仙腸関節の解剖は前回、ご説明させていただきました
ポイントは
①仙腸関節は力の交差点であり、頑丈でないといけない
②そのために、靭帯でガチガチに固められている
③衝撃を和らげる免震装置でもあるので、わずかに動く
④仙腸関節は上下から力が加わりやすく、痛みやすい
⑤仙腸関節痛は後方の靭帯領域から発生しやすい
といった解剖学的な特徴があります
最近、仙腸関節はHOTな分野で、海外でも盛り上がっています
今まで非特異的な機械的な腰痛として対処していた大部分は、仙腸関節痛かもしれません
仙腸関節痛は実はとても多いと考えられています
小生も今まで一度も仙腸関節痛を診断したことはありませんでしたので反省です
今まで仙腸関節痛が軽視されてきた理由は、
仙腸関節痛の診断が難しいからです
①機能障害の場合、ブロックが診断根拠になる
仙腸関節の痛みといえば、真っ先に考えるのは仙腸関節炎です
化膿性が一番怖く、あとは脊椎関節炎や結晶誘発性でも起こりえます
これらの炎症性病態では画像の異常がみられますが、
仙腸関節の機能障害で痛みが生じている場合、画像で異常を指摘できません
仙腸関節痛は、
画像で異常がなければ、異常がないと考えがちな現代医療のピットフォールになっています
画像で異常がなくて、仙腸関節の後方の靭帯領域に局所麻酔を打つことで、
診断的治療となり、診断することができます
②仙腸関節痛は違う場所に痛みが出現する
「(漠然と)腰が痛い」と言われると、ヘルニアや脊柱管狭窄症、圧迫骨折かなと思ってしまいます
「お尻が痛い」と言われると、坐骨神経痛や梨状筋症候群かなと思ってしまいます
「太腿の後ろが痛い」と言われると、ヘルニアや坐骨神経痛かなと思ってしまいます
このように仙腸関節痛よりも他の疾患を想起しやすい部位に痛みが出るので、
仙腸関節痛に思いを馳せられなくなります
仙腸関節の周囲は靭帯や筋肉がたくさん付着しているので、
その周辺領域に痛みが出現することがありますが、しっかり診察すれば、鑑別は可能です
仙腸関節痛と他の痛みの原因の鑑別に有用なのは、
PSIS(上後腸骨棘)の痛みと
デルマトームに一致しない下肢痛と
鼠径部痛です
仙腸関節痛の場合は、
「一番痛いところはどこですか?」と聞くと、
PSISを指差すことが多いです
one finger testと呼ばれます
仙腸関節痛では鼠径部痛が半分くらいに見られるという報告もあり、
他の痛みの原因との鑑別に使えます
ヘルニアなどでは鼠径部痛は稀です
ブロックはややハードルが高いですが、one finger testはとても有用な診察ですし、
簡単なので、意識してとりましょう!
仙腸関節痛を疑ったら
①まずは病歴です
痛みが出るポジションを聞きます
仙腸関節に負担がかかる動作を考えればわかりますが、
立位や寝返り、仰向けで悪化します
歩行時には多大な力が加わるので、
仙腸関節痛の人は、歩くときに脱力感と不安定性を感じるようになり、
患側の足がでにくいという人が多いです
あとは痛みが出るきっかけがなかったかを聞きます
ヨガやダンス、お尻歩き、スポーツ、怪我、妊娠など
仙腸関節に負担がかかりそうなことを聞きます
②診察を行います
リリースができる人は、この後リリースに進むことが多いので、
どこをリリースするか考えながら、診察を行います
大事なのは、one finger testです
one finger testは他の腰痛の原因疾患の見極めにも有用です
one finger testは自発痛の部位がどこかを探る診察です
自発痛と圧痛点は違いますので注意しましょう
次に圧痛がどこにあるか確認します
もちろん、圧痛もPSISにあることが多いですが、他の部位にも圧痛点があることが多いです
最後に誘発テストを行います
誘発テストは他の部位の問題があっても陽性になることがあるので、
若年者でないとなかなか難しいのが現状だと思います
化膿性仙腸関節炎の場合は、痛すぎて誘発の姿勢も取れないことがあります
化膿性仙腸関節炎は若年者がベットから動けず、
寝たきりの状態で、救急車で搬送されてくるような激烈な痛みです
NSAIDsやアセトアミノフェンを使っても、鎮痛効果がいまいちで、
痛いの程度が強いというのが特徴です
症例報告では硬膜外麻酔を使用している症例もありました
③最後に注射をします
病歴や診察で仙腸関節痛の疑いが濃厚であれば、
仕上げに仙腸関節の後方靭帯領域に向けて、局所麻酔の注射を行います
ここに局所麻酔をして、痛みが軽減すれば、仙腸関節痛の疑いが濃厚になります
仙腸関節の関節腔に注射するには、透視が必要ですが、
後方であればベッドサイドで可能です
ただし、化膿性仙腸関節炎が一番の鑑別になるため、
超音波で仙腸関節を見て液体貯留などあれば、さらなる精査(関節穿刺で関節液培養、血液培養、MRI)が必要です
化膿性仙腸関節炎が疑われるときには、局所麻酔でお茶を濁してはいけません
後々、関節穿刺で化膿性仙腸関節炎を作ったと言われないように、
少しでも化膿性を疑った場合は、注射は控えておきましょう
特に化膿性仙腸関節炎が一番、見逃してはいけない疾患です
化膿性の場合は、痛みが激烈という特徴があります
痛みが強すぎる時は、MRIをとりましょう
まずは、長引く腰痛や太腿の痛み、臀部痛の患者さんで、
非特異的な腰痛や梨状筋症候群、坐骨神経痛かなと思ったら、
仙腸関節痛のことを少し思い出してみることから始めてみましょう
まとめ
・仙腸関節痛は意外に多いけど、見逃されている
→坐骨神経痛や梨状筋症候群、ヘルニア、脊柱管狭窄症と誤診されている
・仙腸関節痛は診断するには、3ステップ
→病歴:痛みが悪化する状況を聞く
診察:one finger test、圧痛点、誘発テストを行う
診断的治療:後方靭帯領域への局所麻酔薬注入
・仙腸関節痛は除外診断
→急性で痛みが強い時は化膿性を疑うので、注射してはだめ
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