2022年5月22日日曜日

朝カンファレンス 〜よく診断できました〜

今日の症例は発熱外来にやってきた中年男性でした
(※症例は加筆・修正を加えてあります)


発熱外来の特殊性(検査閾値が高い、検査だけして対処療法になりがち)がある中で、
しっかり診断がつけられて素晴らしいプラクティスでした





いつもまずは薬で鑑別を!と言っていますが、
知らない薬を見ると、フリーズしてしまいますね 笑


研修医の先生の気持ちがわかりました


出したことない薬の副作用が思いつきません・・・


デュピクセントの意外な副作用!なんて知りません

ということで、調べるしかありません


IL6阻害のアクテムラはCRPが0になったり、
憩室炎の穿孔や蜂窩織炎が起こったりします

今はたくさんの生物学的製剤が出ていますので、
毎回調べるしかありませんね


今回はあまり関係なさそうではありますが・・・




腹痛は腹部全体にあるようです
間欠的ではなく、持続痛というのがポイントですね

夜中に3時間ごとに排便に行っているのも変ですね

ただ、排便で改善しているわけでもなく、下痢でもないようです

しぶり腹?なのでしょうか??



だるさが強いと聞くと、心筋炎、肝炎を疑います


ぐったりして、末梢がやや冷たくて、
顔色が悪かったら、すぐに心電図をとります

コロナでも心筋炎はありますので、
注意しないといけないですね


元気で仕事している大人が病院に来ている時点で、かなり身構えます


腹痛の診察方法ですが、いつもの三次的診察で考えます


平面で自発痛はどこか、圧痛はどこか、最強の圧痛点はどこか


この3つを分けて考えることが重要です

自発痛があるのに、圧痛がないとなると、
それは放散痛かもしれません

今回の症例では腹部全体に自発痛があります

そして両側の下腹部に左右差なく、圧痛があります
最強の圧痛点はありません


ただ肥満でぽってりしていると、圧痛が明確でないことがあります

脂肪でブロックされているイメージです



次に深さを調べます

深い触診で圧痛があり、表面ではなさそうです

腹膜刺激徴候はないみたいですね


最後に時間経過です

痛みの移動などはなかったようです



となると・・・鑑別は???




感染性腸炎かな〜って思いますよね

夜中に何度も排便に行っているのは、腸蠕動の亢進?
倦怠感や関節痛は、ウイルスやキャンピロの全身症状?


感染性腸炎を疑ったら、次に感染部位を考えます


いわゆる、青い腸炎赤い腸炎です


青い腸炎は、小腸型で下痢や嘔吐がメインです
赤い腸炎は、大腸型で発熱や腹痛、血便がメインです


そして、どちらの特徴も兼ね備えているのが、
紫の腸炎(と勝手に名付けました)で、回盲部型です



この部位を分けるメリットとしては、そこに悪さしやすい微生物がいるためです


便の培養を出すときは、必ず何菌を疑っているかを伝えなければなりません
そのために、この知識が必要になります


小腸:VECA

回盲部:CYS

大腸:SEC





本来ならばUSをして壁肥厚のある腸管を見つけて、
虫垂炎と憩室炎を除外して、「腸炎ですね」と診断したいですが・・・


ここは発熱外来です


USのハードルが高いです


ということで、いつものプラクティスを取りにくいので、
余力がありそうなら、コロナ検査を行い対処療法で帰宅になりそうですが、
実際は・・・






実際は採血、血培、造影ルートをとった上でCT検査が行われました

結果は、糞石が詰まった虫垂炎でした



手術が行われ壊疽性虫垂炎の診断となりました

もう少し診断が遅くなれば、破裂しており、
もっと治療期間が長引いていたでしょう


ここで診断できてよかったと思います



虫垂炎は訴訟になりやすい疾患です


なぜなら、元気な若い人に多く、診断が遅くなった場合、
適切な処置が行わないと悪化して亡くなることもあります


適切に対応できれば、転機は非常によいですが、
時に転機が悪いことがあるため、悪かった時に訴訟になりやすいです


そして、診断が難しいということも理由の一つです


虫垂炎の診断の難しさの原因

①患者背景の要因:妊婦や肥満体型だと、腹部の診察が難しい、
痛み止めをのんでいる、小児や認知症、精神障害の方は訴えをうまく伝えられない


②医者側の要因:感染性腸炎という思い込み、発熱外来バイアス


③解剖学的要因:虫垂の部位がいろんな場所にある



これらの要因のため、典型的なゲシュタルトでない虫垂炎はたくさん存在します

「非典型こそ典型」と言われるくらい虫垂炎は、千差万別です


左下腹部が痛い虫垂炎
押しても全く痛みのない虫垂炎
不明熱化していた虫垂炎

などなど

「え〜!アッペなの!?」と叫んだことがある医師は、たくさんいると思います


というわけで、一般論ではありますが、
感染性腸炎だと診断しても必ず、虫垂炎の可能性は0ではないということを伝えて帰す必要があります


その時の伝え方としては、

「〇〇の理由から暫定的に感染性の腸炎と考えています。

 ですが、虫垂炎という病気があって、
 虫垂炎は右下腹部に痛みが出る病気です。

 〇〇さんの症状は△△という部分で虫垂炎らしくはありませんので、
 今はあまり疑ってはいません。

 ですが虫垂炎は、時間が経つと症状がはっきりして来ることが多いです。
 今ははっきりしていませんが、今後の経過次第では虫垂炎かもしれません。

 なので、お願いがあります。
 右下腹部を時折、押してみて痛みが強くなってきたら、それは虫垂炎かもしれません。
 歩いたり、咳をして響いてくるのも同じです。

 その場合は再度、病院を受診してください。」


みたいな感じですね



外科医の視点

肥満の人は診察が難しいが、USやCTの評価がしやすい

→内臓脂肪のせいで、表面から押しても最強の圧痛点がはっきりしないこともある
 一方、画像は脂肪の中に腸管が浮いて見えるので虫垂は同定しやすい


逆に、若い痩せた女性は診察は容易だが、USやCTでの評価が難しい
→内臓脂肪がないので、外からは診察しやすい
 一方、画像になると腸管や卵巣との区別が難しい




確かにな〜という感じです

勉強になりました


まとめ

・発熱外来での検査のハードルは高い

→重症感を見極められるセンスを磨く必要がある


・感染性腸炎を鑑別にあげたら、部位は?菌は?を考える

→帰宅時は必ず、「虫垂炎の可能性について」のコメントを添えて帰す


・虫垂炎は非典型こそ典型

→典型的な経過や所見でないからといって、除外できるものではない

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