2021年3月9日火曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜痛み編〜

超高齢者とは、2017年に日本老年医学会と日本老年学会が合同で定義しており、
90歳以上の方を指しています

当たり前ですが、90歳以上で寝たきりの人もいれば、畑をやっているくらい元気な人もいます


超高齢者診療シリーズと銘打っていますが、
どのような人の診療かというと、フレイルが進行し、寝たきりに近いようなADLで、
認知機能低下も目立ち、意思疎通が困難になっている人をイメージいただければと思います



今回は、超高齢者診療シリーズの「痛み」編です


いくつか超高齢者の痛みの特徴を挙げていきます


①そもそもそんなに痛がらない

歳を重ねると、痛みに鈍感になるためか、強くなるためかはわかりませんが、
痛みの訴えがそもそもない時があります

心筋梗塞の場合、痛みというよりは呼吸苦が主訴だったり、
大腸穿孔しているのに、腹痛の訴えが乏しかったり、
痛みが軽そうでも、重症だったということはよくあります


一方で、痛みの閾値が低くなっている人もいます
慢性的に疼痛に曝露されていると、疼痛閾値が低くなり、
常に痛みを訴える方もいて、診察が非常に難しくなります


そういう方を多くみていると、医療従事者もだんだん麻痺してきて、
「痛い痛い」といっている人に対して、鈍感になってしまうことがあります


施設入所中の認知症の人が、1ヶ月前から「痛い痛い」と言っていたけれど、
「どこを痛がっているかよくわからない」、「すぐに痛い痛いという人」ということで、様子をみられていました

結局、往診したDrが診察して大腿骨頸部骨折が疑われ、診断されたという症例もあります



歳をとることで、痛みに鈍感になることは致し方ありませんが、
我々が痛みを訴える人に対して、鈍感になることは許されません


痛みを訴える人には真摯に向き合って、鎮痛を開始したり、
痛みの原因を探す努力をしましょう



その時に痛み以外に注目するというのがポイントです

痛みは主観的な訴えであり、客観的なものも合わせて判断することが大事です

例えば、食事量、バイタル、意識、ADLです

これらが痛みの訴えと同時に下がっているようなら、
本当に病気があると思った方が良いでしょう


②病歴が曖昧だったり、正確にとれないことが多い

超高齢者の場合、四六時中、家族がそばにいることは稀です
一緒に住んでいても、食事以外は顔をみなかったり、
DSに行くことが多く、家族でさえ普段の様子を知らないことがあります


その時、一緒にきた家族から病歴をとる努力は必要ですが、
家族から病歴をとる時に必ず確認することがあります

それは「どのくらいの頻度で、この患者さんとあっていますか?」ということです

この答えが、「月に1回」「週に1回」「毎日」では、病歴をとる意気込みが変わってきます


月1回しか会っていない人に、多くの病歴は期待できません


それよりも毎日会っているヘルパーさんやDSの職員さんの方が、
日常の様子を知っている可能性があります

乳幼児の場合の病歴は、一緒にきている両親(もしくは祖父母)からとれば十分です

しかし、超高齢者の場合、一緒に来た家族からの病歴では不十分のこともあります
その場合、普段をよく知る人に電話をしてでも、病歴をとることが重要です


このように本人や家族からの病歴に限界があるのが、超高齢者診療の共通するところです
自ずと、診察や検査の役割が重要になってきます



③歴史があるので、歴史に聞く

既往歴ではなく、あえて歴史と言っているのには訳があります


例えば、意識を失って救急搬送されて、意識は元に戻っている
そんなことが、過去に3回あった・・・
でも一度もしっかり、診断を受けたことはない


こういった「既往にならない既往歴」というものがカルテに埋まっている可能性があります


それ以外にも、画像歴、カメラ歴、入院歴、細菌歴、ACP歴など
その患者さんの歴史を紐解くことで、診断へのヒントが見えてきます


例えば、背部痛を主訴に超高齢者が受診した場合、圧迫骨折かな?と考えたくなります
ですが、以前のCTで腹部大動脈瘤があれば、大動脈瘤の切迫破裂を疑いますよね

診察をする前に、患者さんのイメージを膨らませてから診察に臨むことが重要です




診察のコツ

もちろん、ケースバイケースですが、
超高齢者診療では病歴よりも診察が大事になることが多い印象です


ですが、認知症があって意思疎通が十分とれない人の場合、
痛みの局在がはっきりしないことが多く、普段の診察よりも丁寧な診察が求められます


「痛くない」と言えることは、実はとても重要です

どこを触っても「痛い」と言われた場合、
「痛くない」診察方法(触るだけ)や「痛くない」場所からまず探しましょう


他の診察のコツとして
・表情を見る
・再現性をみる:時間を変えて、深さを変えて、人を変えて
・比較する:左右、胸と腹、手と足
・普段を知っている人と一緒に診察する
・別のどこかに集中させて、診察する

などが挙げられます

皆様は自分の中で大事にしているコツはありますか?



