2022年2月26日土曜日

ドライウェイトの決め方・考え方

ドライウェイト(DW)を決めることが透析を行う医師にとっての最初の関門です

DWを決められるようになれば、一人前と教わりました


DWとは

「体液量が適正であり、透析中に過度の血圧低下を生ずることなく、

かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と定義されています



DWは透析を行なっている人だけの概念ではなく、

心不全患者さんの適切な体重を決める時と同じです


腎機能が保たれている患者さんの場合は、利尿薬を用いてDWを達成します

維持透析を行なっている方の場合は、透析で除水を行なってDWを達成します



透析で除水を行うことを改めて考えてみます


体重の60%が水分であり、その水分は細胞外に20%、細胞内に40%となっています

さらに細胞外の水分は血漿5%、間質15%に分かれます

血漿5%とは体重60kgの人では3L(3000ml)です


その血漿をQb 200ml/minのスピードで体外へ排出し、

透析回路内で拡散と濾過を用いて血液がきれいになり、体内に戻っていきます

200ml✖️60min = 12000ml/hrであり、1時間に4回分の血漿が体の外にでていきます



これまでの知見から安全に行える除水速度もわかっています

平均除水速度は15ml/kg/hr以下、

DW60kgの場合、15ml✖️60kg=900ml/hr以下を保つ必要があります


体重の6%を超える除水は予後が悪くなるというデータもあり、

透析間隔日の体重増加は6%未満にすることが望ましいとされています


DW60kgの人の場合、

最大の除水許容量を15ml/kg/hrとすると、4時間で3600mlが除水されます

つまり、血漿分は全て除水されるということです


4時間で3600mlというのは、ラシックスIVしてもなかなか到達できない除水スピードと量です

なかなか異常ですね 





では、血漿分に相当する量を短時間で除水して、血圧は下がらないのでしょうか?


