2020年6月13日土曜日

研修医の先生との対話〜ACPとICF〜

夕方の振り返りにて・・・

まだ面談に慣れていない研修医の先生との対話


97歳女性 
心不全で入院していたが、軽快したため、
もともと入っている施設への退院が間近になった

心不全の治療経過と今後についての家族と面談後の振り返り

研修医「・・・何をどこまで伝えた方が良いのか分からなくて困りました。
    息子さんの反応があまりなくて、何でも歳だからという感じで、
    聞き流されていている印象でした」

上級医「そっかー。まあ、97歳だから歳も歳だし、
    もう家族としても覚悟ができているんだろうね。
    でも、具体的にそろそろ最期のことも考えないといけないよね。
    ACPって聞いたことある?」

研修医「あります。」


上級医「じゃあ、ALPは?」

研修医「ALPですか?初めて聞きました。」


上級医「いきなり、ACPはハードルが高い時もあるよね。

    例えば、外来主治医と家族や本人との関係性が強い時は、
    入院担当になって、初めましての研修医だとなかなか難しいことがある。

    でも現実は外来や在宅のセッティングでも、
    ACPできている先生は少ないんだよね。
    まあ、あえてしていない先生もいるだろうけど・・・

    現実は毎回、病気のコントロールのための質問や困っていることに解決する時間に
    追われていて、ACPまでする時間がないんだよね。

    在宅でも家族はその場にいなかったりして、なかなかご高齢の方だけだと、
    ACPは進まない。
   
    ACPは一回で終わるものではなく、あくまでプロセスだから
    何度も何度も重ねていくことが必要だけど、できれば家族も含めてやっていきたいよね。

    だから入院は一つのチャンスで、初めましての関係であっても、
    ACPはしても良いと思うよ。

    急変時の対応を話し合うことがACPではないからね
    具合が悪いと、一番最終段階(亡くなる時)から話さないといけないけど、
    落ち着いている時は、最期の場面から話す必要はない。

    話し方としては、ALPから始めるんだ。

    つまり今後の生活について話し合うってことだね。
    施設に帰ってからどんな生活をしていくか。
  
    例えば、たまに車椅子に乗って、家族と散歩に行ったり、
    自宅の様子を見に外出してみたり、好きだったお店に行ってみたり、


    という退院後の生活について話をすることから始めるんだ

    その上で、だんだんその生活が困難になってきた時の話もして、
    自力で立つことが難しくなってきたらどういうプランを立てるか、
    自力で食べることが難しくなってきたらどうするか、
    
    その延長線上に、最期を迎えるとしたらどこがいいか、
    
    という感じで話していく感じかな。」

参考:ACPについて


研修医「なるほど」

上級医「この患者さんがどう最後を迎えたいかを本人に聞いても、
    ちょっと難しいよね。

    そうすると、息子さんに聞かないといけないけど、
    今の息子さんの考えを鵜呑みにするのも考えものだね。

    大事なのは、患者さんを置いてきぼりにしないこと。

    人生の最期をどうするかということを、他の人たちが簡単に決めるのは
    よくないよね

    だからこそ、この患者さんが今までどういう生き方をしてきて、
    どういう性格だったかを、家族から聞くことが大事

    そこから自分の中でこの患者さんだったら、
    どういう最期がこの患者さんらしいものかを想像することが大事なんだ。

    一番いいのは、自宅にいくこと。
    この患者さんの歴史が垣間見えるから。

    百聞は一見に如かずだね。」


研修医「なるほど、今回の話も息子さんよりもお嫁さんの方が熱心に聞いてくれていました。
    お嫁さんは頑張りすぎてしまう感じで、自宅で生活していた時に、
    一時期疲れてしまったようです。」

上級医「そうだね、とてもいい情報です。
  
    男の人って未だに育児や介護に非協力的な人は多い。
    晩年、介護をしていたのは、お嫁さんだからお嫁さんの意見も大事だね。

    今回のキーワードは、ALPとICFです。

    ICFは知ってる?」


研修医「知りません」

上級医「国際生活機能分類と呼ばれるものだね」

研修医「それなら知ってます 笑」

上級医「ICFってとても大事なんだ。

    みんなさあ、カルテって何のために書くんだろうね。
   
    カルテって、その人の物語みたいなものじゃない?
    何年何月にこんなことがありました
    こんなこと話しました


    でもさあ、読んでいてわかりにくくない?

    何が分かりにくいって、情報を取りにくいんだよね。

    辞書みたいに分厚い本のようなイメージで、大事なところを探すのに苦労する

    
    せっかくいい病歴やいい物語があったとしても、分厚い本の中から、
    その一ページを探すのって、大変だよね。

    だからさあ、辞書にもタグや付箋がついているでしょ?

    そのタグのところ見れば、大事なことが書いてある。

    ICFはそのタグや付箋の最たるものだと思うんだよね。

    2年まえにICFが書いてあれば、そこから今の状態がどう変わったかがわかる。
    そして大事な物語を引き継ぐことができて、さらにupdateできる。
    
    医者って病気の専門家だから、病気の経過や薬の経過を書くのは得意なんだけど、
    患者さんの専門家でなくなってきているんだよね。
    だから、その患者さんの全体像が見えなくなってきている。

    退院サマリーを見ても病気のことばっかり。

    病気側から見る視点のカルテばっかりだと、その人のことを一側面からしか
    見ていないということなんだよね。


   入院した患者さんのカルテを書く時って、
   その患者さんの分厚い本の物語の中の数ページを
   書いているイメージなんだ。


    そこで大事なのは、あとでその物語を書くことになった人に、
    うまく情報を伝えるということ。

    そのためには、病気の経過だけではなくて、
    その患者さんの状態、つまりICFも一緒に記録して欲しいんだ。


        ぶっちゃけ、退院サマリー書くよりもICF書いて欲しいくらい。笑」


研修医「分かりました。」


上級医「この患者さんのフォローは自分でしないから、バトン渡す気でいたでしょ?」

研修医「はい、そう思っていました。」


上級医「じゃあ、この患者さんを退院後も自分が訪問診療していくことを想像したら、
    同じ情報量でいられた?
   
    これから、バトンを渡す側とバトンを渡される側のどちらも体験できるといいね。

    バトンをもらう側は常に退院後の生活について考えている。
    でも病院にいて、あとよろしく、ってなるとそこの考えが甘くなるんだよね。

    どこかで、退院後も訪問に行けるといいね。」


研修医「そうですね。行ってみたいです。」

参考:ICF


まとめ
・退院後の生活について考える時、バトンを渡す側にいると想像力が乏しくなる

・バトンをもらう側になったつもりで、退院後の生活を考える

・退院後の生活、つまりALPを話し合ってその延長線上にACPがある

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