2020年8月4日火曜日

昼カンファレンス 〜高齢者診療の極意:病気を考える前に、考える3つのこと〜

80歳 男性 主訴:食思不振

Profile:3週間前まで尿路感染症で入院していた

現病歴:退院4日後に発熱あり
    かかりつけ医受診。クラビットが開始
    37度の発熱あり
    クラビット服用するも、その後、2週間微熱が持続
    受診の4日前、食事量が減ってきた。2.3割程度しか食事取れず
    再度、かかりつけ医受診。CRP4
    皮下注射500mlが開始された
    皮下注射3日継続しても食事とれず、当院紹介



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ディスカッション①どんな情報が欲しいですか?

T「はい、ありがとうございます。
 
  さて、難しい症例をありがとうございます。笑
  大変そうだね。

  まず、どんな情報が欲しいですか?」

学生「えーっと、最初の発熱の原因が何か気になりました。」

T「そうね、クラビット出された経緯ね。
  そこは何か情報ありますか?」

N「尿路感染症だと考えられたみたいです。
  前回の入院時の尿路感染症がセラチアが検出されて、
  感受性結果なども参考に、クラビットが出されたようです」

T「はい、ありがとうございます。

  さてこの症例を紐解くには、コツがいります。
  入院中の人が発熱をした。という考え方を使いましょう。

  N先生、入院中の人が発熱したらどんな風に考えますか?」

N「入院時することになった病気に関することと
  入院してから介入したこと
  偶然に他のことがおきた

  の3つだったと思います」


T「はい、そうですね。
  この症例はこの考え方に沿った方がいいと思います。

  だから、まずは前回の尿路感染症を詳しく知らないと、スタート地点に立てません。
  前回入院の時のことを詳しく教えてください。」
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追加病歴

もともとBPHで尿カテが入っている方
今回の入院の6週間前に血尿と腹部の張りを認めました
尿カテを交換すると1Lの排尿を認め、寒気と共に発熱が出現し、来院されています
他に、focusはみられなかったため、尿路感染症が疑われCTRXで治療が開始されました
しかし、解熱得られず、後日、尿培からセラチアが検出されたため、感受性のあるMEPNに変更されました
その後治療はうまくいって、3週間後に退院となりました

T「はい、ありがとうございます。
  尿路感染症には注意が必要ですね。

  尿路感染症という根拠で一番大事なのは、
  尿路以外に熱源がないということです。

  カルテに尿路感染症で治療した。と書いてあっても何の根拠にもなりません。


  ・・・ちょっと、待てよ。前回の入院、まさか僕がみてました?」


N「いいえ、違います。笑」

T「ならよかったです。
  では先ほどの3つの考え方に準じて考えてみましょう。

  まずは入院時の問題となった病気、
  これはカテーテル関連の尿路感染症(腎盂腎炎)でしたね。
  ここで考えることは何でしょうか?」


N「感染症のコントロールがうまくいかなかったり、治療が失敗した可能性を考えます。
  あとは、診断が間違っているのではないか?ということも考えます。」

T「そうですね、では腎盂腎炎の治療がうまくいかなかったら、どうなっていくと思いますか?

 感染症って出世魚みたいな感じで、放っておくと病気が進化していくんです。
 ポケモン世代なら、ポケモンでもいいですけど、
 ピカチュウ→ライチュウ みたいな感じです。

 腎盂腎炎はどうでしょうか?」

N「進化ですか?敗血症とか?」

T「まあ、そういう死に向かう進化もあるね。
  それより、ぐづついてくるとなってしまうものがあります。」

N「あー、腎膿瘍ですか?」

T「そうですね、そして?」

N「そして?
  うーん、わかりません。」

T「考え方はだんだんと感染が周りに波及していきます。

 腎盂腎炎→腎膿瘍→腸腰筋膿瘍といった感じです。
 そして、いつか血流に乗って感染性心内膜炎を起こしたり、
 他の部位(椎間板など)に飛んでいきます。

 感染症がこじれた時に、何が起きてくるか?
 この考え方は知っておいてもいいと思います。

 例えば肺炎がこじれると肺化膿症や膿胸になることもあります。
 憩室炎がこじれてくると、その付近で膿瘍形成や化膿性門脈炎・血栓症にいたり、
 肝膿瘍を起こすこともあります。