DWが適正であれば、血圧は維持される人が多いです


理由はプラズマリフィリングというシステムのおかげです



プラズマリフィリングとは、循環血漿量が減少した場合に、
血管内の膠質浸透圧によって間質液から血管内へ水分が移動してくることです

低Alb血症では膠質浸透圧が低下し、プラズマリフィリングが低下し、
血圧が低下しやすいとされています


他にもプラズマリフィリングを低下させる要因として、
心収縮力低下、AS、AR、高齢者、糖尿病、動脈硬化があげられています


プラズマリフィリングは透析の開始直後が最も高く、
時間と共に低下していくため、透析の後半から血圧が下がりやすくなります



プラズマリフィリング以外にも末梢の細静脈系の収縮や心収縮力UP、心拍数UP、
交感神経興奮により末梢血管抵抗UPといった代償機構が存在します


それでも血圧が下がる人は、代償を超えた範囲で除水が行われており、
DWが合っていないか、透析間の体重増加が多い(除水量が多い)、降圧薬が原因と考えられます


どんな理由にせよ、
透析中の30mmHg以上の血圧低下(透析関連低血圧)は、
生命予後不良と相関すると報告されており、避けた方がよいとされています




そうはいっても透析間の体重増加は軽く6%を超えてくる人はざらにいます


体重が増えてきた時に考えることは、普通に食事量が増えて太ってきた
つまり、水分量が増えているのではなく、筋肉や脂肪が増えている可能性を考慮します

体内のコンパートメントのどこが増えたかをイメージすることが大事です

そのためには食事量や運動、活動を聞く必要があります



日中、ほとんど動くことはないが、
ラーメンばかり食べている人の場合、塩分過多の可能性が高く、
水分が増えていることは明白でしょう


その場合、多少きつくてもDWは変更できません
残りが出ないようにできるだけ除水を行い、食事について再度確認する必要があります

残りが多すぎる場合は、透析時間を伸ばしてECUMを行うか、
翌日も透析のために来てもらうかが検討されます

ですが、それも拒否される方が多く、
「苦しくなったらすぐ来てくださいね」という決まり文句を伝えて帰宅することが現実的には多いです



一方、日頃から運動や筋トレを行い、食事量も増えてきた人の場合、
水分よりも水分以外の筋肉や脂肪が増えてきている可能性があります

糖尿病が悪化してきたことやPやK、Albの値なども考慮し、
普通に太ってきたと考えるのであれば、DWは上げても良いかもしれません


普通に太ってきたのにも関わらず、DWを変更しないと、
除水がキツくて、血圧が下がることが多いです





最初の頃はDWを完璧に決めないと大変なことになる!という思いもありましたが、
ある程度はアバウトでも問題がないことに気がつきました


車のブレーキのあそび部分のように、DWには前後に「あそび」があります


残りが多く、透析間の体重増加が8%だったとしても、
溢水にならずにいられるのは「あそび」の存在のおかげです


「あそび」はつまり、心臓の余力です

心臓が前負荷UPにどこまで耐えられるか?というのは、
フランクスターリングの曲線を思い浮かべます


フランクスターリングの曲線のてっぺんを超えたらoutです



Aさんは10%の体重増加で大丈夫でも、
Bさんは10%の体重増加で溢水・肺水腫になってしまう可能性もあります

一人一人フランクスターリング曲線の形が違うためです



溢水や肺水腫を防ぐためには、
DWだけでなく、「あそび」部分がどれくらいあるか?
心臓の機能はどれくらいか?をイメージしておくことも大事です


例えば、いつも体重増加が8%くらいあっても、なんともなかった人が、
体重増加6%で肺水腫で来院している


一見すると、透析患者さんが肺水腫できており、
DWがあっておらず、体重管理が悪いと思われがちです


ですが、そこまで体重増加は目立っていなかったため、
他の原因を検索したところ、心筋梗塞を新たに発症していたことがわかりました

心筋梗塞のため、心収縮力が低下し肺水腫に至っていたということはよくあります


他にも肺炎になっていた、貧血が進んでいた、降圧薬を飲み忘れた・・・などなど
他の原因を考えるきっかけになるのが、この「あそび」の存在です



透析患者さんが具合が悪くなった時は、
点(その時点での状態)で考えるのではなく、
線(これまでの経過や傾向)で考える必要があります




では実際のDWの決め方です


①自宅での血圧はどうか?
これは非常に重要で生命予後にも関わる重要な指標です
自宅での血圧が上がってきたら、DWの下方修正を検討します


②透析中の血圧はどうか?
急激な血圧低下は生命予後が悪化します
さらには血圧が低いと、DWまで到達できない可能性があります

DWが適正でプラズマリフィリングがしっかり機能すれば、急激な血圧低下は防げます
血圧が高めのまま微動だにしない場合は、DWを下げだ方がよいでしょう


③自覚症状はあるか?
透析終わりにぐったりして、家に帰ったら寝ている
透析終わりに必ず足がつる
とかはDWがきついかもしれません


④診察
浮腫があればDWの下方修正を検討します


⑤シャントはどうか
狭窄しており、閉塞しやすい人の場合、
DWがきついと閉塞のリスクがあります
定期的にUSでシャント血流を評価する必要があります


⑥CXRはどうか
胸水や心拡大傾向であれば、DWの下方修正を検討します
個人差が大きいのでトレンドが大事です


⑦hANPやBNPはどうか
Afがあると指標になりにくいので、こちらも参考程度です
やはりトレンドが重要です


⑧CLやΔBVはどうか
DMの人の場合、15-20%
非DMの人の場合、10-15%くらいを目安にします


⑨最後に一番大事なのが、本人の考えです
最終的なはんこを押すようなイメージです
自分の体のスペシャリストである本人の考えを聞きます






このようにDWはある一つの指標だけを元に決めているのではなく、
これらの材料を総合的に判断して決めています


まとめ
・DWは透析患者さんだけでなく、慢性心不全患者さんにも当てはまる概念
→利尿剤で達成するか、透析の除水を使って達成するか

・透析の除水は血漿全ての量(3600ml/4hr)を除水している異常事態
→血圧下がりやすいのは当然、プラズマリフィリングに感謝

・DWは一つの指標を元に決めるのではない
→自宅血圧、透析中の血圧、症状、診察、データ、画像、シャント血管、CL、本人の思いを総合的に判断して決めている

透析とは 〜飛行機を手動で飛ばしているようなもの〜

透析を勉強するときに必ず出てくるのが、濾過と拡散の原理です

ですが、原理の段階で力尽きてしまう人が多いのではないでしょうか


透析の原理はさておき、透析の概念について自分なりの見解を述べたいと思います



透析室に初めて入った時に既視感がありました



それは、飛行機の中に似てるということでした



飛行機に入る前のチェックインのように、
透析室に入る前に列を作って並び、体重を確認しながら決められたベッドにいきます

ベッドで横になって、寝ている人もいれば、TVを見ている人もいる
まるで透析室は機内のようでした


透析が終わったら、目的地に到着した乗客のように
みなそれぞれの日常へと帰っていく・・・


透析室はまるで飛行機の中みたいだ・・・

というのが、透析室の第一印象です


この第一印象はあながち間違っておらず、
医師は機長、ナースはCA、MEは整備士のように見えてきます


機械を扱う世界はどこも同じだなあと思いました


     



