2021年4月9日金曜日

東京GIM 〜パズルのピース〜

3月のTGIMの症例はそんなプレゼンテーションあり!?という驚きの症例でした

心窩部痛の原因として鑑別にあげたことがなかったので、

とても勉強になりました


実際の流れとは少し違いますが、Clinincal Problem Solving形式でお届けします

コメントは自分の思考です

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------

50歳代 女性 主訴:心窩部痛(※一部、症例は加筆・修正を加えてあります)

Profile:20代で結核の既往あり

現病歴:入院3日前から心窩部痛が出現

    吐き気もあり

    食事摂取は難しかったが、水分摂取はできた

    入院2日前、近医を受診

    Xp、腹部US、胃カメラが施行されたが異常認めず

    入院当日、心窩部痛と吐き気が持続するため、紹介となった


心窩部痛について

O:徐々に出現

P:部位は心窩部、食後に増悪

Q:何とも言えず

R:なし

S:3/10の強さ

T:持続痛


ROS:吐き気あり、発熱なし、下痢なし、生ものや肉類の摂取なし

既往:20代で結核(4剤で半年間治療)

内服:なし

アレルギー:なし

生活:夫と二人暮らし

喫煙なし、アルコールなし

--------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント

結核の既往歴以外には特記すべき既往のない50代の女性です

来院の3日前から心窩部痛が徐々に出現し、吐き気があります

食事がとれず、少量の水分しかとれていません


急性の心窩部痛のcommonな病態から考えると、

虫垂炎や胃潰瘍、膵炎、胆嚢炎、感染性腸炎、胃・小腸アニサキスを疑います

消化器以外の以外を考えると、心臓由来や血管病変も鑑別にあがります


まず、病歴では食事歴を細かく確認する必要があります

食事歴は「生モノは食べましたか?」とさらっと聞くと、

「食べていません」と返事が帰ってきますので、

ねっとりと聞く必要があります


「食べてないです」と言われてからが始まりです

心窩部痛が出る直前の食事を一緒に、一つ一つ振り返っていきます

思い出せない場合は、こちらから食材を言っていきます

BBQ、焼き鳥、焼肉、鳥刺し、寿司、お刺身、唐揚げ、卵料理、餅・・・

といった感じで、挙げていくと「あ、食べました」となることが多いです


特に小腸アニサキスは数時間後に発症する胃アニサキスと違って、

5ー7日以内の摂取で起こりますので、さかのぼって聴取する必要があります


今回はすでに腹部USや胃カメラで問題がなかったので、

胆嚢炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍の可能性は低くなっています


病歴で気になるのは、食後に増悪するという病歴です

ここも実は深く掘り下げて聞いてみたいところです

「食べた後に痛みが強くなります」と言われてからが始まりです


詳しくは:腹部アンギーナ



失神は病歴が大事だと言われますが、腹痛も病歴がとても大事です

失神の場合はその情景を映像化できるまで病歴をとりなさいと言われます

一方、腹痛に関しては、グラフ化できるまで病歴をとります


できれば病歴をとりながら、患者さんと一緒に痛みの推移のグラフを作ります


もちろん、急性腹症を疑うような痛みの強い場合やバイタルが崩れている場合は、

そんな暇はありません

一般外来に歩いてきた腹痛の患者さんの場合に限ります


原因不明の腹痛

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

身体所見

バイタル T 36.8、BP148/80、P 70、RR16、SpO2 98%(RA)

