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2023年10月27日金曜日

著明な乳酸アシドーシスにどう立ち向かうか

 架空の症例(NEJMのCPSを意識して作ってみました)


経過①ある日の救急外来 


60歳の男性が呼吸苦を主訴にwalk inで受診されました


バイタルはBP140/90, P 130, SpO2 98%, RR 40, T 38.5

開眼しており、話しかければ会話できますが、頻呼吸で文章をスラスラは話せません

いかにも苦しそうな様子でwalk inで来院されましたが、すぐに初療室へ来られました


起座呼吸で大きな呼吸で浅くはありませんでした

喘鳴やcrackleは聴取しません

頸静脈の怒張はありません


不穏な様子はありませんが、辛そうな表情で皮膚はじっとりしています

モニター上は洞性頻脈です


カルテはなく、基礎情報はありません

妻と一緒に来院しています


本人からの詳細な病歴は取れませんでしたが、今の症状は、息が苦しいとのことでした

胸痛はなし

いつから具合が悪いか聞くと、3、4日目くらいからとのことでした

既往を尋ねると糖尿病と高血圧があり、近医で薬をもらっているようです

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解説

60歳男性が著明な頻脈、頻呼吸を呈し、救急外来を受診されました

あまりの頻呼吸かつ、大呼吸であり、病歴はうまく取れません

このような場合は、一緒に来院している妻から病歴を詳細にとるのがよいでしょう


救急での鉄則ですが、バイタルが不安定な人が来た場合、

原因が突き止められ、見通しがたつまでは

ベッドサイドから離れないことが重要です


そのため、妻からの病歴聴取は自分以外の人にとってきてもらいます

実際は身体診察を行い、バイタルを立て直す人、

詳細に病歴をとる人に分けて同時並行に診療は進んでいきます


もし、一人しかいないのであれば、待合室に妻を待たせるのではなく、

その場に妻を呼んで病歴聴取を行います


さて、中年男性が3、4日前から具合が悪くなり、

高熱を認め洞性頻脈と頻呼吸・大呼吸になってしまう病態とは

どのようなことが考えられるでしょうか


鑑別としては、心筋梗塞(STEMI)、肺塞栓、緊張性気胸、喘息発作、敗血症、

コロナ・インフル、パニック発作、代謝性アシドーシスの代償、重度の貧血、Hb異常、

二型呼吸不全をきたすような疾患の急性増悪(MGクリーぜ、GBS、ALSなど)、

甲状腺クリーゼ、違法薬物の使用、中毒(CO、シアン)などが挙げられます


これらの疾患をr/o、r/iするために心電図、心臓超音波検査、血ガス、他の血液検査、ポータブルレントゲン、コロナ、インフルエンザ、血培、尿検査・尿培養を行っていきます


