2020年6月23日火曜日

昼カンファレンス 〜2つのレール〜

95歳 女性 主訴:意識消失で救急搬送

救急隊「施設からの搬送です。
    トイレの後から反応が鈍くなった95歳女性です
    酸素化も低いとのことで、依頼がありました。

    バイタルはBP68/45,P70,Spo2 80%,T ?,RR 24です
    意識は今はクリアです。

    5分後にそちらに到着します。お願いします」



D「・・・・という一報でした。」

司会「はい、ありがとうございます。
   でましたね、トイレ後に具合悪くなるシリーズです。

   僕はですね、普通の症候学が飽きてきたので、
   こういうニッチな症候群をまとめるのがとても好きです

   トイレ後に具合が悪いというのは、実は臨床しているとよく経験します。

   ではみなさん、一緒に考えてみてください。」


学生「迷走神経反射が起きます」

司会「そうですね、排便を我慢していたりすると起こる人もいます。いいですね、
   他にはどうですか?」

学生「大量に下血してしまう人もいますか?」

司会「そうですね、大量に消化管出血を起こして、排便後に失神してしまう人もいますね。」

学生「大動脈瘤破裂」

司会「いいですね、今度はいきんで血圧上がる側ですね。
   血圧が上がって、大動脈解離を起こしたり、脳出血・SAHを起こす人もいます

   あとは、どうですか?」


消化器内科Dr「ずっと寝ている人が久しぶりにトイレに歩いたら、
       肺塞栓とかもあり得ますかね?」

司会「あり得ますね、入院中の肺塞栓の人の発症は自分の経験からは、
   トイレに行こうとしたら、倒れた。というシチュエーションが多いですね。
   
   他にはどうですか?
   例えば、トイレに行った後に頭痛がおきた場合は、脳出血やSAHを考えますが、
   CTで出血なかったらどうでしょう?」


聴衆・・・・


司会「RCVSという血管が脳の攣縮する病気があります。
   RCVSは非常に強い頭痛で、SAHと病歴からは見分けがつきません。
  
   多くはSAHを疑ったが、CTで出血がなかった時に想起されます、
   RCVSには誘引があることが多く、経験したのは、
   トイレやシャワーですね。

   その度にとてつもない頭痛が来るので、患者さんはトイレが怖いと言っていました。」


司会「はい、という感じで、トイレ後に具合が悪い人をみたら、
   血圧下がって具合悪いか、
   血圧あがりすぎて血管が裂けたり、破れたりする疾患を想起します。

   いずれにせよ、かなり身構えますね。」





司会「こういう疾患を頭に思い描きつつ、後5分で来院するとのことなので、
   何か準備しておくことはありますか?」


学生「えっと。。。カルテとかがもしあれば、情報をとりたいです」


司会「そうですね、バイタルがかなりやばそうなので、
   パニック状態になりそうですね。

   後、5分あるからコーヒーのんで心を落ち着かせるというのもありですが、
   貴重な5分なので、情報収集したいところです。

   情報ありましたか?」

D「当院にはカルテの情報はありませんでした」

司会「はい、残念なパターンでした。
   過去カルテや画像がないと、出だしとしてはかなり苦しいです
  
   あとは何を準備しましょうか?」

学生「酸素化が悪いので、酸素の準備とか、点滴の準備をします」


司会「そうですね、ショックの場合、猿も聴診器という覚え方がありますね。
   
   さ   酸素
   る   ルート
   も   モニター
   ちょう 超音波
   しん  心電図
   き   胸部CXR

   ですね、これらの準備をして、心の準備もしつつ迎え入れましょう


   あ、あとは、この症例はJATEC対応するというのもありです。
   
   なぜなら、トイレに行く時、みなさん誰かと一緒にいきますか?

   普通、いきませんよね?

   ですので、トイレの中で何がおきていたかわからないこともあります

   とんでもない転び方で転んでいるかもしれません。

   なので、
  バイタルが危ない人や空白の時間の後に状態が
  悪い人をみたら、まずはJATEC対応する!