透析を飛行機に例えると、透析の導入は離陸に相当します


飛行機が途中で着陸することがないのと同じように、

透析を一旦始めた場合、途中で止めることはほとんどありません

透析を終了するタイミングは着陸に相当します



飛行機が飛んでいる間は維持透析に相当します


フライトを快適にするのが、機長やCA、整備士の仕事であり、
維持透析を快適にするのが、透析医師やナース、MEの仕事です


飛行機はほとんどが自動で操縦できますが、
透析は人の手による調整が必要になります


透析モード、DW、除水速度、ダイアライザ、QB、QD、透析の温度、透析時間、抗凝固薬など毎回確認が必要です



患者さんは機械のように決められた動きや生活をするわけではありません


食事や塩分の量も毎回違いますし、薬の飲み忘れがあったりします
年をとってくれば、食が細り体重が減ってきたりします

日々、体内の変化に合わせて、透析の設定を変えていかなければなりません


このようなプロセスは「透析処方」と呼ばれます



患者さんの現時点の体調に合わせた透析処方を行うことが重要になります

適切に透析処方を行ったとしても、ハプニングやトラブルはつきものです



短期的なトラブルでは、血圧が下がった、KやPが上がった、BNPが上がった
中期的なトラブルでは、透析アミロイドーシス、心不全、脳梗塞、シャントトラブル
長期的なトラブルでは、フレイルが進行し生活ができなくなってきた、食事がとれない


といったトラブルにも対応していく必要があります



もう一つの仕事は途中で墜落させないことです

寿命を真っ当できるように、なだらかに着陸にもっていくのも大事な仕事です




腎臓を守れなかったかわりに、

命と生活と人生を守るのが透析医師の仕事だと思います





透析では「至適透析」を目指そうといわれます


至適透析とは、生体内環境が可能な限り正常に近く、
死亡や合併症をきたすことなく、長期的な透析患者の生命予後を良好に保つ透析

のことをいいます

つまり、命と生活と人生が守られた透析だと思います


至適透析のためには、医学的な視点と患者さんの視点の双方からみて、
最適である必要があります



検査データだけ完璧でも、患者さんが透析終わりにぐったりして、
一日何もできないような状態では至適透析とは言えません


逆に患者さんは何の症状もなく体調はいいというけれど、
BNPが上昇し続け、DWまで到達しないような状況も至適透析とは言えません


そう考えると、至適透析に至っている人はごくわずかではないでしょうか



 

まとめ

・透析室は飛行機内と似ている

→快適なフライト(維持透析)のために医師、看護師、MEが協力して働いている


・透析が始まったら、途中で終了することはほぼない

→途中のフライト(維持透析)を快適にするためには、短期的、中期的、長期的なトラブルに対応していく


・至適透析を実現するためには、医師と患者さんの両方の視点から最適である必要がある

→透析医師は腎臓の代わりに命と生活と人生を守っている

2022年2月23日水曜日

腎臓の役割 〜腎臓は賢い〜

腎臓の役割はたくさんありますが、
メインは尿を作ることです

血液の余分なものを尿として排泄することで、
体内の血液をきれいにしてくれています


ただ尿を作っているのではなく、
状況に応じて適切な尿を作っています


水分が多ければ、水分多めの薄い尿を作ってくれます
脱水の状態であれば、水分少なめの濃い尿を作ってくれます


尿を出すことによって、
酸塩基平衡や電解質、体液量、血圧を適切に管理し、
尿毒素物質の除去や薬物の排泄・代謝を行なっています


このように私たちは考えなくても、腎臓が勝手にいい感じの尿を作ってくれています


私たちが自由に食事をしても血液データが一定でいつも通り生きていけるのは、腎臓のおかげです



唯一、食事で気をつけなければならないことは塩分をとることです
塩分がないと人間は生きてはいけません



今は塩がありふれており、逆にとりすぎることが問題になっています


ですが、昔は逆でした
我々の祖先は海から陸へ上がり、塩分をとることが難しくなりました


そのため、塩分を体にためこむ能力を身につけました




塩分をとると美味しいと感じる嗜好性(inを増やし)と

RAAS(レニンアンギオテンシン系)やTGF(尿細管糸球体フィードバック)です(outを防ぐ)



このように腎臓で尿に塩を捨てないようなシステムが出来上がりました


今ではこのシステムが逆効果になっていて、塩分過多が問題になっています

時代の変化に体が追いついていないのです


体が変わるのはまだ時間がかかるので、ブロックすることが治療になります
RASを抑えるRAS阻害薬やTGFに関わるSGLT2がその代表です


     



