2020年12月1日火曜日

昼カンファレンス 〜 AIUEOTIPSの先へ〜

 70歳 女性 主訴:意識障害 (※症例は一部修正・加筆を加えてあります)

Profile:ADL fullで医療暴露のない方

現病歴:家族より病歴聴取

    来院の1日前はいつも通り元気であった

    来院当日の朝は食欲なく、寝ていた

    午後には電話した時は会話できた

    夜に様子を見に行くと、「うー」とうなっており、

    会話できず、意識が悪かったため、救急車要請し受診となった

既往:健診で高血圧を指摘されたことはある

内服:なし

バイタル:BP150/86、P105、T36.9、SPO2 100%(5L)、RR20

意識 E1V1M1 、いびき様の呼吸をしている

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション①何を考え、どう動きますか?

T「はい、ありがとうございます。

 あまり医療機関への受診のない元気な70歳女性の意識障害ですね。

 意識が悪くて本人から病歴はとれません。

 実際は病歴とりつつ、診察しつつ、検査いきつつ、治療もしつつ、

 と同時並行で色々進んでいくのでしょう。

 今はカンファレンスなので、どんなことを鑑別にあげて動くべきかゆっくりやっていきましょう。


 さて、まずは何をしたいですか?」


学「血糖を調べたいです。」


T「素晴らしい!その通りですね。

 意識障害のときにまずやることがありますね。

 Do don'tという語呂があります。

 知っていますか?」


学「いえ、わかりません」


T「D:デキスター(血糖測定)、O(酸素)、N(ナロキソン)、T(チアミン:VB1)です

 海外では普通に麻薬が痛み止めのような感覚で処方されるので、

 麻薬中毒が多いですが、日本ではそんな頻度は多くないので、

 ナロキソンの出番は少ないです。

 VB1もアルコール多飲者でなければ、あんまり頻度は多くないですが、

 まあ、害はないので、とりあえず投与してもいいとは思います。


 他に意識障害の時は、どんなことを考えますか?」


学「AIUEOTIPSを考えます。」


T「そうですね。意識障害の時に鑑別疾患を思い出すための有名な語呂ですね。

 網羅的で色々含まれていていいとは思いますが、今日はその先へ進んでみましょう。


 では質問を変えると、意識を司どる場所はどこでしょうか?」


学「脳幹網様体と大脳皮質でしょうか?」


T「そうですね。あと、両側の視床も重要な役割を果たしていると言われます。

 なので大脳皮質全体-両側視床-脳幹網様体という流れですね。

 ここがやられると、意識が悪くなります。


 めまいの考え方と同じで、中枢 VS   その他という感じの構図ですね。

 その他には、色々含まれます。

 代謝系、循環不全、感染症、電解質、薬・・・・などなどです。


 つまり、意識障害の原因が、脳が直接ダメージを受けているのか、

 脳は被害者で、間接的にダメージを受けているか。


 これを見極める必要があります。

 どうやって見極めますか?」


学「えー。。。わかりません・・・」


E「血圧をみたいと思います。

 血圧が高ければ、脳に問題が起こっていることを強く疑います。

 この症例は血圧は高いのですが、JCS300レベルなので、

 その割には低いのかな・・・という印象があります。」


T「その通りですね。

  中枢(脳が直接ダメージ)かその他を見極める時には、

  まずは血圧に注目すると、あたりがつくことが多いです。


  では、その次に注目すべきことはなんでしょうか?」


E「うーん。」


T「意識障害の原因が、脳以外であった時には、

 考え方として、溜まる系と足りない系があると覚えておきましょう。

 溜まる系とは、つまり何か余分なものが溜まっていく病態です。

 何があると思いますか?」


学「尿毒症」


T「そうですね。そんな感じです。

 ある一つの臓器が機能不全を起こすと、代謝産物がゴミのように溜まっていきます。


 腎臓であれば、尿毒症という病態ですね。

 肝臓であれば、肝性脳症。

 肺であれば?」


学「CO2 ナルコーシス」


T「そうです。

 人間の体はとても良くできていて、臓器が機能不全に陥ると人間は生きていくことが難しくなります。


 つまり、死に向かっていくのですが、その時に代謝産物が体に蓄積して、

 natural sedationがかかるようになっているのです。


 自然に鎮静がかかって、苦しまずに死ねるということですね。

 

 これが溜まる系です。

 溜まる系は、鎮静がかかったように意識が悪くなります。



 逆に足りない系は、血圧(循環動態の悪化)や酸素、糖が足りないような状態です。

 外傷のショックの人を見たことありますか?


 冷や汗かいて不穏になって、暴れていることが多いです。

 死にそうになるので、カテコラミンを出して、不穏状態になります。

 

 離脱なんかもそうですね。

 ずっとお酒を飲んでいる人が、急にやめると体からお酒が足りなくなって暴れますよね。



 こんな風に、意識障害といっても色々あります。


 不穏で暴れている人も意識障害ですし、チーン・・と静かに反応がない人も意識障害です。

 意識障害の人を見たら、まずはどちらかを判断し、

 暴れているような不穏の人は、足りない系の可能性が高く

 チーン・・・と鎮静がかかったように眠っている人は、溜まる系を疑います。」



E「では意識障害の人を見たら、まずは血圧をチェックして、

 とても高ければ、頭かなと思い、

 あんまり高くなければ、頭以外の原因を思い浮かべ、

 不穏状態になっているのであれば、足りない系を疑い、

 傾眠状態のようにおとなしい感じの意識障害であれば、

 溜まる系を考えるということでよかったでしょうか?


T「はい、その通りです。

 これがAIUEOTIPSの先の考え方です。

 もちろん、逆のパターンもあり得ますので、絶対ではありません。」

--------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション②そうはいっても疫学も大事


T「はい、これまでの考え方はAとBでした。

 つまり、

 A anatomy 解剖→意識を司どる場所はどこか?→大脳皮質- 視床- 脳幹網様体

 B VINDICATE P →病態→血管系、炎症・感染症、腫瘍、変性疾患、中毒・薬物、先天性、自己免疫、外傷、内分泌・電解質、精神疾患

 →つまりAIUEOTIPS

  

 AとBで鑑別疾患を頭の中にたくさん広げます。

 そして、3Cで鑑別を狭めていきます。

 コモン・クリティカル・キュアラブルです。


 頻度と致死的な疾患と時間が絡む治療可能な疾患の3つを重点的に考えることが大事です。

 時間が絡む治療の代表はtPAですね。


 70歳女性がいきなり、レベル300できたら、まずは何を考えますか?」


学「脳出血やくも膜下出血を考えます。」


T「そうですよね。いきなり、MSを考えたりしませんよね。笑


 やっぱり、脳卒中が頻度の軸からは多いと思います。

 そういう知識と臨床のセンスが非常に重要です。


 では致死的な疾患は何がありますか?」


E「解離ですか?」


T「どこの?」


E「椎骨動脈、あとは大動脈解離ですね」


T「そうです。

 特にこのセッティングは大動脈解離を思い浮かべなければならないセッティングです。



 思考の流れとしては、

 レベルがかなり悪くて脳が原因だろうな・・・

 と思って、血圧を見ると、

 思ったより血圧が高くない・・・・


 その場合は、大動脈解離かもしれないな・・・と思ってください。


 全例、造影CTをとらないといけない、といっているわけではなく、

 頭のCTへ行く前に、血圧の左右差をチェックしたり、頸動脈のUSをして、

 大動脈解離の可能性を上げ下げすることが大事です。

 可能性が高ければ、脳に病変がなかった時に、

 胸部の造影CTを追加することも考慮します。」


発表者「この症例では血圧の左右差はありませんでした。

    頸動脈のUSでも血流は保たれていました。」


T「すごいね。笑

  ちゃんとやってるんだ。さすがです。」

------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション③「ではどんな診察をしますか?」


T「このセッティングはたまにあります。

 なので覚えてしまいましょう。

 キーワードは協力が得られない人への神経診察です。


 神経診察とは患者さんと医師の共同作業です。

 神経診察の中には、協力が必要なものと、協力が不要なものがあります。


参考:意識障害の時の神経診察


 何を見たいですか?」


E「目がどうなっているかを見たいです。

 あとは、神経診察の左右左を大事にしたいです。」


T「そうですね。目は大事です。

 あとはどうですか?」


学「反射とかも見たいです。

 あとは手足の動きとか・・・」


T「筋のトーヌスですかね。それも大事ですね。

 反射は腱反射や異常反射だけではなくて脳幹の反射もみるといいです。

 そうすれば、脳幹が生きているのかどうかの判断がつくことがあります。


  神経診察はどうでしたか?」

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

診察

痛み刺激に反応しないE1V1M1

眼位は正中

瞳孔は5/3.5 、対光反射は両側なし

人形の目 陽性

腱反射は上肢は亢進・減弱なし

下肢は亢進

バビンスキー反射は両側で陽性

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション④「CTではどこに何があると思います?」


T「はい、ありがとうございます。

 ではこの後、CTになると思いますが、何を想像してC Tをみますか?」


学「目の所見があるので、脳幹に出血がありそうです。」


T「そうですね。脳幹のどこですか?」


学「えーっと、中脳ですかね・・・」


T「その通り!

 瞳孔不動や対校反射の消失からは、

 動眼神経が障害を受けていそうだね。

 動眼神経の核は中脳だから、中脳に病変がある可能性が高いね。


 じゃあ、もし中脳に出血がなかったら何を考えますか?


 考え方としては、鑑別疾患を思い浮かべて、

 何の検査するかを考えて、その結果がnegativeであることも考えておく。

 今回であれば、中脳を含む脳幹に広範囲の出血があることが予測されるが、

 もしCTで出血がなかったら、どうするか?ということですね。

 

 もし出血なかったら何を考えますか?」


学「梗塞ですか?」


T「そうですね。そうなると、MRIが必要になります。

 そして、脳梗塞だとすると、tPAするかどうかが重要になってきますね。

 あとは、さっき言った大動脈解離をどこまで考えるかですね。


 大動脈解離にtPAをうったら、大変なことになりますからね。


 さて、CTはどうでしたか?」


発表者「CTでは出血はありませんでした」


T「本当だね。CTだと何もないね・・・

 でも慌てません。さっきシミュレーションしましたよね?」


E「この症例は明らかに後方循環系の問題が起きていると思います。

  その目で見ると、脳底動脈がhyper dense signになっているように見えます。

  ここに血栓が詰まっているのではないでしょうか?」



T「そうだね。そんな風に見えるね。

 いい視点ですね。

 脳梗塞を考える時は、前方循環系と後方循環系を考えます。

 この症例は目の異常があるので、後方循環系の異常が疑われます。

 後方循環系の異常は、病態としては多くはありません。


 椎骨動脈解離や塞栓、鎖骨下動脈盗血などです。

 なのでMRIでは椎骨動脈解離がないかも注意してみる必要があります。


 MRIはどうでしたか?」


発表者「はい、MRIでは脳底動脈が描出されず、DWIで両側の視床に淡い高信号がみられました。

   薄ら中脳にも所見が出ていました。

   FLAIRでは所見はありませんでした。

   このあと、tPAをうって血管内治療となって血栓回収が行われました。」



T「そうでしたか。

  大変でしたね。

  脳底がしっかり詰まってしまうと、脳幹が障害され亡くなってしまうことが多いので、

  tPAや血栓回収は頑張ってやる必要があります。


 今回の意識障害の原因は視床だった可能性がありますね。

 この脳梗塞は名前が付いています。

 名前は有名ですけど、実際はあまりみませんが・・・」


E「Top of the basilar syndromeですか?」


T「そうです。この症例は典型的な症例です。

    

  意識障害のアプローチを知る上で、大変勉強になりました。

  ありがとうございました。」

  

 


  



  Caplanは上部脳底動脈閉塞によりPCAやP-com. からの分枝によって栄養されている

  中脳、視床、側頭葉、後頭葉の梗 塞 をおこした症例 を

  "top of the basilar syndrome"と 呼んでいます

 その症状は多彩であり、動眼神経や視床の障害による眼球運動障害や瞳孔異常、

 脳幹網様体の障害による傾眠状態、幻覚、夢幻様行動などに示される覚醒機能の異常, 

 後頭葉の障害による半盲、皮質盲、幻視、視覚、保続、変形視、 Balint症候群などの視覚異常,

 後頭葉や側頭葉の障害による健忘症、純粋失読、視覚失認およびagitated deliriumなどの行動異常

 内包、視床、大脳脚の障害による運動、知覚の麻痺、失調などがあらわれます



まとめ

・意識障害の人を見たら、まず血圧チェック、次に暴れているか傾眠パターンかを判断する

→意識障害の原因は脳 VS  その他と考える

 その他であれば、溜まる系 VS  足りない系を考える


・レベルがかなり悪いのに、血圧が低めの時は、大動脈解離を疑う


・鑑別疾患はA(解剖)とB(VINDICATE)で広げて、3C(common, critical,cureable)で狭める

→脳梗塞や脳出血は3Cを満たす疾患。特にtPAは時間との勝負になるので急ぐ必要がある



0 件のコメント:

コメントを投稿

気腫性骨髄炎

 

人気の投稿