Respirology (2017) 22, 551–558
本文より
Roux S, et al. BMJ Case Rep 2017. doi:10.1136/bar-2017-222542
日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:616-9
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臨床のパールや自分なりの考えをノートにまとめました。自分のポケットの中だけでなく、皆様にもみていただき、ご意見ご感想を頂ければ嬉しいです。実臨床への適応は自己責任でお願いします。
Respirology (2017) 22, 551–558
本文より
Roux S, et al. BMJ Case Rep 2017. doi:10.1136/bar-2017-222542
日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:616-9
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架空の症例(NEJMのCPSを意識して作ってみました)
経過①ある日の救急外来
60歳の男性が呼吸苦を主訴にwalk inで受診されました
バイタルはBP140/90, P 130, SpO2 98%, RR 40, T 38.5
開眼しており、話しかければ会話できますが、頻呼吸で文章をスラスラは話せません
いかにも苦しそうな様子でwalk inで来院されましたが、すぐに初療室へ来られました
起座呼吸で大きな呼吸で浅くはありませんでした
喘鳴やcrackleは聴取しません
頸静脈の怒張はありません
不穏な様子はありませんが、辛そうな表情で皮膚はじっとりしています
モニター上は洞性頻脈です
カルテはなく、基礎情報はありません
妻と一緒に来院しています
本人からの詳細な病歴は取れませんでしたが、今の症状は、息が苦しいとのことでした
胸痛はなし
いつから具合が悪いか聞くと、3、4日目くらいからとのことでした
既往を尋ねると糖尿病と高血圧があり、近医で薬をもらっているようです
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解説
60歳男性が著明な頻脈、頻呼吸を呈し、救急外来を受診されました
あまりの頻呼吸かつ、大呼吸であり、病歴はうまく取れません
このような場合は、一緒に来院している妻から病歴を詳細にとるのがよいでしょう
救急での鉄則ですが、バイタルが不安定な人が来た場合、
原因が突き止められ、見通しがたつまでは
ベッドサイドから離れないことが重要です
そのため、妻からの病歴聴取は自分以外の人にとってきてもらいます
実際は身体診察を行い、バイタルを立て直す人、
詳細に病歴をとる人に分けて同時並行に診療は進んでいきます
もし、一人しかいないのであれば、待合室に妻を待たせるのではなく、
その場に妻を呼んで病歴聴取を行います
さて、中年男性が3、4日前から具合が悪くなり、
高熱を認め洞性頻脈と頻呼吸・大呼吸になってしまう病態とは
どのようなことが考えられるでしょうか
鑑別としては、心筋梗塞(STEMI)、肺塞栓、緊張性気胸、喘息発作、敗血症、
コロナ・インフル、パニック発作、代謝性アシドーシスの代償、重度の貧血、Hb異常、
二型呼吸不全をきたすような疾患の急性増悪(MGクリーぜ、GBS、ALSなど)、
甲状腺クリーゼ、違法薬物の使用、中毒(CO、シアン)などが挙げられます
これらの疾患をr/o、r/iするために心電図、心臓超音波検査、血ガス、他の血液検査、ポータブルレントゲン、コロナ、インフルエンザ、血培、尿検査・尿培養を行っていきます
疾患の鑑別は与えられた情報によって刻一刻と変わっていきます
来院時、5分後、10分後・・・では鑑別疾患は全く別物です
疾患の鑑別が上がらない人は、まずは鑑別をできるだけたくさんあげるトレーニングを行いましょう
鑑別をある程度あげられるようになれば、今度は優先順位をつけられるようになりましょう
優先順位のコツは5Cです
critical,common,curableの3Cをまずは意識します
無意識に3Cを考えることができるようになった人は、
3Cに加えてInfection Control、Costを考えるとよいでしょう
つまり、今回の事例においては、高熱をきたしており、
コロナ感染者の可能性があります
Infection Controlの観点で考えると、コロナの感染対策は必須です
Costは研修医の先生はあまり意識しなくてもよいとですが、指導医は意識する必要があります
costで意識するのは、時間と労力とお金です
救急の現場に限らず、初診外来ではできるだけスピーディに値段を抑えつつ、
非侵襲的な検査で正確な診断にたどり着きたいですよね
いわゆるDiagnostic Excellenceです
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経過②
まず心筋梗塞や肺塞栓を念頭に心電図検査が行われました
心電図は洞性頻脈であり、ST-T変化はありませんでした
S1Q3T3はありませんでした
次にUCGが行われ、EFは60%以上あり、hyperkinesisでした
asynergyはなく、心嚢水貯留もありませんでした
Dshapeはなく、TRも目立ちません
大動脈のフラップはなく、ASやAR、MRも目立ちませんでした
CXRでは気胸もなく、浸潤影やうっ血もありません
血ガスの結果が出ました
目を疑う数字でした
PH 6.9, PCO2 12 , PO2 129, HCO3 3, 乳酸 30 mmol/L , AG 46
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解説
頻脈、頻呼吸、呼吸苦の原因精査を行ってきました
心電図やUCGではmassive PEやSTEMIではなく、
気胸や肺炎も可能性は低くなりました
血ガスがこの症例では診断の決め手になりました
Step1:pHのチェック → アシデミア pH6.9!