腎臓は生命維持に欠かせない臓器です
大事な臓器には、autoregulation機能が備わっています


つまり、血圧が多少変動しても臓器への灌流は保たれるシステムです

autoregulation機能は主に①筋原生反応、②TGFがあります


筋原生反応は輸入細動脈の圧力を感知して、
血管平滑筋が反応して輸入細動脈を収縮させたり、拡張させたりする反応です

これは数秒で行われます


この機能のおかげで、血圧が高くなっても低くなっても糸球体内の圧は一定に保つことができます
自己調節できる血圧の範囲は人それぞれです


慢性的に高血圧の人は高めに設定されていることが多く、
敗血症の際にMAPを少し高めに管理するという戦略が生まれます



腎臓の機能が低下するとどうなるのでしょうか?


CKDになると尿は出ますが、適切な尿が出しにくくなります

そうなると塩分を適切に排泄することができず、少し塩分を多めにとっただけで、
体に蓄積するため、血圧が上がったり浮腫として現れます


そのため、食生活に制限がどんどんとかかってきてます

食生活でも代償できなくなれば、
腎代替療法を検討しなけれなならなくなります


ですが腎代替療法の代表である血液透析では、腎臓の全ての機能を補うことはできません



健常者の糸球体濾過量は60ml/分に対して、
ダイアライザを透過する血流量(Qb)は200ml/分です

3倍近くの濾過量がありますが、透析は1日4時間を週に3回しか行なっていません


つまり血液透析では12時間/週の稼働時間で144L/週の血液を処理していますが、
腎臓は168時間/週の稼働時間であり、605L/週の血液を処理しています



透析時間は長ければ予後がいいこともわかっています
血液透析よりも移植の方が予後も良好です


血液透析はギュギュッと短時間で無理やり、腎臓っぽいことをしていますが、
腎臓の代わりにはなりません


食事の制限が発生したり、透析で改善しきれなかったPやKに関しては、
吸着薬を使うことで肩代わりします


他にも血圧や骨代謝、副甲状腺機能のトラブルなど多くの問題が発生します

そのため、血液透析の患者さんは大量に薬を飲んでいる人が多く、
ポリファーマシーにならざるを得ないという実情があります

腎臓→血液透析+食事療法+大量の薬でどうにか代償しています


さらに血液透析と薬の調整は他人が手動で行なっているという、異常事態です




透析室で腎臓の代わりにDWを調整したり、薬の調整をしていると、
腎臓って賢いなあ・・・とつくづく思います



血液透析でDWや薬を調整して腎臓の代わりをするのは、
飛行機を手動で飛ばしているようなものです


次回は「透析は飛行機を飛ばすようなもの」です



まとめ
・腎臓は賢い臓器
→どれだけ食べても電解質や酸塩基平衡が一定なのは、腎臓のおかげ

・腎機能が悪くなるとそうもいかなくなる
→尿は出るが、とっても薄い尿や濃い尿を作れなくなる

・血液透析は腎臓の代わりにはなり得ない
→透析ができること、できないことを知っておく

 

2022年2月21日月曜日

腎臓は工場 〜CKDとは〜

腎臓は工場みたいなもの


工場では受注が入ってから従業員が働いて、材料を元に製品を製造し出荷します
工場の従業員たちのマンパワーをもとに、製品を製造することができます


腎臓も同じです


腎臓という工場が作り上げる製品は尿です


腎臓に受注が入り、尿を作るようにという仕事がまい込みます
しっかり受注に応えないと、酸塩基平衡や電解質が乱れたり、
体液バランスや血圧が崩れてしまいます


腎臓の中で従業員にあたるのはネフロンです
1個の腎臓の中に約100万個入っています
従業員に払っている給料が血液になります


腎臓のマンパワーを表したものが、eGFRです
eGFRが低下していると、仕事が上手くこなせません




CKDとは仕事量(受注量)は同じなのに、マンパワーが減った状態(GFR低下)です

残った従業員が倍の仕事をこなそうとしていますが、
どんどん疲弊して、やめていきます


高血圧や糖尿病のある人の腎臓は、ブラック企業です
マンパワーがある時から、一人一人に過剰労働を強いています

放っておくと、どんどんやめていきます


従業員に負担がかかると、汗をかくように、
ネフロンに負担がかかっているとタンパク尿が出てきます

タンパク尿はネフロンの悲鳴です




では腎臓を長持ちさせるためにはどうしたらよいでしょうか?

