2017年8月15日火曜日

下腹部痛 男性ver.

今日の症例は、男性の下腹部痛でした


70歳 男性  主訴 下腹部痛   救急搬送

既往に中垂炎を抗生剤で治した事がある

下腹部正中の痛みが2,3日前から間欠的に出現

一度は良くなったが、再度悪化し来院

熱はないが、腹膜刺激徴候がしっかり認められる

やや非典型な経過ではあるものの、アッペが破裂した腹膜炎かなっていう感じですね

CTで糞石を伴う腫大した中垂と周囲の脂肪織濃度上昇があり、

やはり中垂炎の破裂に伴う腹膜炎でした


このように下腹部痛は腸管からの痛みの事が多いですが、

まずは腸管以外の痛みではないかということを疑う事が大事です


心電図の所見も派手なものがあると、そこだけしか見ない傾向があるのと同じく、

腹痛なら腸管をまずは考えたくなりますが、

まずは腸管外のものに想いを馳せる事が大事です


特に痛みのある所しか診察しないと、陰囊や鼠径部を見落とします


なので、痛みがない部位から、外堀を埋めるように、

痛みがある部位へ向かって所見を取っていきます




下腹部痛はピットフォールが満載です

特に精巣捻転はよく言われることですが、本当に注意しておいた方がいいです


先日、経験した症例は、そんなんあり!?というプレゼンテーションでした


生来健康な20才の男性で、主訴は頻回嘔吐と臍周囲の痛みでした

Wall inで来られましたが、

診察しようとしてもずっと、おえおえ吐いていて、とても辛そうでした

腹痛は臍のやや左側にあるものの、腹膜刺激徴候はありません

陰部の自発痛はあるか?と聞きましたが、陰囊は痛くないとのことでした

しかし念のため、陰部もチェックしましたが、腫脹も圧痛もありませんでした


造影CTでは若干、小腸に液体貯留が目立ちましたが、下痢の訴えはありませんでした


結石はなく、虫垂炎なく、腸重積も、内ヘルニア、鼠径ヘルニアもなく、

原因不明で、あえて言うなら、腸炎疑いで入院になりました


入院翌日には腹痛も嘔吐も軽快したため、キャンピロや毒素性の食中毒だったのかなあ

という感じになりました

CTの読影も腸炎疑いでした


しかし、入院翌日の夜から、左の陰囊の自発痛が出現し、

二日目の朝には左の陰囊がパンパンにはっていました

陰囊は高位に位置しており、長軸は横軸に傾き、

明らかに精巣捻転の所見が揃っていました

しかし、精巣挙筋反射は保たれていました

精巣捻転の時の精巣挙筋反射は感度、特異度ともに非常にいいのに、

変だなあとは思いました

再度、精巣挙筋反射をとると、挙上はするものの、反対側に比較すると、

わずかであり、精巣挙筋反射の有無だけでなく、

左右差を見ることも大事だなと思いました


その後、USが施行され、精巣捻転と診断され、手術になりました


ショックだったのは、最初の造影CTを見直すと

半分くらい陰囊が撮影されており、

しかもその時から造影効果不良で、横向きになっていました

なので最初から精巣捻転を疑っておけば、造影CTで気づけたはずでした


幸い精巣は壊死しておらず、捻転を解除し、その後無事に退院となりました


教訓としては下腹部痛や臍周囲の痛みを見たら、CTをとるとは思いますが、

CTにて原因が不明な時は、陰囊がうつっていれば、陰囊もチェックしましょう

陰囊痛がないと、あまり真剣に陰囊をまじまじと診察するのは、躊躇われますが、

やはり好発年齢の男性や好発の時間帯(朝方発症)の場合は強く疑い、

恥ずかしがらずに、ルーチンで診察することをお勧めします

コツは直腸診の時に陰囊も見てしまうのが良いのではないかと思います



若者の下腹部痛は精巣捻転を、高齢者の下腹部痛はAAAをまずは除外しましょう

CTを撮ったら、写っているもの全て見よう

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