Step2:一次性変化は? → 代謝性
Step3:代償反応の計算・評価 → PaCO2 12 <1.5✖️HCO3 (3)+8±2
呼吸性の代償は適切に働いている
Step4:AGの計算 → 40と開大
Step5:AGが開大している場合、Δ-Δを計算する →ΔAG = 46 - 12 = 34
ΔHCO3 = 21
Δ - Δ= ΔAG - ΔHCO3=13
乳酸アシドーシスなので、13✖️0.6= 7.8
+5以上であり、代謝性アルカローシスの合併
Step6:病歴・身体所見を合わせた原因の評価と対応 → ここが一番大事
現場ではゆっくり計算できないことが多いですが、乳酸アシドーシスが重度であり、
その代償としての過換気があることは一目瞭然です
この血ガスを見てパニックにならない医師は、
全てを悟っている熟練の医師か、何も知らない医師 のどちらかです
多くの医師がここでパニックに陥ってしまうのは、
乳酸高値の危なさやpH6.9の異常さを知っているからです
このままでは死んでしまう・・・でも一体どうしたらよいのだろう・・・?
さらに本症例では、血圧が正常で腸管虚血を示唆するような症状が全くないので、
現状では原因不明の乳酸アシドーシスになっています
乳酸上昇はtype Aとtype Bの機序があることが知られています
乳酸アシドーシスの鑑別は膨大ですが、実際の思考過程は意外にシンプルです
①血圧は保たれているか(大循環系の評価)
血圧が低ければ、組織へ酸素を運ぶことができません
これはいわゆるtypeA(:明かな組織低酸素があるパターン)です
心原性、分布異常、閉塞性、循環血漿減少性ショックの原因を調べます
②皮膚の血流(CRT)・モットリングは出ているか(微小循環の評価)
大循環系の指標である血圧が保たれていれば、
組織に血液が十分到達するかというとそうでもありません
血圧が保たれていることだけでは、ショックを否定できません
血圧正常ショックというものがあります
次に評価するのは微小循環です
微小循環と呼ばれる毛細血管を含んだ細動脈系に血液がしみわたらないと、
細胞には血液(酸素)は届きません
イメージとしては・・・
ネットで商品を頼んでも家に来ないと意味がありませんよね
高速道路(血圧)がどんなに順調に進んでも、
高速を降りた後の細い道で渋滞があったり、道を間違えてしまっては商品は届きません
微小循環の評価はベッドサイドで主に皮膚で行います
膝のCRTとモットリングを見ましょう
③VB1不足になるような原因やウェルニッケの所見はあるか?(特に眼振、眼球運動障害)
病歴ではアルコール多飲をチェックします
病歴でよく分からなければ、VB1採取後、VB1は投与してもよいでしょう
VB1投与前後の変化は、VB1欠乏の診断の根拠にもなります
④乳酸上昇するような薬の摂取はないか?
メトホルミンが有名です
常用量でも腎不全、アルコール、高齢、造影剤など、他の因子が加われば起こり得ます
喘息の吸入薬のSABAやLABAの使いすぎでも起こりますので、
吸入薬もチェックしましょう
リネゾリドやHIV 治療薬のプロテアーゼ阻害薬、テオフィリンなど
思いもしない薬の副作用があるかもしれないので、
薬はしっかりチェックが必要です
⑤中毒の可能性はないか?(発症した場所や時間を確認)
火災現場にいた場合、CO中毒やシアン中毒の可能性があります
誤飲や自殺企図の場合、エタノールやプロピレングリコール、メタノールなどの
浸透圧ギャップが開大するような物質を摂取している可能性があります
長期大麻使用の人はカンナビノイド悪阻症候群を発症することがありますが、
この場合にも乳酸上昇します
⑥腸管壊死を示唆する所見はあるか?