疾患の鑑別は与えられた情報によって刻一刻と変わっていきます

来院時、5分後、10分後・・・では鑑別疾患は全く別物です


疾患の鑑別が上がらない人は、まずは鑑別をできるだけたくさんあげるトレーニングを行いましょう

鑑別をある程度あげられるようになれば、今度は優先順位をつけられるようになりましょう


優先順位のコツは5Cです

critical,common,curableの3Cをまずは意識します


無意識に3Cを考えることができるようになった人は、

3Cに加えてInfection Control、Costを考えるとよいでしょう


つまり、今回の事例においては、高熱をきたしており、

コロナ感染者の可能性があります

Infection Controlの観点で考えると、コロナの感染対策は必須です


Costは研修医の先生はあまり意識しなくてもよいとですが、指導医は意識する必要があります


costで意識するのは、時間と労力とお金です

救急の現場に限らず、初診外来ではできるだけスピーディに値段を抑えつつ、

非侵襲的な検査で正確な診断にたどり着きたいですよね


いわゆるDiagnostic Excellenceです

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経過② 

まず心筋梗塞や肺塞栓を念頭に心電図検査が行われました

心電図は洞性頻脈であり、ST-T変化はありませんでした

S1Q3T3はありませんでした


次にUCGが行われ、EFは60%以上あり、hyperkinesisでした

asynergyはなく、心嚢水貯留もありませんでした

Dshapeはなく、TRも目立ちません

大動脈のフラップはなく、ASやAR、MRも目立ちませんでした


CXRでは気胸もなく、浸潤影やうっ血もありません


血ガスの結果が出ました

目を疑う数字でした


PH 6.9, PCO2 12 , PO2 129, HCO3 3, 乳酸 30 mmol/L , AG 46

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解説

頻脈、頻呼吸、呼吸苦の原因精査を行ってきました

心電図やUCGではmassive PEやSTEMIではなく、

気胸や肺炎も可能性は低くなりました


血ガスがこの症例では診断の決め手になりました

Step1:pHのチェック → アシデミア pH6.9!

Step2:一次性変化は? → 代謝性

Step3:代償反応の計算・評価 → PaCO2 12 <1.5✖️HCO3 (3)+8±2

                呼吸性の代償は適切に働いている

Step4:AGの計算 → 40と開大

Step5:AGが開大している場合、Δ-Δを計算する →ΔAG = 46 - 12 = 34

                                     ΔHCO3 = 21

                                              Δ - Δ= ΔAG - ΔHCO3=13

   乳酸アシドーシスなので、13✖️0.6= 7.8

      +5以上であり、代謝性アルカローシスの合併 

Step6:病歴・身体所見を合わせた原因の評価と対応 →  ここが一番大事


現場ではゆっくり計算できないことが多いですが、乳酸アシドーシスが重度であり、

その代償としての過換気があることは一目瞭然です



この血ガスを見てパニックにならない医師は、

全てを悟っている熟練の医師か、何も知らない医師 のどちらかです


多くの医師がここでパニックに陥ってしまうのは、

乳酸高値の危なさやpH6.9の異常さを知っているからです


このままでは死んでしまう・・・でも一体どうしたらよいのだろう・・・?


さらに本症例では、血圧が正常で腸管虚血を示唆するような症状が全くないので、

現状では原因不明の乳酸アシドーシスになっています


乳酸上昇はtype Aとtype Bの機序があることが知られています

乳酸アシドーシスの鑑別は膨大ですが、実際の思考過程は意外にシンプルです



①血圧は保たれているか(大循環系の評価)

血圧が低ければ、組織へ酸素を運ぶことができません

これはいわゆるtypeA(:明かな組織低酸素があるパターン)です


心原性、分布異常、閉塞性、循環血漿減少性ショックの原因を調べます


②皮膚の血流(CRT)・モットリングは出ているか(微小循環の評価)


大循環系の指標である血圧が保たれていれば、

組織に血液が十分到達するかというとそうでもありません


血圧が保たれていることだけでは、ショックを否定できません

血圧正常ショックというものがあります


次に評価するのは微小循環です


微小循環と呼ばれる毛細血管を含んだ細動脈系に血液がしみわたらないと、

細胞には血液(酸素)は届きません


イメージとしては・・・


ネットで商品を頼んでも家に来ないと意味がありませんよね

高速道路(血圧)がどんなに順調に進んでも、

高速を降りた後の細い道で渋滞があったり、道を間違えてしまっては商品は届きません



微小循環の評価はベッドサイドで主に皮膚で行います

膝のCRTとモットリングを見ましょう


③VB1不足になるような原因やウェルニッケの所見はあるか?(特に眼振、眼球運動障害)


病歴ではアルコール多飲をチェックします

病歴でよく分からなければ、VB1採取後、VB1は投与してもよいでしょう


VB1投与前後の変化は、VB1欠乏の診断の根拠にもなります



④乳酸上昇するような薬の摂取はないか?


メトホルミンが有名です

常用量でも腎不全、アルコール、高齢、造影剤など、他の因子が加われば起こり得ます


喘息の吸入薬のSABAやLABAの使いすぎでも起こりますので、

吸入薬もチェックしましょう


リネゾリドやHIV 治療薬のプロテアーゼ阻害薬、テオフィリンなど

思いもしない薬の副作用があるかもしれないので、

薬はしっかりチェックが必要です


⑤中毒の可能性はないか?(発症した場所や時間を確認)


火災現場にいた場合、CO中毒やシアン中毒の可能性があります

誤飲や自殺企図の場合、エタノールやプロピレングリコール、メタノールなどの

浸透圧ギャップが開大するような物質を摂取している可能性があります


長期大麻使用の人はカンナビノイド悪阻症候群を発症することがありますが、

この場合にも乳酸上昇します


⑥腸管壊死を示唆する所見はあるか?