   というのは、覚えておいてください。

   JATEC対応としては1st インプレッションがあって、ABCDEの順番に考えていきます

   A:酸素化が低いのは、窒息しているかもしれませんね。
     まずは気道確保が何より重要です
   
   B:酸素化が低いのは、肺に原因があるかもしれません
     PEもあり得ますね。
   
   C:血圧低いですので、ショックと考えた方がよいでしょう。
     外傷の時のショックを覚知する覚え方はなんでしたか?」

D「え?」

司会「SHOCKですね。

   S:skin  皮膚が冷たいかどうか
   H:HR   脈拍
   O:outer bleeding 外表面の出血がないかどうか、これは忘れがちです!
   C:CRT  爪の毛細血管充満時間をみます、高齢者ではうまくいかないことも多いです
   K:血圧です、血圧が一番最後なのがミソですね。

   血圧が下がる前にショックであることを覚知しなければならないのです

   外傷の場合、SHOCKでショックを確認します

   あとはショックの分類ですね。実はこれもSHOCKで覚えます。笑
   ややこしいですね。

   ショックになると、自分もテンパるので語呂で覚えるのは悪くないです。   

   S:septic,spinal(本当はneurogenic)
   H:Hypovolemic
   O:obstructive
   C:cardiogenic
   K:アナフィラキシーショック(K)

   はい、いつもKが苦しいのがSHOCKの覚え方です

   毎回、突っ込んでください 笑  逆に覚えます」



症例に戻って・・・

D「病院にきてからすぐに嘔吐されました。
  バイタルは橈骨はしっかり触れました
  
  BP93/66,P86,T35.5,Spo2 93%(RA),RR 30でした

  みためはややぐったりしてしました。呼吸はあさく早かったです」


司会「はい、ありがとうございます。
  
   身体所見の「鳥の目」でまずは全体像の把握です。

   その中で見ためや1stインプレッションというのは、非常に大事です。
   そこで、重症度をある程度評価します。

   末梢はどうでしたか?」

D「冷たかったです。暖かくはなかったです」

司会「はい、ありがとうございます。首はどうでしたか?」

D「頸静脈の怒張はありませんでした」

司会「はい、ありがとうございます。
   ショックの場合、皮膚見て、頸静脈を見れば、大体原因がわかります。

   今回の場合、皮膚は冷たく、JVPが上がっていないということで、
   考えやすいのは、hypovolemicや心原性ショックです

   他に診察したいところはありますか。ここからは「虫の目」です。
   狙った診察です。」


専攻医「心雑音や呼吸音はどうでしたか?」

D「汎収縮期雑音がありました。呼吸音はwheezesはなく、減弱はなかったです。」

専攻医「直腸診はしましたか?」

D「していません」

司会「はい、ありがとうございます。実際、こういう症例の場合は、
   同時並行で物事が進んでいきます。

   病歴をとる人、
   患者さんのそばにいて、診察をしてバイタルを立て直す人、
   検査や点滴をオーダーする人、
 
   実際はどういう感じでしたか?」


D「はい、その日は看護師さんも二人いて、点滴や検査をしてくれました。
  指導医の先生には病歴をとってもらって、自分が患者さんのそばでマネージメントしました。」


司会「豪華ですね、猿も聴診器はどうでした?
   ここからは「機械の目」ってやつです。
   
   自分のとった身体所見が正しかったのかどうか確認する必要があります。
  
D「すぐに心電図をとりましたが、以前と比較のものはありません
  新規のAfと右脚ブロックと左軸偏移がありました

  超音波検査では、ASとMRがありました
  心機能は良好でした。」

司会「なるほど、でもここで超音波検査をする意味としては、
   その二つの弁膜症はどうでもいいんだよね。」

D「あ、あとはDshapeもありませんでした」

司会「まあ、それも大事なんだけど。。。

   それよりも大動脈解離を狙っているわけだから、
  ARがあるかどうかと
  心嚢水が溜まっているかどうかが気になるんだ。

D「なるほど、それはなかったと思います。」

司会「了解、あとはIVCは?」

D「15mmで呼吸性変動がありました」

司会「うーん、パッとしないが明らかなhypoっていう感じでもないのかな。
   さて、困りましたね。」



司会「この辺で病歴、そろそろ聞いてもいい?」


D「はい、職員さんから病歴を聞くと、
  元々ほとんど寝たきりで、トイレ歩行などはしない方のようです
   
  この日はたまたまトイレにいきたいということで、介助でトイレまで歩いていきました
  ですが、トイレに座ってからは排便や排尿はなかったようです
  
  座っていて途中まで話せていたのですが、
  途中から会話ができなくなり、意識がなくなってしまいました

  その後、横にしたところ、意識が回復してきましたが、酸素化低下があったため、
  救急搬送となってようです。

  元々の血圧は90台とひくめです。

  来院してから、点滴していると血圧も徐々に上がってきました。
  レベルも改善し、酸素化も改善しました。

  血液検査では特記事項はありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。
   
   ・・・・・・身体所見の重要性について、前座でレクチャーしましたが、
  やっぱり病歴が一番大事ですね。笑

   さてこのあと、どうしましょうか?
   簡単にいうと、CTとりますか?入院させますか?」


E「自分だったら、造影CTをとって肺塞栓の検索をしつつ、
  入院してもらいます。」


司会「それはどうでしてですか?」


E「この年齢の人でバイタルが崩れているので、やはり怖い病気が隠れている可能性が
  高いと思うからです」

司会「はい、ありがとうございます。そうですね、
   やっぱり元々寝たきりの人がトイレまで介助で歩いて、
   その後意識を失って、酸素化低下しているので、PE疑いますね。

