検索キーワード「するめ」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示
検索キーワード「するめ」に一致する投稿を日付順に表示しています。 関連性の高い順 すべての投稿を表示

2019年11月23日土曜日

清田先生との症例対決 ~薄目の男~(前半)

毎年恒例の教育回診で、清田先生をお招きして症例対決を行いました

面白かったです

流石でした
------------------------------------------------------------------------------------------
症例 57歳 男性 主訴:倦怠感、意識障害

現病歴:入院当日、倦怠感が強く、近医を受診
    そこで徐々に意識レベル低下あり
    血糖測定すると、50台と低血糖を認めた
    ブドウ糖投与した上で救急要請となり、当院へ転院搬送となった

    当院到着時は意識レベルE4V4M6であり、再度血糖測定すると62であったため、
    ビタミンB1投与の上でブドウ糖を再度静注した
    その後、精査加療目的に総合診療科へ入院依頼があった

バイタルサイン
意識GCS E4V4M6、JCS1-1、体温36.1度、血圧113/77mmHg、脈拍89回/分(整)、
呼吸数16回/分、SPO2 93%(room air)
------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション①

発表者:自分の胸中としては、低血糖で意識障害かぁ・・・
    今の血糖は100超えていて、補正されているけど、
    なんだか意識がはっきりしない
    JCS1-1ってこんな感じですよねっていう感じでした

K先生:JCS1はすばらしいよね
    
発表者:はい、無限大の可能性を秘めたJCS1-1だなと思いました
    まずはやっぱりアルコールかなあ、という気持ちでした

    問診を追加していくと、
    ROS陽性の症状として、食思不振、倦怠感、下痢がありました
    頭痛、吐き気、嘔吐、悪寒戦慄、背部痛、胸痛、腹痛、排尿時痛はありませんでした

K先生:下痢があるの?それはだめだねえ
    やっぱりアルコールかもしれないね


発表者:既往歴ですが、
    下壁の心筋梗塞(10年前)、脂質異常症(10年前)、不眠症があります
    ですが、かかりつけには受診したり、しなかったりと
    内服のアドヒアランスも非常に悪かったです    

K先生:ってことは、47歳で心筋梗塞ってことですか
    脂質異常症だけのリスクでそんな若い時に心筋梗塞起こりますかね?
    普通は起こりません
    家族性高コレステロール血症とか、他のリスクがあるはずです

発表者:まあ、JCS1なのでどこまで本当かは分かりませんでした
-----------------------------------------------------------------------------------------
既往歴:下壁の心筋梗塞(10年前)、脂質異常症(10年前)、不眠症

内服歴:内服したりしなかったりだが、睡眠剤は飲んでいた
    クロピドグレル、カンデサルタン、アトルバスタチン、カルベジロール
    オメプラゾール、エチゾラム、トリアゾラム、ニトラゼパム

アレルギー:食物なし、薬物なし

嗜好歴:機会飲酒(時折、焼酎750mlのむ)
    喫煙 20本/日 37年間
生活歴:一人暮らし
------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション②

K先生:僕が最初に気にするのは、何かというと
    ブドウ糖を投与してどうなったかです

    何とかの三徴ってあるじゃないですか?
    あれ?
    何でしたっけ?よっぱらってますね(笑)

聴衆:ウィップルですか

K先生:はい、そうです、ウィップルの三徴ってあるじゃないですか
    1938年ですよ

聴衆:(笑)そこは覚えてるんですね


K先生:血糖が低いからといって、本当にこれが症状と関係があるかは、    
    ちゃんと考えなければなりません
    この人は、50でも意識障害の原因でないかもしれない

   ウィップルの三徴というのは、
   投与して症状がきえないといけない


    もし、僕みたいに普段から血糖がちゃんとある人がいきなり50台になったら、
    必ず自律神経障害が出ているはずです

    低血糖に対するレスポンスがないとおかしい


    これがacuteに低血糖を起こしているのであれば、ただ意識が悪いだけではなくて
    発汗しているとか、何らかの自律神経症状が先に出ているはずです
   
    だから、数字だけを見るのは賛成ではありません
    数字だけをみて血糖が50だから、糖をうつのはだめです

    末期の肝硬変の人とかは、50で糖をうってもずっと50だったりします
    そしてケロッとしています
    これって低血糖症っていうんですか?
   