(メトホルミン内服なければ造影CTへ)


組織の壊死によっても乳酸は上がります


腸管壊死以外では、壊死性筋膜炎、外傷、熱傷でも上がりますが、

外表からの診察で明かなことが多いので原因不明にはなりません


腸管壊死の評価は、挿管されていたり意識がない場合、

造影CTをしないと判断できない場合も多いです


⑦筋肉由来:シバリング、痙攣発作、過呼吸、努力呼吸


病歴や見た目でわかります



⑧乳酸クリアランス低下の要素はあるか:肝不全、腎不全


血液検査や画像で評価します


⑨その他:悪性腫瘍、短腸症候群、先天代謝異常



結局はこれまでの①〜⑧の組み合わせがほとんどです


複合的な問題(multifactorial)が重なりあって、乳酸が上昇します


例えば、

もともと、乳酸のクリアランスを行う肝臓の機能低下や腎不全がある

さらに飲酒も少しする

食事はほとんど取れておらず、VB1は欠乏しているかもしれない

DMでメトホルミンを飲んでいる

高熱で敗血症性ショックにもなっている

肺炎があり、低酸素血症がある

喘息もあるので、SABAを多めに吸ってきた

1時間前にシバリングした

寒かったから豆炭こたつで暖をとっていた(CO中毒あり)


このようなmultifactorial(多因子)なことがほとんどであり、

原因を一つに絞ることは困難です



乳酸アシドーシスのマネージメントは、

乳酸上昇の原因疾患を一つ探り当てることではなく、

チェックリストのような形で一つの漏れも許さない姿勢が大事です


なぜなら乳酸上昇が改善しなければ、亡くなる可能性が高いと知られているためです


何がなんでも乳酸は下げなければなりません

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経過③:乳酸アシドーシスの原因と治療介入


①血圧は保たれているか(大循環系の評価)

→保たれていました BP 140/90,P 120、EF良好


②皮膚の血流(CRT)・モットリングは出ているか(微小循環の評価)

→モットリングなし、末梢は暖かい、CRT 5秒以内

 血液検査では腎機能は悪化 Cr 1.8


③VB1不足になるような原因やウェルニッケの所見はあるか?(特に眼振、眼球運動障害)

→妻から病歴聴取すると、毎日飲酒を大量に摂取していた

 WEを示唆する眼球運動障害はなし

 UCGにてhyperkinesisであったため、wet beriberiの可能性を考え、

 WE doseですぐにVB1の投与を開始した


④乳酸上昇するような薬の摂取はないか?

→メトルホルミンを内服していた

 薬手帳なく、量は不明

   本人管理で毎日、しっかり服用していた

 

⑤中毒の可能性はないか?(発症した場所や時間を確認)

→発症直前まで仕事をしていた

 家の中でも会社でも中毒物質を摂取している可能性は低いと思われた


⑥腸管壊死を示唆する所見はあるか?(メトホルミン内服なければ造影CTへ)

→腹痛はなく、単純CTでも腸管に問題なかった



⑦筋肉由来:シバリング、痙攣発作、過呼吸、努力呼吸

→過呼吸・努力呼吸あり


⑧クリアランス低下の要素はあるか:肝不全、腎不全

→AKIになっていた

 CTでは肝臓が慢性肝炎を示唆する辺縁鈍で脂肪肝が著明であった

 頸部には蜘蛛状血管腫が見られ、女性化乳房であった

 血小板低下や黄疸、腹水、意識障害はなし


その他:悪性腫瘍、短腸症候群、先天代謝異常

→知られていない

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解説


乳酸が著明高値である原因は、足し算のようなイメージで考えるとよいでしょう


0+2+5+3+4+1+10+5=30


みたいなイメージです


どれが、10点かは分からないことが多いので、

介入点を探して、ひたすらポイントを減らしていくイメージです


自分の想定が正しいかどうかは、次回の乳酸値が教えてくれます


2022年5月12日木曜日

昨日元気で今日ショック、皮疹がなければ・・・①

 70歳 女性 主訴:意識消失

(※症例は加筆・修正を加えています)


