2020年11月29日日曜日

仙腸関節痛 〜one finger test〜

 仙腸関節の解剖は前回、ご説明させていただきました

ポイントは

①仙腸関節は力の交差点であり、頑丈でないといけない

②そのために、靭帯でガチガチに固められている

③衝撃を和らげる免震装置でもあるので、わずかに動く

④仙腸関節は上下から力が加わりやすく、痛みやすい

⑤仙腸関節痛は後方の靭帯領域から発生しやすい


といった解剖学的な特徴があります


最近、仙腸関節はHOTな分野で、海外でも盛り上がっています


今まで非特異的な機械的な腰痛として対処していた大部分は、仙腸関節痛かもしれません

仙腸関節痛は実はとても多いと考えられています


小生も今まで一度も仙腸関節痛を診断したことはありませんでしたので反省です


今まで仙腸関節痛が軽視されてきた理由は、

仙腸関節痛の診断が難しいからです


①機能障害の場合、ブロックが診断根拠になる

仙腸関節の痛みといえば、真っ先に考えるのは仙腸関節炎です

化膿性が一番怖く、あとは脊椎関節炎や結晶誘発性でも起こりえます


これらの炎症性病態では画像の異常がみられますが、

仙腸関節の機能障害で痛みが生じている場合、画像で異常を指摘できません


仙腸関節痛は、

画像で異常がなければ、異常がないと考えがちな現代医療のピットフォールになっています


画像で異常がなくて、仙腸関節の後方の靭帯領域に局所麻酔を打つことで、

診断的治療となり、診断することができます


②仙腸関節痛は違う場所に痛みが出現する


「(漠然と)腰が痛い」と言われると、ヘルニアや脊柱管狭窄症、圧迫骨折かなと思ってしまいます

「お尻が痛い」と言われると、坐骨神経痛や梨状筋症候群かなと思ってしまいます

「太腿の後ろが痛い」と言われると、ヘルニアや坐骨神経痛かなと思ってしまいます


このように仙腸関節痛よりも他の疾患を想起しやすい部位に痛みが出るので、

仙腸関節痛に思いを馳せられなくなります


仙腸関節の周囲は靭帯や筋肉がたくさん付着しているので、

その周辺領域に痛みが出現することがありますが、しっかり診察すれば、鑑別は可能です


仙腸関節痛と他の痛みの原因の鑑別に有用なのは、

PSIS(上後腸骨棘)の痛みと

デルマトームに一致しない下肢痛と

鼠径部痛です



仙腸関節痛の場合は、

「一番痛いところはどこですか?」と聞くと、

PSISを指差すことが多いです


one finger testと呼ばれます


仙腸関節痛では鼠径部痛が半分くらいに見られるという報告もあり、

他の痛みの原因との鑑別に使えます

ヘルニアなどでは鼠径部痛は稀です



ブロックはややハードルが高いですが、one finger testはとても有用な診察ですし、

簡単なので、意識してとりましょう!