    低血糖症というのは、ウィップルの三徴が必要です


    あとは、VB1投与してますよね
    低血糖とVB1欠乏があったら、VB1から投与しなければならないと
    よく習いますね

    本当ですか?

    ヨーロッパのガイドラインに書いてありますが、 
    ブドウ糖から先に打っていいんです  
    
    ウェルニッケ脳症のリスクをあげる以上に低血糖を放置する方がまずいんです
   
    なので、ブドウ糖から投与していいんです
    そのかわり、できるだけ速やかにVB1をうちます 
 
    だからこのプラクティスは必ずしも悪くない

K先生:あとは、下痢があるのはアルコール飲んだ時だけですか?

発表者:アルコール飲んだ時だけではなく、常日頃からあるようです
    2.3回くらいの軟便のようです

K先生:だろうと思いました
    あやしいですもん
    下痢に答えがあるに違いない

    食欲低下や倦怠感は酒飲みならだれでもあります
    
    下痢が怪しい・・・

発表者:どうですかね・・・  
    続いて、社会歴です

    もともと生活保護を受けていました
    ですが、仕事復帰を理由に生活保護を中断しています

K先生:すばらしい、いい人です
    もうすぐ定年なのに、働こうとしている
    とてもいい人です

発表者:ですが、仕事は勝手にやめてしまいました 
    なので現在、収入はありません
    ここ数日はお金がなくてご飯がたべられないので、水ばかり飲んでいました

    水じゃなくて、それは本当はお酒ではないのか?と
    何回聞いても、飲酒は機会飲酒であるとのことでした

K先生:違います
    本当にこういう話をする人は、本当にお金がありません
    なので、お酒は買えません
    
    絶対にお酒は飲んでいません
    僕は生活保護の人を何人もみているので、分かります

    
    あとは、この数日の数が何日かが大事です

発表者:3日です 
    ここ3日は食事は食べていないとのことでした

K先生:だとすると、この2週間、何を食べていたかが気になります
    
    なぜなら、我々は肝臓にグリコーゲンというものがありますよね

    絶食になっても、3日間は生きていけます
    グリコーゲン様があるので、低血糖にはなりません

    アルコールを飲んでいると、グリコーゲンからの糖新生がブロックされて、
    低血糖が起こります
   
    だから、アルコールをのんでいると、低血糖が起こりやすくなりますが、
    きっとこの人はお酒は飲んでいません

    水ではブロックされませんから(笑)
    
    多分、この人はお酒は飲んでいないので、
    ちゃんとグリコーゲンはグルコースを出していたのだと思います
    
    そうすると、3日前から食べなかったからといって、
    この低血糖が本当に起こるか?ということです

    それよりも前にグリコーゲンのリザーブがないと、低血糖は話があいません
   

    つまり、この時点で必ずVB1は欠乏があるに違いないという事です
    
    そうすると、このなんとなく変な感じは神経障害じゃないかと思いますよね
    そして、SPO2も気になりますよね

    
発表者:なるほど・・・

    ただですね、僕はお酒飲んでいないのは嘘だろうと思いました
    なぜなら、口臭がフルーティーだったんです

K先生:そりゃあ、フルーツ食べてたんでしょ!

聴衆:(笑)

K先生:甘い感じでしたか?

発表者:そうですね、甘い感じでした
    ずっと話していてもいいなぁという感じでした
    

K先生:それは浸透圧ギャップがみたいですね
    
発表者:ということで、僕らはお酒を飲んでいないのは嘘だと思いました

K先生:いや違う
    この人は、本当にお酒は飲んでいないし、
    この切実な社会歴は嘘はいっていないと思います

発表者:なるほど。では次は身体所見です
--------------------------------------------------------------------------------------------
身体所見
SPO2 97%(測り直すと正常値でした)、RR16回

見た目 良好 
頭頚部 眼瞼結膜蒼白なし、点状出血なし、副鼻腔叩打痛なし
    口腔内異常なし、舌乾燥あり
    フルーティーな口臭あり
胸部 呼吸音 清、心雑音なし
腹部 やや膨満 軟 圧痛なし
関節 腫脹なし 

神経診察
脳神経 眼球運動異常なし 眼振なし
    その他、異常なし
運動 麻痺なし
腱反射 亢進・減弱なし 
感覚 低下や異常感覚なし
失調 指鼻指・膝踵試験・回内回外 すべて流暢
----------------------------------------------------------------------------------------------
・ここまでで、いかがですか?