Profile:RAでアクテムラ使用中、ADL フル


現病歴:来院当日の午前中まではいつも通り元気 

    午後から吐き気あり、悪寒戦慄あり、

    その後、意識消失したため救急車で来院


既往:関節リウマチ、骨粗鬆症

内服:デノタス、プラリア、アクテムラ

生活:ADLフル、独居

予防接種:肺炎球菌ワクチン2回接種ずみ


バイタル BP 120/80. P 80,SPO2 95%,RR 20, T 36.8、意識 清明

身体所見は特記すべきものなし 皮疹みられず


血液検査 WBC 6000, Hb 12, Plt 28万, CRP 0, 肝胆道系酵素・腎機能 問題なし

尿検査 膿尿なし 細菌尿なし

単純CT  肺炎像なし、胆嚢壁肥厚なし、膵腫大なし、腹水なし、腸管壁肥厚なし

血液培養 採取


経過

悪寒戦慄や吐き気、意識消失で救急車で来院したが、

来院後は症状なく、バイタルも安定していたが、経過観察目的に入院となった


入院後、嘔吐や強い背部痛が出現

造影CT撮影されたが、大動脈解離や膵炎像はみられず

胸部〜腹部大動脈周囲に脂肪織濃度上昇あり

縦隔にも炎症所見あり

膵臓周囲に液体貯留あり

他に感染源となる部位はみられず


その後、ショックバイタルになり、乳酸上昇・乏尿あり

敗血症性ショックとして広域抗生剤開始

ICU入室しCVやAラインを留置

大量輸液とノルアドレナリン投与開始


心原性や閉塞性ショックはなし

皮疹みられず


背部痛や膵臓周囲の液体貯留あり、重症膵炎疑いで入院となった

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考察


来院当日の午前中まではいつも通りでしたが、

午後から夕方にかけてショックに至っています


膵炎疑いで入院となりましたが、膵臓腫大はみられず、

膵酵素の上昇もないため、膵炎ではないと考えられました



この急激な経過は感染症です


「昨日、元気で今日ショック。皮疹があれば儲けもの」


という青木先生のパールがありますが、まさにその経過です


この経過であれば、鑑別は逆に絞られます


・TSS/STSS 

・髄膜炎菌感染症 

・リケッチア感染症 

・脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症 

・肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila

・黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎


今回は皮疹はありませんが、上記疾患も鑑別になります


何らかの感染症であることは間違いないため、型のごとく感染症の三角形に当てはめます


感染症の三角形


 


①患者背景

まずは患者背景がなんといっても大事です

患者背景は3つに分けて考えます

(1)免疫:皮膚バリア、局所の免疫(気管支の繊毛運動etc)、好中球、
       細胞性免疫、液性免疫(脾臓の有無etc)、薬、腫瘍、DM、CKD、LC

(2)暴露:食事、人(シックコンタクト、性行為、結核、小さな子供etc)、動物、
       虫、淡水(カヤック、カヌーetc)、海外渡航、職業

(3)余力・全身状態:バイタル、基礎疾患(心臓、腎臓、肺、肝臓etc)、
             認知機能、余命、人生観



 今回の症例では、RAに対してアクテムラを使用中でした

 生物学的製剤は一般細菌感染症や結核のリスクをUPさせます


 アクテムラはCRPが0になるという危ない薬です
  
 そのため、アクテムラを使っていてCRPが0でなかったら、やばいと思った方が良いです 


 今回の症例はCRPは0です


 CRP based medicineをしているDrは気をつけてください


 曝露は特にありません 小さな子供との接触は1ヶ月前に孫にあった程度でした

 余力はありませんね。バイタルが危険な値になっています
   乳酸上昇や乏尿が出現しており、ショックといって良いと思います



②部位

 次に感染症を疑うのであれば、感染部位を考えます


 今回の症例では背部痛が急激に出現しています
 CTでは大動脈周囲の炎症がありました

 それ以外に画像上もfocusとなる部分はなく、暫定的に感染性動脈炎という診断になりました

 背部痛は大動脈の炎症のためか、もしくは椎体や硬膜外膿瘍の危険もあります


 エントリーになる部位はなく、primary bacteremiaです

 小児では有名ですが、高齢者でもよくあります


 高齢者の菌血症の4人に1人はprimary bacteremiaです

       Enferm Infecc Microbiol Clin . 2007 Dec;25(10):612-8.