・仕事を減らすために受注を減らす(食事療法、KやP吸着)
・給料を減らさない(脱水やNSAIDsを避ける)
・ネフロンの負担を減らす(血圧を下げる、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬)
・外注して仕事を減らす(腎代替療法)


などがあります


腎臓にとってのRAS阻害薬やSGLT2阻害薬は、
心臓にとってのβブロッカーみたいなものです


腎臓に少しサボっていいよ〜、無理して仕事しなくていいよ〜といっている感じです

高血圧や糖尿病の場合、過剰労働が強いられていますので、
これでちょうどよいのです

ですが、脱水や血圧が低い時は腎臓の工場はギリギリのマンパワーでなんとか、
仕事をこなして尿を作っています

そんな時に従業員がサボり出したら、マンパワーは落ちてしまいます


Sick dayにRAS阻害薬やSGLT2阻害薬を内服すると、
サボってはいけない時にサボらせてしまいます

その場合、逆効果になってしまいます


sick dayの時にはRAS阻害薬やSGLT2阻害薬を内服しないことが大事です






CKDにはstageがあります

stageはGFRとタンパク尿(Alb尿)で決まります

GFRとタンパク尿は、駅と電車のイメージです


東京駅(始発駅)から函館(終点)に行く時の各駅がG〇に相当し、
函館が末期腎不全(ESRD)です

タンパク尿が多いほど、腎機能の悪化速度が早く、
普通、特急、新幹線みたいなイメージです




CKDの進行を早める要因は、高血圧、糖尿病、加齢、AKI、薬剤などです

進行を弱めるのは、RAS阻害薬やSGLT2です


まとめ

・腎臓はネフロンという従業員たちが頑張って尿を作ってくれている臓器です

→従業員たちは年々減り続けます

 過重労働させて退職をはやめるとCKDにつながります


・糖尿病や高血圧は過重労働させているブラックな状況です

→RASやSGLT2はホワイトな環境に変えることができます


・CKDのGは駅に相当、Aは電車に相当します

→CKDのStageの把握は現状評価と今後の予測に使えます







 

2022年2月9日水曜日

心因性 VS 器質性 〜眼鏡を外せ〜

症例 25歳 男性 主訴:痺れ

                         (※症例は加筆修正を加えてあります)


Profile:会社員、既往なし


現病歴:来院当日の朝起きた時から右上肢、右下肢に痺れがあった

    特に外傷やスポーツは直近ではない


    ペンを握ったら、力が入りにくくて落としてしまった

    もともと頭痛持ちで、当日も頭痛があり、市販の痛み止めで軽快した

    痺れが持続しているため、夜に救急外来受診


既往:なし

内服:なし


バイタル:BP110/70,  P70,  T 36.8  , 意識 声明

見た目 お元気そう 一人で来院

歩行はスタスタ可能

痺れは右上肢と右下肢にあり


研修医「・・・上記のような方ですが、CT撮っていいですか?」と深夜にcallあり

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ディスカッション①何を考えますか?


T「はい。ありがとうございます。

  生来健康な若年男性の急性発症の痺れですね。

  夜に救急外来に一人で来院されています。

  この時点で深夜ですので、実際は疲れて寝ていたら起こされた感じですね。


  みなさん、今は昼間であり、カンファレンスなのでバイアスはかかりにくいですが、

  深夜に痺れを主訴に若い男性がきたらどう思いますか?」



N「心因性だと思います」



T「そうですね。そう思いますよね。


  それはなぜそう思うかというと、病院を受診する壁を超えてきているからです。

  ちょっと解説しますね。


  みなさん、多少調子が悪くてもわざわざ病院行かないですよね?


  ではなぜ行かないのでしょうか?


  それは時間がかかるから、お金がかかるから、大したことないと思っているから、ですよね


  でもこの人は、わざわざ深夜に救急外来に来ている。

  病院受診するための壁を超えてきているのです。


  壁を越える原動力は、

 病状の重さ(痛い、苦しい、生活に支障がある)と不安です。

  

  救急外来や初診外来に来る人の多くは、不安がある人です。

  むしろ、不安がなければ病院に来ません。

  

  なので、

 我々はこの患者さんにとって病院受診の壁を乗り越える

 原動力は何なのか?


  を見極める作業をしなければなりません。

  不安が強いのであれば、そこに応えてあげないと満足度は得られません。


  この時点では、痺れだけで深夜に病院にくるのは、不安なのか?