頭頸部 異常なし

胸部 異常なし

腹部 平坦 軟 圧痛なし 腸蠕動音亢進・減弱なし

四肢 浮腫なし

皮膚 発疹なし 潰瘍なし


血液検査

WBC 14000, Hb 15, Plt 80000

凝固 異常なし

生化 電解質異常なし、腎機能異常なし

肝胆道系酵素上昇なし、Bil上昇なし、CRP7

ACTH  2.7, コルチゾール 10


レントゲン

心拡大なし 肺炎像なし


造影CT 両側副腎に血流低下

         その他に特記すべき所見なし

--------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント


身体所見では心窩部に圧痛はなかったようです

腹痛の際には、自発痛と圧痛と最強点の圧痛は区別することが重要です


心窩部の自発痛はあるのに、

そこを押しても痛くないというのは、

実はそこに原因はないかもしれません


心臓由来や神経根痛、代謝、内分泌系、薬剤、偏頭痛、ポルフィリアなどを考慮します

頻脈や甲状腺中毒症の症状はありませんが、甲状腺はチェックしておきたいです


造影CTで両側の副腎の血流低下がありますが、

今回の病態にどう関わっているかわかりません


そもそも何なのかを放射線科の先生に相談したいです

副腎への血流低下ということは、副腎梗塞といった病態なのでしょうか


副腎梗塞が両側に起こるということは、かなり限られた状況です

両側の副腎出血の場合は、Waterhouse-Friderichsen 症候群が有名ですが、


両側の副腎梗塞はICUに入るような多発外傷でショックになる人で稀にみられます

まずうっ血が起こり、両側が副腎が腫大し、

その後、出血、梗塞を起こす人がいます


よーく見ると、なんだかボヤ〜っと腫大していることがありますので、

その目で見ることが重要です


副腎の解剖は面白いです

動脈は複数ありますが、静脈は1本です


そのため、副腎はうっ血しやすい臓器といわれています

静脈血流が障害されると、副腎はうっ血し腫脹します
うっ血が解除されないと、梗塞に陥り、出血します

      

副腎不全


副腎梗塞や出血は痛みが出現しますが、今回の腹痛の原因が副腎梗塞であれば、

なぜ、副腎梗塞が急に出現したのかが問題になります


結核の既往があり、副腎結核だとしてもこんなプレゼンテーションになるかは疑問です


APSや凝固系、過粘稠状態、背景に悪性腫瘍がないかの検索が必要になります


ただ一方で腹痛の原因検索も必要かと思います

副腎梗塞からの副腎不全の可能性はあり、副腎不全からの腹痛かもしれません


Lapid ACTH試験を行い、副腎不全の診断を詰めていくことになると思います

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

経過

両側副腎梗塞の診断で入院


輸液とヒドロコルチゾンの投与が開始となった

入院5日目、CT再検されたが、

副腎の画像所見は変化なし


入院7日目、心窩部痛や吐き気は改善

食事摂取可能になり退院となった


ヒドロコルチゾン15mg内服継続し、外来で精査の方針となった


追加検査

ACTH負荷試験は正常範囲

APSのマーカーは陰性

ANA  >40

抗SSA抗体陽性、抗SSB抗体陽性


プロテインS、C活性や抗原 正常

IgG 、IgM、IgA  正常値

補体低下なし

ANCA陰性


フォローの外来では自覚症状なし

-------------------------------------------------------------------------------------------

コメント


両側副腎梗塞が痛みの原因だったのでしょうか・・・

あまり経験がないので、ゲシュタルトがつかめませんね


副腎不全としてステロイドが開始となっていたので、

副腎不全の影響もあったのかもしれません


心窩部痛は改善してその後も出現ないので、

めでたし、めでたし?


ただ、なぜ両側副腎梗塞になったかが不明のままです

------------------------------------------------------------------------------------------

経過


退院2週間後、顔面・四肢の浮腫を自覚

倦怠感も出現


退院20日後、倦怠感が増悪

食思不振も出現し、精査目的に入院となった


ROS:顔面の浮腫あり、吐き気あり、食思不振あり

四肢の浮腫あり


めまいなし、視力低下なし、口内炎なし

嗄声なし、咽頭痛なし、甲状腺腫大なし、下痢なし

咳なし、血痰なし、呼吸苦なし、関節痛なし、レイノーなし



身体所見

バイタル T 38/0、BP110/80、P 110、RR18、SpO2 98%(RA)

頭頸部 顔面に浮腫あり

    頸部リンパ節腫脹なし

胸部 異常なし

腹部 平坦 軟 圧痛なし 腸蠕動音亢進・減弱なし

四肢 浮腫あり

皮膚 発疹なし 潰瘍なし


血液検査

WBC 6500, Hb 12, Plt 50000

凝固 異常なし

生化 電解質異常なし、腎機能異常なし

Alb 2.5と低下あり 

肝胆道系酵素 ALP 700と上昇あり、Bil上昇なし、CR30


造影CT  腹水あり、両側腋窩・鼠径LN腫脹あり 

-------------------------------------------------------------------------------------

コメント

今回は心窩部痛ではなく、発熱、全身性の浮腫、血小板の更なる低下、Alb低下がみられています

CTでは腹水と全身のリンパ節腫脹があります


数日の急性経過で悪化しており、全身性の炎症が起こっています

それが感染なのか、自己炎症性疾患か、自己免疫性疾患か、腫瘍性か、アレルギー性かが問題です



感染であれば、急激に状況が悪くなっているので、敗血症になっていないかは心配です

感染症の原則に当てはまると、

宿主は? 30代で結核の既往のある50代女性


どこに? 

     フォーカスがはっきりしないので菌血症、IE

     IEに伴う心不全の可能性も否定できず、UCGやECGはすぐに行いたいです

     実はIEからの塞栓が副腎梗塞を起こし、

     その後、膿瘍形成していた可能性もありますので、

     その目で副腎をみる必要があります

     

     腹水が出現していることから、原発性の腹膜炎の可能性もあります

     実は前回も腹膜炎だったが、ステロイドで軽快したのかもしれません

 

    

何が?  