K先生:まあ、VB1欠乏はとりあえず考えますよね
  
    あとは低血糖が本当に低血糖症なのかというのが、キーワードです
    
    低血糖の原因は食事を食べなかったからなのかもしれない・・・
    しかし、それだったら、3日間より前の食事が気になります
    
    生活保護がきれて、困窮した時期が必ず3日より前にあるはずです
    いきなり水にいかないでしょ?
  
    そしたら、栄養障害がおきてグリコーゲンの枯渇が起こって低血糖になる
    
    ただし、それだと普通、糖いれればよくなります
   
    
    あとは、SPO2 が落ちていたことも気になる

    一つは不当な数字を出している可能性です
    脈がとれてなかったのか、モニターがうまくつけれていなかったとか

    もう一つは本当に正しい数字を示していた可能性です
    呼吸音に異常がなかったとすれば、肺実質に問題はないはずです

    その場合、肺内シャントのような病態がないかが気になります

    肺内シャントを起こすような病態として、有名な病気として肝硬変があります
    
    同じような病態を起こすとすれば、血管拡張を起こすようなベリベリですね
    だから絶対にこの人はVB1欠乏があると思います
  
    ですが、そうだとするとなぜフルーティーな口臭がするのか・・・?
    それはVB1欠乏ではない


    フルーティーな口臭には何か原因があるはずです

    この人はお酒はそうはいっても好きだったはずです
    だって、焼酎750mlも飲んでいる時があります
    そんな人は酒好きです

    この人が困窮した時に何を飲むでしょうか?
    手に入るアルコールって何でしょうか?
    

    それはエチレングリコールです
    つまり、不凍液を飲んだのではないかという事です

    だから甘い香りがするのではないでしょうか?

    なので浸透圧をみたいです

    そして尿をみてシュウ酸結石があれば確定的です


    ケトンは甘いと言えば、甘いっちゃ甘いですが、うーん
    ケトアシドーシスかあ。うーん

    まあ、チェックはしておきますけど

発表者:ちなみに、3日前より前は何を食べていたのかも聞きました
    
    お酒のつまみのようなものしか食べていませんでした
    するめとか、刺身とかでした

    ごはんや主食は食べていませんでした


K先生:なるほど、それはやばいですねえ

発表者:ただそれが具体的に、いつからそうなったのかは分かりません

K先生:それはそうでしょう
    細かい食生活に関して正確には覚えていないでしょう
     
    その日暮らしで、一日一日を頑張ってきたのでしょう

    そこは臨床医が推し量るべきところです

    きっと、こういう生活をしているから、
    こういう食生活をしているのであろう
    こんなことをしているのであろう
  
    だからこんな臨床症状がでているのであろう、と

    うーん
    VB1欠乏は絶対にあるに違いない
    

~前半終了~

    
    

2018年4月4日水曜日

身体診察


身体診察


身体診察の重要性は軽んじられている傾向があります。最近の超音波検査やCT検査、血液検査が診断のkeyとなっていることは間違ありませんが、身体診察の重要性は今後も色あせることなく、輝き続けると思います。身体診察は、病歴聴取よりも大事な局面があります。





するめ まど・みちお

病歴を語ることができない、もしくは上手に自分の物語として語ることができない人たちにとって、身体所見は言葉ではないメッセージであり、それを私達は受け止める力を持たなければなりません。病歴聴取は違います。自発的に答えを言ってくれるような人もいれば、引き出して答えを手に入れないといけない時もあります。どちらかというと、病歴聴取は能動的な力が必要であり、身体診察は受動的な力が必要になります。「攻める問診」に対して、「受け取る診察」ともいえるでしょうか。患者さんは、体全体、もしくは局所の所見で、○○病であると訴えています。それに我々が耳を傾けることができるか、気が付くことができるかが問われています。そのメッセージに気が付いた瞬間、診断が確定することが度々あります。不明熱で原因が分からないと思われていた患者がいたとします。よくみると、鼠径部に黒色の痂疲がついていました。しかし当初はかきむしったものだと軽視され、そのメッセージの重要性を理解できていませんでした。痂疲の意味するメッセージがツツガムシ病でみられるescarであると理解していれば、診断は容易だったはずです。