   他、ご意見ありますか?」


S「自分だったら、輸液でバイタル戻って吐き気もなくなってしまって、
  自覚症状ないのであれば、帰宅にするかな。

  病歴からは、元々寝ている人がトイレにいったら、そりゃ血圧下がるでしょ。

  入院もデメリットはたくさんあるし、あまりいいこととは思えないな。」


専攻医「僕もこの症例は一緒に見ていて、病歴からも起立性低血圧っぽかったので、
    バイタルも落ち着いてので、大丈夫かなと思いました。」


司会「そうですね、その考えもあると思います。

   最近、よく思いますが、2つのレールという考え方を紹介します

   ①つ目のレールは、僕たちの引いた医療のレールです

   この症例でいえば、PEを疑い造影CTをしつつ、
   モニターで不整脈を探しつつ、入院経過観察

   というのが、よくある医療のレールです

   ですが、もう一つのレールがあります


   ②つ目のレールは、患者さんの人生のレールです

   この方は超高齢で人生の終末期に差し掛かっていると思われます
   人生の最終地点に到達しようとしている人の残り少ない時間を、
   入院という医療のレールに乗せることが果たしてよいことなのかを
   考えなければなりません

   
   僕やE先生の場合、①の自分たちのレールに患者さんを乗せようとしていました

   ですが、S先生は患者さんのレールに医療を乗せるイメージですね

   例えば、
   今後も起立性低血圧症状は起こるかもしれないことやその対応方法について、
   施設職員に伝えることであったり、かかりつけの先生にお手紙を書くことです


   医療のレールに乗せることが、一番大事なわけではありません

   あくまで患者さんの人生というレールに、
    少し医療のいいところを乗せるイメージで、
    高齢者医療の場合は考えていく必要があります。


   S先生、さすがです。
   僕もE先生もまだまだでした。
   
   実際どうなりました?」


D「実際は入院しました」


司会「入院したんかーい!」

D「輸液で症状もなくなってバイタルもよかったので、
  帰宅のつもりで進めていましたが、家族がこられてて入院を希望されたので、
  入院になりました。」

司会「なるほど、誰が何に困っているか問題が最後に勃発しわわけですね。
   はい、ありがとうござました」



まとめ
・トイレ後に具合が悪くなる病気は危ない疾患が多い
→血圧下がる病態と上がる病態を考える

・ショックはSHOCKとSHOCKで覚える
→Kが苦しい!でおなじみ

・二つのレールを意識する
→自分のひいたレールが常に正しいとは限らない、患者さんのレールに乗ってみよう

2020年6月22日月曜日

薬剤性の副腎不全 〜いつも心に◯と結核〜

ザイティガ®️(アビラテロン酢酸エステル)という薬を聞いたことはあるでしょうか

去勢抵抗性前立腺癌の治療薬として、2014年に本邦でも承認されています

前立腺癌は男性ステロイドホルモンであるアンドロゲン(テストステロン、DHT、DHEA)が前立腺腫瘍細胞のアンドロゲン受容体(AR)に作用し増殖します

通常、生体内ではアンドロゲン合成は主に精巣で行われ、一部が副腎でも行われています

そのため、アンドロゲン除去療法と呼ばれるホルモン療法が進行した前立腺癌の治療になります

ですが、アンドロゲン除去療法後でも、血清テストステロン濃度が去勢レベルにあるにもかかわらず、病勢の増悪を認める症例があります

そういった前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)といいます

CRPCの増殖には、副腎などの性腺外のテストステロンがアンドロゲンの重要な供給源と考えられています

ですので、副腎でのテストステロン産生を抑えることで、
前立腺癌の治療になるというコンプセトでできた薬がザイティガ®️です


へえ〜

でもそんなマニアックな薬、普通の内科医が知っておく薬なのでしょうか?


そうなんです

ザイティガ®️はぜひ、内科医に知っておいて欲しい薬なのです


なぜなら、
ザイティガ®️は必ずプレドニゾロンを併用しないといけない薬だからです

ザイティガのもつCYP17阻害作用のため、テストステロンやDHTだけでなく、
コルチゾールの産生もストップさせてしまいます

つまり、ザイティガ®️を服用している人が、
何らかの原因でプレドニンをのまなかった場合、副腎不全になるのです!

