82歳 男性 主訴:嚥下後のつかえる感じ(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)
Profile:ACOに対してICS吸入中、OMIとCHF、Afあり、近医通院中
現病歴:2週間前に左前頭部の帯状疱疹に対して、
皮膚科よりバルトレックス処方された
2日前から嚥下後にのどからみぞおちにかけて、つかえる感じがあった
固形物も液体もつかえる感じあり
内科外来を受診
既往歴・既存症:ACO、OMI、CHF、頸椎の椎間板ヘルニア、便秘、糖尿病、高血圧
脂質異常症、前立腺肥大症
内服:ラニラピッド、ブロプレス、ネキシウム、アミティーザ、ジャヌビア、
リピトール、プラザキサ、アムロジピン、タムスロシン、アレジオン、
エビブロスタット、プルゼニド、ハルナール、アボルブ、フルタイド
生活:喫煙 20本を毎日、現在は禁煙中 飲酒 なし、独居
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ディスカッション①他に聞きたいことはありますか?
T「急性に出現した嚥下困難ですね。他に何を聞きましょうか?」
こういうのははじめてですか → はじめて
吐き気や嘔吐は? → なし
慢性咳嗽はあり
しみる感じは? → 不明
呑酸は? → 不明
魚食べた?骨刺さった? → 不明
咽頭痛は? → なし
嗄声は? → なし
筋力低下のエピソードは? → なし
日内変動は? → なし
T「いいですね。だいたい聞きたいことは聞けましたか。
急性の嚥下障害の枠組みで考えるのが良さそうです。
まず嚥下障害を大きく、咽頭の問題か、食道の問題で分けるのがいいですね。
そのためには、
どこでつっかえる感じがあるかを手で示してもらうのが、一番早いですね。
今回はどの辺でつっかえる感じがあるのでしょうか?」
M「そうですね、喉仏よりも下の首のあたりから、みぞおちのあたりまで
広範囲にわたってつっかえるような仕草をします。」
T「わかりました。それは、食道の問題っぽいですね。
食道の問題らしいなと思ったら、今度は物理的な閉塞か、機能的な閉塞を考えます。
よくある質問は固形物と液体で何か違いがあるか?ですね。
今回は液体でもつっかえるとのことで、アカラシアをはじめとした機能的な疾患を考えたくなりますが、絶対ではありません。
では身体所見をお願いします。」
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バイタル
T 36.5 BP 130/79 P 90 SPO2 95%
見た目 お元気そう
頭頸部 咽頭 発赤なし 白苔なし
頸部LN触れず 甲状腺 腫大なし
呼吸音 清 心雑音なし
腹部 心窩部に軽い圧痛あり
下腿 浮腫軽度あり
神経診察
脳神経 軟口蓋の左右差なし、嚥下問題なし
眼瞼下垂なし
筋力全てMMTは5/5
小脳失調なし 固縮なし
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ディスカッション②さてどうしましょうか?
T「身体所見ではパッとしませんね。
他にとりた所見ありますか?」
N「開鼻声はありましたか?」
M「なかったと思います。開鼻声って僕みたいな声のことですか?」
T「逆だね。笑
俺もだけど、鼻詰まっている声だね。
開鼻声はその耳で聞かないと見逃してしまうことが多い。
狙っていないと、まあこんな声かな〜と思ってしまう。
開鼻声を自分で真似したかったら、
まず鼻の下にipadやiphonの黒い画面をセットします。
そして、普通に何か話してみてください。
鼻息が少し出て黒いところに白い鼻息がうつると思います。
その鼻息を広げるように何か話してみてください。
それが開鼻声の声です。」
T「さて、
緊急性が高い嚥下障害の代表は重症筋無力症やGBSの亜型、ALSです。
なぜなら、それらは急速に進行して2型呼吸不全を呈したり、
食事で窒息することがあるからです。
咽頭レベルでの嚥下障害であれば、強く疑い血ガスをとるべきですが、
今回は問題は食道レベルのようなので、必要ないかもね。
そういえば、國松先生の「くにまつリスト」の本の嚥下障害にはどんな鑑別載ってるんだろう?」
N「えーっとですね、
食道癌、強皮症、多発筋炎、アカラシア、ALSですね。」
T「なるほど。そうなんだ。
自分だったら、アカラシア、重症筋無力症、ギランバレー、帯状疱疹、ALSかな。
嚥下障害だけでくるMGとGBSと帯状疱疹とALSって鑑別大変なんだよね。
詳しくはこれ読んでください。笑
臨床雑誌内科 126巻5号 (2020年11月)pp.997-1004
まあ、今回は嚥下障害といっても食道レベルなので、
これ以上は画像や内視鏡検査が必要そうですね。」
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CT
中部食道レベルは食道が拡張しており、その遠位に食道壁の肥厚を認めた
噴門部や胃壁の肥厚は認めず
周囲のLN腫脹はなかった
大動脈の蛇行は強かった
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ディスカッション③診断は?