身体所見を磨くのは、植物を育てるのと一緒

患者は全身で病気を教えてくれます。そのメッセージを受け取る力がなければ、いくら所見があっても診断はつきません。しかし、見る人が見れば、その疾患にしか見えないので、一瞬で診断がついてしまいます。まさに名人芸と呼べる技ですが、これを習得するには、知識と経験が必要です。皮膚筋炎の人の皮膚所見にヘリオトロープ疹やゴットロン徴候があることは知識として知っていても、この皮疹がその徴候であると言い切るのは、経験が必要です。身体所見は一朝一夕に身につくものではなく、じわじわと自分の中に育っていくものであり、植物の芽に水をかけ続けるような作業だと思います。そこに肥料として、上級医からアドバイアスをもらったり、教科書を読んで知識を裏打ちして、根を張っていくことで、自分の身体所見のスキルはどんどん育っていきます。水をかける作業、つまり身体所見を一つ一つ丁寧にとっていく作業を怠って、省略したり、適当にとってしまっては、自分の身体所見のスキルは成長をとめてしまいます。医師として長年経験を積んだとしても、身体所見は上手にとれるようにはなりません。循環器の医師全てが、心雑音を聞き取る能力があるかというとそうとは限りません。身体所見のスキルが必要かどうかは、自分の置かれた環境に依存します。画像検査をすぐにとれない診療所では、特に身体診察の重要度が増します。言葉をうまく話せない小児科も身体所見の重要性は高いです。毎回、画像検査や血液検査ができない環境であると考えて、病歴と身体診察を行うと、切迫感が違うのでスキルアップにつながるかもしれないと思っています。自分のとった所見にこだわりを持つことが重要です。



迅速性

身体所見の特性の一つに迅速性が挙げられます。病歴聴取を行うのはどう考えても数秒から数分は必要です。しかし身体所見はどうでしょう。宝物をよーい、どん、で探すような感じになるので、重要な所見を見つけたら、一発で診断できることもあります。例えば、原因不明のショック、下痢、意識障害の人がいたとして、何を最初に診察しましょうか。体全体にうっすら紅斑があって、充血があったら、それはトキシックショック症候群だとすぐに分かります。手が震えていて、発汗多量で、甲状腺腫大があれば、それは甲状腺クリーゼであると分かります。ミオクローヌスが著明で、腱反射も亢進しており、発汗があり、瞳孔が散大していれば、それはセロトニン症候群であると分かります。同じ文脈でも、身体所見でこれだけの違いがあれば、診断は可能です。もちろん、病歴がとれれば診断にはさらに近づきますが、臨床では自分の目の前に全くの情報がない患者が、今まさに命の火が消えようとしている状態で現れることが稀にあります。病歴聴取や検査も出来ない局面もあるかもしれません。頼れるのは、身体所見だけということもあります。例えば、飛行機の中で出会った意識障害の患者に、あなたは何ができますか。



確実性

病歴は患者が語る情報であり、嘘ではないが、正しくない時が多々あります。何度かきくと、違う内容になったり、一貫性がないことは臨床を長く続けていると分かってきます。しかし、身体所見は違います。収縮期雑音は誰が聞いても、収縮期雑音です。時に、拡張期雑音に変化したりすることはありません。身体所見は動かず、確実にそこに存在しています。確実性をなくしているのは、受け手である医師の責任です。自分の知らないものは見えないし、聞こえないので、時に所見がなかったように扱われることがあります。これは他者のプレゼンやカンファレンスでは特に注意しなければなりません。自分以外の人がとった身体所見を鵜呑みにしてはいけません。これを解決するには、直接、患者さんを診察して、答え合わせをするしか方法はありません。ぜひ、カルテの前でディスカッションするのではなく、実際の患者さんに会って、所見を一緒にとってくれる上級医を探しましょう。口癖が、「じゃあ、一緒に見に行こうか」と言ってくれる上級医はいい上級医です。


5つの目

身体所見をとる上で、3つの目(鳥の目、虫の目、魚の目)で診察を行い、2つの目(機械の目、他人の目)で確認することが重要です。






鳥の目

一つ目は鳥の目です。鳥の目のように空高くから、全体像を伺うことで、自分の置かれた立場、状況がわかり、患者さんの全体像をつかむことができます。自分と患者のおかれた状況が、ショックで具合の悪そうな患者を一人で、救急の部屋で見ようとしている状況だと分かったら、上級医やナースに応援を頼んだり、悠長に病歴をとっている暇がないことくらいわかるでしょう。そして、患者の全体像、つまり見た目やgeneral appearanceをつかむことで、今後の対応が変わります。つらそうにして冷や汗をかいているのであれば、早急に対応が必要であり、不安そうにそわそわしているのであれば、より丁寧に診察を行い、患者の不安を払拭するように心がけ、不安に感じている原因を言及していく必要があるかもしれません。鳥の目でみる身体所見は見た目だけではなく、匂いであったり、声の震え、なんとなくコミュニケーションがうまくとれない感じ、といったような、自分のもつ感覚器を総動員して、その患者から発せられているメッセージを敏感に感じ取らなくてはなくてはなりません。5つの目の中でも最も重要です。







虫の目

2つ目は虫の目であす。鳥の目で全体像をみた後は、虫の目のように局所の所見に注目します。膠原病科医や皮膚科医はまさに代表的な虫の目を使うスペシャリストです。ある時は、爪の生え際の毛細血管をみて、強皮症やSLEを診断することもできるし、ある時は手指のがさがさをみて、皮膚筋炎の診断をつけてしまいます。不明熱患者に手掌や眼瞼結膜の出血班があれば、感染性心内膜炎の診断にぐっと近づきます。適当に手のひらをみても、絶対に気づくような所見ではなく、虫になったつもりで、見に行かないと見落としてしまいます。虫の目で身体所見をとるために重要なのは、必要なのは「局所解剖の知識」です。局所解剖とは、ピンポイントでそこだけの詳しい解剖です。例えば、肩の成り立ちはどうなっているか答えることができるでしょうか。骨と筋肉と関節だけではありません。そこには、腱板とよばれる上腕骨頭を支える構造物があり、関節がスムーズに可動するために、滑液包と呼ばれる構造物があり、筋肉を動かすために支配しているC5の運動神経があります。腱板や滑液包の一つ一つの場所と名前を言うことができ、その障害を発見するためにはどんな身体所見をとればよいか分かるでしょうか。肩だけではなく、体の局所に重要な解剖が存在します。虫の目で診察するには、局所解剖に強くなるということが必要です。つまりはマイナー科と呼ばれる科の解剖に強くなることです。






魚の目

3つ目に魚の目です。魚は水の流れを体で感じ取ることができ、流れを予測することができます。身体所見において、魚の目で身体所見をとることは、身体所見の流動性を意識することです。身体所見は確実だと述べましたが、時間の経過とともに変化していくことは事実としてあります。この流動性を上手に臨床で応用することが、重要です。医師は患者に対して治療を行う、もしくは行わないこともあります。経過観察をするということは、医師にとって実は重要なスキルですが、ただいたずらに時間を過ごすのではありません。診察を行い、身体所見がどう変化するかをみることで、自分の行ったアクションが正しかったのか、間違っていたのかを見極めることができます。感染性心内膜炎の診断はその代表的な疾患です。診断基準に新規の心雑音とありますが、誰がこの心雑音を新規だと言い切ることができるのでしょうか。毎日、心雑音を聴取し、雑音はまだかまだか、と待ち構えているような愚直な医師にしか、この心雑音は新規であると言い切ることはできません。肺炎の治癒過程で、雑音が少しずつ変わることは、毎日、呼吸音を聴取する医師にしか体験できない経験です。この目立たない愚直さこそが、魚の目を持って診察できるているかという事です。