  もしくは相当病状が重いのか?を考えます。


  多くは前者なので、心因性を疑うという思考プロセスになるわけです。」


N「自分も心因性だろうと思ってコンサルト受けました。」


T「そうなりますよね。深夜で眠いですから。笑

  普通の思考ではいられません。

  バイアスがかかった状態で診察に挑むことになります。


  ですが、みなさんご存知の通り、バイアスがかかった状態での診察は危険がいっぱいです。

  みなさん、バイアスに負けない対策を持っていますか?」


N「いつもより閾値低めに検査をするようにしています。」


T「なるほど、それはいい策ですね。

  それでちょうどいいくらいかもしれませんね。」


M「いつもよりちゃんと診ます。」


T「笑。そうだね、それができればいいんだけどね。笑

  他はどうですか?」


M「深呼吸します。」


T「笑。いいね。他はどうですか?」



N「メタ認知するということですか?」


T「まあ、そうだね、バイアスがかかったなと自覚している時点で、

 メタ認知はできているんだけど、

 それを改めて自分で確認するような作業をするといいです。


  医療安全でよくいわれるのは、指差し呼称です。

  わざわざ、指差すのは恥ずかしい、そこまでしなくても・・・

  と思う人もいるかもしれませんが、指差し呼称のように手を使って確認する作業は非常に有用です。


  例えば、自分は四肢の皮疹を探すときは、必ず手で触れるようにしています。

  手で皮疹を見ているような感覚です。

  触りながら自分は足を隅々までチェックした、指先をチェックしたと、

  視覚と触覚で確認しています。



  そしてバイアスがかかった時に何をするかですが、

  そういう眼鏡をかけて診察しようとしているので、

  エアーでいいので眼鏡を外す動作をします。

  

  バイアス眼鏡を外しましょう。


N「この時は、めちゃくちゃバイアスかかっていました。笑

  バイアスはかかっていましたが、研修医の先生に見られている自覚があったので、

  しっかり診察はしました」


T「それはいいバイアス克服法だね。

  診察の前に他に病歴とりたい人いますか?」

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追加の病歴聴取


学「どうして深夜に病院に来たんですか?」


N「会社の上司に病院に行った方がよいと日中に言われたそうです。

  あと夜にお風呂に入った後に痺れが一段階強くなったので、病院受診されました。」


T「はい、ありがとうございます。

  痺れのonset、time course、増悪寛解因子を図に表すとこんな感じですね。」




T「入浴後に悪化する神経徴候って名前ついてますよね。Uから始まるやつ」


N「Uhthoff(ウートフ)徴候ですか?」



T「それそれ。なんだか、MSを匂わせる病歴ですね。

  M Sは地域差が大きい病気で東北とか、北海道は多いですが、
  この辺は少ないですね。

  東北では、知り合いの知り合いはMSくらいなイメージくらい多いですね。

  
  痺れの増悪寛解因子はなじみがないかもしれませんが、実はたくさんあります。



  振ると楽になるのは、手根間症候群の典型ですね。flick signと言います。
  
  帯状疱疹は温めると楽になりますね。これは冠名は知りません。


  冷たい水に触ると痛いのは、シガテラ中毒ですね。
  ドライアイアイスセンセーションと言われます。


  頸椎は圧迫すると増悪しますね。ジャクソンやスパーリングテストです。
  
  
夜に増悪するのは、腰部脊柱管狭窄症と右心不全ですね。Vasperの呪いと言われています。

  息こらえやバルサルバ手技で増悪するのは、椎間板ヘルニアです。
 
  Dejerine徴候と言います。

  
  Joseph J. Dejerine(1849-1917)により初めて報告

  腰椎椎間板ヘルニアの急性発症後において咳をする、くしゃみをする、
  あるいはトイレで排便時にいきむといった動作により、
  腰痛や下肢痛などの腰部神経根の症状が誘発または増悪される徴候を指す

  神経根の易刺激性を示唆する所見であり、この徴候がみられれば椎間板ヘルニア、
  脊髄腫瘍などのspace-occupying lesionの存在が疑われる

脊椎脊髄ジャーナル 28巻4号 (2015年4月)