(メトホルミン内服なければ造影CTへ)
組織の壊死によっても乳酸は上がります
腸管壊死以外では、壊死性筋膜炎、外傷、熱傷でも上がりますが、
外表からの診察で明かなことが多いので原因不明にはなりません
腸管壊死の評価は、挿管されていたり意識がない場合、
造影CTをしないと判断できない場合も多いです
⑦筋肉由来:シバリング、痙攣発作、過呼吸、努力呼吸
病歴や見た目でわかります
⑧乳酸クリアランス低下の要素はあるか:肝不全、腎不全
血液検査や画像で評価します
⑨その他:悪性腫瘍、短腸症候群、先天代謝異常
結局はこれまでの①〜⑧の組み合わせがほとんどです
複合的な問題(multifactorial)が重なりあって、乳酸が上昇します
例えば、
もともと、乳酸のクリアランスを行う肝臓の機能低下や腎不全がある
さらに飲酒も少しする
食事はほとんど取れておらず、VB1は欠乏しているかもしれない
DMでメトホルミンを飲んでいる
高熱で敗血症性ショックにもなっている
肺炎があり、低酸素血症がある
喘息もあるので、SABAを多めに吸ってきた
1時間前にシバリングした
寒かったから豆炭こたつで暖をとっていた(CO中毒あり)
このようなmultifactorial(多因子)なことがほとんどであり、
原因を一つに絞ることは困難です
乳酸アシドーシスのマネージメントは、
乳酸上昇の原因疾患を一つ探り当てることではなく、
チェックリストのような形で一つの漏れも許さない姿勢が大事です
なぜなら乳酸上昇が改善しなければ、亡くなる可能性が高いと知られているためです
何がなんでも乳酸は下げなければなりません
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経過③:乳酸アシドーシスの原因と治療介入
①血圧は保たれているか(大循環系の評価)
→保たれていました BP 140/90,P 120、EF良好
②皮膚の血流(CRT)・モットリングは出ているか(微小循環の評価)
→モットリングなし、末梢は暖かい、CRT 5秒以内
血液検査では腎機能は悪化 Cr 1.8
③VB1不足になるような原因やウェルニッケの所見はあるか?(特に眼振、眼球運動障害)
→妻から病歴聴取すると、毎日飲酒を大量に摂取していた
WEを示唆する眼球運動障害はなし
UCGにてhyperkinesisであったため、wet beriberiの可能性を考え、
WE doseですぐにVB1の投与を開始した
④乳酸上昇するような薬の摂取はないか?
→メトルホルミンを内服していた
薬手帳なく、量は不明
本人管理で毎日、しっかり服用していた
⑤中毒の可能性はないか?(発症した場所や時間を確認)
→発症直前まで仕事をしていた
家の中でも会社でも中毒物質を摂取している可能性は低いと思われた
⑥腸管壊死を示唆する所見はあるか?(メトホルミン内服なければ造影CTへ)
→腹痛はなく、単純CTでも腸管に問題なかった
⑦筋肉由来:シバリング、痙攣発作、過呼吸、努力呼吸
⑧クリアランス低下の要素はあるか:肝不全、腎不全
→AKIになっていた
CTでは肝臓が慢性肝炎を示唆する辺縁鈍で脂肪肝が著明であった
頸部には蜘蛛状血管腫が見られ、女性化乳房であった
血小板低下や黄疸、腹水、意識障害はなし
その他:悪性腫瘍、短腸症候群、先天代謝異常
→知られていない
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解説
乳酸が著明高値である原因は、足し算のようなイメージで考えるとよいでしょう
0+2+5+3+4+1+10+5=30
みたいなイメージです
どれが、10点かは分からないことが多いので、
介入点を探して、ひたすらポイントを減らしていくイメージです
自分の想定が正しいかどうかは、次回の乳酸値が教えてくれます
TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります