症例:50歳 女性 主訴:痺れ(※症例は加筆・修正を加えてあります)
Profile:強皮症で定期外来通院中
強皮症による消化器症状(主にGERD)が強く、
タケキャプ®︎、アルロイドG®︎、ガスモチン®︎を内服中
PSLの内服はなし
現病歴:2年前くらいから手足の指先に痺れが間欠的に出現するようになってきた
数分で治り、長くは続かない
生活に支障はなし
冬になると出やすかった
お風呂に入る時のように温度変化があると手がギューっとなる感じがする
足よりは手のほうがひどい
振っても改善しない
手足の動かしにくさはなし
レイノーは寒い時にたまに出現
半年前くらいから痺れが強くなってきた感じがする
これまでの精査では頸椎MRIや腰椎MRIは問題なし
VB12、葉酸、Cu欠乏なし、DMなし
M蛋白なし、ANCA陰性
慢性的にKは3.5前後を推移していたが、3ヶ月前より3前半になったため、
グルコン酸Kを補充開始
尿をみると尿中排泄亢進していた
ROS:時折、便秘と下痢、胸焼けが強い、レイノーあり
腹痛なし、体重減少なし、頸部痛や腰痛なし、関節痛なし
内服:ポリフル®︎、タケキャプ®︎、アルロイドG®︎、ガスモチン®︎、グルコン酸K40meq、ユベラ®︎
生活:飲酒なし、喫煙なし
診察
神経学的には腱反射亢進・減弱なし
筋萎縮なし 筋力低下なし
巧緻運動問題なし
振動覚10秒以上あり
歩行 安定
ロンベルグ陰性
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診断は?
定期外来通院中のちょっとした症状はスルーしてしまうことが実際は多いです
全ての訴えを聞いていたら、プロブレムリストが#1〜#18とかになってしまいます
(余談ですが、最近の若者は#をみたらプロブレムリストではなく、ハッシュタグに見えるそうです 笑)
外来でのちょっとした症状(肩痛い、痺れ、めまい、動悸)はプロブレムリストとして格上げされず、
「まあまあ・・・そういうこともありますよね〜」とスルーされていきます
ただし、
日常生活に支障をきたす、患者さんの訴えが頻回・強くなってきたら、
プロブレムリストに格上げして、真剣に問題解決に取り組みます
今回の症状は2年前から間欠的に出現していた手足の指先の痺れであり、
生活にも困っていなかったため、スルーしていました
ですが、半年前くらいから痺れの訴えが強くなってきたため、
本腰を入れて調べ始めたという経緯です
痺れmapを描いてみると、両手掌側の全ての指先の痺れでした
血液検査や画像検査では原因となるものはなく、
あとは神経伝導速度や神経内科Drに診察を依頼しようかな・・・と思っていました
ですが、痺れをパラフレーズしてもらうと、
「手がこんな風にギューっとなるんです」ということでした
「手がギューっとなる???」
日内会誌 107:1365~1372,2018
え??
それって、テタニーじゃないか!?
急いで血液検査を見直すと、Caは正常
Mgは・・・
あ、Mgとったことありませんでした・・・
Mgを測定すると、0.6mg/dlと著明な低Mg血症を認めました
診断:低マグネシウム血症によるテタニー・痺れ
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原因は(2年越しに)わかりましたが、なぜ、これほどの低マグネシウム血症になったのでしょうか?
患者さんの前で考え込んでしまいました・・・
「原因はわかりましたが、
なんでマグネシウムがこんなに少ないのでしょうね・・・うーん・・・」
わからないことは患者さんの前でも調べます
そうすると、すぐに答えがわかりました
「あーこれだー!」
もちろん、PPI内服で低Mg血症になることは知っていましたが、
実際、目の前の患者さんに出会うと想起できませんでした
いつも心に薬と結核ですね・・・
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マグネシウム
マグネシウムは消化管の小腸で吸収されます
体中のマグネシウムのほとんどが細胞内に入っています
血中のマグネシウムの調整を行なっているのは、腎臓です
in不足(吸収不良、)かoutオーバーか、シフトの問題です
この方の尿中Mgを測定すると、0.1mg/dLでした
つまり尿からはMgは排泄されていない
必死に溜め込もうとしている状況でした
PPIで低Mg血症になる機序は、胃酸分泌の抑制により腸内PHが上昇し、
腸内のマグネシウム輸送体のTRPM6/7の活性が低下するため、
マグネシウムの吸収が抑制されると考えられています
マグネシウムはすぐに結果が出ない病院もありますので、
測定が他のKやCaに比べてハードルが上がる項目です
だからといって狙って出すにしても、高Mgや低Mgの症状は非常に多彩であり、
症状から狙うと多くのMg異常を見落とします
自分なりにMgを測定するタイミングを決めておくのがよいかもしれません
CKD患者に酸化Mgを処方している時
アルコール多飲者
PPI長期服用者
症状で怪しい時
利尿剤を長期服用している人
などが考えられます
特にKやCaの低下は低Mg血症を想起するヒントになります
今回も低K血症の鑑別をきちんと行なっていれば、低Mgにも辿り着けたはずでした
ただ、強皮症による消化管の吸収不良もあるのであろう
という気持ちがあり、尿中のK排泄亢進パターンを無視してしまっていました
K補充に反応が悪い低K血症をみたら、低Mg血症を思い出しましょう
ただPPIを飲んでいる人全員が低Mg血症になるわけではありません
おそらく、薬の要因✖️人の要因が組み合わさった時に起こりやすいのだと思います
今回は強皮症があり、吸収不良が考えられます
まとめ
・患者さんの痺れはパラフレーズしてもらう
→今回はテタニーの症状が発見できた
・原因のよくわからない神経症状(痺れ、筋力低下、手足のつり、テタニー)をみたら、低マグネシウム血症を考える
→マグネシウムを測定する閾値は低くていい
・PPIやP-CABは容量が多ければ多いほど、長期であればあるほど、低Mgのリスクになる
→治療はPPIの中止・変更が大事、H2ブロッカーは低Mg血症のリスク低い
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