T「さて、みなさん、鑑別は何が上がりますか?
  そしてどんな診察を行いたいですか?」


R「ポリニューロパチー?痺れの範囲や感覚の所見を取りたいです。」


T「そうですね。上肢と下肢にまたがっているので、多発していますね。
  他はどうですか?」


A「頻度的には頸椎症とかGBSとか、片頭痛とかでしょうか。」

T「そうですね、頸椎症は多いですね。
  GBSも最初は片側でもいいかもしれませんね。

  他はどうですか?」


M「中枢神経系でしょうか。
  急な経過なので血管系とか、脱髄とか?」


T「そうですね。かなりまれですけど、もやもや病とか、血管奇形とか、腫瘍とか、
  若くても中枢神経に病気がある時はありますからね。

  はい。では診察してみてどうでしたか?」

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診察


上記のような痺れの分布であった


N「痺れってどうやってとればいいんですか?自分は・・・

  ①red flagじゃないか?:突然や急性発症

  ②分布:単肢、四肢、片側、顔面含む、両下肢などで解剖学的に考えます。

  ③画像:上記解剖に応じた画像検索


  の順番に考えています。」



T「うん。まあ、そうだね。いいんじゃない。

  自分なりには・・・


  ①まず痺れを痺れ以外にパラフレーズしてもらいます

   「痺れ」が「動かしにくさ」に変わる人もいますね。


  ②次はやっぱり分布ですね

   痺れ診療で正解に辿り着くかどうかは、

   この分布をどれだけ詳細に取れるかどうかにかかっています。


   めちゃくちゃ大事です。


   腹痛の時と同じですが、天気図を描くように痺れmapを描きます。

   自分は紙に体の絵を描いて、診察の前に患者さんと痺れのmapを共有します。



   この分布を見れば、どこが解剖学的に問題かがわかります。


  ③最後に他の神経異常がないかです

    感覚や運動、腱反射、小脳、歩行などしっかりチェックします。

    訴えにならなくても他覚的に異常が見つかれば、器質的な疾患が高くなります。


    特にミエロパチーを疑う場合は、lineが引ける感覚異常を探します。


    手足チョンチョン診察ではダメです。

    氷でエレベーターのように上下に感覚をチェックしていきます。


    鑑別の挙げ方は解剖学的に綺麗に説明できる時は、

    感覚神経の流れの中で鑑別を進め、画像検査を行うといいです。


    ですが、画像でわからない痺れの原因もあります。


    その場合は、神経疾患に限らず、広く鑑別をとったほうがよいので、

    左側の要素を考慮します。




     
      手の痺れmapです


      
      足の場合の痺れmapです


      
     神経内科の先生に教えてもらったしれび臨床mapです



     というような感じで痺れは考えています。」


N「ありがとうございます。痺れってとても難しいですよね・・・」


T「そうですね。今回の症例は痺れmapが描けるくらいしっかり診察してくれていますね。

 右顔面外側、右前腕、右上腕(手掌に強い)、右臀部、右大腿、右下腿(足背に強い)に

 痺れがあります。体幹には痺れはないみたいです。


 腱反射や異常反射、感覚は問題なかったようです。

 ただし、MMTが右肘の屈曲・伸展で4ですね。


 さてどこが解剖学的な原因なのでしょうか?」


M「顔面もあるので、首より上ですか?」


T「そうですね。では首より上のどこでしょうか?」


M「うーん・・・」



T「悩みますよね。どこって言われても・・・・っていう感じです。

  

  このように解剖学的に説明のつけられない神経の異常を見たら、

  やはり心因性(転換性障害)を疑いたくなります。


  そうするとそちらを見つけるような診察をするというのも一つです。


  ですが、それよりも心因性を疑った時は、この公式に当てはめてみましょう。

  

  脆弱性+身体因の脳への侵襲+心因=心因反応の大きさ


  とこの本には紹介されています。



    確かに・・・と実感させられましたので、

    今後は自分の中でもこの公式で当てはめていこうと考えています。


    自論を含めて、簡単に解説します


  器質的疾患 + 心因性 + 素因 = 心因反応


    簡単にいうと、本当にてんかんの病気がある人は、

    てんかん発作ではない痙攣を起こすことはよくあると言われています。

   

    この公式は、

  心因性か器質かを白黒つけないというのが大事なメッセージです。


   心因反応の中でも器質的な疾患はあっても良いのです



    老年症候群やせん妄なども原理は同じだと思います


    自分の弱っているところに皺寄せがきます。


    高齢者の場合は圧倒的に筋力や脳機能が弱っているので、

    熱があるだけで、意識障害になったり、立てなくなります。


    これは若年でも同様でもともとイライラしやすい人が、

    具合が悪い時にさらにイライラしやすくなったりします。


    もともとFDの人がストレスを契機に、ヒステリー球になってしまうとか

    口腔アレルギー症候群や喘息の人が不安が強くなってしまい、

    パニック発作に進展してしまうとか、よくありますよね。

  

    もともと病気があって、心因性の問題で悪化するような疾患は心身症です。

    ただし、病気がなくても脆弱なところは悪化します。

    