四肢の痛みの場合、まずは痛い場所をみます

帯状疱疹であれば、すぐに診断がつくためです
ですが、チラ見だと見逃します
虫眼鏡で見るような感じで、じっくり探してください


じっくり、皮疹がないかを確認した後は、
腫れているか、赤くないかを確認します

次に触ってみて、熱感があるかを確認します
そして、押して痛みがあるかを確認します
まずは大雑把に触って痛いと言われたら、細かく触ります

最後に動かしたり、ストレスを加えて痛みがあるかを確認します

これらの診察で、炎症が存在しているかどうかを評価します

主観的な「痛み」から、
客観的な「炎症による痛み」に変化させることができれば、
鑑別が大きく変わります



最後に診察してもよくわからない時には、
リウマチ性多発筋痛症(と同時にIE)、骨メタ(と同時に白血病)、多発骨折(と同時に夜間にいつのまにか痙攣発作)、薬剤、内分泌(甲状腺、副甲状腺、副腎)を考えましょう



まとめ
・超高齢者診療の極意
「歴史に聞く(既往、既往にならない既往、画像、入院歴、カメラ歴の確認が大事)」
「いつもの状態を知っている人に聞く(食事量やバイタルなどの客観的な異常がないかどうか)」
「身体に聞く(診察が大事)」









2021年3月8日月曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜意識障害〜

 超高齢者の場合、意識障害がそもそもあるのかどうかの判断が非常に難しいです


そこで有用なのは、もともとのベースとの比較です


小児診療の時に大事なフレーズがここでも生きてきます

「いつもと比べて、どうですか?」


これが超高齢者の診療でも非常に重要です


超高齢者の場合、認知症や脳梗塞の影響で意識レベルのベースは色々です

今、目の前の患者さんが、もともとの意識レベルなのかどうか我々にはわかりません


なので、「意識障害」の有無を確認するために、普段をよく知る人から話を聞きますが、

普段を知る人は、家族とは限りません


月に1度しか会わない家族よりも、ケアマネや訪問看護、ヘルパーさんの方が、

普段の状況をよく知っていることもあります


普段をよく知っている人から、「いつもと様子が違う」ということを聞き出せたら、

今度は具体的に「何が違うのか」を聞き出します

特にADLや食事量、行動、発話量に注目します






「いつもと様子が違う」=「意識障害」ではありません

高齢者の場合、「意識障害」というカテゴリーで考えた方が良いのか、一度立ち止まる必要があります


私たちは、目の前の患者さんのプロブレムを「あるカテゴリー」に入れることで、

そのカテゴリーの中で、診断までアプローチしていきます


胸が重苦しい・・・と言っている患者さんの場合、

我々は「胸痛」というカテゴリーで考え、「心筋梗塞」まで診断していきます


ここにピットフォールがあります


「失神」のカテゴリーで考えていたら、実は「意識障害」だった

「意識障害」のカテゴリーで考えていたら、実は「失語」だった

「認知症」のカテゴリーで考えていたら、実は「高度難聴」だった

「急性の意識障害」のカテゴリーで考えいてたら、実は「慢性の意識障害や認知症(そもそも変化なし)」だった


というように、

「カテゴリー」を入れ間違えてしまうと、我々は診断を誤ります


超高齢者の場合は、意識障害に見えて実は違うカテゴリーのものがたくさんあるので、
実は〇〇じゃないか・・・と自問自答してみてください


よくあるのは、失語や視野障害、難聴の場合に、意識障害と間違えてしまいます




超高齢者の意識障害はかなり非特異的な所見です
正直、これで診断に迫れるかというと難しいです


なぜなら、老年症候群の一症状として出現していることも多く、
脱水や感染、消化管出血、薬、心筋梗塞などでも意識障害が前面に出てくることもあります


つまり、意識障害だけであれば、なんでもありな状態です


そのため、超高齢者の場合の意識障害では特に、+αを探す必要があります


頭か頭以外かを見極めるためには、focal signを探します
arm dropや筋の収縮、トーヌスの左右差を見ることで、軽微な麻痺を見つけることができます


感染症による意識障害かを見極めるためには、発熱に注目しますが、
発熱がないことも多いので、原因不明の意識障害の場合は、感染症を隅々まで探す努力が必要です

そして、他に原因がなければ、血液培養は必ず採取します
抗生剤まですぐに投与するかは、ケースバイケースです


発熱+意識障害で、頭をよぎるのは、髄膜炎や脳炎です
頭の中に思い浮かべるだけでよく、全例に髄膜炎対応をする必要はありません

ただ、どうなったら髄膜炎をより積極的に疑い検査や治療するかは考えておく必要はあります




超高齢者の意識障害で、救急外来のセッティングで行き着く先は、非痙攣性てんかんです

非痙攣性てんかんはよく見ると、小さな震えやぴくつきがみられることが多く、

その目で見ることが重要です



実際の対応


超高齢者診療で大事なことは、結局、よくわからなかったけど、

時間が経ったら治ってしまうことが多い、という事実です


救急外来の対応としては、

①〇〇対応(tPA対応、髄膜炎対応、緊急カテ)や敗血症のような緊急で処置や治療が必要になる疾患を除外する

老年症候群としての意識障害の場合、

胸痛がなくて心筋梗塞だったり、発熱がなくても敗血症ということはよくあります

やや網羅的になるかもしれませんが、緊急事態でないということは確認しましょう


②緊急で対応が必要な疾患ではない場合は「時間」に身を委ねる

緊急で処置や治療が必要な疾患ではなければ、

軸足をどこかに置いて、ゆっくり腰を据えて待ちます


例えば、尿路感染症疑いで脱水傾向もあり、意識障害を起こしていると思われるので、

輸液と抗生剤をして、明日まで待とう

老年症候群の一症状としての意識障害なら、明日には今日よりもよくなっているはずだ

もし、意識障害が遷延するようなら、髄膜炎も考慮して髄液検査も考慮しよう

あとはfocal signは目立たない視床梗塞の可能性もあり、MRIを検討しよう

それらが問題なければ、非痙攣性てんかんの可能性もあり、脳波やセルシンをトライしよう


みたいな感じで待ちます


ただ入院させて時が過ぎていくのではなく、これは時間が解決してくれるはず!という感じで、

受け身の姿勢で待つのではなく、積極的に待つイメージです



まとめ

・超高齢者の意識障害を認識するためには、普段をよく知る人から「いつもと様子が違う」ということを聞き出すことから始める

→次に、普段のADLや行動、食事量、会話内容、発話量が、元々と比べて、何がどう違うかということを聞く


・超高齢者の場合、意識障害だと思ったら、実は〇〇ということがある

→実は失語だった、実は視覚障害や半側空間無視だった、実は難聴だったというのは、

 実は詳細に診察すればわかる


・超高齢者の意識障害の診療は「時間」を意識する

→救急外来では、タイムリミットがあるもの、緊急で対応が必要なものをとりあえず除外する

 入院後は「時間」が経つと、見えてくるものがあり、積極的に待つ


2021年3月6日土曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜行き着く先は?〜

 95歳 女性 主訴:意識障害(※一部、症例は修正・加筆を加えています)

