2022年3月2日水曜日

透析患者さんが入院した時に考えること

透析患者さんが入院した時に気を付けることって何かありますか?


という質問を受けましたので、透析患者さんの特徴を7つ挙げてみました


①透析患者さんが呈しやすい症状がある

②ポリファーマシーにならざるを得ない

③透析患者さんがなりやすい疾患がある

④エビデンスが不足していることが多い

⑤薬の処方がいちいち面倒くさい

⑥アクセスルートに気を遣う

⑦ACPが難しい





他にもいろいろありますが、大別するとこの7つかなと思います
DWは透析のDrが考えることなので、ここにはあげていません

透析を普段していない医師が透析の患者さんの入院を受け持った時に、
少しでもアレルギー反応がなくなってくれれば幸いです



①透析患者さんが呈しやすい症状がある

透析患者さんは便秘、痒み、不眠、倦怠感、腰痛、筋痙攣、痺れがある人が多いです

それぞれの原因検索はもちろん必要ではありますが、
原因がはっきりせず、末期腎不全のせいとしか言えないこともあります


そんな時は対処療法が重要になります
上手に困っていることを聴取して、生活が快適になるようにアドバイスや処方をしましょう


対処療法は薬物療法と非薬物療を知っておくといいです

非薬物療法を知っておくと、ポリファーマシーを避けられるかもしれません

例えば腰痛であれば、ずっと寝ているため筋膜疼痛になりやすく、
リリースが著効する症例はあります

湿布や痛み止めを漫然と処方するのではなく、リリースを覚えると良い武器になります



さらには薬物療法は漢方と普通の薬を知っておくといいと思います

特に五苓散は筋痙攣や不均衡症候群に、芍薬甘草湯は筋痙攣によく用いられます





②ポリファーマシーにならざるを得ない

①のように多くの症状を持っている人が多いため、それぞれに薬を出していくと
自ずとポリファーマシーになってしまいます

他にも血圧を下げることが至上命題であり、
CCBやARB、サイアザイド、βブロッカーがとんでもない量入っていることもよくあります


あとはP吸着薬です
Pを下げることはCaやPTHを正常化することよりも重要であり、
P吸着薬はいろいろな種類があります

使い分けは、しっかり下げたいか、食直後か食直前か、鉄も補充したいか、カルシウムもあげたいか、副作用(消化器症状)はどうか、で決めていきます


「リン吸着薬 使い分け」とかで検索すると、すぐにまとまった解説スライドが出てきます


透析をしている医師でないと馴染みのない薬ばかりですが、
注意すべきことはたった一つです

入院後、P吸着薬を継続した場合、
入院が長期化するとPは必ず下がってきます


理由は2つあります
家ではP吸着薬はほとんど服用されておらず、入院するときっちり服用することが一つ

もう一つは入院の食事は家での食事と比べて、Pが制限されていることが多いためです


漫然とP吸着薬を入院中も続けていると、Pはいつの間にか低めになっていきます


これはKにもいえることです
K吸着薬も飲みにくい薬の代表であり、アドヒアランスは非常に悪いです

上記と同じ理論でKも下がってくることが多いです


透析液はカリウムが2.0meq/lのことが多く、
入院が長期化するといつの間にか透析終わりに低K血症になっていることがあります


透析患者さんの場合、高カリウム血症に注意が向くことが多いですが、
透析後の急変や不整脈をみたら、低カリウム血症を疑いましょう


このようにポリファーマシー問題に介入するのは急性期ではなく、慢性期の方がよいでしょう
透析医師の処方に切り込むときは、透析医師にお伺いをたててからの方が無難です




③透析患者さんがなりやすい疾患がある

透析患者さんがなりやすい疾患の代表は感染症です

救急で出会いやすいのは電解質異常(高カリウム)、溢水、脳血管疾患、冠動脈疾患、転倒(骨折)です


慢性期になると癌やASOが問題になりますので、定期的に癌検索やABIを行っている場合もあります



今回は感染症に絞って解説します


細胞性免疫低下
透析患者さんは細胞性免疫が落ちており、結核のリスクが高いとされています

普通の細菌感染症にもなりやすいですが、結核のことは一度は考えましょう

透析患者さんは糖尿病が背景にある人も多く、
糖尿病特有の感染症(Diabetic foot、気腫性〇〇、悪性外耳道炎、フルニエ壊疽)なども考慮します


バリア破綻・バスキュラーアクセス感染

穿刺のたびに皮膚バリアが破綻するため、バリア破綻があるともいえます
黄色ブドウ球菌が血中に入り込みやすい状況になっています

シャント血管や人工血管、長期留置カテへの感染もよくあります

長期留置カテに関しては、カテ内の血流感染だけでなく、
造設後の術後感染のような皮膚軟部組織の感染症もあります


長期留置カテの人はそもそも他に作れるバスキュラーアクセスがないため、
すぐに抜去はせず(できず)に抗生剤で粘ることも現実的にはあります



尿路感染症は盲点になる

尿が出ないため、尿路感染症はないであろうと思いがちですが、
尿のドレナージが効かず、尿路感染症にもなり得ます


嚢胞感染

末期腎不全になると腎臓に嚢胞が多発してきます
ADPKDでなくても嚢胞が増えてきますので、そこに感染することはよくあります


曝露が多い

透析室では多くの患者さんが一つの空間にいます
そこでインフルエンザやコロナが流行した場合、スタッフを介して広がることは容易に想像できます

また院内という環境に曝露されているため、耐性菌(MRSA、緑膿菌)の保菌も多いです



④エビデンスが不足していることが多い

透析の世界は別世界です
エビデンス不在の領域が非常に多いです

代表的なものはAfです
Afが見つかれば、CHA₂DS₂-VAScでも計算してDOAC入れますか〜

となりますが、透析患者さんの場合、そう簡単ではありません


まずDOACが使えないので、ワーファリン一択です
ですがワーファリンは脳出血の副作用があります

透析患者さんは血圧が高い人が多く、
ヘパリンを使って透析もしており、脳出血が多いとされています

近年のメタ解析では脳梗塞リスクや総死亡率を減らさず、
出血性脳卒中や大出血リスクを増大させることが指摘されています
                         Lei H, et al:Front Pharmacol. 2018;9:1218.

そのため、透析患者さんにAfが見つかったからといって、
ルーチンにワーファリンを導入することはせず、症例ごとに検討するというのが実情です


心房細動を合併した透析患者を対象に、ワルファリンの投与の有無で出血性合併症と塞栓症の頻度を比較する多施設無作為化試験(AVKDIAL試験)が現在進行中であり、
この結果でまた今後の動向が変わると思われます


このように
内科医が今まで使ってきたエビデンスが通用しないのが、透析の世界です


他にも骨粗鬆症や脂質異常症、糖尿病、感染症の治療など、エビデンスが不明確なことが多く、日々悩みながら治療を行っているのが現状です


⑤薬の処方がいちいち面倒くさい

これは慣れればそこまで苦にはなりません

癖がついてしまえばよいかと思います


注意が必要なのは、アシクロビルやセフェピム、メトロニダゾールなどの薬剤性の脳症を引き起こす薬です

特にアシクロビル脳症は他院で内服が処方され、
その後、意識障害で救急搬送という経過はよくあります



⑥アクセスルートに気を遣う

採血やルート確保、血圧測定の時に注意しましょう
転倒でぶつけてしまったり、重いものをもったりしてシャントが閉塞してしまう人もいます

毎日、シャントの音を聞き、スリルを触れることが重要です


透析患者さんがCPAになった場合は、何も考えずにシャント血管からルート確保してください

シャント血管を守るために、
他の部位からルート確保に手間取っていては本末転倒です


シャント血管より命優先です



⑦ACPが難しい

他の患者さんよりも圧倒的にACPが難しいです

なぜなら透析をどうするか問題が関わってくるためです



透析以外の人なら最後は家で穏やかに・・・みたいなことになりますが、
透析の人は透析のために病院に来ないと数日で亡くなってしまいます

そうなると何らかの急性病態で入院して病状が悪化し、
終末期となり病院での看取りが多くなります

最後の時期が近くなると、血圧が低くなり透析ができなくなります


透析中に亡くなることは、透析のスタッフが一番避けたいことです

「 透析の開始と継続に関する 意思決定プロセスについての提言(透析会誌 53(4):173~217,2020)」にもあるように、
患者さん本人の意向を確認し、家族や医療スタッフと何度も話し合うことが重要になります




透析患者さんを受け持った時の頭の中はこんな感じです


まとめ
・透析患者さんが入院してきた場合、他の患者さんとは少し違った頭で考える
→7つの特徴がある

・透析患者さんに新規処方を出すときはいつも以上に慎重に
→①量がいつもと違う、②知っているエビデンスが当てはまらないかもしれない

・透析患者さんが入院した時に透析profileを作っておくと便利
→原疾患、腎代替療法はいつから、バスキュラーアクセスの歴史、透析曜日、DW

 

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