2019年7月21日日曜日

治せる可能性がある嚥下障害 後半

前半は病態で分類してきました

この分類は、どこにでも書いてありますが、

そこからどうやって優先順位をつけていくかを考えます


一般論ですが、

鑑別を上げる時のコツをお伝えします

①まずはできるだけ、「発散」します


つまり、鑑別をできるだけ多くあげます

ここで鑑別にあがらなければ、一生診断できません


なので、もれなく鑑別を上げるトレーニングが必要です

コリンズさんが書いた本が、鑑別疾患があげられない時は、

読んでみると参考になります

鑑別の挙げ方は、解剖(A)と病態(B:VINDICATE)を意識します

BとVが似ているので、B(病態)となっています


たくさん、鑑別をあげることができるようになったら、

次は絞り込むトレーニングが必要です


②「発散」しつくしたら、「収束」させる


膨大にあげた鑑別疾患を絞り込む作業が必要です


優先順位として、

most likely、likely、probable、possible、less likely、must rule out


と自分の中で確率をわけられるように、トレーニングします


では、順位をどうやってつけるかですが、

3Cで考えます

common、curable、critical


よくあるもの、治せるもの、致命的なもの の軸です



最初は毎回、これらを頭で考えるトレーニングが必要です(つまり、システム2を鍛える)


では、どこでやるか?


それは、ケースカンファレンスや振り返りの場です


慣れてくると、直感で分かるようになります(システム1)



小まとめです

・鑑別疾患を「発散」させるために、ABを使い、「収束」させるために、3Cを使う


・システム2を鍛えないと、システム1が使えない


では、嚥下障害について考えます

鑑別をあげるために、前回病態を確認しました

次に絞り込む作業です


今回は、急性に出現した嚥下障害なので、

コモンなものは?

というと、真っ先に脳梗塞があがります

しかし、MRIでは脳梗塞はありませんでした

頭蓋骨転移もなしでした



今回は、発症様式や経過がkeyになるので、

そちらを考えます




入院患者さんで出会う誤嚥性肺炎の時の、嚥下障害のほとんどが、

慢性のものです


慢性なものと急性なものは、鑑別が全く違うので、

分けて考えます


急性・亜急性ということは、炎症が起きている可能性が高いという事です


炎症が起こるためには、

感染症・自己免疫性疾患・脱随・腫瘍といった原因が考えらます


そういった病態は適切に対応すれば、治せるかもしれないという事です



3Cの一つ、curableという概念が嚥下障害では非常に重要です



treatable  dementiaという言葉はどこかで聞いたことがあると思います


では、treatable dysphagiaという言葉はきいたことがありますか?


論文を調べても、鉄欠乏によるPlummer-Vinson症候群の一例報告しかでてきません

(Gastroenterology  2017;153:e9-e10)


この言葉は、嚥下の専門の神経内科の先生に教えてもらいました

とても重要な概念だと思います



治療ができるとしても、

我々にできることは限られています

・ステロイドやIVIGで免疫病態を治療するか、

・感染症、特にVZV感染の場合に、抗ウイルス薬をいれるかどうか


が一番最初の悩みどころです



それ以外は、病歴や診察を丁寧に行えば、

分かることが多いです


特に皮疹のでないVZVによる下位脳神経障害は相当見落とされていると思います



2018年に日本語でVZVの下位脳神経障害をまとめてくれていた論文があります

これをみると、大事なことは、

①VZVの軟口蓋麻痺は必ず片側であること

②どこかしら、痛みを伴うことが多いこと

③喉頭に粘膜疹が多いこと

④皮疹がなくても、VZVを疑ったら、髄液検査で判明することがあること


ということです


皮疹がなかった場合、治療介入の遅れが後遺症につながっているので、

皮疹のないVZVをいかに早期発見・早期治療するかが、重要です


本症例でも喉頭ファイバーでみましたが、皮疹はありませんでした

また髄液検査を行いましたが、細胞数や蛋白の上昇はなく、

VZVPCRは陰性でした


ということで、VZVの治療は見送りました

両側だったので


treatable dysphagiaのまとめ
・嚥下障害をみたら、一度は治せるものでないか?を考える
→特に急性に出現したものは、治せる可能性が高い

・VZVは早期治療が予後改善させるので、まず悩む
→皮疹がなくても、喉頭ファイバーや髄液検査で検索を

・次に、ステロイドやIVIGをいつ、投与するかを悩む
→MG、PCB、筋炎には効果あるが、筋ジス、ALSには効果ない


参考文献:uptodate
Gastroenterology  2017;153:e9-e10
日耳鼻 121:1279-1287.2018



0 件のコメント:

コメントを投稿

気腫性骨髄炎

 

人気の投稿