2020年3月12日木曜日

新型コロナウイルス感染症 説明書(第2版)

新型コロナウイルス感染症が発生してから、もうすぐ3か月を迎えようとしています

100年前に流行したスペイン風邪が地球を一周するのに、一年かかりましたが、
今回のコロナウイルスは、アジアから始まり、中東→ヨーロッパへと渡り、
アメリカでも感染が拡大しています

3か月で、もう地球一周してしまいました
感染の拡大が桁違いに早くなっているのがよくわかります


自分は新型インフルエンザが流行した時に医師ではなかったので、
パンデミックは初体験です

今回のコロナのパンデミックが、今後どうなっていくのかが、やはり不安です

不安だからこそ、臨床と情報の最前線にいたいと思っています

感染対策については、感染症の専門医の先生が頑張ってくれていますので、
自分にできることは、それを分かりやすく発信するくらいだと思っています

PDF版









コロナが難しいのは、症状が何でもありということです
極論、今となりにいる人がコロナ感染している可能性すらあるということです
もしくは自分自身が実は感染しているかもしれません


プレゼンテーションが幅広く、他の呼吸器症状と病気と見分けがつかず、
コロナのゲシュタルトが描きにくいのが今回の病気の特徴です

「倦怠感を強く訴える」というのは、一つのkey wardですが、絶対的なものではありません

インフルエンザみたいな特徴的な症状であれば、分かりやすいですが、
熱が出ないことも多く、軽症な人が多いので封じ込めが非常に難しいのです



武漢からのチャーター便やクルーズ船の時の全例PCR検査の副産物として、
PCR陽性でも無症状者がかなりいることが、分かりました

クルーズ船では697人の人がPCR陽性になりましたが、
328人は無症状でした



ただ、無症状の人の中には、
その後、各病院に搬送された後に症状が発生している人もいるので、
潜伏期の人も拾い上げてしまっている可能性もあります


ですが無症状の人がたくさんいることを示唆する情報でした



初期の症状は「いつもの風邪」や「花粉症の症状」、「のどがいがらっぽい」、
「インフルエンザみたいな感じ」と区別がつきません

症状だけではお手上げですが、風邪と新型コロナを見分けるヒントはあります


それは時間経過です

時間で他の疾患をふるい分けることが重要です


風邪やインフルエンザであれば、4日あれば完全に治らないまでも
ピークは越えてきます(もちろん例外はあります)

ですが、コロナの特徴は症状が長引くことです


重要なのは、PCR検査をかたっぱしからすることではなく、
時間を有効に使う事です




Roは一人の感染者が何人に感染を伝播させたかの数字です

新型コロナは2-2.5となっていますが、
状況と時期と対策によって変わってきます

ただ、麻疹は12-18、百日咳は12-17、水痘は8-10、SARSは2-3であり、
他のウイルス性疾患に比べれば、あまり感染力は強くないことがわかります


パンデミックが起こると、スーパースプレッダーという存在が話題になりますが、
ホスト(宿主)だけの問題ではなく、環境にもかなり影響されているようです

宿主(咳が出やすい、ウイルス量が多い、マスクしていない、活動範囲)

×

環境(閉鎖環境、人が密集している、接触感染機会が多い)


ですので、感染した人みんなが2人にうつすわけではなく、
感染しても8割の人は誰にも感染させていません

残りの2割の人達が、二次感染の原因となっています
かなり環境の要素が大きいのではないかと思われます


実は中国での死亡率はかなり減っています
武漢市内では6%弱の死亡率ですが、湖北省以外の地域では0.22%です
(中国国内:人民日報より、2020年2月1日)

これが示唆することは、

致死率=ウイルスの毒性の強さ

ではないということです


致死率=ウイルスの毒性の強さ×医療資源

ということです


そして日本国内でECMOが使われている症例では、まだ一例も亡くなっていません
(2020年3月12日)






中国が抑え込めた理由として、この4つを徹底したからと言われています

早期発見、早期隔離、早期診断、早期治療




PCR検査が保険適応になり、民間の検査会社でも解禁となりました

そのためPCR検査の件数は格段に増えました

ですが、実は陽性者は増えてはいません

(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ 2020年3月12日アクセス)




次からは物議をかもしたPCR検査についてです



PCR検査に限らず、検査の特性を理解していないと、
検査の結果を解釈できません

その検査の感度も特異度もわからないのであれば、
その検査は使うべきではありません

そしてゴールドスタンダードを何にしているかも知っておく必要があります


PCR検査の感度はさんざん話題になりますが、せいぜい70%くらいといわれています
ですが、PCR検査のゴールドスタンダードっていったい何?ということになります

中国では、ゴールドスタンダードは臨床診断のようです
凄いですね


PCR検査は国ごとでも違うので、中国と韓国と日本で行っている検査はすべて別物です
ですので、他の国のデータを鵜呑みにもできないのです



PCR検査自体も非常に専門的な手技で、バイトで入った人が明日から急にできるというものではありません
高度な技術が必要ですので、時間と労力とお金がかかっています

もちろん人の手で行っているので、キャパシティというものがあります


それでも検査してほしいという時はあります



感染症の専門の先生数名にも見てもらいましたが、皆さん上記のような思考で
検査に踏み切っているようでした

中でも社会へのダメージというのも非常に重要で、
院内のスタッフの場合はかなり閾値を低めに検査する必要があるということを学びました




おかれた状況(流行状況・物品の在庫・病院としての役割・ハード面)によって、
防護のレベルをどこまで行うかは、各施設ごとで異なります

なので一律にこうすればいい。というものではなく、
各施設ごとで感染対策を考えなければなりません

今後はいつまでもこの対応は続かないので、どれだけ段階を下げていけるかが問題になってくると思われます

例えばN95の使用を延長するということは実際に行われています




ここからは感染予防です


感染の流行が拡大することは間違いなさそうなので、
いつかは自分も含めて感染することが予想されます

もっと感染が拡大してしまった時に
自分が感染してしまうのは、致し方ないかもしれませんが、
一番懸念するのは、自分がスーパースプレッダーにならないかどうかです


誰もスーパースプレッダーになりたくてなっているわけではありませんが、
ならないように、意識しておくことは重要かと思います


マスクがなければ咳エチケットが大事です

腕の内側の服に向かって咳をします

手で覆うのは、その手にウイルスがつきまくるのでよくありません


マスクをつけずに咳をしている人に対して白い目が向けられいる毎日ですが、
腕の内側に向かって咳をしている人がいれば、その人は咳エチケットを非常に理解している人です



ちょっと鼻水があった時にいきなり仕事を休むのは、現実的ではないので、
まずは上司に相談したり、かかりつけの医師に相談することが大事かと思います

「ちょっと鼻水が出てきたんですけど、仕事に出勤してよいか?」
「咳が昨日から出ているが、どうしたらよいか?」


大事なのは自己判断で行動しないことです

誰にも相談せず、自己判断で出勤して実は新型コロナに感染していた場合、
その会社・施設・病院は14日間の封鎖・営業停止になります

その責任を一人で負うのはリスクが高すぎると思いませんか?




休んだ後にいつ出勤するかも非常に問題で、一番よくわからないところです

まずコロナであった場合、どれくらい感染力があるかというのがよくわかりません
14日くらいまではウイルスが検出されるといわれていますが、
感染力があるかは、別問題です


今の時期、新型コロナ以外の風邪もひきますし、花粉症も出てきています
ですので、
風邪の症状があった時にいつから出勤していいか?というのは非常に難しい問題です
医師に相談しても、明確に答えられる人はいないでしょう


まだどこにも指針は出ていなかったと思います
理想は、全例コロナかもしれないと考え、14日間のお休みです
ですが、それは現実的ではありません


ここはケースバイケースしかありません

いつもの風邪っぽければ4日間は休み、症状なくなれば出勤
インフルエンザっぽければ5日間は休み、解熱して2日間たったら出勤
いつもより咳がつよい風邪であれば、7日間くらい休み、咳がおさまりつつあれば出勤

新型コロナが確定している人、もしくは濃厚接触した人は14日間のお休み


上記のような漠然としたイメージはありますが、
自分が相談されたら、
その人の臨床診断と新型コロナの検査前確率と社会へのダメージを考えて決めると思われます

決してPCR検査をすればいいというものではありません


新型コロナの影響は全世界に広がり、あらゆる職種を巻き込み、
そして人の営みを変えつつあります

数年後にはあの時期が転換期であったと言われるのでしょう
5Gがテレワークやネット会議を加速させ、
医療分野での在宅診療もVRの導入が増えてくると思われます

ですが、その前にこの危機を乗り越えられるかが問題です


経済のことは何もできませんが、メンタル面のサポートは医療者が考えなければならないことです



一つだけ言うとテレビのワイドショーやニュースだけで情報を手に入れるのは危ないという事です

自分が医療者であるので、今回のことで再認識しました
テレビは数字をとる必要があるので、例外を大々的に報道します

今回の髄膜炎もそうです

ウイルス性の疾患なのだから、いつかは髄膜炎や心筋炎が起きても全くおかしくありませんでしたが、それをセンセーショナルに報道するのはただ不安を与えるにすぎません



ファクトフルネス

これにつきます

テレビの情報に惑わされてはいけません
「毎日死亡した人が何人です」と報道されますが、
中国で死亡率がどんどん低くなっていることは報道されません

安心を与えるニュースより、不安を与えるニュースの方が視聴率が高いので、
テレビは偏った悲劇的な情報が多いのです


じゃあ、何から情報をとればいいかというと、

信頼できる感染症の専門医(忽那先生、大曲先生、高山先生、岩田先生)が発信している記事や信頼できる学会や機関(WHO、感染症学会、環境感染学会)が発信している情報をもとにしましょう



今回のウイルスは分からないことが多いと言われていますが、
何が分からないのかを整理することも大事かと思われます

その疑問を解決すべく、たくさんの医療者が論文を日々投稿してくれています
臨床で忙しいながらも論文を作成してくれている現場の先生方には感謝感謝です





新型コロナウイルスに最初に真剣に向き合っていたのは、
感染症の専門家と政府でした

次に向き合いだしたのは、国民です

ですが一人一人の感染努力では抑えきれないフェーズに差し掛かっています


この後、真剣に向き合わなければならないのは、地域です

当地の人口は5万人ちょっとですので、
高山先生が紹介してくれた計算式にあてはめると、
ピーク時において1日あたり新たに新型コロナウイルス感染症を疑って外来を受診する患者数は189人、入院治療が必要な患者数は103.6人
重症者として治療が必要な患者数は3.5人となります

今の病院の患者数に上乗せですので、どう考えても無理です


そのため、地域で取り組むしかありません
病院ごとではなく、病院同士が手を取り合って感染対策を行っていくフェーズになっています
そして施設をどう守るかが今後の命題です

高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対応指針






今後、我々医療者が暴露した時の指針です



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