 今回であれば、腎盂腎炎の治療がうまくいっていないのであれば、
 腎膿瘍もあり得たりするかもね。

 感染症の治療がうまくいかない時は、閉塞起点があったり、
 ドレナージ不良のことが多いです。

 もちろん、薬が効果なかった、中途半端だったという可能性もあります。

 では次の介入した影響を考えてみましょう。
 入院して治療されると、どんな介入があると思いますか?」


学生「えーっと、点滴が入ります」

T「そうですね、点滴が入るとどうなりますか?」


学生「痛いです」

T「そうね。確かに痛いです。笑

  それ以外にも静脈から感染を起こす時があって、化膿性の静脈炎を引き起こします。
  今回は抗生剤が点滴から使われているので、そこも気を付けないといけませんね。
  
  抗生剤が入ったということは、腸内細菌は破壊されているので、
  CDIも考えなくてはなりません。

  他に入院中にはいろいろな新規の薬が入ることがあります。
  それに伴う薬剤熱という可能性もあるので、新規に薬が入っていないかも気にする必要があります。」

N「質問いいですか?
  この人は下痢はないのですが、クロストリジウム感染症を考えないといけないのですか?」

T「そうですね、以前はCDADって呼ばれていました。
  今は、CDIですよね。

  この名前の変遷を考えると、下痢がなくても疑わないといけないことがわかります。
  
  ADというのは、associated  diarrheaですね。
  それが、Infectionになったということは、必ずしも下痢になるわけではないからです。

  例えば、トキシックメガコロンになって、腸管が壊死しかかってしまったり、
  便秘が強くて、下痢として見つかりにくかったりすることもあります。
  
  明らかな下痢として認識されずに軟便くらいでも、
  CD腸炎はあり得ますので、下痢がないから否定していいというわけではありません。」

N「わかりました。」




T「では、ここで高齢者診療の極意についてお教えしましょう!

  高齢者が具合が悪くなった時にまず、考えることです。
  病気を考える前に、ぜひ考えて欲しいことです。

  Y先生!高齢者診療の極意を教えてください。」


Y「極意ですか???」


T「そうです、僕が今考えたので、頑張って当ててみてください。笑」


Y「まずは誤嚥から考えるとかですか?」


T「違います。笑。
  いつものあれです。」


N「薬ですね。」


T「そうです。
 まずは高齢者が具合が悪くなったら、薬から考えてみてください。
  
 薬!くすり!!クスリ!!!です

 高齢者が意識悪くなったり、食事がとれなくなったら、
 高尚な病気から考えてはいけません。

 今飲んでいる薬が原因ではないか?ということから考え始めます。

 ということで、飲んでいる薬を教えてください」
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既存症と薬
糖尿病:グリメピリド、メトホルミン、ジャヌビア
BPH(尿カテ長期留置中):ハルナール、プロスタール
便秘:酸化Mg
浮腫:フロセミド
骨粗しょう症:エディロール

暫定的に尿路感染症と診断され、クラビットが3週間継続中

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ディスカッション②この中の薬で悪さするとすれば、何が考えられますか?

T「はい、では薬が原因で食べられなくなってきているとすれば、
 何が原因でしょうか?」

Y「えっと、電解質異常はあってもいいかなと思いました。」


T「そうね、電解質異常って言われると、いろいろありすぎるね。
 
 忍者が使う煙幕みたいに、煙に巻かれた感じがあるから、
 もう少し具体的に教えてもらってもいい? 笑」


Y「はい、エディロール飲んでいるので、高Ca血症とか、 
  酸化Mg飲んでいるので、高Mg血症とかかなと思いました。」

T「はい、いいですね。
  高Mg血症をみるには、身体所見で腱反射取ったりしますね。
  高Mgが進むと腱反射は減弱します(※カンファでは亢進と言ってしまいました)

