まあ、そうなんですけどね。
   
  ここではアニサキスを疑ってほしいです。

  アニサキスは普通の食中毒とは異なり、アレルギー機序で激烈に痛むので、
  救急車で来ることもしばしばです。」


司会「他に何か病歴で聞きたいことはありますか」


研修医「部位はどこが痛むのですか?」

発表者「臍周囲からやや右側です」


司会「他にどうですか?

   学生さんは、痛みの場合、どんな問診をするように習いますか?」


学生「痛みの性状や増悪緩解因子、時間経過、強さ、放散痛とかを聞きたいです」


司会「そうですね、語呂としては、OPQRST2と言われますよね。
   まあ、自分も以前は使っていましたけど、もう使いません。

   今は痛みの図やグラフを書くようにしています。


   救急車の場合、難しいですが、普通の外来であれば、問診票が手元にあります
   その紙の裏に、痛みの図を患者さんと一緒に完成させていきます。

   痛みがいつ始まったか?どのような発症形式だったか?
   突然だったのか?緩徐だったのか?

   波はあったのか?波があるなら、痛みは0になるのか?
   Maxの痛みは何点か?今、何点くらいか?
 
   緩解・増悪するのであれば、その時に何をしていたのか?

   といった内容を図にしていき、患者さんとその都度確認します。

  医者が一方的に患者さんから病歴をとって、
  それを頭の中でグラフにすると、
  実は患者さんが言っていることと、医者の想像は違う

   ということはよくあります。

   なので、患者さんに確認してもらいながら、痛みのグラフを作るのがポイントです」





発表者「痛みの図はこんな感じです

    寝ることはできたようです

    そして、腹痛で目が覚めました。」


司会「それはいけないね!

   寝ている状態で、起こされる症状というのは大抵危ない

   有名なのは、下痢ですね。
   寝ている間に下痢がおさまっている人は、
   器質的な疾患はないかもしれない。

   一方、寝ている時にも下痢で起こされる時は絶対病気です。


   今回のこの患者さんもこのまま寝ていたら、死ぬかもしれない!寝ている場合じゃない!!
   

   という体からのメッセージなのでしょう。

   そのメッセージを私達は受け止めなければなりません。

   この人、このままだと死んでしまうかもしれないと。。。」

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身体所見

バイタル:BP97/77、P 100-150(ireg/ireg)、RR 20-30回/分、SPO2 95%
見た目 やや足を曲げている 痛みで暴れる感じはなし
末梢冷感なし、冷や汗なし

腹部は平坦 軟 腸蠕動音 亢進・減弱なし

臍周囲から右下腹部にかけて広範囲に自発痛あり
圧痛は右下腹部にあり

反跳痛なし
tapping painなし

ピンポイントでの圧痛点はなし
カーネット徴候陰性

肝叩打痛陰性
マーフィー陰性
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司会「はい、ありがとうございます。

   皆さんは腹部の診察どうやっていますか?



   腹部診察は三次元を意識してとります


   腹痛がある場合、まずは、
   痛みの範囲や最強点の部位を見える化できるくらい丁寧に診察しましょう。


   痛みの天気図をお腹に描けるようにします。


   最強点は指何本か?

   1.2本なら虫垂炎やACNES、腹膜垂炎が疑われます
   3~5本なら憩室炎が疑われます。

   そして痛みの範囲はどこまでかを見極めます、自発痛と圧痛はわけて考えましょう


   というように、まずは平面的に痛みの天気図を書くのが一次元です


   他の次元は分かりますか?」



学生「深さですか?」


司会「その通りです!

   浅い方から、皮膚、脂肪、筋肉、腹壁、腸、腹膜脂肪、後腹膜臓器、
  
   といった感じでどこに痛みの原因があるかを診察で見極めます。

   なので、まずは平面的に痛みの部位を把握し、その後、深さの診察に入ります。

  
   腹壁よりも浅い病変であれば、痛みは限局し圧痛範囲もかなり限局しています
   そしてカーネットサインが陽性になります

   腹膜に病変が及んでいれば、腹膜刺激徴候が出現します

   後腹膜臓器の場合は、痛みの割にお腹が柔らかく、腹膜刺激徴候はありません。


   では、最後の次元は?」


研修医「時間です」


司会「素晴らしい!

   最初は柔らかかったお腹が、だんだん固くなってきたとか、
   痛みの部位が右下腹部に限局してきた

   とかよく言われますよね
   
   なので、腹部診察は何度も取り直すことが非常に重要です」




司会「さて、この症例はバイタルをみると、qSOFAでひっかかり、敗血症が強く疑われます。腹痛+敗血症となると、どのような病気が挙げられますか?」


学生「胆管炎や膵炎とか、虚血性腸炎でもあるんですかね?」


研修医「虫垂炎の穿孔」

専攻医「腎盂腎炎+尿路結石」


司会「はい、ありがとうございます。そうですね。そんなところだと思います。

   大事なのは、やはり穿孔でしょう。
   
   下部の腸管穿孔の場合、あっという間にバイタル崩れますし、
   早く手術につながないと、予後が悪いので、
   
   鑑別はほどほどで、点滴とってすぐにCTや抗生剤投与することが重要です」

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CTにて虫垂炎が確認された
緊急で手術となり、術中所見では虫垂の一部が穿孔していた


司会「はい、ありがとうございます。
   経過はかなり早い印象でしたが、虫垂炎でしたね。
   
   高齢者の場合、典型的な虫垂炎の経過にならないこともよくあります。


   そして、高齢者の虫垂炎は、虫垂癌が原因のことがあるので、
   基本は手術を選択したほうがよいでしょうね。

   勉強になる症例でした。ありがとうございました。」


まとめ
・痛みの問診で「OPQRST2」がマスターできたら、「痛みの図・グラフ」を描けるように問診しよう
→患者さんと一緒に作ることが大事


・寝ている時に何らかの症状で起きた場合、絶対病気


・腹部診察は三次元を意識する
→平面:部位の確認、深さ:腹膜刺激徴候の確認、時間:何度もとることが大事

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