2020年10月11日日曜日

感染症セミナー 〜with コロナ(後半)〜

 前半のまとめ


糖尿病で透析を行なっている62歳男性が、意識障害・呼吸不全で救急搬送となった

来院後、肺炎、心筋梗塞の診断がついたが、

暴露歴からコロナ対応しながらICU入室となった

挿管・人工呼吸器管理・CHDFにて全身管理し、

MEPN・VCMの抗生剤投与が行われていたが、呼吸状態の改善を認めず、

高熱がday4で出現した

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ディスカッション②

熱源は何でしょうか?どのような対応をしますか?


T「さて、院内での発熱に準じて考えてみましょう。

 考え方は3つありましたね。何でしたっけ?」


TT「まず、入院の原因となった現病に伴うものを考えます。

  つまり今回では肺炎の診断ですが、

  肺炎の原因微生物のカバーができていないことが一番の原因だと思います。


  次にその病気に対して、介入したものを考えます。

  今回では、デバイスが入っているのでデバイスの感染や薬剤熱、

  あとは褥瘡感染なども鑑別になります。


  最後にそれとは全く別の原因について考慮しますが、

  今回は可能性は低いと思います。」





T「はい、その通りですね、ありがとうございます。

 やはり今回は肺炎が画像上も悪くなっており、

 呼吸状態が改善していないことからも、現病の悪化が疑われます。


 MEPN,VCMでカバーできていない感染症となると何が考えられますか?」


N「うーん、そうですね。。。真菌、PCPとかですかね。

  βDグルカンは一応出しておきたいです。

  あとは、CVが入っているので、カンジダとか・・・」


T「ありがとうございます。

 確かに、PCPは大事な鑑別ですね。

 カンジダも重要な鑑別です。

 あとはクリプトコッカスやアスペルギルス、ムコールも鑑別ですね。


 他にどうですか?

 この人の背景を思い出してみてください。」


S「透析患者さんでしたので、結核も考えないといけないと思います。」


T「そうですね、結核は重要な鑑別です。

 透析で除水しているのにも関わらず、

 胸水が増悪しており、結核は考えないといけません。

 痰の抗酸菌染色では検出されませんでしたが、それだけで除外はできません。

 

 胸水を穿刺し、性状を確認し、ADAをみたいところですね。


 あとはいかがでしょうか?」


T T「膿胸になっているかもしれませんので、やっぱり胸水はみておきたいと思います。」


T「はい、ありがとうございます。

 この時点では他の真菌や結核をすぐに治療するのは、やや憚られる状況ですね。

 やっぱり治療する証拠が欲しいところです。


 あとは、他のチームの方が最初に言っていた病気ですね。

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経過


βラクタム系が効果がない肺炎であり、レジオネラ感染が疑われた

そのため、痰のレジオネラのlampを提出し、ニューキノロンを加えて治療を行なった

尿は透析患者さんであり、全く出なかった


キノロン開始後、翌日には解熱が得られ、呼吸器の設定も下げることができた


後日、レジオネラのLamp法が陽性という結果で帰ってきた


診断はレジオネラ肺炎だった

意識状態も改善し、無事退院することができた





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学び


本症例はコロナ禍での重症肺炎という症例でした

コロナ禍でなければ、

旅館→温泉という思考過程になり、レジオネラをすぐに想起できたはずでした


ですが、コロナ禍では、旅館→コロナという思考過程になってしまい、

レジオネラ肺炎を想起するのが遅かったという反省症例です



理由を挙げると

・不特定多数の人と接触している暴露歴から、コロナ対応したまではよかったが、感染対策(挿管・ゾーニング)で頭がいっぱいになってしまった

・合併している心筋梗塞や心不全、意識障害など重症な状態であり、バイタルの立て直しや処置(CV・挿管)で、頭がいっぱいになってしまった

・髄膜炎対応をして、MEPN・VCMを入れて、思考が止まっていた

・尿中抗原がすぐに出せなかったので、レジオネラのLampを出すハードルが高かった

・深夜だったので、疲れていた

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本当にコロナって嫌な感染症ですね

自分の臨床力が試されているという感じです


頭がコロナでいっぱいになったとしても、感染症診療の大事なところは忘れずにいたいものです

今回のセミナーで、改めて感染症のロジックの重要性を再認識させていただきました


発表者の方々、大変勉強になる症例ありがとうございました

一緒にディスカッションしてくれた先生方、

準備に関わってくれた先生方、司会進行をいただいた先生方、

レクチャーしていただきました大曲先生、忽那先生、ありがとうございました

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