Profile:DMで近医かかりつけ

現病歴:前日、デイサービスに行って、帰ってきてからぐったりしていた

来院当日、朝からいつもと様子が違うため、救急搬送となった


既往:高血圧、糖尿病、胆管炎

内服:ジャヌビア、メトホルミン、グルメピリド、アムロジピン


バイタル BP 120/75, P 80 , SPO2 95%, T 36.4, 意識 JCS3 

自発開眼している、名前を言ってもらおうとしても言えない

自分で発語はしない、追視はしてくれる

離握手もできない、指示は入らない

粗大な麻痺はなし



普通の意識障害の鑑別はどう考える?

1、教科書的にはAIUEOTIPSで網羅的に

2、実際のアプローチ

 ①血圧をみて、頭蓋内病変か全身疾患かを考慮

 →血圧高めであれば、頭蓋内から考える

  広範囲な脳梗塞を想起する場合、大動脈解離も忘れずに!


 ②全身疾患であれば、足りない系か、溜まっている系か

 暴れていると足りない系(低血圧、低血糖、低酸素)の可能性を 

 →すぐに血圧と血糖チェック

  

 ちーんとしていれば、溜まっている系(CO2、尿毒症、高アンモニア、電解質異常)を

 →血ガスや血液検査をチェック


3、意識障害の人の神経診察

 

意識障害で指示が入らなくても、神経診察は重要です

もし、focal  sign(失語、失行、失算、視覚障害、軽微な麻痺など)があれば、
脳梗塞や脳出血、CSDHを強く疑います

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スモールグループディスカッションにて:この後どうしますか?


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4、自分の手札をきるイメージで考える

意識障害の実際の考え方は、「時間」が限られているものから考えます

・tPA適応で動くか
・髄膜炎・脳炎対応で動くか

focal signがあれば、tPAの時間内であれば、tPA対応として動きますし、
項部硬直や発熱があれば、髄膜炎・脳炎対応で動きます


この二つの可能性が低いことがわかれば、じっくり原因検索を行います

自分の手札(検査や治療)を駆使して、意識障害の原因を調べていきます


簡単ですぐにわかるものから → 侵襲的・時間のかかる検査へ

・病歴
・既往・薬物・中毒
・神経診察
・血液ガス:CO,CO2,糖
・血液検査:内分泌系、NH3、コルチゾール、電解質
・血液培養
・頭部CT
・各種チャレンジテスト:セルシン、VB1、麻薬中毒疑いであればナロキソン
・MRI
・髄液検査
・脳波
・神経内科Drの診察
・特殊検査

・診断的治療:
原因不明の自己抗体関連脳症・脳炎(橋本脳症、NMDA受容体、抗GAD抗体関連、抗VGKC抗体関連、MOG抗体関連、パラネオ)や膠原病関連の脳症・脳炎(神経ベーチェット、神経ループス、神経sweet)、脱髄疾患(MS、NMO、ADEM)、中枢神経原発血管炎、中枢神経原発悪性リンパ腫、ビッカースタフ型脳幹脳炎が鑑別だが、まだ診断が確定していない時のステロイドパルスや血漿交換、IVIG治療
結核性髄膜炎以外ありえない状況で、point of no returnに差し掛かっている時の抗結核薬



AIUEOTIPSのような病態で考えるのもありですが、
検査ごとにわかる病気で考えた方が実践的です




これらの手札をどの順番で切るかには、病歴や診察も重要ですが、
疫学を知っておくことも重要です


自己抗体関連脳症は、とても稀な疾患で最初から考える疾患ではありません

高齢者の意識障害で、commonな疾患は非痙攣性てんかんです

しかも診断しにくい・・・


検査で判明しにくい疾患群の場合は、チャレンジテストで診断します

その代表が、NCS(非痙攣性てんかん)とVB1欠乏です


ただし、超高齢者にセルシンをうつのは、
呼吸のサポートがしっかりできる状態で行いましょう



そして、全ての手札を切りきった後に何が残るか・・・


この患者さんの行き着く先は何か・・・


そこを押さえておくと、検査が空ぶった時でも焦りません

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結局、本症例は・・・


左被殻の急性期の脳梗塞でした
視床かと思っていましたが、被殻でした

「視床梗塞を鑑別に入れたら、被殻梗塞もクラスター的に考える」というのが、自分の中のパールとして生まれました



被殻梗塞で意識障害???