  高Caだったら、多飲・多尿・便秘がきたりしますね。

  他はどうですか?」

N「フロセミド飲んでいるので、低Na血症も考えます。
  あとは、糖尿病の薬をたくさん飲んでいるので、低血糖も考えます。

  メトホルミンも飲んでいるので、乳酸アシドーシスは心配です。」


T「すばらしいですね。

  あと、クラビットも飲んでいますね。
  クラビットの副作用は特徴的なので、知っておいてもいいでしょう」


Y「えーっと、QT延長」

T「いいですね。他には?」

Y「うーん、肝障害とかですか?」

T「でた、肝障害。笑
  皮疹とか、腎機能低下とか、だいたいの薬に書いてある副作用シリーズね。
  
  間違いではないけれど、あんまり特徴的とは言えないかな。」


N「NSIADsとかの飲み合わせで痙攣したり、低血糖も有名ですよね。」

T「そうだね、低血糖は知っておいた方がいいと思います。
  あとは腱断裂や大動脈瘤なんていう副作用も報告されていますね。

  さて、高齢者診療の極意の一番最初に考えることは薬が悪さしていないかどうかでした。
  
  これは何の病気だろう?と考える前に、薬が悪さしているのではないかと考えてください。
 
  でないと、なかなか薬に戻って来れなかったり、余分な検査が増えてしまいますので。

 自分たちが良かれと思ってやっていることで、
 患者さんを苦しめてしまっていないか?
 それを常に考えておく必要があります。

  薬について考えたら、次に考えることは何でしょうか?
  二番目の高齢者診療の極意です。」


聴衆・・・・・


T「それは、この人のADLを評価することです。
  その時にコツがあります。

  まずは鳥の目を使って、全体像を漠然と把握することです。
  そして、虫の目を使って、細かく把握していくというステップをとります。

  では、鳥の目でADLを把握するためには何を知ることが重要でしょうか?」


聴衆・・・・・


T「それは、介護度です。

  要支援であれば、ADLいいんだろうな。
  要介護で5に数字が近づけば、ADL悪いんだろうな。
  
  というのが、何となく想像できます。
  もちろん、介護保険申請していない人もいたり、
  実際のADLとあっていない人もいるので、例外はありますが、
  時間がない時にはまず介護度を知ることで、イメージが湧きます。  

  そして、虫の目で細かくADLをみていくというのは、
  いつものDEATH SHAFTTTです。

  なかでも、DEATH +T がとても大事なので、
  take medはBADLに入れてもいいのではないかと思っています。

  この方のADLはどうでしたか?」


N「要介護2でした。
  食事は自分で取っていて、
  移動は歩行器を使っています。
  入浴はDSで行っています。」


T「はい、わかりました。
  この情報がないと、病気を考えることができないのです。

  寝たきりであれば、褥瘡やDVT、誤嚥性肺炎を懸念します。
  余力があるかどうかの判断もできます。

  さあでは、三番目の高齢者診療の極意は何でしょうか?」


聴衆・・・・


T「老年症候群ではないか?と疑うことです。

  例えば、心筋梗塞を若い人が起こしたら、胸痛を訴えて、
  冷や汗をかいて、不穏でソワソワしている状況が典型的ですよね。

  ですが、高齢者が心筋梗塞を起こしたらどうなると思いますか?

  何だか、急にご飯を食べなくなったり、反応が鈍くなるくらいかもしれません。

  例えば、胆嚢炎ならどうでしょうか?
  若い人であれば、心窩部痛の訴えが強く現れますが、
  
  高齢者の場合、ご飯を食べなくなったり、嘔吐したり、
  反応が鈍くなるというプレゼンテーションかもしれません。


  何が言いたいかというと、高齢者の人が何かの病気になった場合、
  私たちが知っている病気のプレゼンテーションではなくて、
  ただ、具合が悪い、食事とれない、反応にぶい、起き上がれない・・・
  そういう同じような表現形やプレゼンテーションで目の前に現れます。

  そういう症候群を老年症候群といいます。

  なので、ご高齢の人が体調が悪くなった場合、老年症候群ではないか?
  という認識が重要で、老年症候群の場合は、病気は何でもありです。

  今回の状態も発熱がなければ、老年症候群といってもいいと思います。

  この人の病気が、
  心筋梗塞でも慢性硬膜下血腫でも誤嚥性肺炎でも蜂窩織炎でも腸閉塞でも
  低Naでも高Caでも貧血でも心不全でも胆管炎でも驚きはしません。

  若者と同じような鑑別疾患の立て方では失敗します。」

N「ありがとうございます。
  結局、この方は身体所見や画像検査、血液検査などなど施行されましたが、
  原因が掴めず、クラビットを切った状態で経過観察入院となりました。
  
  まだ原因はわかっていません」


T「はい、ありがとうございました。
  今日は難しい症例でしたね。」


学生「はい、難しかったです」
 
T「そうですね、でも分解していくと、実はそんなに難しくはありません。
  
  決まった公式を知っていれば、それに当てはめていくようなイメージです。
  入院時の人の発熱の考え方や高齢者診療の極意の考え方などの公式を自分の中に持っておいて、
  症例に一番見合う公式を使って、複雑な連立方程式を解いていく感覚ですね。

  若い人のトラブルはシンプルですが、
  高齢者のトラブルは複雑です。
  
 いきなり問題を解こう(病気を診断しよう)とせずに、
 まずはどの公式(考え方)で立ち向かえば、答えが出るか?

  ということを意識してからにしましょう」
  



まとめ
高齢者診療の極意 
〜病気を考える前に、考える3つのこと〜
①まずは薬が原因ではないか?と疑う
→薬の副作用で、現状を説明できないか妄想してみる

②ADLの評価を行う
→鳥の目のような全体を俯瞰するために介護度を聞き、虫の目のように詳しく知るためにBADLを聞く

③老年症候群ではないかと疑ってみる
→老年症候群であれば、病気は何でもあり。
 幅広い鑑別疾患が求められる。


 
 

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