機械の目

右下腹部痛の患者がいるとします。自分のとった身体所見では確実に虫垂炎だと思うので、CTもとらずに、外科医に虫垂炎を手術してくれとは死んでも言えません。絶対、CTとります。色んな理由がありますが、一つは確実ではないからです。身体所見で診断が確定し、治療ができる病気はそれほど多くはありません。間違いのないように検査を行い、確認する作業が必要です。それとともに、身体所見では否定が出来なかった他の鑑別疾患も除外するために検査を行います。CTや超音波が日本ではアクセスが非常によいため、画像検査に走りがちですが、私たちはうまくそれを利用すべきです。例えば、自分は収縮期雑音があると思っており、これはMRだと思ったとしても、それを確認しなければ、あっているのか、間違っているのかわかりません。超音波検査を行ったら、ASであった。あー、この音はASの収縮期雑音なのだ。と間違いに気が付くことができます。自分のとった所見が正しいのかどうかは、毎回feed backを行ったほうがよいです。確認作業を画像で行うか、他の人にお願いするかです。





他人の目

主に上級医、指導医になると思いますが、自分のとった所見が正しいかどうかは、やはり一緒に診察してもらわないと何とも言えません。特に神経領域では顕著だと思います。腱反射亢進や減弱を自信をもって言える研修医がいても、まったく信用しません。上級医は思いもよらない診察をすることがあります。知らない診察法をいっぱい盗むことは研修医の特権ですので、是非、信頼のたる上級医をみつけて一緒に診察してもらいましょう。





これら、5つの目をもって、身体所見をとることが、上達への近道です。



一手間を惜しんではいけない

身体所見をとる上で心がけていることがあります。それは、一手間をおしまないことです。

時間は有限です。診察はなるべく短くして、診断して治療に入りたいものです。そうすると、時間のかかる作業は省略してしまうことがあります。自分の診察より、早く検査や画像をとったほうが、診断につながるのではないか、と考えてしまう時もあります。しかし、身体診察を頑張ってとることでしか、診断につながらないことがあります。検査や画像では代用できないこともあります。例えば、失神の患者の多くは診断がつきません。血液検査や頭部CT、心電図を行って原因がつけられるのは稀です。そんな銃弾爆撃的な検査よりもよっぽど、病歴聴取やシェロングテスト、直腸診の方が診断に役に立ちます。シェロングテストで血圧が低下すれば、それは起立性低血圧を強く示唆しますし、直腸診で血便があれば、失神は大量出血に伴うものであると分かります。ではなぜ、これほど重要な診察がしっかりと順守されていないのでしょうか。それは、忘れていたという理由の他に、手間がかかるのです。思い浮かんでも時間がないから、という理由で行われていないことも多々あります。シェロングテストは右指をクリックすれば、進む検査ではなく、自分で患者に説明をして、数分間患者の様子を観察しないといけないので時間がかかります。しかし、この一手間が診断への近道です。急がば回れです。感染性心内膜炎疑いの患者であれば、少し前かがみにして、ARを聴取しやすくして、ようやく、かすかに聞こえる逆流性雑音を探しにいきます。BPPVであれば、吐き気で苦しむ患者にしっかり説明をして、頭位を変換させてめまいを誘発する手技を行います。寝たきりの患者の発熱に対しては、看護師さんに協力してもらい、背部の観察を行い、褥瘡がないかをチェックします。外来の糖尿病の患者さんは、毎回、靴下をぬいてもらって、怪我してないかを確認します。

このように疾患を診断するためには、「一手間かかる診察」というものが存在します。その一手間を惜しむと、その後、どんな検査を行っても診断がつかないこともありますし、発見が遅れてしまいもっと大変になることがあります。