     いきなり菌血症でくるような、MSSAや連鎖球菌

     他には皮疹はありませんがリケッチア、レプトスピラ、

     肺炎があるかはわかりませんが、レジオネラ

     結核の既往があるので、粟粒結核

     HIVがあるかないかで鑑別が変わるので、

     HIVの有無はチェックしておきたいです


     全身性のリンパ節腫脹の鑑別で考えれば、

     EBV、CMV、梅毒、TBなども考慮します


治療は?

頻脈がみられており、消耗が強そうであれば、

血液培養を採取後、抗生剤投与を開始します



感染症は治療しないと命に関わるので、ワンサイドカットのため、

抗生剤は投与するかと思います



一方で、非感染症の可能性も考えます


自然免疫系の炎症であれば、

AOSD、ベーチェット病を疑います

AOSDはプレゼンテーションが多彩なので、鑑別に残ります


血管炎も考えますが、大血管らしくはないです

となると、PNか小血管となりますが、

紫斑や痺れ、関節炎、腎障害、間質性肺炎といった血管炎を示唆する所見に乏しいです

ANCAも陰性であり、積極的に血管炎は現時点では疑えないかと思います


SLEはこの症例でもあり得えると思います

血小板減少もリンパ節腫脹も起こり得ます

リンパ節を生検すると、壊死性リンパ節炎の所見が得られれば、SLEの可能性が高まるかと思います


SSA、SSB抗体が陽性であり、シェーグレン症候群が背景にあるため、

シェーグレン症候群に伴う血管炎や血小板減少の可能性もあります


悪性腫瘍であれば、MDSに伴う全身性の血管炎パータンは診断が非常に難しいです

悪性リンパ腫の中でも特にIVLは鑑別にあがります


骨髄穿刺や生検を行い、MDSやIVL、播種性結核の検索を行いたいです


ですが、これまでの検査はある疾患のお膳立てです

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

経過


入院後、血小板減少進行あり

胸水も出現してきた

UCGではEF良好


追加検査

甲状腺機能 正常

RPR 陰性  TPAb陰性

HBs 抗原 陰性

HCV 抗体 陰性

HIV 抗体 陰性

CMV、EBV  陰性

T spot 陰性

HHV 8 DNA  陰性


骨髄穿刺・生検  芽球なし

リンパ節 生検  Paracortical hyperplasia with lymphoplasmacytic infiltration

-----------------------------------------------------------------------------------------------

最終診断:TAFRO症候群


Thrombocytopenia

Anasarca(pleural effusion and ascites)

Fever 

Reticulin myelofibrosis

Organomegaly(Hepatosplenomegaly and lymphadenopathy)


2010年に日本で報告された全身性炎症性疾患で

頻度は、0.9-4.9人/100万人(日本)です


多彩な症状や所見があり、それぞれに突っ込んでいくと失敗する疾患です


こういった疾患は、パズルのピースを集める感じで診断します



診断はMajor categoriesから3つ、Minor categoriesから少なくとも2つですが、

最も大事なのは、他の疾患の除外が必要なことです


悪性腫瘍、SLE、シェーグレン症候群、AAV、リケッチア、ライム病、SFTS、POEMS、TTPなど


今回はSSAだけでなく、SSBまで陽性なので、

シェーグレンが背景にありそうですが、

どうやって除外するのか、除外する必要があるのか、よくわかりません


治療

キャッスルマン病に準じて治療

グルココルチコイド

治療抵抗例では、シクロスポリンAなどの追加を考慮

トシリズマブ、リツキシマブ


臨床で難しいのはいつTAFROとして治療に踏み切るかです

鑑別にはあがりますが、

実際にTAFRO Switchを押すのが、誰で、いつか?が問題です


一人では診断、治療したくない病気です

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

TAFRO症候群と副腎梗塞


副腎梗塞を合併するTAFRO症候群の症例報告はあり

副腎病変(梗塞/出血)はTAFRO症候群の特徴的なCT所見




静脈、リンパ鬱滞により副腎梗塞が生じると考えられている



European Radiology (2020) 30:5588–5598



TAFRO症候群の病態

腎臓、副腎のリンパ管は大動脈へつながる

大動脈周囲の静脈、リンパ管排出が増悪し、鬱滞

大動脈周囲静脈、リンパ鬱滞が腎臓、副腎に波及し、梗塞

腎機能が増悪、浮腫が全身に波及し、臓器腫大


----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

まとめ

・診断困難症例では経過をフォローすることが重要

・副腎梗塞はTAFRO症候群の特徴的なCT所見

・血小板低下+副腎梗塞ではTAFRO症候群を鑑別に挙げる

0 件のコメント:

コメントを投稿

今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

人気の投稿