 

③微生物


高齢者のprimary bacteremiaはGPC(ブドウ球菌、GGS)かGNR(腸内細菌)が多いです
 

感染性動脈炎の原因といえば、サルモネラや黄色ブドウ球菌、梅毒、結核などです

血液培養陰性の感染性大動脈炎との戦いは本当に辛いです







動脈炎ではなかなか鑑別は絞られませんが、
この急激な経過は、A群β溶連菌(GAS)や侵襲性肺炎球菌ですね

肺炎球菌ワクチンは接種済みであり、GASの可能性が最も高いのではないかと思いました


ですが、GASの急激な経過を疑った時は、同時にGGSも鑑別になります



④治療


感染症で最も大事な治療は、ドレナージです


特にTSSやTSLSでは、非常に重要です


今回の症例は毒素病態(充血、皮疹、下痢)はありませんでしたが、

TSSやTSLSの除外はできない状況です


TSSやTSLSは「一匹でもいたらショックを離脱できない」と考えよ

と言われるような病態です


壊死性筋膜炎も同様の病態です


全身管理はもちろんですが、

同時並行でドレナージすべき部位があるかを一生懸命探す必要があります


今回の症例では造影CTまで施行しておりますが、どこにもありませんでした


そうなると全身管理と抗生剤しかありません

余力がない敗血症性ショックの状況ですので、エンピリックに治療を開始します


TSSやTSLSといった毒素病態を疑った場合は、

クリンダマイシンやIVIGも追加で投与されることがあります


今回の症例では明らかな毒素病態はなかったため、クリンダマイシンの追加は行いませんでした



そんなことを考えていたら、入院翌日の午前中には血液培養陽性の報告がありました


なんだと思いますか?



2022年1月19日水曜日

日本一早い朝カンファレンス 〜不明熱症例 コメント〜

70代 男性の不明熱





前半は救急外来での対応、後半は不明熱のアプローチのいい復習になりました

救急外来で担当したら、咽頭痛と発熱のカテゴリーで考え、感染症から検索に行くのが重要です

killer sore throatの鑑別で進めていくと良いですね


後半は頸部リンパ節腫脹と不明熱のカテゴリーでした

安易に抗生剤きりがちですが、本当に切っても大丈夫か?は考えなければなりませんね

不明熱は時間との勝負です

不明熱のemergencyになる疾患の除外をしつつ、感染症・腫瘍・膠原病の流れで考えていきます

感染症ではIE、結核、慢性EBV、梅毒、CMVが鑑別ですが、今回の症例多分違うでしょう

外堀を埋めるイメージで除外していきます


ただし、TBは除外できませんので、頭の片隅に置いておきます


腫瘍ではリンパ腫(IVL、AITL、Bcell系)、リンパ増殖性疾患(サルコ、IgG4、キャッスルマン、TAFRO)が疑われます

ここの鑑別は取るもの取るしかないので、取れそうなものがあればさっさと取るのが大事です

自分で取れるもの(マルク)は早々にしてしまいます

MDSがらみの不明熱は他のmimicになりやすいので、早々に検索にいきたいのが理由です

他の検体(皮膚、リンパ節、肝臓、脾臓、側頭動脈、TBLBなど)は自分では取れないので、

とってほしいことをいかに相手に伝えるかが重要です


同じ施設なら自分への信頼もあり話がスムーズですが、

信頼がない状況(研修医の先生や他院へ出向中)では、

患者さんの状態がこのままだとよろしくないことや自分の考えをしっかりと伝えて、

生検の必要性を理解していただく必要があります


生検で提出するもの(TBのPCRや抗酸菌培養)、フロサイトメトリー、細菌培養など、

事前に打ち合わせておく必要があります


とったら、全てホルマリン固定に入れると細菌学的な検索が不可能になってしまいます

TAFROに限らず、リンパ腫も徐々に衰弱し、血小板が下がってきます


炎症性疾患の行き着く先は、血球貪食症候群です

血小板が下がると身動きが取れなくなるので、下がる前に取るものと取ることが重要です


自分の経験では外来でリンパ腫を疑って、血小板も10万近くあったので数日後に予定入院でマルクをしたことがありました

入院で病棟に上がってからすぐにマルクをしたら、穿刺部からの血が止まりにくくて、

穿刺した瞬間に血球貪食になって血小板が下がっている!生検は危ない・・・と直感したことがありました

案の定、血小板が急激に下がっていて、血球貪食になっており、

未診断でしたが、ステロイドでダメージコントロールtherapyに進んだ症例もあります


マルクなら自分でできますが、リンパ節や肝臓や脾臓を刺してもらうハードルを上げてはいけませんので、

血小板が保たれている間に早めにお願いしておくのがポイントです


不明熱の治療に関しては、3つの武器が印象的でした

抗生剤、ステロイド、IL6阻害


どこで、どの武器を使うかを考えなければなりません

point of no returnが来る前にそれぞれの治療を開始します


その見極めが体液貯留(腹水、胸水、浮腫)や血小板減少、食事量低下、見た目の悪さなど総合的な判断が求められます

TAFRO Switchとよく言われますが、どこでTAFROと診断して、えいや!と治療するかが悩ましいです

その Switchを押すのは、一人ではなくみんなと一緒に押すべきです

TAFROの診断はリンパ節をとってもすぐにはできません

生検後にどれくらい時間が残されているかが重要です


生検が終わったら、いつでも治療できるように待ち構えます

ステロイド入れるので、HBVやTB、副腎不全、感染の除外といった外堀を埋める作業をしておきます

詰将棋のように、もうTAFROかキャッスルマン、サルコイドーシス、リンパ腫しかない!という状況に持っていって、あとは生検が答えをくれるはず!みたいな感じで、ステロイドを入れます


抗生剤のエンピリック治療みたいな感じですね

あとでde-escalationするように、診断がつけばそれぞれの疾患に対してのtaeget therapyに移ります

もちろん待てるなら、待ったほうが良いです


生検がnegativeだった時のことも考えておきます

不明熱診療は詰め将棋のような感じで(詰め将棋したことない人すいません)、

次こうきたら、こうしよう。それがダメだったらこうしよう。

みたいな感じで何手先までも考えておきます

検査と治療の両方を考えます


実際には、途中で新しい所見が出ないかをひたすら待ちつつ、患者さんと家族に現状を丁寧に伝え、

励ましつつ、自分の今後のプランを伝えることが安心に繋がります

患者さんも家族も不安でいっぱいなので、容易に医療不信に繋がり主治医を交代させられたり、

セカンドオピニオンを希望される方もたくさんいます


二人三脚のイメージで一緒に進んでいくことが重要です

患者さんからの信頼がなければ、生検はできません


不明熱診療で一番求められるのは中腰力です

診断がついていない不安定さに耐えなければいけません

正直、とても辛いです


そして、周りの先生方を上手に使うためには、指揮者としての立ち振る舞いが必要です


現状は知らない音楽団にいきなりいって、オーケストラの指揮しなさいと言われているくらい大変な状況です

大変な状況ですが、患者さんのために汗流して頑張ってください

2021年7月11日日曜日

朝カンファレンス 〜CTを撮らない努力をどれだけしたか?〜

 35歳 女性 主訴:腹痛

※一部症例は加筆修正を加えてあります)


profile:4年前に胆石発作で救急受診歴あり


セッティング:救急車で来院

ディスカッションポイント:診断

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これまでの情報で何の病気だと思いますか?


まずは若年女性の腹痛となので、

子宮外妊娠を含めた婦人科疾患(卵巣捻転、卵巣出血、PID)を思い浮かべたいですね

あとは胆石発作があることから、また胆石発作の可能性もあります


ただ、若年女性が胆石を起こすのは稀な気もしますね

背景に遺伝性球状赤血球症(HS)がないかは気になります

家族歴を聞いてみたり、データを確認したいですね


HSのピットフォールとしては、貧血がないと鑑別に上がりにくいことです


Hbが下がっていなくても間接Bil上昇とLDH上昇だけの人もいますので、

見つかっていない人もたくさんいます


なんでも体質性黄疸としてはいけません


Hbが正常でも間接Bilが上昇していれば、

末梢血塗抹標本とRetを確認しましょう

そして脾腫の有無を確認しましょう


詳しくは・・・



N Engl J Med 2017;377:1778-84.


ではそんなことを考えながら、救急車で来てもらいましょう

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腹痛の人が救急車でくる場合、痛みが強いとうまく病歴が取れないこともあります

そんな時は患者さんに聞くよりも、
お腹に聞いてみた方が早い場合もあります


いつもの・・・現病歴→身体所見→検査→治療の順序で進まず、

身体所見・検査・治療(対処療法)→現病歴になることもあります


今回はいかがでしたか?


M「今回はそこまで痛みが強くなかったので、普通に現病歴から聞けました」

T「はい、ありがとうございます。」


現病歴の取り方ですが、上手にとれていますね

自分の中の病歴の上手な取り方は、フランス料理のコースを順番に聞いていく感じです


今日は朝何時にご飯を食べて、午前中は何時に仕事に行って、
仕事は何をしていたのか
そして、昼ご飯は何時に誰と何を食べたのか?
その後、午後の仕事はどういった内容で、
何時ごろ、何をしているときにお腹が痛くなったのか?
お腹が痛くなって、その仕事を中断したのか?
仕事を早退して、自宅に戻ったのか?
痛みがあって、どうやって対応したのか?
痛み以外に伴った症状はあったのか?
すぐに病院受診せず、しばらく様子みたのはどういった理由か?
救急車できたのは、移動手段がなかったからか?痛みが強かったからか?
救急車は誰が呼んだのか?
車内で揺られて、痛みが増強したか?


みたいな感じで、今日一日の流れを頭に思い浮かべるように病歴をとります

フランス料理何食べましたか?と聞かれても

お肉とスープとフルーツと・・・
えっと、なんだっけ???

ってなるのと同じで、


前菜は何で、次に出てきたのは何で、
メインは何で・・・

と時間を意識して聞いていくと、人は詳細を語ってくれます


OPQRST2は、ピックアップ問診です


お肉の味はどうでしたか?
スープには何が入っていましたか?
料理の時間は何分かかりましたか?


って言われても答えにくいですよね


病歴をとるときは、ストーリーを描けるようにとりましょう


ストーリーとして病歴をとることができたら、今度は痛みの経過図を頭の中で完成させましょう

図を描けなければ、患者さんと一緒に作りましょう
今回はこんな感じのようです



ずっと痛みはあるみたいですが、時折、突出する痛みが出現します

では身体所見をとっていきましょう



腹痛の身体所見は自発痛と圧痛部位、最強の圧痛点を分けて考えることが大事です


圧痛はないけど、痛みがある部位は放散痛のこともあります
圧痛がある場合、突出する圧痛点がないかを探します


最強の圧痛点があれば、カーネット徴候の出番です


今回は2箇所圧痛点があって、一箇所はカーネット徴候が陽性だったようです


ACNESっぽいですね・・・・


何度も言っていますが、ACNESは他の腹痛の原因に合併することがあるので、ACNESを見つけても他の病気がないとは言えません


さて、この身体所見からどんな鑑別を考えて、次に何をしましょうか?





腹痛と聞くと、すぐにCT撮りたくなってしまっていませんか?