皆様、ステロイドを元々内服している人であれば、副腎不全のことはとても気をつけますよね

ですが、ステロイドを服用していない人でも薬剤性に副腎不全を起こすことがあります


副腎不全は非特異的な症状が多く、疑うことが難しい病気です

そして、疑ったものの、まさかその原因が薬剤だったなんて・・・

というpit fallがあります


副腎不全を疑った場合、その原因が薬剤ではないか?
ということにまずは思いをはせましょう


副腎不全の細かい診断は成書を参考にしてください
ここではよくあるpit fallを解説します

①意外に短期間の使用でも起きてしまう人がいる

②内服だけではなく、関節注射や軟膏でも起きてしまう人がいる

③セレスタミン®️がステロイド入っているとは知らずに、
 他の抗ヒスタミン剤に変更して、副腎不全が起きてしまう


セレスタミン®️は皮膚科から時折でている薬で、抗ヒスタミン薬とステロイドの合剤で、
慢性の蕁麻疹の方などに処方されていることがあります


ステロイドが含まれていることを知らずに安易に薬を中止すると、
副腎不全になり得ますので、注意が必要です

副腎の血流

動脈は複数ありますが、静脈は1本です

そのため、副腎はうっ血しやすい臓器といわれています

静脈血流が障害されると、副腎はうっ血し腫脹します
うっ血が解除されないと、梗塞に陥り、出血します

交通外傷や敗血症でひどいショックの場合、
両側の副腎出血が起こり、副腎不全が起こることがあります

    
両側の副腎出血で副腎不全が起こる前に、両側の副腎が腫大している場合があります
こういった所見を見つけたら、副腎不全に注意しましょう


薬剤性副腎不全が起こる要因はいくつかあります

医師要因 × 患者要因 × 薬要因(薬局)

の3つがあると思います

一番は医師要因でしょうか

ステロイドを使用するときは、患者さんには口酸っぱく副腎不全のことを伝えます
口頭だけではなく、文書にしてお渡しするのが定石です

その上で、確認事項として

患者さんが理解力はどうか?
→薬の副作用についてしっかり理解できる人かどうかを見極める必要があります

薬を管理する人は誰か?
→施設職員さんであれば、まず安心です

他の薬との相互作用はどうか?
→リファンピシン内服していたら、倍量必要になることがあります



機序で分類すると、
コルチゾール生合成阻害、コルチゾールの代謝UP、コルチゾールの代謝down、
副腎出血、免疫チェックポイント阻害薬に分けられます (by up todate)




 ミトタン 、ザイティガ、リファンピシン、ニボルマブ、セレスタミン・・・

どれも内科医にはあまり馴染みはありませんが、
このマルチモビディティ(多疾患併存状態)の時代では、まとめて他科の薬を継続処方することもよくあります

ですので、これらの薬を内服している人が調子が悪くなった場合、
副腎不全を想起することが重要です


機序で覚えるときは正常の流れに沿って覚えるのがいいです

ですが、実際は下記の様な流れで考えていきます



まとめ
・副腎不全は想起するのが難しい疾患なので、普段から閾値低めに鑑別にあげる

・副腎不全が想起できたら、まずは薬剤が原因でないかを考える

・今の症状を全て薬で説明できないか?という思考のくせをつける

you tube解説動画:https://youtu.be/hTGNxRUo8IM

2020年6月17日水曜日

ボス回診 〜君の悩みは高尚だね〜

Y「お願いします、繰り返す腎盂腎炎で困っている方です」
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80台 女性 主訴:悪寒戦慄(症例は一部改変・修正しています)

Profile:先月にも腎盂腎炎で入院歴あり

現病歴:
元々、過活動性膀胱に対して、ベタニス®️内服していたが、
効果がなかったので、ベシケア®️に半年前に変更されていた

1ヶ月前に悪寒戦慄を主訴に来院され、発熱精査目的に入院となり、
尿培からクレブシエラが検出され、CTRXで治療され軽快した

今回も同じように悪寒戦慄があり受診された

既往歴:糖尿病、過活動性膀胱、腎盂腎炎(半年前にも一度あり)、高血圧
内服:メトグルコ、ベシケア、アムロジピン
生活:ADL自立

バイタルは37.5度の発熱以外、問題なし

身体所見上、CVA巧打痛なし
右の腹部双手診で腎把握痛あり

他、熱源となりそうなfocusはなし

血液検査 炎症反応上昇のみ 肝胆道系酵素上昇なし
尿検査  膿尿あり、細菌尿あり
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ディスカッション①繰り返す腎盂腎炎の原因は?