    どこからが器質性でどこからが心因性かの線引きは非常に曖昧です。


    こういった内容は実臨床では非常によくあるcommonな病態なのですが、

    教科書的な記載はなく、教科書や論文で学ぶのが難しいと感じています。」



R「最近は心因性(転換性障害)は積極的に診察で診断しよう!って言われますが、

  どう思いますか?」



T「正直・・・


  心因性だと思われる神経診察をして、

  鬼の首を取ったように「〇〇徴候があったので、心因性が疑われます!」

    

  というのは、まだまだ浅いと感じます。

    

   オッカムではなく、クラブツリーの棍棒を思い出しましょう。

   一つ矛盾する徴候があったからといって、鑑別をガラッと変えるべきではありません。

    

   心因性反応であることをつかむには、

  もっと深いところに潜り込む必要があります。


   本当に心因性反応というためには、

   キャラクターやパーソナリティー、生育歴、家族背景などから

   形成された精神的な素因や脆弱性を判断し、

   脳へ負荷を与えるような器質的な疾患の存在と心因イベントがないかを確認します。


   その上で心因性反応の大きさとその足し算が釣り合うかどうかを考えます。」



U「なるほど〜


  実際、心因性っぽいなっていう人をみたら、どうやって対応していますか?

  さすがにあなたは心因性です。とは言わないですよね?」



T「そうですね。


  はじめましての段階で心因性だと言い切るのはやめたおいた方がよいでしょう。

 

  心因性だと言ってしまって、器質的な疾患だった場合、

  二度と自分の信頼は取り戻せません。

   

   それぐらいリスクのある診断名です。


  最初の段階は、心因性だと思っても、

  わからない振りをすることが多いかもしれません。

  

  一生懸命悩むといいますか、こちらも困っていることを相手に伝えます。


  我々は心因性だと思った瞬間、気が緩んでしまいます。

  それは相手にも非言語的に伝わります。

  

  なので心因性と決め付けず、自分は何か見逃しているに違いない・・・

  くらいに器質的な疾患を追い求める姿勢が大事です。

  それも患者さんに伝わります。

  

  一生懸命病気を探すというプロセスが大事であって、

   検査を乱発することが大事というわけではありません。


   医師の姿勢を隣で見てもらって、この医師なら信頼できる・・・

   と思ってくれた時にはじめて、心因イベントや患者さんの素因が見えてくるのです。

   

   それくらいラポールが形成されてはじめて、

   もしかすると、、、みたいな感じで自分の考えを打ち明けます。

   

   その時に出す例は円形脱毛症です。

   一番わかりやすい例えです。

   

   今までに考えられる病気はたくさん調べて、他の医師とも相談しましたが、

   現時点では明らかな病気は見つかりませんでした。

   病気が見つからなかったといっても、症状は存在するわけなので、

   今度はその症状をどうにかしたいと考えています。

   

   症状の原因はもしかすると・・・

   心にストレスがかかると、体の不調に変わってしまう人もいます。

   お腹にくる人もいますし、円形脱毛症になってしまう人もいます。

   時には手が動かない症状に変わってしまう人もいます。


   というような感じで、伝えることが多いですね。

   ポイントはゴルフのキャディーさんのように一緒に悩みながら進んでいくことです。」


N「ありがとうございます。

  この症例は美しき無関心もあったので、やっぱり心因性かなと思いました。

  

  ただ心因性だろうと思いつつも、MRIがすぐ撮れたのでMRIを撮りました。」


T「MRI撮れたんだ。それはよかったね。」

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MRI   左の橋、側脳室近傍にDWIやFLAIRで円形の高信号域あり


T「!!!!!

  

  これはMSだね。。。。

  

  やっぱり、心因性じゃなかったんだ。

  MSの初発は診断がとても難しくて、心因性にされやすいです。

  MRIに救われましたね。」


N「バイアスがかかった時には検査閾値低めに。

 という自分のプラクティスがよかったみたいですが、

 正直、狙っていなかったので、びっくりしました。」


T「そうですね。

  難しい症例でしたが、早期に発見できてよかったと思います。

  大変、学びの多い貴重な症例ありがとうございました。」


まとめ

・バイアスがかかったと思ったら、自分なりの対応策で対抗する

→エアーで眼鏡を外す素振りをする


・心因性(転換性)反応と思ったら、器質か心因かで分けることから卒業する

→器質因+心因性イベント+素因(脆弱性)=心因反応の公式を思い出す


・MSは心因性にされやすい疾患の代表

→救急外来では器質的な疾患をとことん探す努力が必要

 心因性と言って器質的疾患が見つかった時の信頼感の喪失は計り知れない


気腫性骨髄炎

 

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