なので、どんなに時間がなくてもこの診察は絶対行う。一手間かけるぞ。と心に思いながら、診察を行います。



○○眼鏡

身体診察をする時に、鑑別疾患が浮かんで診察をするのと、鑑別診断が浮かばずに診察をするのでは、分けが違います。鑑別診断が浮かんでなければ、まずどこを診察してよいかすら分かりません。咽頭痛があれば、開口障害はないか、口蓋垂の偏位はないか、甲状腺の圧痛はないかといった所見を探します。それは、深頸部膿瘍があって、内側翼突筋にまで炎症が波及すると、開口障害がでることがあり、扁桃周囲膿瘍がひどいと口蓋垂が偏位する人もいるし、咽頭痛といっても亜急性甲状腺炎の人もいるからです。鑑別疾患があるから、その所見をとりにいくのであり、鑑別疾患が思い浮かぶかどうかで、所見が拾えるかどうかが決まります。逆に想起していないものを拾うことは難しいです。例えば、心不全の人が入ってきて、ある人は舌をチェックするでしょう。それは、鑑別診断にアミロイドーシスや甲状腺機能低下症が浮かんでいるからです。鑑別なくして、検査なし。という文言があるが、それは身体所見にも言えることです。そのため、鑑別疾患が思い浮かんだら、「その疾患に見える眼鏡」をかけたつもりで診察するとよいです。必ずこの所見があるはずだと思いながら診察します。めまいの患者さんであれば、BPPVかもしれないが、ワレンベルグが鑑別になります。ワレンベルグを疑ったのであれば、ワレンベルグを拾いにいくような診察をしないと、普通に神経所見をとっていても絶対に見逃します。ワレンベルグを見つけに行く診察は、ホルネル徴候の有無であったり、カーテン徴候であったり、わずかなwide baseであったり、わずかな構音障害です。どれもが、分かりにくいので、見落としがちですが、「ワレンベルグ眼鏡」をかけて診察をすると、ワレンベルグにしか見えてきません。身体診察はそういうものです。見える人には見えるし、見えない人には見えません。

ただ、○○眼鏡をかけることで、pit fallも生まれます。それは、本当に見たいものしか見えていないので、他の所見に気が付かないことです。例えば、複視で困っている人が外来に来ました。当たり前ですが、眼球運動に注目します。そうすると、どうやら左目の下転が障害されているようだ。と分かったとします。ですが、実はその人にはヘリオトロープ疹がありました。鑑別疾患に皮膚筋炎が上がっていなかったので、見落としていました。目は絶対に見ていましたが、全く気が付きませんでした。この人には、実は間質性肺炎があり、呼吸器の先生が後日、指摘してくれました。このように、○○眼鏡をかけて診察する時は、他の所見がとれなくなることを覚えておいてください。



まとめ

・患者さんは例え言葉が話せなくても、
体全体や局所で病気を私達に伝えてくれている(するめ)


・それを我々は身体診察というスキルを用いて、受け止めている(受け取る診察)


・身体診察のスキルを磨くのは、植物を育てるのと一緒であり、時間がかかるし、途中でやめれば、成長は望めない


・実際の診察は鳥の目、虫の目、魚の目の3つの目で診察を行い、機械の目と他人の目で確認を行う(5つの目)


・時に、○○眼鏡をかけて診察を行う


・重要なのは、一手間を惜しまないことである


2017年11月8日水曜日

喘鳴~心不全・喘息・気管支炎問題~

喘鳴にまつわる
心不全、喘息、気管支炎問題です

ここは一番難しいですが、やりがいのある分野です



喘鳴が目立つ肺炎像がある人

この時期増えます


肺炎として、抗生剤治療をするが、

喘鳴はいっこうによくならない


こういう時に、主治医の頭の中では・・・

喘息の既往はないが、喘鳴だけがやたらと目立つから、

喘息がこの高齢で発症したのであろうか?

⇒喘息の治療をしてみたい!


心不全の既往はないが、心不全もあってもいいかもしれない

しかし浮腫もないし、体重増加もない

⇒でも、とりあえずラシックスうってみたい!


そもそも、施設から持ち込んだ何かのウイルス性気管支炎やマイコプラズマか

⇒非定型肺炎の治療も追加してみたい!


といった具合で、なんとなく治療が開始されることが多いです

そして、どの治療もうまくいかず、泥沼化していきます



なぜこうなってしまうのか?


それは軸足がぶれているからです


軸足とは、つまり「診断」です

最初の段階では、診断は必ずしも正しい必要はなく、
暫定的に診断をして、
まずはその暫定診断にのって治療することが重要です


治療はいつもいつも、スパッとスマートな治療ができるとは限りません


絶対この病気!⇒治療!⇒ほら、治った!