Y「・・・という方です。尿のグラム染色にてGNR largeが見えたので、
  腸内細菌系だと思われましたので、前回同様、CTRXで治療開始し軽快傾向です

  ですが、腎盂腎炎をここ一年で何度も繰り返しているので、今回は原因検索予定です
  今までは特に精査されたことはありませんでした
  
  具体的には、閉塞起点がないか探す目的でまずは超音波検査を行いました。
  そうすると、以前見られなかった両側の尿管が軽度拡張している所見がありました。
  水腎症はありませんでした。
  
  膀胱内に腫瘤性病変はなく、子宮はやや大きめの筋腫がありました。

  排尿後の残尿は50mlでした。

  超音波検査で両側の尿管が拡張している所見がありましたので、
  今後は造影CTや尿細胞診を行なって、癌の検索や後腹膜線維症のような病態がないか
  確認していく予定です

  膀胱尿管逆流がないかは、泌尿器科にコンサルトする予定です

  特に閉塞起点や膀胱尿管逆流がなければ、ベシケアに変更したタイミングなので、
  ベシケアによる排尿障害の可能性もあるので、変更を検討します」


ボス「ありがとう。今のプレゼンどう?何点?」


学生「えっと、80点くらいですか?」

ボス「笑 そう!?まあまあ、よかったんじゃない?100点でいいよ。」

Y「そんなにですか! 笑」


T「気をつけてね、今から落とされるから」

Y「僕もそんな気がしています 笑」


ボス「確かに、おっしゃる通りで腎盂腎炎を何度も繰り返している人の原因検索として、
   閉塞起点を調べるというのは、いいと思う
  
   あとは、VURとはいわないだろうけど、膀胱から尿がうまく出なければ、
   圧が尿管にかかってしまって、逆流したり、尿管拡張してもいいだろうね。
   
   とても論理的でしっかりしていて、そのプランでいいと思うよ

   ただね・・・君の悩みは高尚なんだ。


Y「高尚????」

ボス「そう、高尚なんだ。
   なんでかっていうと、前段が間違っている可能性がある。

 つまり「本当の腎盂腎炎」を繰り返しているの?

   腎盂腎炎と仮定して治療がうまくいったからといって、
   腎盂腎炎という診断にはならないよね

   腎盂腎炎の診断はとても難しいんだ

   市中感染症で敗血症を来しやすい感染症で、5+1の覚え方は知ってる?」


学生「髄膜炎のような中枢神経の感染症、肺炎、蜂窩織炎、腎宇腎炎、胆管炎とIEですか?」


ボス「その通り。その中でも髄膜炎はわかるよね、
   肺炎も呼吸器症状あるからわかりやすい、蜂窩織炎もしっかり診察すれば見落とさない
   難しいのは胆管炎と腎盂腎炎なんだ。
  
   どちらも診断する根拠が乏しいのが難点。

   腎盂腎炎の根拠としてよくあるのが、細菌尿や膿尿だけど、
   それって、無症候性の細菌尿や膿尿かもしれないよね。

   腎盂腎炎というためには、
   他に熱源がないということを証明しないといけないのだけど、
   現実的には毎回精査するのも難しい


   だから、まずは腎盂腎炎と暫定診断して治療を開始して、
   治療経過が思わしくなかったり、
   途中で違う異常所見が出てきたら、修正しながら治療していくんだ

   ただし、うまくいったように見えても、腎盂腎炎とも限らない。
   例えば、調べてなかった子宮留膿腫や肝膿瘍、IEだったかもしれない。

   今回も前回、前々回も、
  腎盂腎炎というのはあくまで「」つきで、
  本当に腎盂腎炎だったかを調べる作業が必要だ

  繰り返す腎盂腎炎の原因を調べるのはその後。





   例えば、本当に腎盂腎炎だったのか調べるとすると、
   尿培と血培の結果が一致したりすると傍証にはなるね

   どうだった?」  

Y「前回は血培は陰性でした、尿はクレブシエラが生えています。」

ボス「身体所見でもCVA巧打痛もなかったのかな?」


Y「前回も今回もありませんでした」

ボス「それって本当に腎盂腎炎なのかな?
   抗生剤入れてから、すっっと治っているのも変だよね。
   
   普通、腎盂腎炎って3日くらい熱が出たりすることもあるのに、抗生剤入れて翌日には解熱しているのも治りが早過ぎる印象だね。

  一過性に菌血症で有名な原因って知ってる?」
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ディスカッション②一過性の菌血症の原因は?