詳しくは・・・


top of basiler  をご参考ください


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学び

・意識障害は鑑別がたくさんあって、総合的に考えないといけない

・意識障害と聞いて、ぼんやりと考えていたが、明確に一つずつ鑑別を消していく作業が必要

・自分の手札を切った時に、何が残るかを考えたことがなかった

 国試では必ず、どこかに行き着くが、現実の臨床ではどこに行き着くかわからないのが、難しい


まとめ

・意識障害のアプローチはケースバイケース

→AIUEOTIPSは実はあまり実践的ではない・・・


・自分の持っている手札(検査や治療)が何かを考え、どの順番で手札を出すかを考える

→手札を出す順番は病歴や診察で決める

 網を投げるようにルーチンに検査を出しまくって、何か引っかかるかな?という診療では、

 診断力は向上しない


・最終的に手札を切りきった後に残る疾患が何か、行き着く先を考える

→検査だけでなく、診断的な治療が必要な場面もある


2021年3月5日金曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜発熱編〜

92歳 女性 主訴:発熱(※症例は一部、修正・加筆を加えてあります)

Profile:2日前まで入院していた

    ADLは全介助、寝たきり、認知症ありコミュニケーションは簡単な会話のみ

HPI:9日前に胆石性の胆管炎で入院

   ERCP・ESTが施行され、抗生剤治療にて2日前に退院

   抗生剤は7日間投与された

   その後、自宅に帰ったが、来院日、38度の高熱あり

   救急受診

ROS:自分から苦痛を表現することはない

   嘔吐なし 下痢なし

既往:スタンフォードAの大動脈解離(保存治療のみ)、胆管炎

   高血圧、糖尿病、認知症、圧迫骨折・骨粗鬆症、偽痛風

内服:アムロジピン、カンデサルタン、ジャヌビア、ワンアルファ、抑肝散


バイタル NP 145/80. P 90, T 38.0, SPO  96%

意識 いつもよりややぐったり、発語はあり

心雑音 拡張器雑音あり

呼吸音 左右差なく清

腹部 平坦 軟 圧痛なし 肝巧打痛なし

左膝に軽度熱感と圧痛あり 腫脹はわずかで穿刺できるほどではない

皮膚 皮疹なし 静脈炎を示唆する所見なし

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診断は?


