2020年6月17日水曜日

ボス回診 〜君の悩みは高尚だね〜

Y「お願いします、繰り返す腎盂腎炎で困っている方です」
---------------------------------------------------------------------------------------
80台 女性 主訴:悪寒戦慄(症例は一部改変・修正しています)

Profile:先月にも腎盂腎炎で入院歴あり

現病歴:
元々、過活動性膀胱に対して、ベタニス®️内服していたが、
効果がなかったので、ベシケア®️に半年前に変更されていた

1ヶ月前に悪寒戦慄を主訴に来院され、発熱精査目的に入院となり、
尿培からクレブシエラが検出され、CTRXで治療され軽快した

今回も同じように悪寒戦慄があり受診された

既往歴:糖尿病、過活動性膀胱、腎盂腎炎(半年前にも一度あり)、高血圧
内服:メトグルコ、ベシケア、アムロジピン
生活:ADL自立

バイタルは37.5度の発熱以外、問題なし

身体所見上、CVA巧打痛なし
右の腹部双手診で腎把握痛あり

他、熱源となりそうなfocusはなし

血液検査 炎症反応上昇のみ 肝胆道系酵素上昇なし
尿検査  膿尿あり、細菌尿あり
-------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション①繰り返す腎盂腎炎の原因は?

Y「・・・という方です。尿のグラム染色にてGNR largeが見えたので、
  腸内細菌系だと思われましたので、前回同様、CTRXで治療開始し軽快傾向です

  ですが、腎盂腎炎をここ一年で何度も繰り返しているので、今回は原因検索予定です
  今までは特に精査されたことはありませんでした
  
  具体的には、閉塞起点がないか探す目的でまずは超音波検査を行いました。
  そうすると、以前見られなかった両側の尿管が軽度拡張している所見がありました。
  水腎症はありませんでした。
  
  膀胱内に腫瘤性病変はなく、子宮はやや大きめの筋腫がありました。

  排尿後の残尿は50mlでした。

  超音波検査で両側の尿管が拡張している所見がありましたので、
  今後は造影CTや尿細胞診を行なって、癌の検索や後腹膜線維症のような病態がないか
  確認していく予定です

  膀胱尿管逆流がないかは、泌尿器科にコンサルトする予定です

  特に閉塞起点や膀胱尿管逆流がなければ、ベシケアに変更したタイミングなので、
  ベシケアによる排尿障害の可能性もあるので、変更を検討します」


ボス「ありがとう。今のプレゼンどう?何点?」


学生「えっと、80点くらいですか?」

ボス「笑 そう!?まあまあ、よかったんじゃない?100点でいいよ。」

Y「そんなにですか! 笑」


T「気をつけてね、今から落とされるから」

Y「僕もそんな気がしています 笑」


ボス「確かに、おっしゃる通りで腎盂腎炎を何度も繰り返している人の原因検索として、
   閉塞起点を調べるというのは、いいと思う
  
   あとは、VURとはいわないだろうけど、膀胱から尿がうまく出なければ、
   圧が尿管にかかってしまって、逆流したり、尿管拡張してもいいだろうね。
   
   とても論理的でしっかりしていて、そのプランでいいと思うよ

   ただね・・・君の悩みは高尚なんだ。


Y「高尚????」

ボス「そう、高尚なんだ。
   なんでかっていうと、前段が間違っている可能性がある。

 つまり「本当の腎盂腎炎」を繰り返しているの?

   腎盂腎炎と仮定して治療がうまくいったからといって、
   腎盂腎炎という診断にはならないよね

   腎盂腎炎の診断はとても難しいんだ

   市中感染症で敗血症を来しやすい感染症で、5+1の覚え方は知ってる?」


学生「髄膜炎のような中枢神経の感染症、肺炎、蜂窩織炎、腎宇腎炎、胆管炎とIEですか?」


ボス「その通り。その中でも髄膜炎はわかるよね、
   肺炎も呼吸器症状あるからわかりやすい、蜂窩織炎もしっかり診察すれば見落とさない
   難しいのは胆管炎と腎盂腎炎なんだ。
  
