低体温の原因は?
低体温の原因は、熱喪失が増えた場合、熱産生が減った場合、
体温調整障害が起きた場合など教科書的にはきれいに分類されています
この分類にそって考えるのは、慢性的に低体温の人であり、
救急の現場で悠長に考えている暇はありません
救急の現場で考えることは、
①敗血症+髄膜炎
②敗血症
③頭蓋内疾患・てんかん発作
④薬剤・中毒(アルコール含む)
⑤代謝(血糖、甲状腺、副腎不全)
+α(肺塞栓、出血、膵炎、外傷など)です
低体温症のピットフォール④
教科書的な低体温の原因探しがち
→優先順位は圧倒的に感染症
復温させることが大事ですが、問題と注意点がいくつかあります
問題点
①どこで測る?
②どうやって復温する?
③目標の復温温度は?スピードは?
①どこで測る?
普通は腋窩ですが、低体温を疑った場合は、深部体温を測定したほうが良いです
体温には、末梢温と中枢温があります
末梢温は外気の影響を受けやすく、誤差が大きいです
口腔内や腋窩は末梢温であり、中枢温と3~4度の差がでる場合もあります
中枢温とされているのは、
鼓膜温、直腸温、膀胱温、食道温、血液温、脳温です
それぞれメリット、デメリットがあります
中でも食道温が簡便で正確とされています
膀胱や直腸温も簡便なので、よく使われますが、
膀胱温では尿量が少ないと正確性に欠けることがあります
直腸温は中枢温とライムラグ(1時間ほど)が生じることがあります
直腸温は15cm以上挿入しないといけません
あとは便が溜まっていると正確な温度を反映しないこともあります
②どうやって復温する?
受動的体外復温法、能動的体外復温法、能動的体内復温法などがあります
漢字や英語にすると、難しいようにみえますが、
やっていることは大したことではありません
たくさん復温方法がありますが、
実際に大活躍するのは、ベアーハガー(加温ブランケット)です
低体温の人に出会ったら、とりあえずベアーハガーをかけておけば勝手に復温されます
そして、輸液は38〜42度の加温輸液を使います
あとは、侵襲性と低体温の重症度に応じて、他の復温方法をオプションとして検討します
最強の復温法は体外循環です
それぞれの復温速度は知っておいてもよいかもしれません
ベアハガー:0.5~4 度/時間
加温酸素:40度で1-1.5 度/時間
膀胱洗浄:0.5~1 度/時間
胃洗浄:1~2 度/時間
透析:2~3 度/時間
VA-ECMO:4~10 度/時間
これを知っておくと、復温の失敗に気がつくことができます
ベアハガーで復温しているのに、2時間たっても体温が変わらなければ、
低体温の原因が除去できていない可能性が高いです
例えば、治療していない感染症や甲状腺機能低下、副腎不全、脳血管障害などが背景にあるかもしれません
復温に難渋する場合、内分泌疾患、中毒、脳血管障害などが背景にある可能性が高いという報告もあります
③目標の復温温度は?スピードは?
低体温の人がいたら、できるだけ早く復温を開始します
30度以下、特に28度以下で不整脈が出現しやすいので
ひとまず30度を目標に復温します
最終的な目標は35度以上です
30度になるまではCTや病棟への移動も行わない方が安全といわれています
そのため、30度まではできるだけ速く復温します
軽症の場合の復温速度は0.5~2.0度/時間が推奨されています
速度制限の理由は急速に復温すると、血圧低下(rewarming shock)のリスクが高くなることです
そして、血圧低下すると輸液負荷が必要となり、不整脈リスクにも繋がります
軽症の場合は、急速に復温するメリットよりもデメリットの方が大きく、
重症の場合は、急速に復温するメリットの方が大きいと思われます
まとめると・・・
30度までは、速度は気にせずなるべく早めに復温します
30度超えたら、速度を気にし出します
早すぎたら、少し手を緩めるくらいにします
復温方法はベアーハガーと加温輸液、加温酸素が簡便です
重症であれば、膀胱洗浄や胃洗浄追加します
最重症であればPCPS考慮です
復温中の注意点
①刺激を極力与えない
移動の際は慎重に行いましょう
30度になるまではCTも躊躇いますが、ケースバイケースです
腰椎穿刺やMRIも慌てないので、まずは復温優先です
CVを入れるなら大腿から入れます
挿管は大丈夫とされています
②復温すると、血圧下がることが多いが、
下がったからといって、
rewarming shockと決め付けない
下がることを予想して待ちます(NA準備、CV入れておく、輸液速度を早める)
復温時にタコツボ心筋症の報告があるので、安易にrewarming shockと考えず、
他のショックの除外の必要です(心原性、敗血症、出血性)
Vfの準備もしておきましょう(パッド貼っておく、PCPSの準備)
復温中はベッドサイドを離れないのが大事です
③電解質が狂いやすい
K、Mg、Pが上がることが多く、
血糖は下がることが多いです
横紋筋融解症や多臓器不全が発生することもあります
血糖値や電解質フォローを忘れずに行いましょう
低体温症の治療が難しいのは、開始時ではありません
復温中です
復温中には急変することが多いので、
急変すると思いながら傍にいましょう
本症例に戻ると・・・
復温はベアーハガーと加温輸液、加温酸素で順調に復温されました
途中、血圧が低下しましたが、輸液負荷で対応できました
原因としてはMRSA菌血症(+アルコール?)でした
まとめ
・低体温症はまず早めに認識することが重要
→室内で発見された意識障害の人で診断が遅れやすい
・30度以下では不整脈リスク高い
→CTや腰椎穿刺、MRIは復温後に行う
・復温中に急変するのは、予想通り
→急変した後の対応についても準備しておく(PCPSや家族への面談)
参考文献:
季節の救急 P338-349 著:山本基佳
→季節ごとの救急疾患についてまとまっている
カラーで見やすく、文章も読みやすい。何より直接教わったので、御恩を感じる
Hospitalist VOL.7 No.4 2019.12 低体温
→わかりやすくまとまっている
medicina vol.58 No.4 2021
→簡潔にまとまっている
up to date
Med Intensiva 2019;43(9):556-568
NEngl J Med 2012;367:1930-8
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