まあ、無理です 笑

無理ですが、考え方は色々あります


まずは少し前まで入院していたので、入院中の発熱の考え方で考える方法です


1、入院になった疾患に関わるもの:今回であれば、胆管炎です

 実は胆管炎じゃなかった説や治療不良だった説

 肝膿瘍になってしまったなどです


2、入院後の治療介入によって起こったトラブル:今回であればERCPや抗生剤投与です

 入院自体のストレスも偽痛風を誘発することがあります

  CDIや静脈炎には注意が必要です


3、その他

 全く関係ないことです

 実は腫瘍熱だったとか、同室者がインフルエンザにウイルス感染していたとか 



外来であれば、5+1と、15+1(4つのシリーズ)で考えます



これらの考え方はとても有用ですが、

超高齢者の場合は、考え方を変える必要があります


超高齢者の発熱には若年者や高齢者とは異なる10の特徴があります


①認知症や脳梗塞後遺症のため、

コミュニケーションがうまくとれないことが多い


結果として、他の施設職員や家族の話が重要になりますが、

常日頃、一緒にいるわけではないので、病歴があまりとれないことが多いです


病歴の重要性が下がってしまい、逆に身体所見の重要性が上がるのが超高齢者の発熱の特徴です


そして、検査や画像に頼らないといけない場面も多々あります


②これまでの歴史がある


これまでに入院歴や治療歴、培養歴がある人が多いです

誤嚥性肺炎や腎盂腎炎、胆管炎、蜂窩織炎を繰り返す人は大勢いますので、

そこから考えるというのがリーズナブルです


そして、これまでの尿培や喀痰培養は、治療を進めていく上で参考になりますので、

必ず目を通すようにします


抗生剤の治療歴も多く、抗生剤のアレルギーや薬剤熱を起こしたこともあるかもしれないので、要チェックです


③薬をたくさん飲んでいる


免疫抑制剤(ステロイド)を飲んでいたり、解熱剤を飲んでいたり、

近医でこっそり抗生剤が出ていたりします


超高齢者が具合が悪くなって、病院にきた場合に、

まず考えることは、薬が原因でないか?ということです



④弱っている臓器がある

喫煙によって肺がボロボロの人やBPHがあって尿が出にくい人、

胆石があり、胆管炎になりやすい人・・・

このように局所免疫が弱り、感染しやすい臓器があることが多いです


そして、ダメージを受けやすい臓器があります


例えば、腎盂腎炎になったら、すぐにイレウスになってしまう人や

意識障害のプレゼンテーションでくる人など・・・


感染臓器以外の症状がメインでくる人もいるので、とても診断が難しいことがあります


そういった場合も過去の歴史が重要になります


⑤BioよりもPsycho,social,ACPが治療方針に関わる

本当は入院適応だけど、認知症のせん妄が強すぎて、

入院自体にデメリットが大きい人や

寿命があまりない人で、できるだけ自宅で生活したい場合は、

広域の抗生剤を処方し、外来で治療することもあります


「その患者さんが何の病気を持っているかよりも、

 その病気を持っている患者さんが、どんな患者さんか、ということの方が大事である」


という言葉があるように、病気の診断も大事ですが、

目の前の患者さんの家族や置かれた環境も非常に大事になります


⑥余力がない人が多い


90歳代の人が発熱を主訴にきた時点で、ほぼ間違いなく入院を考えます

入院できない理由がない限りは、入院させた方が無難だと思います


数時間後に、何があってもおかしくない方々ですので、慎重に対応した方が良いです



⑦処置が必要になることが多い


解剖学的な異常や閉塞起点を伴う感染症が、若年者よりは多く、

処置が必要になることも多いです


ただ、侵襲的であったり、認知症で本人からの意思疎通がとれない可能性もあり、

家族との話し合いが必要になるケースが多いです

感染症の処置は可逆的な病態なことも多く、非常に悩みます


⑧オッカムよりもヒッカムが大事

蜂窩織炎だと思ったら、誤嚥性肺炎も合併していて、偽痛風もあった

とかはザラにあります


腎盂腎炎でぐったりしているなあと思ったら、脳梗塞にもなっていた

とか、感染症が加わることも多いですが、非感染症も加わることは多いです


⑨非感染症の割合が増える


発熱と聞いたら、普通は感染症を考えますが、

超高齢者の場合、外傷(骨折)や血腫、大動脈解離、腫瘍、薬剤などの

非感染症の可能性が若年者に比べると、高くなります


特に骨折は明かな外傷がなくても見られることがあり、

施設に入っているから大丈夫とは思わないでください


⑩原因が不明になることが多い


痰が少し汚いし、酸素化が少し悪く、C Tでは肺炎像が少しありそうで、

尿は膿尿や細菌尿で、皮膚も少し赤いところがあって、

肝胆道系酵素が少し上がっている・・・


これが、現代版不明熱です

抗生剤で治りますが、結局何だったの?という答えは不明なことが多いです


自分が何と戦っているのかを明確にしておくことが重要です




このように超高齢者の発熱は、他の若年者や高齢者とは考えることが異なります


ちなみに冒頭の症例の最終診断は、スタンフォードAの大動脈解離の再解離でした


病歴が全然とれず、これまでの歴史に注目する必要があり、
非感染症の割合が多いという特徴が当てはまった症例です


まとめ
・超高齢者の発熱の考え方は、特殊
→病歴がうまくとれず、診察や検査が重要になる場合が多い

・弱っている臓器や感染を繰り返している臓器があることが多く、まずはこれまでの既往をチェックする
→これにより、診療をスムーズに進めることもできるし、アンカリングされる危険もある

・感染症をとことん探して、何も見つからない場合は、非感染症も考える
→骨折、血腫、副腎不全、偽痛風、PMRなど

2021年3月4日木曜日

Road to POEMS 〜パズルのピースを集めよう〜

2018年の造血器腫瘍ガイドラインより

POEMS症候群では末梢神経障害によるPS不良,全身体液貯留傾向があり,無治療で自家移植を行うと,生着症候群を含む移植関連毒性が増加する。また,血清VEGF値は治療効果に対するバイオマーカーであり,移植後のVEGF値は再発に対する強力な予後予測因子となる。したがって,多発性骨髄腫と同様,適切な寛解導入療法を行い,血清VEGFの低下とともに全身状態を改善させた上で,より安全に移植を行うことが望ましい。これまで移植非適応・再発難治例において,サリドマイド等の新規薬剤の有効性が報告されており移植適応例においても寛解導入療法としてサリドマイド+デキサメサゾン療法の有効性が報告されている。サリドマイドは100 mg/日から開始し,効果・副作用により投与量を調節する。サリドマイド不応例については,デキサメサゾン併用レナリドミド,ボルテゾミブによる治療を考慮する。レナリドミドについては,幹細胞採取効率を低下させないように,3~4コースの短期間の治療にとどめなければならない。現時点では,これらの新規薬剤はPOEMS症候群に対し国内保険適用外である。

 

でしたが、ついに、、、

2021年2月にPOEMS症候群に対して、サリドマイドが保険適応になりました!