専攻医の先生が名言を言ってくれました
「CTを撮らない努力をあなたはどれだけしたか?」


確かにおっしゃる通りです
若年者への被爆のことを考えると、CTは極力避けたいです


診断をつけることも重要ですが、検査をどれだけ控えるかも同じくらい重要です




抗菌薬のnarrow is beautifulと同じです

診断の世界では、Minimum test  is kindly for  wallet  and  patient ですね



そして、救急の現場ではスピードも大事です

救急の現場に慣れてきたら、診断できたか?
だけを振り返るのではなく、

どれくらいの時間がかかったか?
ということも意識するといいでしょう




はい・・・ということで、今回は鑑別も大事ですが、
マネージメントの順番が非常に重要です



自分だったら、ACNESっぽい所見があるのであれば、
そこにまずはUSを当てます


そうはいっても虫垂炎や卵巣捻転、
子宮外妊娠に伴う腹腔内出血、憩室炎、尿路結石、上行結腸炎、腹直筋血腫がないかを確認します


USで何もなければ、やはりACNESであろうと考え、
皮疹がないかを背部までしっかり確認します


そして、痛みの最強の部位を同定し、局所麻酔のアレルギー歴を聞いて、
本人にACNESという病気を説明して、皮下注射を行います


それで痛みが全て消えてしまえば、ACNESの診断で良いかと思います

この時点で、CTは本人がとても心配であれば撮りますが、
基本は撮らないと思います


痛みが微妙に残っていたり、効果がなければ、CTを撮ります

痩せ型の女性であれば、読影が難しいので、
虫垂や卵巣などの同定のために、造影も考慮します


ということで、自分なら・・・・

1、超音波検査
2、局所麻酔
(効果微妙なら)
3、血液検査+点滴(アセリオ)
4、尿検査(HCG)
5、3と4を待って造影CT

の流れですね


今回は、検査の流れが非常に大事です
漠然と全部やればいいというものではありません

検査はなるべく少なくしないと、患者さんが負担するお金も高くなります
検査は最小限で診断できるのが理想です


実際はどう進みましたか?




はい、実際は採血とルートがとられて、ブスコパンが使われたようですが、

無効だったみたいです

その後、アセリオが投与されました


超音波検査にて右鼠径部の痛みの直下にヘルニア?のような構造物があり、

肥厚した神経?もすぐそばにあったみたいです


他に胆石や腹水などの所見はありませんでした


局所麻酔はその時点では施行されず、尿中HCG陰性を確認してCTへ進んでいます


CTでも右鼠径部に左右差がある鼠径部の構造物があり、

USの所見と同様でした(読影はスルーされていました)


鼠径ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアのような所見はなく、

虫垂炎や卵巣腫大、憩室炎はありませんでした



そこで、右鼠径部のヘルニア?構造物?による神経の絞扼が疑われ、

右下腹部の痛みに対して、超音波下に神経周囲のリリースが行われました

リリース後、痛みは消失しました


臍の右側の痛みに対しては、腹直筋と腹直筋鞘のリリースが行われ、

こちらも痛みは消失しました



ということで、どちらも神経絞扼が原因だった症例です


超音波やリリースに長けた先生が一緒だったので、

鮮やかに診断・治療ができていますが、

一般の我々だとこのプラクティスは難しかった気がします 笑



今回は皮下への局所麻酔は行われていませんが、

局所麻酔で痛みが消失したかどうかは、試してもよかった気がします


皮下の局所麻酔なら誰でもできます


局所麻酔で効果がなければ、さらにその下のリリースに進むというのが、

よかったのかなと思います


それにしても、今回の構造物はNuck管だったのでしょうか?

CT画像上は超音波で見られた構造物はとても小さいので、Nuck管なのかは不明ですね・・・



ACNESは浅そうに見えて、奥が深いですね 



神経が絞扼されている原因を突き詰めるというのは、大事な思考です


まとめ
・最強の圧痛点がある場合、腹膜刺激徴候を確認するのは当然だが、
 カーネット徴候も一緒にとる
→陽性(痛みが不変)と強陽性(痛みが増強)を分ける
 強陽性の場合、腹壁に問題があることを強く示唆する

・救急の現場では、検査の段取り・順序も大事
→少ない検査と短時間で診断できるのが、理想
 お金と患者さんに優しい医療を

・ACNESっぽい場合、なぜ神経が絞扼・障害されているかを考える
→皮膚に皮疹がないか、皮下に腫瘤や血腫がないか
 局所麻酔で改善なければ、超音波下でのリリースを検討

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