学生「うーん」

ボス「有名なのは、歯磨きなんだ
   
   そして、もう一つ。胆道系だね。
   胆管って腸管につながってるでしょ。

   そこで閉塞起点、例えば膵頭部癌とかがあって流れが悪くなると、
   一過性に菌血症を起こすこともある。

   だから今回も尿路系の評価も大事だけど、胆道系のところもしっかりチェックしてね。

   口から肛門までの消化管の一本道を
  進んでいく細菌たちは、大抵悪さしないんだ。
   
  でもね、その一本道から横道にそれた時に悪さする。

   
   人間も一緒でしょ?(ドヤ顔)」


T「今の絶対言うと思いました。笑」


ボス「あとは毎回、悪寒戦慄しているのに血培が生えてないって聞くと、
   考えることは、何かな?」

Y「実は悪寒戦慄ではない?とかですか」

ボス「そうだね、でも前回入院中にも悪寒戦慄があったようだし、
   医療者も見ているから多分、悪寒戦慄なんだろうね。

   もう一つは、血培で生えにくい菌の菌血症になっている可能性を考えないといけない。
   日常診療では、嫌気性菌だね。
   
   尿路感染症では嫌気性菌はあまり関与しない。 
   やっぱり胆道系が気になるね。

   あとは胃癌や大腸癌みたいな消化管に腫瘍がある時も同じように菌血症を起こす人がいるね。
   婦人科癌や直腸癌が膀胱と穿通してしまった時は、たくさんのGNRや嫌気性菌が悪さするけど、今回はそんな感じじゃないよね。」


Y「ありがとうございます。すっかり、腎盂腎炎の診断を鵜呑みにしていました。

  カルテの文字だけを拾って、この人は腎盂腎炎を繰り返している人だと
  インプットされてしまっていたので、その前段を考えることができていませんでした。

  繰り返す腎盂腎炎の原因を悩む前に、
 本当に腎盂腎炎でよかったのかどうかを確かめる努力をしす。

 T「画像で何も捕まらなければ、ベシケアを変更するのが現実的かなと思いました。
  もちろん、日常生活でのリスクファクターがあれば指導しようと思います。
   ありがとうございました。」





まとめ
・誰かがつけた「腎盂腎炎」の病名は本当に腎盂腎炎だったのか、疑う癖をつける

・「繰り返す腎盂腎炎」の原因を調べる時は、「繰り返す発熱」に問題を置き換えた方が良いかもしれない

・本当に腎盂腎炎が繰り返されているのであれば、解剖学的な問題と機能的な問題の検索を行なっていく

参考文献:伊藤裕司先生資料

You tubeでの追加解説動画:https://youtu.be/D_Ihu85YKXY




2020年6月13日土曜日

研修医の先生との対話〜ヒエラルキー〜

腎盂腎炎で治療中の患者さんに対して、
週明けに採血をオーダーしようとしていた場面

T「この人の採血、次にいついれる?」

研修医「えーっと、月曜日に入れようと思っていました。」

T「なるほど。
 そうすると、今は金曜日の夕方だね。
 自分のオーダーが今後どんな未来になるか想像できるかな?」

研修医「いやあ、想像できません。」

T「まだお医者さんになったばかりだから、見えないと思うんだけど、
 医者ってかなりの権力者なんだ。

 自分のオーダー一つでいろんな人が動いてくれる。

 そこを自覚しないといけない。
 知りませんでしたのままだと、他職種の信頼は得られない。

 例えば、金曜日の夕方に月曜日の採血をオーダーすると、
 採血スピッツは誰が用意するか知ってる?」


研修医「病棟の看護師さんですか?」

T「そうだね、平日の日中にオーダーすれば、スピッツやラベル貼ってくれるのは、
  検査科の人たちで、スピッツも届けてくれるけど、
  この時間だと、夜勤の看護師さんがスピッツを集めてラベルを自分で出して、
  セットしないといけないよね。」

研修医「確かに。。。それは大変ですね。」

T「採血実習やったでしょ?月曜日の採血どうだった?」


研修医「めっちゃ、大変でした。」

T「笑 そうなんだよね。
  みんな月曜日に採血したいから、オーダーするけど、集中するからね。

  できれば理想は水曜日。病態が落ち着いていればね。
  それが難しいなら、火曜日。
  病態が不安定で、どうしてもみたいなら、月曜日。

  月曜日に採血をオーダーする時は、心の中でごめんなさい。と思いながら、
  オーダーします。」

研修医「なるほど、水曜日ですか。」


T「医者って実はヒエラルキーの一番上にいるんだよ。
  研修医であってもね。
  あんまりその自覚はないと思うけど。

  例えば、この患者さん、尿検査フォローする?」


研修医「はい、腎盂腎炎で入院されたので、明日尿のグラム染色をして、
   菌が消えていることを確認しようと思います。
   
   週明けにもう一度、尿検査をオーダーする予定です。」


T「なるほど。みんな腎盂腎炎の治療効果判定に尿検査をオーダーするよね。
  それって本当にいる?