仙腸関節痛を疑ったら


①まずは病歴です

痛みが出るポジションを聞きます

仙腸関節に負担がかかる動作を考えればわかりますが、
立位や寝返り、仰向けで悪化します

歩行時には多大な力が加わるので、
仙腸関節痛の人は、歩くときに脱力感と不安定性を感じるようになり、
患側の足がでにくいという人が多いです


あとは痛みが出るきっかけがなかったかを聞きます


ヨガやダンス、お尻歩き、スポーツ、怪我、妊娠など

仙腸関節に負担がかかりそうなことを聞きます



②診察を行います

リリースができる人は、この後リリースに進むことが多いので、
どこをリリースするか考えながら、診察を行います


大事なのは、one finger testです

one finger testは他の腰痛の原因疾患の見極めにも有用です


one finger testは自発痛の部位がどこかを探る診察です
自発痛と圧痛点は違いますので注意しましょう


次に圧痛がどこにあるか確認します


もちろん、圧痛もPSISにあることが多いですが、他の部位にも圧痛点があることが多いです


最後に誘発テストを行います

誘発テストは他の部位の問題があっても陽性になることがあるので、
若年者でないとなかなか難しいのが現状だと思います


化膿性仙腸関節炎の場合は、痛すぎて誘発の姿勢も取れないことがあります

化膿性仙腸関節炎は若年者がベットから動けず、
寝たきりの状態で、救急車で搬送されてくるような激烈な痛みです

NSAIDsやアセトアミノフェンを使っても、鎮痛効果がいまいちで、
痛いの程度が強いというのが特徴です

症例報告では硬膜外麻酔を使用している症例もありました



③最後に注射をします

病歴や診察で仙腸関節痛の疑いが濃厚であれば、
仕上げに仙腸関節の後方靭帯領域に向けて、局所麻酔の注射を行います

ここに局所麻酔をして、痛みが軽減すれば、仙腸関節痛の疑いが濃厚になります



仙腸関節の関節腔に注射するには、透視が必要ですが、
後方であればベッドサイドで可能です


ただし、化膿性仙腸関節炎が一番の鑑別になるため、
超音波で仙腸関節を見て液体貯留などあれば、さらなる精査(関節穿刺で関節液培養、血液培養、MRI)が必要です


化膿性仙腸関節炎が疑われるときには、局所麻酔でお茶を濁してはいけません

後々、関節穿刺で化膿性仙腸関節炎を作ったと言われないように、
少しでも化膿性を疑った場合は、注射は控えておきましょう




仙腸関節痛はあくまで除外診断です


特に化膿性仙腸関節炎が一番、見逃してはいけない疾患です

化膿性の場合は、痛みが激烈という特徴があります

痛みが強すぎる時は、MRIをとりましょう



まずは、長引く腰痛や太腿の痛み、臀部痛の患者さんで、
非特異的な腰痛や梨状筋症候群、坐骨神経痛かなと思ったら、
仙腸関節痛のことを少し思い出してみることから始めてみましょう



まとめ

・仙腸関節痛は意外に多いけど、見逃されている

→坐骨神経痛や梨状筋症候群、ヘルニア、脊柱管狭窄症と誤診されている


・仙腸関節痛は診断するには、3ステップ

→病歴:痛みが悪化する状況を聞く

 診察:one finger test、圧痛点、誘発テストを行う

 診断的治療:後方靭帯領域への局所麻酔薬注入


・仙腸関節痛は除外診断

→急性で痛みが強い時は化膿性を疑うので、注射してはだめ 

仙腸関節 〜忘れられた関節〜

 仙腸関節が痛いなあ、と思ったことはありますか?

もしくは仙腸関節痛を診断したことはありますか?


今まで、腰痛や大腿部痛の患者さんをみたときに、

ヘルニアや脊柱管狭窄症、坐骨神経痛、梨状筋症候群といった病気を口にしたことはあっても、

「仙腸関節痛だね」と口にしたことはありませんでした


仙腸関節は忘れられた関節です


ですが人体の関節で1番大事と言っても過言ではありません




では仙腸関節は何をしているのでしょうか?

仙腸関節は体幹と下肢のつなぎ目であり、一言で言うと力の交差点です


仙腸関節の役割は2つあります

①体重の支持
②衝撃の緩和

この二つの役割を持つために、ほとんど動くことのない関節になっています




関節といえば普通は動きますよね
動くためには、関節を動かす筋肉が必要です

では、問題です
仙腸関節を動かす筋肉はなんでしょうか?