千葉大の先生方のご尽力のおかげです



ということで、一部の先生方にとっては朗報なのですが、

我々はまずPOEMSの治療の前に診断を頑張らなくてはなりません・・・


POEMS症候群は診断が難しいのですが、見るひとが見ればすぐに診断できてしまいます

このような疾患群のことをパズルのピース系鑑別疾患と名付けています


最初にまさにパズルのピースだなあと感じた疾患は、アミロイドーシスです


難治性の心不全で、腎機能が徐々に悪くなってきて、

貧血もあって、圧迫骨折も出現してきた

何だか消化器症状が多くて、起立性低血圧も見られる


普通に考えれば、

心不全に対して、利尿剤を使っていて、腎機能が悪くなったのであろう

ADLが下がってきて、骨粗鬆症になって圧迫骨折を起こしたんだろう

糖尿病もあるので、消化器症状や起立性低血圧もあるんだろう・・・

仕方ないよ・・・そりゃ・・・


で済ませるか、


全てはアミロイドーシスが原因ではないか?と思いつけるかどうかで、

患者さんの未来が変わってくるかもしれません


こういった患者さんの症状や兆候を虫の目のように、一つ一つ分析するのではなく、

鳥の目を使って、全体像を見ることができれば、診断に辿り着くことができます



気がついた時は、アハ体験のような感じです

一度、思いつけば、あとはパズルのピースを探して、埋めていくだけです
そして、最後のピース(アミロイドーシスであれば生検)を埋めることで、診断が確定します


アミロイドーシスがパズルのピース系鑑別疾患の筆頭ですが、
頭文字が並ぶ系はだいたいこの疾患群です
TAFROとかPOEMSとか

何だか全身の臓器にトラブルを抱えていて、診断が生検じゃないと難しいものは、
このカテゴリーに入ると思われます


Road to POEMS

実際にPOEMSを診断したことはありませんが、カンファではよく出てきます


カンファだと自分が当事者ではないので、「鳥の目」を使って聞いています
なので、患者さんの全体像が見えやすく、比較的POEMSには気がつきやすいです

ですが、実際に患者さんを見ている時は、虫の目で患者さんを見ている気がしていますので、見逃しているのかもしれません・・・


POEMSのゲシュタルトは
数ヶ月前から痺れが出現し、次第に力の入りにくさを自覚し、プライマリケア医が困って、
神経内科へ紹介するパターンや

全身の浮腫が出現して、病院を受診したところ、
胸水や腹水も溜まっていたが、色々調べても原因不明で循環器や消化器内科のDrが困っているパターンなどが典型的です



キーワードは原因不明の痺れや浮腫・胸水・腹水です

そんな時にPOEMSを疑うことができれば、皮膚をチェックしにいきます

皮膚をその目で見れば、異常が捉えられることが多いですが、
その目で見ないと、「まあ、こんな皮膚の人もいるよな〜」で終わってしまいます

POEMSメガネをかけて診察することが重要です



サリドマイドが保険適応で使えるようになりましたので、早期に診断をつけて、

専門家の治療につなげることがより一層求められる疾患になりました

まずは疑うことを閾値を低めにやっていきましょう


まとめ

・「パズルのピース系鑑別疾患」がある

→アミロイドーシス、POEMS、TAFROなど

 一つ一つの異常に目を向けるのではなく、一歩引いて全体をパズルのピースのように捉えると、

 ある疾患群が浮かび上がってくることがある


・POEMS症候群を疑う状況は、原因不明の痺れや脱力、原因不明の浮腫・胸水・腹水

→疑ったら、まずは皮膚のチェック:多毛、色素沈着、チアノーゼ、バチ指を探す


・POEMSにサリドマイドが保険適応になった


2021年2月26日金曜日

ナツメグ中毒 〜隠し味にご注意〜

屋台のカレーを食べた後から、頻回嘔吐を繰り返す中年女性
カレーが原因っぽいが、当たったものとはなんだったのか・・・


僕は全く思いつきませんでしたが、現場ではgoogle先生にコンサルトして、
ナツメグ中毒の可能性を考慮されたようです


ナツメグ中毒????


カレーにそもそもたくさんナツメグ入れないんじゃないか?
普通に毒素性の食中毒じゃないの?

・・・などなど総ツッコミがなされましたが、
正直、聞いたことありませんでしたので勉強して見ました


ナツメグ中毒

ナツメグはスーパーにも普通に売っており、非常にアクセスしやすい香辛料です
ハンバーグをはじめとした肉料理などの香辛料として使用されます


ただ、分量を間違えたり、子供が誤って大量に摂取してしまうと中毒症状を引き起こします
近年では、TV番組でもとりあげられており、一般の人の方が認知度は高いかもしれません



ナツメグの中のミリスチシンやエリミシンの代謝産物が、
MAD阻害作用や覚醒剤様作用を引き起こし、中毒症状が出現します

トキシドロームの中では、抗コリン作動性クリーゼの症状に類似することもあるようです


精神症状も多く、幻覚や興奮、不安といった症状が見られることもあります





中毒症例は、興味本位で幻覚作用を求めて使用した例や自殺目的で使用した例など、
中毒になる理由は様々です

意図していない人と、意図して摂取した人では、
重症度は意図して摂取した人の方が重いです

興奮作用や幻覚作用を求めたり、自殺しようとしているので、
摂取量が多いためと思われます


世界的には2例死亡例がありますが、一例は子供で、
もう一例はフルニトラゼパムも一緒に内服している症例で、どこまでナツメグ中毒が死因に影響しているかは不明確です

現在までに、1世紀に1人の割合でナツメグ中毒で死亡しています


難しいのは、ナツメグ中毒を疑うことと、確定診断することです


ナツメグ中毒を疑う状況をまとめました


①トキシドロームの視点から疑う

救急外来にいつもと様子が変な人が来たら、何か薬の中毒ではないか?もしくは離脱か?
と疑うことは非常に重要です


その後はトキシドロームの観点から、
抗コリン性か、コリン作動性か、交感神経賦活系かを見極めます

場合によっては、トライエージを行うこともあるかもしれません


その時に、どれとも言えないトキシドロームで、トライエージでも何も引っ掛からず、
食事以外に何も摂取していないというアリバイがある時は、
ナツメグ中毒を疑って、食事の内容を確認してください

手作りハンバーグやスパイスましましカレーなどは、注意が必要です


このパターンの場合は、意図していない摂取ですので、
こちらからしっかりと病歴を聴取する必要があります


②自殺企図や興味本位で大量に摂取した場合

本人が申告してくるパターンです

この場合は、診断が容易なので不整脈に注意しながら、輸液して経過観察していれば、
自然に改善してくると思われます


問題は他の薬を一緒に摂取していないかです


ナツメグはレクリエーショナルドラッグとしての側面があるため、
同時に大麻や覚醒剤、危険ドラッグなどを摂取している可能性を考慮します


前述したトキシドロームという概念は中毒診療において、非常に重要ですが、
落とし穴があります


それは、同時に他の薬剤や農薬、違法薬物などを摂取している可能性があるということです

いろんな作用のある物質を同時に摂取することで、既存のトキシドロームにスッキリ分類できないことがあります


③毒素性の食中毒やスコンブロイド中毒、食後のアナフィラキシーと、
診断しそうになった時に考える

これらの共通点は、
食後数時間で嘔吐や皮膚紅潮、頻脈などの症状で発症し、自然軽快するというところです
アナフィラキシーも軽いものは自然に良くなります


この場合も食事内容の問診が重要になります

魚の場合は、スコンブロイド中毒やアニサキスによるアナフィラキシー
ハンバーグなどの肉料理やカレーの場合は、ナツメグ中毒
おにぎりの場合は、ブドウ球菌の毒素性の食中毒
作り置きのパスタやチャーハンは、バシラスセレウスによる毒素性の食中毒


どれも症状は類似しているので、食べたもので鑑別の優先順位をつけていく必要があります





ナツメグ中毒の確定診断は非常に難しく、ほとんどが臨床診断です
そのため、報告例が多くありませんが、実際は見逃し例が多そうです


確定診断のゴールデンスタンダードはなく、
血清もしくは尿のミリスチン濃度測定によって、傍証になる可能性はありますが、
日本では行われていません


やっぱり、病歴が大事ですね
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今回の症例の結論はわかりませんでしたが、輸液で自然軽快していますので、
③のパターンでした