  僕は一度もオーダーしたことはない。
  
  だって、何がみたいの?

  菌が消えているかどうかをみたいのであれば、自分でG染色したらいいでしょ?」

研修医「確かに。」


T「尿検査、特に尿沈渣の検査ってどうやっていると思う?

 技師さんが顕微鏡をのぞいて、確認してくれいるんだよ。

 1個ならいいけど、何個もあると、とても時間がかかって、大変な作業だね。
 
 だから特に尿沈渣を出す時は、本当に必要かしっかり考えようね。」


研修医「わかりました」

T「知っておかないといけないのは、
 自分たちの指示で多くの人が動いてくれる、
 簡単にいうと人の時間を奪っているんだ。
 
 だから自分の指示には、責任とその自覚がないといけない。

 そしてもう一つ、医師からの指示には他職種は意見を言えないことが多い。
 よっぽど変な指示でない限りね。

 医師が必要と判断したということは、患者さんのためになっているということだから、
 よっぽどのことがない限り、不平や不満、反対意見は出てこない。
 
 なので、医師という職業は自分が出した指示に対して、フィードバックを得られにくいんだ。
 
 フィードバックがないこと=自分が正しい
  
 という構図になってしまって、どんどん傲慢になっていく。
 
 裸の王様にならないように注意しよう。

 そのためには、日頃から話しかけられやすい状態でいること。
 できるだけ、自分にフィードバックをくれるような姿勢でいることが大事だね。」


研修医「わかりました。」 

T「(まあ、君は大丈夫だよ)
  最後に。
  
 自分が出した検査やオーダーはなるべく、自分で処理しよう

  うちの腎臓内科の先生は画像検査をとる頻度が多いんだけど、
  看護師さんに協力して、必ず自分で患者さんを運んでいるからね。

  偉いよね。

  あの姿を見たら、CTや血培オーダーして、
  はい、あとよろしくーってできなくなるよ。


  昔、こんな研修医がいてね。

  看護師さんにバイタル1検にしても良いかと聞かれて、
  研修医の先生としては、3検して欲しかったんだって。

  でも看護師さんの業務量を減らすために、1検にしたんだけど、
  その翌日からどうしたと思う?

 自分で患者さんのバイタルを3検し始めたんだ。


  偉いよね。(猪突猛進系の研修医だったけど。)」


まとめ
・自分が指示した先の未来を想像できていますか?

・自分の指示やオーダーが、誰かの時間を奪って働かせていることを自覚しよう

・裸の王様にならないように常に感謝の心を持ち、自分で出したオーダーは自分で処理しよう
  

研修医の先生との対話〜ACPとICF〜

夕方の振り返りにて・・・

まだ面談に慣れていない研修医の先生との対話


97歳女性 
心不全で入院していたが、軽快したため、
もともと入っている施設への退院が間近になった

心不全の治療経過と今後についての家族と面談後の振り返り

研修医「・・・何をどこまで伝えた方が良いのか分からなくて困りました。
    息子さんの反応があまりなくて、何でも歳だからという感じで、
    聞き流されていている印象でした」

上級医「そっかー。まあ、97歳だから歳も歳だし、
    もう家族としても覚悟ができているんだろうね。
    でも、具体的にそろそろ最期のことも考えないといけないよね。
    ACPって聞いたことある?」

研修医「あります。」


上級医「じゃあ、ALPは?」

研修医「ALPですか?初めて聞きました。」


上級医「いきなり、ACPはハードルが高い時もあるよね。

    例えば、外来主治医と家族や本人との関係性が強い時は、
    入院担当になって、初めましての研修医だとなかなか難しいことがある。

    でも現実は外来や在宅のセッティングでも、
    ACPできている先生は少ないんだよね。
    まあ、あえてしていない先生もいるだろうけど・・・

    現実は毎回、病気のコントロールのための質問や困っていることに解決する時間に
    追われていて、ACPまでする時間がないんだよね。

    在宅でも家族はその場にいなかったりして、なかなかご高齢の方だけだと、
    ACPは進まない。
   
    ACPは一回で終わるものではなく、あくまでプロセスだから
    何度も何度も重ねていくことが必要だけど、できれば家族も含めてやっていきたいよね。

    だから入院は一つのチャンスで、初めましての関係であっても、
    ACPはしても良いと思うよ。

    急変時の対応を話し合うことがACPではないからね
    具合が悪いと、一番最終段階(亡くなる時)から話さないといけないけど、
    落ち着いている時は、最期の場面から話す必要はない。