正解は、仙腸関節を動かす筋肉はありません

ですが、仙骨はいろいろな筋肉の付着部として機能しています


そして仙腸関節はたくさんの靭帯で囲まれています

その理由は、上下からの剪断力から守るためです



仙腸関節はまるでミイラ男状態で、ほとんど身動きがとれません







仙腸関節は力の交差点ですが、内臓と筋肉、骨盤内と外の交差点でもあります

仙骨の前面には無数の神経や血管が張り巡らされています
仙腸関節の痛みでこれらの自律神経や内臓臓器に影響が出るのは、解剖を考えると想像に難くないと思います


そして仙骨からでた神経が集合し、人体で最大の神経、坐骨神経を形成します



仙腸関節の周囲にはたくさんの構造物があるので、
仙腸関節痛は、坐骨神経痛や梨状筋症候群と間違えられることが多いです




仙腸関節の構造は複雑です

立体的であり、二次元で表現するのが難しい関節です

横から見ると、L字型で
上から見ると、ブーメラン型です

axialで見ると、仙腸関節は本当の関節と靭帯の集合体で形成されています


仙腸関節痛は、後方の靭帯組織から発生することが多いです

そこにブロックを行うことで、痛みがとれれば仙腸関節痛の診断的治療となります




まとめ
・仙腸関節は人体で一番大事と言っても過言ではない関節
→だが、忘れられている

・仙腸関節はとてつもない剪断力が加わるため、それに耐える構造になっている
→靭帯でギチギチにテーピングされている感じ

・仙腸関節は関節+靭帯の集合で形成されている
→後方の靭帯部分に痛みを感じる神経が集中している




2020年11月26日木曜日

家庭医目線 〜基本のき〜

Disease oriented modelからDisease illness modelへ


研修医の先生の所信表明では、毎年、
「病気ではなく、人として患者さんをみれるようになりたいです」
という表明があります

それはつまり、患者さんに起こっている事柄をdiseaseとしてではなく、
illnessとして捉えるということかなと思っています


diseaseは客観的な異常と捉えられ、生物医学的な問題であり、
illnessは患者さんの解釈に基づく主観的な思いです


diseaseというのは疾患で、illnessとは病いと訳されます


例えるならhouse(住居)とhome(家庭)のような関係です
houseは冷たい感じがしますよね
homeはあったかい感じです

deiseaseとillnessはそういった温度差があります



illnessなんだけど、diseaseではないとされがちな疾患もあります

身体表現性疾患や慢性疲労症候群といった疾患は、
客観的な異常が出てこないので、疾患として認識されにくいですが、
本人はとても困っています


逆に、illnessではないんだけど、diseaseにされがちな疾患もあります

糖尿病や脂質異常症、高血圧、認知症などは、
客観的な異常がありますが、患者さん本人は困っていないので、
病いを患っているという認識はないことが多いです

ある時、医者にかかって、急に病気扱いされます
そこからillnessが始まります


このように目の前の患者さんの問題が、
diseaseとillnessのどちらなのかを見極めていくことが重要で、
プライマリケア医は、diseaseとillnessの両方にアプローチすることが必要です


そのために、BPSモデルがあります


BPSモデルは、
Disease oriented modelからDisease illness modelへ変換するための基本的な考え方です



患者さんの背景(context)を知ることも重要です
自分は環境と呼んでいましたが、家庭医学的には背景(コンテクスト)と呼びます

PCCMの考え方で出てきます


患者さんの背景を理解するための手法がダイアローグ(対話)です

ROSやTo do listのように穴埋め的に聞いていくものではありません



家庭医の目線は鳥の目と魚の目を持つことだと思っています
虫の目は専門家の目線です

そのためのツールに名前が付いている感じで、
それぞれの理論はとても似通っています


症例に応じて、アプローチの方法は多少違いますが、
基本はBPSモデルでまずは考えるくせを身に付けましょう




まとめ
・BPSモデル(Bio,psycho,social)で患者さんを考える癖をつける
→disease orientedな対応をしていないか?

・患者さんの背景(コンテクスト)を知る
→そのためには対話(ダイアローグ)が必要

・家庭医目線は、鳥の目・魚の目
→focusを自由自在に操り、時間を行ったり来たりする


2020年11月23日月曜日

大麻とカンビノイド悪阻症候群

大麻ほど面白い草はない

文化的にも法律的にも薬理的にも臨床的にも・・・



大麻の何が問題?