トキシドローム的には、
縮瞳や身の置き所のなさや顔面紅潮は、抗コリン性の症状だったのかもしれません



カレーにナツメグがどれくらい入っていたかわかりませんでしたが、
これまで食べたことのないくらいスパイスがきいていたとのことでした


あながち、身近に潜んでいるのかもしれませんね、ナツメグ中毒

隠し味にご注意です


まとめ
・ナツメグ中毒は見逃されている可能性が高い
→ナツメグ中毒を疑う3パターンを知っておく

・食事後の嘔吐や具合が悪い人の場合、食事の内容をより詳しく聞く必要がある
→どこで買ってきたものか、手作りか、料理に香辛料としてナツメグを入れていないか、まで聞かないと診断できない

・自分が知らない病気だからといって、すぐに否定しない
→「無知の知」を知る機会を与えてくれた研修医の先生に感謝です

昼カンファ 〜あたったものは何?〜

今回はNEJMのclinical problem solving的な解説でお届けします

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閉経後の中年女性が「頻回嘔吐」という主訴で、
午後の救急外来にwalk inでこられました


本日の午後から吐き気と嘔吐が出現しています
嘔吐は頻回で数えきれないくらいでした

嘔吐の他に、身の置き所のなさもありました
下痢や腹痛、頭痛、胸痛はありませんでした

内服薬はありません
特記すべき既往もありません
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ここまで聞いて、まず何を考えますか?


特記すべき既往がなく、常用薬のない元気な中年女性の頻回嘔吐という症状です


今回は嘔吐がメインの症状であり、下痢や腹痛がないため、
胃腸炎という診断をつけるには、まだ情報が足りません

そもそも胃腸炎の胃は病態に関係していないので、腸炎というべきですが、
腸炎と一括りにするのもよくありません

腸炎と言いたいのであれば、小腸型・回盲部型・大腸型のどれか

原因微生物は何か、ということまで考えます


参考:腸炎


小腸型の中でも特に上部に病変があれば、吐き気や嘔吐といった症状がメインとなります
下部小腸であれば、下痢や嘔吐がみられ、回盲部〜大腸に病変の主座がある場合、
発熱や腹痛、血便といった症状が出現してきます

今回は嘔吐のみであり、腸炎であれば上部小腸病変が疑わしいです


原因微生物も同時に考えます

多くは細菌性の食中毒か、ウイルス性の腸炎ということになり、
ここ数日の食事歴を丁寧に聞く必要があります

家族内での腸炎症状の流行や小さな子供との接触歴があれば、ウイルス性腸炎の可能性が高くなります

外来を消化器症状を主訴に受診される患者さんの多くが、
直近の食材が傷んでいたからかな〜とおっしゃることが多いですが、
直近の食べ物が原因であることはほとんどありません

ただし例外的に、直近の食べ物が消化器症状の原因のこともあります


それはその食べ物でアナフィラキシーと中毒を起こした場合です


なのでこの方に最初に聞くことは、
これまでにアナフィラキシーの既往がないかどうかと、
直近で食べたものの詳細を聞くことです

そして、食後⇨運動でアナフィラキシーが出る人もいるので、
食事後に何をしていたかも聞くことは重要です
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アレルギー歴:えびでアナフィラキシーを起こしたことがある
昼食で食べたものは、屋台のカレー(馬肉入り、魚介類はなし)

カレーを食べたあとは、運動はしていない


バイタルは頻脈はありましたが、血圧低下はありませんでした

診察上、顔面が紅潮しており、瞳孔は2/2mmと縮瞳していました
他、特記すべき所見なし
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次に考えることは?


この方は以前にアナフィラキシーの既往があり、嘔吐と頻脈があることから、
まずはアナフィラキシーではないか?という視点で対応することが重要です


この時点で、すぐにエピネフリンを打った方が良いというわけではなく、
アナフィラキシーかもしれないので、すぐにルートをとったり、
血圧を頻回に測定したり、全身の皮膚の紅潮がないかをチェックしたり、
看護師さんに一声かけておく、という人と物と心の準備が重要ということです


今回の症例では、他のアナフィラキシーを疑わせる気道症状や呼吸器症状がなく、
皮膚症状としては、顔面の紅潮しかないようです

血圧低下もられていないので、
この時点ではエピネフリンの投与は様子見ても良いかと思いますが、
来院後も嘔吐はあるようですので、輸液と吐き気どめを使うことがまずは人道的です


直近で食べたものは馬肉入りカレーでした


シーフードカレーでなくてよかったです

直前にシーフードを食べられていた場合、アナフィラキシーやアニサキスもそうですが、
たくさんのseafood poisoningを考えなければなりません

fish poisoningでは、スコンブロイド中毒、シガテラ中毒、テトロドトキシン中毒
shellfish poisoningではparalytic shellfish poisoning(PSP)、Diarrheic shellfish poisoning(DSP)が日本でも見られる貝毒です

スコンブロイド中毒は、マグロ、サバ、カツオなどのサバ科またはサバ亜目(scombroid)が原因となることが多いため、scombroid poisoningと言われていました

しかし、シイラやサーモンのようなそれ以外の魚も原因となるため、
最近ではhistamine fish poisoningと言われます


魚の中に含まれるヒスチジンがヒスタミンに変換され、ヒスタミンが高濃度で蓄積されることにより、毒化します

これは加熱処理でも分解されませんので、注意が必要です

経口摂取後数分から3時間程度で発症し、悪心・嘔吐・下痢・腹痛・全身の皮膚紅斑といった症状が出現します
症状は数時間持続し軽快します

基本的には臨床診断で、抗ヒスタミン薬で治療します
アレルギー反応ではありませんので、ステロイドは無効です

よく、さばでアレルギーが出ました、という人がいますが、
その中には、histamine fish poisoningの方がたくさんいると思います


沖縄などの亜熱帯、熱帯地域では、シガテラ中毒に注意が必要ですが、
当地ではあまり考えなくてもよいと思います


paralytic shellfish poisoning(PSP)は、毒化したホタテ貝やアサリ貝を摂取することによって起こります
食後30分ほどで唇・舌・顔面の痺れ感が出現し、やがて首や腕、手足に広がり、麻痺に変わります
重度になると、言語障害や呼吸筋麻痺などが出現し、死にいたることもあります