    話し方としては、ALPから始めるんだ。

    つまり今後の生活について話し合うってことだね。
    施設に帰ってからどんな生活をしていくか。
  
    例えば、たまに車椅子に乗って、家族と散歩に行ったり、
    自宅の様子を見に外出してみたり、好きだったお店に行ってみたり、


    という退院後の生活について話をすることから始めるんだ

    その上で、だんだんその生活が困難になってきた時の話もして、
    自力で立つことが難しくなってきたらどういうプランを立てるか、
    自力で食べることが難しくなってきたらどうするか、
    
    その延長線上に、最期を迎えるとしたらどこがいいか、
    
    という感じで話していく感じかな。」

参考:ACPについて


研修医「なるほど」

上級医「この患者さんがどう最後を迎えたいかを本人に聞いても、
    ちょっと難しいよね。

    そうすると、息子さんに聞かないといけないけど、
    今の息子さんの考えを鵜呑みにするのも考えものだね。

    大事なのは、患者さんを置いてきぼりにしないこと。

    人生の最期をどうするかということを、他の人たちが簡単に決めるのは
    よくないよね

    だからこそ、この患者さんが今までどういう生き方をしてきて、
    どういう性格だったかを、家族から聞くことが大事

    そこから自分の中でこの患者さんだったら、
    どういう最期がこの患者さんらしいものかを想像することが大事なんだ。

    一番いいのは、自宅にいくこと。
    この患者さんの歴史が垣間見えるから。

    百聞は一見に如かずだね。」


研修医「なるほど、今回の話も息子さんよりもお嫁さんの方が熱心に聞いてくれていました。
    お嫁さんは頑張りすぎてしまう感じで、自宅で生活していた時に、
    一時期疲れてしまったようです。」

上級医「そうだね、とてもいい情報です。
  
    男の人って未だに育児や介護に非協力的な人は多い。
    晩年、介護をしていたのは、お嫁さんだからお嫁さんの意見も大事だね。

    今回のキーワードは、ALPとICFです。

    ICFは知ってる?」


研修医「知りません」

上級医「国際生活機能分類と呼ばれるものだね」

研修医「それなら知ってます 笑」

上級医「ICFってとても大事なんだ。

    みんなさあ、カルテって何のために書くんだろうね。
   
    カルテって、その人の物語みたいなものじゃない?
    何年何月にこんなことがありました
    こんなこと話しました


    でもさあ、読んでいてわかりにくくない?

    何が分かりにくいって、情報を取りにくいんだよね。

    辞書みたいに分厚い本のようなイメージで、大事なところを探すのに苦労する

    
    せっかくいい病歴やいい物語があったとしても、分厚い本の中から、
    その一ページを探すのって、大変だよね。

    だからさあ、辞書にもタグや付箋がついているでしょ?

    そのタグのところ見れば、大事なことが書いてある。

    ICFはそのタグや付箋の最たるものだと思うんだよね。

    2年まえにICFが書いてあれば、そこから今の状態がどう変わったかがわかる。
    そして大事な物語を引き継ぐことができて、さらにupdateできる。
    
    医者って病気の専門家だから、病気の経過や薬の経過を書くのは得意なんだけど、
    患者さんの専門家でなくなってきているんだよね。
    だから、その患者さんの全体像が見えなくなってきている。

    退院サマリーを見ても病気のことばっかり。

    病気側から見る視点のカルテばっかりだと、その人のことを一側面からしか
    見ていないということなんだよね。


   入院した患者さんのカルテを書く時って、
   その患者さんの分厚い本の物語の中の数ページを
   書いているイメージなんだ。


    そこで大事なのは、あとでその物語を書くことになった人に、
    うまく情報を伝えるということ。

    そのためには、病気の経過だけではなくて、
    その患者さんの状態、つまりICFも一緒に記録して欲しいんだ。


        ぶっちゃけ、退院サマリー書くよりもICF書いて欲しいくらい。笑」


研修医「分かりました。」


上級医「この患者さんのフォローは自分でしないから、バトン渡す気でいたでしょ?」

研修医「はい、そう思っていました。」


上級医「じゃあ、この患者さんを退院後も自分が訪問診療していくことを想像したら、
    同じ情報量でいられた?
   
    これから、バトンを渡す側とバトンを渡される側のどちらも体験できるといいね。

    バトンをもらう側は常に退院後の生活について考えている。
    でも病院にいて、あとよろしく、ってなるとそこの考えが甘くなるんだよね。

    どこかで、退院後も訪問に行けるといいね。」


研修医「そうですね。行ってみたいです。」

参考:ICF


まとめ
・退院後の生活について考える時、バトンを渡す側にいると想像力が乏しくなる

・バトンをもらう側になったつもりで、退院後の生活を考える

・退院後の生活、つまりALPを話し合ってその延長線上にACPがある

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