2022年7月16日土曜日

若い女性の息切れ 〜違和感は大事〜

 


今回のCPSは若い女性の息切れでした


このケースで議論になったのは、カテゴリーに入れるピットフォールです

自分はカテゴリーに当てはめて、その中で考えていく鑑別疾患のスタイルです



ですが、自分のボスは患者さんの全体像を見て、
バシッと疾患を当てるタイプでした


病歴や身体所見(にはならないような所作や雰囲気)、検査、画像など
全ての情報を頭の中に入れて、ガラガラぽん!で答えを叩き出す感じのスタイルです
(いわゆるシステム1)


problem listを嫌う先生で、
他の人に伝えるためにproblem listをあえて書いていると言っていました



自分も時々、そうやって診断がおりてくることはありますが、
おりてこない時は愚直にカテゴリーに入れたり、
problem listを作って、鑑別疾患をあげていきます
(いわゆるシステム2)



ただし、problem listには決定的な弱点があります

自分が入れるカテゴリーを間違えると、絶対に間違えてしまうということです


今回はそんなケースだった気がします





わざとだと思いますが、色々な雑音(情報)を載せてきますね 笑

交通事故後やワクチン後など、今回の病態と関係があるかわからない情報があります


とても実臨床っぽいですね


実際もとった情報が疾患に関係あるかないかは、わかりません
一見関係なさそうなことでも、僕はこれをカルテに書いておきます


いわゆる「頭の片隅においておく」というやつです


捨てはしません
ただ、鑑別のためのメインの足台にもしません

鑑別に困った時に引き出すためにとっておくイメージです



余力があれば、その情報が今回の病態に関わりがあるかを考慮します


まるで将棋のように、その道で進んでいくと、
何が鑑別になるか?を頭の中で進めていきます



交通事故が関係あった場合は、、、
関係なかった場合は、、、

ワクチンが関係あった場合は、、、
関係なかった場合は、、、

これまでのヘルペスがヘルペスじゃなかったら、、、
本当にヘルペスだったとしたら、、、


というように、数秒の間に何通りも道筋を考えています
行き止まりになったら(ピンと来なかったら)その道筋はやめます



今回の症例は、頭痛や肩甲骨の痛み(夜間に増悪、動くと軽快)がありますが、
交通事故後やワクチン、これまでのヘルペスの既往とどう関わりがあるかを考えます


ヘルペスが実はベーチェット病であれば、脊椎関節炎様の症状を出しても良いので、
ベーチェット病はこの時点で鑑別の上位になります



ここで先ほどのカテゴリーに入れてしまう危険が出てきます

肩甲骨の痛みは、夜間や安静時に痛くて、動くと軽快するという病歴は、
まさに「炎症性腰痛」を示唆する病歴です


このパワーワードを聞いたら、積極的にSpAを疑いたくなります


そして、次に考えることは、SpAの中のどれだろう?となります



そうすると、SpAに当てはまるような情報を無意識にとり、
SpAでは当てはまらないような情報に目を向けなくなる可能性が出てきます




今回であれば、炎症反応がやたら高いことに違和感を抱きました



SpAは逆に炎症反応が全く上がっていないこともあります
SpAは熱を出すような疾患ではありません



もちろん、そういうSpAもまれにはあってもよいのですが、
自分としては引っかかりました



SpAの中のどれだろう?という思いでいると、その外側に出るのが大変になります


例えば、感染症などの鑑別が出にくくなります




これがカテゴリーに入れる落とし穴です
まさに穴にはまって抜け出せないような状態です


本症例はMRIでは仙腸関節炎はみられませんでした


そんな中、進行する動作時の呼吸苦や胸部圧迫感が出現してきました


ベーチェット病が疑われている状況での呼吸苦は、肺塞栓を真っ先に疑います






診察や検査からはどうやらARがあり、心不全になっているようです

さらに鎖骨上窩に雑音が聞こえたようで、これはかなり特異的な所見になります


この文脈であれば、大血管炎の可能性が非常に高いです


その後は、ARに対する治療方針についてのディスカッションとなりました



若年者の大血管炎といえば、

ベーチェットの大血管炎と高安動脈炎が多いです


ですが、時に両者の鑑別が非常に難しく、誤診されている例もあります


血管ベーチェット病で手術を行うと縫合不全をきたしやすいと言われており、

注意が必要です














今回の症例はベーチェットらしさもありましたが、高安動脈炎という診断の下、

免疫抑制剤治療後に手術が行われ、経過良好という症例でした


最初の炎症性腰痛や口腔内の潰瘍はなんだったの???ということになりますが、

調べてみると、高安動脈炎とSpAの合併例はあるようです









The Journal of Rheumatology July 2017, 44 (7) 1011-1017; DOI: https://doi.org/10.3899/jrheum.160762 



この論文によると、SpAと高安動脈炎の合併例はあり、

さらにそういった症例はCRPが高かったとのこと!!



最初の違和感はここにつながっていました・・・



高安動脈炎でも背部痛はありますが、

その背部痛は大動脈の炎症からの痛みと思いきや、、、

SpAのような炎症性腰痛のような病歴で来ることもあります


SpAの患者さんに強い炎症反応を認めた場合、

感染症の否定ができたら、次は大血管炎を疑うことが必要です




まとめ

・カテゴリーやProblem listは万能ではない

→周りの人に自分の思考過程を理解してもらうためには必要だが、ピットフォールもある


・間違ったカテゴリーで考え出すと、絶対に間違える

→今回も「炎症性腰痛」という言葉で考えると、

 大血管炎の鑑別や感染症が鑑別で出にくかった


・しかし、よく調べてみると高安動脈炎とSpAの合併例は報告あり

→そういった症例は炎症反応が高い!

 



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