30歳 女性 主訴:頭痛 (※症例は架空です)
数年前に交通事故にあったことがある
元々頭痛持ちではあったが、市販の痛み止めで対応できていた
ストレッチが日課で、いつもよりしっかりストレッチをした
その日の夜に頸部痛を自覚
翌日、朝起きると頭痛がした
横になると改善
だが、立位になるとすぐに頭痛がしてしまい、
徐々に増悪傾向となり、救急外来受診
頭痛とともに吐き気や耳閉感がする
頭部CTでは出血や血腫なし
病歴より低髄液圧症疑いで入院精査となった
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まずは名前の整理から
病歴が特徴的なので、典型例では病歴から疑うことは難しくはありません
ですが、低髄液圧症は色々ややこしい背景があります
そもそもこの症例、病名はなんですか?
低髄液圧症でよいでしょうか?
低髄液圧症は他に脳脊髄液漏出症、脳脊髄液減少症の名称があります
まずは名前の整理からしましょう
元々は腰椎穿刺後に髄液が漏出し、脳脊髄液圧が低下して、
起立性の頭痛が発生することが知られていました
そして、1960年に低髄液圧症という名称が提唱され、これが今でも一番有名かと思われます
ですが、必ずしも低髄液圧ではなく、
病態の本質は脳脊髄液が減少していることだということで、
脳脊髄液減少症という名称が提唱されました
ですが、どうやって脳脊髄液減少を定義するのだ?
ということになり、病態の本質は脳脊髄液の漏出であるとされ、
脳脊髄液漏出症という名称も提唱されております
低髄液圧と脳脊髄液漏出症、脳脊髄液減少症は微妙に概念が異なるので、
まず、それを理解しなければ、今後の画像の話がちんぷんかんぷんになってしまうので、
ここからおさえておきましょう
診断基準の変遷
色々ありますが、その問題に終止符を打つべく、厚労省研究班が診断基準を作ってくれました
多数の学会のお墨付きを得ているので、日本ではこの基準に当てはめればよいのではないかと思います
世界的には、国際頭痛分類第三版が使われますが、かなり大雑把なので微妙な感じがします
解剖
ではなぜ脊髄が漏出してしまうのでしょうか?
それは脊髄硬膜に穴・裂け目(dural tear)が開いてしまっているからです
くも膜下腔は脳脊髄液で満たされており、一日の産生量は500mlで、総量は150mlといわれています
くも膜と硬膜に穴が開くと、そこから脊髄液が漏出してしまい、(脳脊髄液漏出症)
漏出が産生を上回ると、総量が減ってしまいます(脳脊髄液減少)
そして、低髄圧になります(低髄液圧)が、
硬膜のうっ血による容積代償機序により、低髄液圧にならない場合もあります
髄液が10%減少すると起立性頭痛を呈し、脳神経の牽引・刺激により、
聴覚過敏、視覚障害、吐き気などの随伴症状を呈します(低髄液圧症)
くも膜は薄いですが、硬膜はちょっとやそっとでは、破れません
硬膜は非常に厚く強靭な膠原繊維の膜であり、外傷や感染から脳脊髄組織を守っています
豆腐で例えると、豆腐を覆っているプラスチックのパックみたいなものです
豆腐は液体の中をぷかぷか浮いていますが、
脊髄は硬膜に歯状靭帯を介して固定されています
そして、硬膜も脊柱管の壁に硬膜外靭帯で固定されています
なので硬膜は内側と外側から靭帯で引っ張られているような形になっています
そして硬膜の周囲には静脈が発達しています
硬膜の裂け目は腹側に多く、複数のdural tearがある人もいます
女性に多く、膠原繊維の脆弱性がある人、
joint hyper mobirity (関節可動域が大きい人)やエーラーダンロス症候群、マルファン症候群の人がリスクとされています
そういった人が、ある拍子(交通事故、ストレッチ、運動、くしゃみ、性行為など)に、
硬膜の脆弱部が破綻して髄液が漏れ出して発症します
裂け目の部位によってtypeがあります
部位で分ける方法だと、硬膜腹側の破綻が一番頻度としては多いです
このtypeは全脊椎で起こり得ます
今回は低髄液圧症の本質である脳脊髄漏出を理解するために、
その疾患概念と解剖を勉強しました
次からは、低髄液圧によって起こる病態について解説します
まとめ
・低髄液圧症、脳脊髄液減少症、脳脊髄液漏出症の違いを知る
→病態の本質は脊髄液の漏出であり、それによって起こる脊髄液の減少と低髄液圧という構図
・硬膜は強靭な膠原繊維であり、硬膜の内側の環境を守っている(豆腐の中を守るプラスチックのパック)
→脊髄硬膜のどこかが裂けると、硬膜外腔に脳脊髄液が漏出する
・硬膜が裂けやすい部位がある
→腹側の硬膜が一番多い部位
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