T「食道が拡張して、その先の食道壁が肥厚していて、そこに何かありそうだね。
これは内視鏡検査してもらうしかないね。
他に何か気がつくことありますか?」
N「食道壁の肥厚がありますが、癌にしては縦に長すぎる気がします。
どちらかというと、癌よりは炎症性の病態を疑いますね。」
M「僕もICS吸入していたので、カンジダ食道炎だと思っていました。
そして、上部消化管内視鏡検査を予約しました。」
内視鏡検査
食道胃接合部には炎症なし
食道裂孔ヘルニアなし
中部〜下部食道に縦に走る白苔を伴う潰瘍あり
腫瘍性病変は見られず
アカラシアを疑う所見なし
T「んー??
なんだこの白苔がついている縦に長い潰瘍は?
普通のGERDじゃなさそう・・・
みんな診断はわかったかな?」
N「GERD」
Y「カンジダ食道炎」
K「GERD」
Y「薬剤性の食道炎」
T「!!!
あーーー、それだ!!
プラザキサだ!!!!そういえばのんでたね。見落としてたー。
GERDにしては、接合部がきれいすぎて、場所が変だなあ〜って思ったんだよね。
カンジダっぽくもないし、縦走潰瘍だからクローンかなと思ったけど、
この年で?って感じだし、
何か変な食道潰瘍だなあ〜って思ったけど、プラザキサの食道潰瘍なら納得だね。」
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病歴を聞き直すと、
プラザキサに関しては、以前から内服しており、最近始まったわけではなかった
薬は少量の水と一緒に飲む
薬をのんだ後はすぐに横になることが多い
その後、プラザキサをリクシアナ®︎に変更し、服薬指導を行った
・薬はたくさんの水分(少なくとも100ml:コップ一杯程度)と一緒に飲むこと
・薬をのんだ後はすぐに横にならず、立位でいること
・それが難しければ、食事中に内服してもOK
プラザキサの変更と服薬指導にて、症状は軽快した
診断:ダビガトラン(プラザキサ®︎)による食道粘膜障害
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ダビガトランによる食道炎
・薬剤性食道潰瘍の自覚症状は薬剤服用後数日で突然発症する嚥下時の胸痛が典型的
・ 胸焼け、嚥下困難、持続する胸痛など非典型的な症状を呈する場合もあり、
内視鏡検査を含めた各種検査により他疾患との鑑別が必要
・ダビガトランによる食道炎は、剝離性食道炎やダビガトラン起因性食道炎(dabigatran induced esophagitis:DIE)と言われる
・日本からの報告例が多数
・よく引用される文献 ↓
Okada らが報告しているダビガトラン起因性の食道潰瘍の内視鏡像も同様に
中部食道に膜様物が付着した潰瘍性病変
機序:ダビガトランによる直接の細胞障害性の機序や
酒石酸との相互作用等は現時点では不明
原因:薬が食道に停滞することは原因の一つ
①服用方法:服薬時の飲水量や服薬後の体位
②背景の解剖学的問題:食道癌、食道裂孔ヘルニア、左房や大動脈からの圧排
③背景の機能的問題:アカラシア、抗コリン薬
治療:ダビガトランの中止と制酸剤および粘膜保護剤の投与が一般的
だが、服薬指導だけで改善するケースもあり、薬剤の中止は必須ではない
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本日の学び
・プラザキサでこんな副作用があるなんて知らなかった
・プラザキサによる食道粘膜障害は知っていたが、こんな嚥下困難のプレゼンテーションで来るとは思わなかった
・プラザキサが、たくさんある薬の中に埋もれてしまっていた
まとめ
・急性の嚥下障害の人を見たら、咽頭か食道の問題かに分けて考える
→どこで詰まった・つかえる感じがあるか、手で触ってもらう
・急性の嚥下障害の緊急疾患は、2型呼吸不全や窒息を起こしてしまうような疾患
→MG、ALS、GBSの亜型
・プラザキサ®︎(ダビガトラン)内服している人の場合、食道粘膜障害は常に疑う
→本日のパール「薬を隠すのは、薬の中」
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