   どちらも診断する根拠が乏しいのが難点。

   腎盂腎炎の根拠としてよくあるのが、細菌尿や膿尿だけど、
   それって、無症候性の細菌尿や膿尿かもしれないよね。

   腎盂腎炎というためには、
   他に熱源がないということを証明しないといけないのだけど、
   現実的には毎回精査するのも難しい


   だから、まずは腎盂腎炎と暫定診断して治療を開始して、
   治療経過が思わしくなかったり、
   途中で違う異常所見が出てきたら、修正しながら治療していくんだ

   ただし、うまくいったように見えても、腎盂腎炎とも限らない。
   例えば、調べてなかった子宮留膿腫や肝膿瘍、IEだったかもしれない。

   今回も前回、前々回も、
  腎盂腎炎というのはあくまで「」つきで、
  本当に腎盂腎炎だったかを調べる作業が必要だ

  繰り返す腎盂腎炎の原因を調べるのはその後。





   例えば、本当に腎盂腎炎だったのか調べるとすると、
   尿培と血培の結果が一致したりすると傍証にはなるね

   どうだった?」  

Y「前回は血培は陰性でした、尿はクレブシエラが生えています。」

ボス「身体所見でもCVA巧打痛もなかったのかな?」


Y「前回も今回もありませんでした」

ボス「それって本当に腎盂腎炎なのかな?
   抗生剤入れてから、すっっと治っているのも変だよね。
   
   普通、腎盂腎炎って3日くらい熱が出たりすることもあるのに、抗生剤入れて翌日には解熱しているのも治りが早過ぎる印象だね。

  一過性に菌血症で有名な原因って知ってる?」
-----------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション②一過性の菌血症の原因は?

学生「うーん」

ボス「有名なのは、歯磨きなんだ
   
   そして、もう一つ。胆道系だね。
   胆管って腸管につながってるでしょ。

   そこで閉塞起点、例えば膵頭部癌とかがあって流れが悪くなると、
   一過性に菌血症を起こすこともある。

   だから今回も尿路系の評価も大事だけど、胆道系のところもしっかりチェックしてね。

   口から肛門までの消化管の一本道を
  進んでいく細菌たちは、大抵悪さしないんだ。
   
  でもね、その一本道から横道にそれた時に悪さする。

   
   人間も一緒でしょ?(ドヤ顔)」


T「今の絶対言うと思いました。笑」


ボス「あとは毎回、悪寒戦慄しているのに血培が生えてないって聞くと、
   考えることは、何かな?」

Y「実は悪寒戦慄ではない?とかですか」

ボス「そうだね、でも前回入院中にも悪寒戦慄があったようだし、
   医療者も見ているから多分、悪寒戦慄なんだろうね。

   もう一つは、血培で生えにくい菌の菌血症になっている可能性を考えないといけない。
   日常診療では、嫌気性菌だね。
   
   尿路感染症では嫌気性菌はあまり関与しない。 
   やっぱり胆道系が気になるね。

   あとは胃癌や大腸癌みたいな消化管に腫瘍がある時も同じように菌血症を起こす人がいるね。
   婦人科癌や直腸癌が膀胱と穿通してしまった時は、たくさんのGNRや嫌気性菌が悪さするけど、今回はそんな感じじゃないよね。」


Y「ありがとうございます。すっかり、腎盂腎炎の診断を鵜呑みにしていました。

  カルテの文字だけを拾って、この人は腎盂腎炎を繰り返している人だと
  インプットされてしまっていたので、その前段を考えることができていませんでした。

  繰り返す腎盂腎炎の原因を悩む前に、
 本当に腎盂腎炎でよかったのかどうかを確かめる努力をしす。

 T「画像で何も捕まらなければ、ベシケアを変更するのが現実的かなと思いました。
  もちろん、日常生活でのリスクファクターがあれば指導しようと思います。
   ありがとうございました。」





まとめ
・誰かがつけた「腎盂腎炎」の病名は本当に腎盂腎炎だったのか、疑う癖をつける

・「繰り返す腎盂腎炎」の原因を調べる時は、「繰り返す発熱」に問題を置き換えた方が良いかもしれない

・本当に腎盂腎炎が繰り返されているのであれば、解剖学的な問題と機能的な問題の検索を行なっていく

参考文献:伊藤裕司先生資料

You tubeでの追加解説動画:https://youtu.be/D_Ihu85YKXY




0 件のコメント:

コメントを投稿

今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

人気の投稿