昭和56年に食品衛生法により二枚貝に対する麻痺性貝毒の点検が実施され、
規制値以下であることを確認してから出荷する体制が作られていますので、激減しております


Diarrheic shellfish poisoningは毒化したホタテ貝やムール貝、アサリなどでを摂取することで生じます

経口摂取後、30分〜4時間で発熱を伴わない悪心、嘔吐、激しい下痢、腹痛が起こります



シーフード以外に気をつけないといけない食べ物の代表はキノコです
キノコ中毒は毎年、一人くらいはいますが、秋が多いです



今回であれば、症状が出る数時間前に食べたものは、馬肉入りのカレーでした


おにぎりであれば、ブドウ球菌による毒素性の腸炎ですが、

作りおきのカレーやパスタ、チャーハンの場合、
まず疑うべき微生物はバシラスセレウスによる毒素病態の食中毒です



〜以下、up to dateより〜

嘔吐症候群 — 嘔吐症候群は、プラスミドDNAによってコードされる小さなリング状ペプチドであるセレウリド毒素の直接摂取によって引き起こされます
催吐性毒素に関連する芽胞は熱処理に耐えることができます

セレウリドは熱安定性があり、胃酸に耐性があります

したがって、セレウス菌を殺すのに十分な加熱にもかかわらず、
病気を引き起こす可能性があります

  嘔吐症候群は、腹部のけいれん、吐き気、および嘔吐を特徴とします
下痢は約3分の1で発生します

症状の発現は通常、摂取後1〜5時間以内ですが、
汚染された食品の摂取後30分以内から最大6時間以内に発生することもあります
症状は通常6〜24時間で軽快します

主な鑑別診断は黄色ブドウ球菌エンテロトキシン関連腸炎で、こちらも催吐性ですが、
通常は下痢を伴います

〜引用終了〜


今回の病歴では、バシラスセレウスによる嘔吐症候群が今回のmost likelyな疾患です


同じものを食べた人が、同じ症状を呈していれば、さらに疑いは強まりますが、
それで除外できるものではありません

食べた量(摂取した毒素の量)や発症スピードには個人差があります



もう一つ、ここで重要な問診項目があります


それは、「これまでにもこのような症状がなかったかどうか?」です
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こういった症状ははじめてとのこと
サプリの摂取や違法薬物もしていない
他に同様の症状の人はいない
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何度も同じ症状があった場合、何を考えますか?


このように嘔吐が頻回、身の置き所がなくなるといった症状が、これまでにもみられるようであれば、「周期性嘔吐症」というカテゴリーで考えます


小児領域で多いとされていますが、腹部片頭痛の可能性があります
成人でも見られます


成人の頻回嘔吐の既往が何度もある場合、
カンナビノイド悪阻症候群は、必ず鑑別にあげるべき疾患です

この疾患は、熱いシャワーや風呂で改善するという、ユニークな特徴があります

大麻を慢性使用している人が、ある時、カンナビノイド悪阻症候群を発症し、
頻回嘔吐や身の置き所のなさで、救急受診します

ただ自然に軽快するので、腸炎疑い?というカルテが溜まっていきます


そしてある時、これはおかしい、と思ってとったトライエージで大麻が検出されて、
大慌てするというのが、よくある流れです


ただ、この病気は大麻中毒ともまた違いますので、大麻使用直後になるわけではありません




今後、大麻解禁の流れが米国で進んでおり、この流れはいつか日本にもやってくると思いますので、知っておくといつか出会うかもしれません


今回ははじめての症状であり、鑑別の上位ではありませんが、
発症したばかりの可能性は否定できませんので、違法薬物の使用歴の確認は必要です
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他の鑑別疾患を挙げるとすると?


アルコールの摂取が直近であったり、腹痛が診察上もしっかりあれば、
急性膵炎の可能性が高くなります

「嘔吐しない急性膵炎はない」と言われるくらい、急性膵炎は嘔吐や吐き気が目立つ疾患です


個人的な経験では、膵頭部に限局するgroove膵炎の場合、
嘔吐も腹痛もほとんどなかったことがあります

お腹が張るという主訴で、腹部の圧痛が全くなく、
便秘の診断で帰宅の方針としようとしましたが、
本人希望でCT撮影したところ、膵炎でびっくりしました



あと見逃したくない疾患群としては、
心筋梗塞、甲状腺クリーゼ、小脳出血・延髄梗塞が挙げられます


それぞれの疾患を示唆するような症状やvascular riskの確認が必要です


今回の症例であれば、甲状腺クリーぜの可能性は残ると思います
原因不明の吐き気や腹痛で、甲状腺中毒症だったという症例も経験したことはあります


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本症例の考え方


最初はcommonかつcriticalな疾患であるアナフィラキシーから考え、
アナフィラキシーの可能性を常に頭の片隅におきつつ、診療を開始します


病歴を聞く中で、他のcommonな疾患を鑑別の上位にあげながら、
そうはいってもcriticalな疾患も最後に考えていきます



結局、今回の症例の結論はなんだったのか・・・

次回へ続く


まとめ
・食事摂取後に頻回嘔吐が出現した場合、考える疾患はアナフィラキシーと中毒(毒素病態)
→食べたものが何であるかは非常に大事、食べた後に運動していないかも大事

・シーフード、キノコ、カレー、チャーハン、おにぎり・・・
→これらの食中毒は感染症のスピード(急性)ではなく、毒を摂取しただけなので、超急性に症状が出現する



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