なんてことは稀です


現実は、

うーん、A(PMR)かもしれないし、B(RAや脊椎関節炎、偽痛風)かもしれない

でもC(IEや化膿性関節炎)だったら、AやBの治療が非常にまずい

少なくとも、Cに害になる治療はしてはいけない


まだAとBの鑑別は完全にはできていないけれど、

このままではADLがガタ落ちしてしまう

○○の要素があり、現状ではA>Bと思う

だからまずは、Aとして治療だ!


といって治療するのが、現実の臨床です


治療開始は、綱渡りのような感覚で、そろーりそろーりと進んでいく印象です




よく、電解質の治療のところで引用される言い方ですが、

結局は「北」にいけばいいのです


東京から出発して、東へいってもいいし、西へいってもいい

だが、南には行かないようにする

西へいって、何かおかしいと感じれば、

途中で軌道修正すればよく、

だんだんと北へ進めばよい


という教えです


大事なのは、スタートの時点で、

東に行ったり、西にいったり、南へ行ったり、一気に進まないことです

自分が一体どこにいるのかわからなくなります


そして、南にいかないようにすること

つまり、治療をして悪化する病気がないかどうかを考えておく必要があります



そして、途中で何度も立ち止まることです

途中で何かおかしいと感じるためには、

ベッドサイドに頻回に通う必要があります

電解質の補正の場合は、数時間毎のフォローアップが必要でしょう





この教えを知ってから、自分で治療することに勇気がわきました

最初から完璧である必要はなく、

一番大事なのは、軌道修正であることがわかれば、

最初の一歩を踏み出せます




ですが、高齢者では、オッカムの切れ味が落ちて、

ヒッカムの格言が必要になることはあります

つまり複数の病気が合併していることは多々あり、

同時に治療しないとよくならないこともあります


ですが、多くの症例で同時に、

心不全、喘息、ウイルス性気管支炎、細菌性肺炎が起きたという人はまれだと思います

なので、ここではまず、

どれか(心不全、喘息、気管支炎)に
軸足を置く努力をしましょう
軸足をおいたら、徹底的にその治療をします



スルメ
(意味がわからない人はまど・みちおさんの「するめ」という詩を検索してください)

軸足をおく、つまり、暫定診断をするためにはどうしたらよいかというと、

それはやはり病歴や身体所見、検査が重要になってきます

しかし、

認知症があったり、高齢になると、自分の病歴や症状をうまく伝えることができません


流行りのROSをとってみても、

労作時呼吸苦+
喘鳴+
体重増加-
夜間発作性呼吸困難-
起坐呼吸-
血痰-
寝汗-
鼻汁-

といったような感じで、


「で?」


となり、鑑別が進みません


夜中の具合の悪さを本当に見たければ、

ベッドサイドのごみ箱の中のティッシュの量をみたりします

よく観察すると、夜間に痰が増えている人では、

夜にティッシュの消費量が上がっていることに気が付きます



浮腫がないかをみるには、

臥位が続いている人であれば、

脛骨前面ではなく、大腿内側後面や体幹背側をみないと分かりません


病歴が使えない時もありますし、身体所見が一見乏しい時もあります

しかし、それはこちらの受け取り側の問題で、

能動的に患者さんから発していなくても、

こちらにレセプターがあれば、

患者さんからのメッセージを受動的に感じとることができます





無言のメッセージを感じ取ることが、ベッドサイドでは重要です


これは、カンファレンスで議論していても、わかりません

日本のカンファレンスはベッドサイドから離れすぎているので、

やや臨床に即していないカンファレンスが多い印象です


患者さんに出会った瞬間に、カンファレンスでの議論が吹き飛ぶ光景を

何度も目にしてきました


診断に悩んだら、患者さんのところに何度もいく

というのは、忘れがちですが、大事なパールです




皮疹の見方

皮疹の見方 皮疹の見方と言っても状況によって考え方が異なる。 皮疹だけをみてどう考えるかだけではなく、 どんな文脈で皮疹が出てきたか、 が重要である。 我々が皮疹に出会う状況は皮疹と全身症状のバランスによって3つに分けられる。 ① 全身症状がメイン(発熱、関節炎、ショックなど)だ...

人気の投稿