2022年1月9日日曜日

微小循環障害について

 微小循環障害について




小循環系

 心血管循環の最小単位は微小循環と定義されています


微小循環系は毛細血管(10μm以下)と細動静脈(20μm以下)、およびそれらの細胞成分で構成されます



毛細血管を介して酸素や栄養が細胞に供給され、

ミトコンドリアに酸素が供給されることで酸化的リン酸化が行われます


赤血球による組織への酸素運搬には2つのメカニズムがあり、

赤血球の灌流と赤血球から細胞への酸素拡散です


細胞レベルでの酸素供給量と酸素必要量のバランスが崩れた状態がショックです


微小循環の血管内腔は内皮細胞(EC:endothelial cell)によって裏打ちされており、

内腔側はグリコカリックスで覆われています


平滑筋細胞と共生しているECは、

主に細動脈の血管緊張の調節によって微小血管血流を調整する役割があります


血管壁運動の調節は血管内皮による血管壁の収縮と弛緩によって行われます





微小循環障害の4つのタイプ

type1が敗血症でよくみられるタイプです




微小循環障害が生じる原因は様々です

グリコカリックスの障害や血管内皮障害などで起こります






大循環系と微小循環系

重要なことは大循環系と微小循環系を分けて考えることです
大循環系で指標になるのは、血圧、MAP、CO、CVPなどです


ショックは大循環系の破綻、つまり血圧低下とイコールで考えられることが多いです


ですが、ショックは血圧が低い時に起こりやすいですが、

全例で血圧が低いわけではありません


血圧が低くないショックも稀にあります


血圧正常のショックをcyptic shock、

あるいはnormotensive shock、occult hypo-perfusionといいます


重症敗血症の10%にみられるという報告もあり、

血圧低下の通常のショックとcyptic shockの患者で生命予後は変わらないという研究もあります


cyptic shockの原因はいくつかありますが、代表的な原因を解説します


毛細血管の灌流(perfusion)が成り立っていない場合、

つまり微小循環障害です


血圧として測定しているのはあくまで大循環系の体血圧であり、毛細血管圧ではありません


そのため、体血圧が高いのに毛細血管圧が低いということが起こり得ます

毛細血管に入る直前の圧がperfusionには重要であり、

体血圧がいくら高くても細動脈レベルの血圧が低ければ、perfusionは成り立ちません


また毛細血管の異常収縮や目詰まりが起きた時も血管内を流れにくい状況が出現します

いずれも毛細血管圧が異常に上がる状態です


このような変化は全身の血管ではなく、局所の血管(一部の血管)で起こる可能性があります

perfusionの局所的な破綻は、

炎症の強い臓器や生命に直結性の低い臓器(皮膚、腸管)にだけ起こることがあります


臨床で悩ましいのはperfusionを直接評価することが難しいことです


EGDTに代表されるようなこれまでの敗血症の治療は、

血圧を含めた大循環系をモニタリングすることで予後を改善させてきました


MAPやCVP、CO、SVVと行った数値をコントロールすることで、

ショックを離脱していくのがまずは目標となっていました


大循環系のパラメータを改善させた結果、乳酸値がさがり、尿量が保てるようになって、

治療成功といえます


このように大循環系の改善が微小循環の改善につながることが多くありますが、

時に大循環系と微小循環がパラレルに改善していかないことがあります


その場合、大循環系のパラメータ(特に血圧)が改善していても、

ショックが離脱できない症例があります


大循環系のパラメータよりも微小循環のパラメータの方が生命予後に関わっていたという報告は多数あります


となると、問題はどうやって微小循環を評価するか?

どうやって微小循環障害を治療するか?ということになります


残念ながら微小循環の評価は難しく、決まったものはありません

直接評価するものと間接的に評価するものに分かれ、

実臨床で使えるもの、研究レベルのものにも分かれます


研究レベルでは舌の裏の血流を特殊なカメラで見ることで、

毛細血管の分布・密度や血流の流れを直接観察することができます

血流が途絶したり、うっ滞しているとperfusionの破綻は考えられます



実臨床で使える微小循環の評価項目には何があるか?

どれも直接的なものではなく、間接的なものですが、

乳酸、尿量、皮膚所見(CRT、mottling、皮膚温)が有用かもしれないという報告が増えています


それぞれの項目は一長一短あり、一つだけの項目に限定せず、

総合的に評価していくのが現時点で最良と思われます


一番伝えたい大事なのことは、大循環、つまり血圧だけよくすれば、

ショックを離脱できるとは限らないということです

血圧を治療目標とするのではなく、

微小循環の改善も治療目標に取り入れる必要があります


乳酸は採血をしないとわからないため、頻回の採血は貧血を招く恐れがあります

尿量は分単位での評価は難しく、ある程度の時間を必要とします

mottling skinやCRTはすぐに評価が可能で、検査も時間も必要ありません


このように循環の評価の一つに皮膚所見があり、治療効果判定にも使えますし、

予後予測にも使える非常に有用な所見です



まとめ

・敗血症を疑う人にrivedoがあった場合、それはmottling skinと心得る

→rivedo というか、mottlingというかは、

 文脈や状況次第


・循環障害のある人は大循環系だけではなく、微小循環系のパラメータに注目する

→血圧低くても、ショックになる


・微小循環障害は皮膚の診察が大事になる


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