有能すぎて、使い方が難しく、
それぞれの分野で問題だらけです



植物としての大麻

麻の中にはいろいろな植物が含まれます

大麻を植物の意味合いで書くときは、「アサ」と書かれます
カタカナと漢字の違いはこういうところから来ています

本当に有用な草で、余すところなく使えます

茎は丈夫な繊維として、しめ縄や漁師の網などに使われます
日本では昔から神事の際には、麻が使われることが多く、魔除の意味もあります


ネズコが来ている服の模様も麻模様ですよね
麻は昔の日本人にはとても愛されていた草なのです


種は麻子仁と呼ばれ、我々がよく使う麻子仁丸の成分です
オイルとしても使われます


THCの含有量はそこに生えている大麻ごとに違います
そして大麻の部位によっても違います

これが大麻をややこしくしている原因です


昔から日本に生えていた大麻はTHCの含有量が少なく、葉を吸煙する文化はありませんでした
インドなどの大麻は逆にTHC含有量が多く、インド大麻と称されており、
インド大麻だけ規制を受けていたこともありましたが、
大麻は一種一属であり、種類が違うわけではありません

育て方を変えると、THCの含有量が多いものが出来上がるので、
THCが少ないから大麻を育ててもよいというわけにはいきません





大麻の薬理作用

大麻の中のテトラヒドロカンナビノール(THC)が重要な物質です
脂溶性の物質で体に溶け込みます

カンナビノイドはこの他にもたくさん見つかっています

体の中ではこのカンナビノイドを受け取る受容体が二つ見つかっています
CB1と2です
1は中枢神経に発現していますが、2は免疫の細胞に発現しています


このTHCの作用を応用・改良して、アメリカなどの海外では薬として販売されています
抗てんかん薬や緑内障の治療やAIDS患者さんの食思不振の薬や緩和ケア領域で使用されるなど、多岐にわたり使われています


こういった作用を利用し、昔はシャーマンや宗教的な儀式にも大麻はよく使われており、
重宝されていました


危険ドラッグというのは、大麻(カンナビノール)を改造して法律から逃れようとしたものです
つまり危険ドラッグの多くは、合成のカンナビノールです


ですが、危険ドラッグ中毒は大麻中毒と同じ症状とも限りません

例えば、大麻(THC)には吐き気止めとしての作用がありますが、
合成カンナビノール中毒の場合は、嘔吐がよくみられます

危険ドラッグは未知のものであり、どういうことが起こるのかもよくわかっていません
危険ドラッグを使用するということは、副作用不明の薬を大量に飲むような行為です


THCは経口摂取よりも吸煙の方が吸収が3倍もよいので、
基本の摂取の仕方は吸煙になります




Tripからtripへ

大麻を使うきっかけの多くは海外での生活や海外旅行先です
大麻をタバコやアルコール感覚で使う国もあるので、日本とのギャップがすごいです

海外で大麻にハマってしまうと、引き続き日本に帰ってきてからも使ってしまいます


大麻を使うと、tripと呼ばれる状態になります

そしてsetとsettingと呼ばれるようですが、
使う側の要因と大麻側の要因の組み合わせによって、
tripがどうなるかが決まります



ハイになることは、エンジョイ(good trip)と呼ばれ、
これを狙ってヨーロッパのアーティストの間で流行したようです
音が研ぎ澄まされたり、アイディアが浮かんだりするので、芸術家には魔法の薬ですね


逆に落ち込んでしまうこともあり、ストーン(bad trip)と呼ばれます
自分の内面世界に落ち込んでいく感じで辛いようですが、
これを狙ってヒンドゥー教の行者は使っていたそうです

エヴァンゲリオンのシンジ君状態でしょうか?





大麻の急性中毒

血中濃度が上がってくると、妄想症状がメインになります
統合失調症とも区別がつかないような、妄想状態になります

トキシドロームにはあまり大麻中毒は出てきませんが、
交感神経優位になることが多いようです

あまりに多いと逆の副交感神経優位になるようです




大麻の依存

大麻にももちろん依存形成があります
ですが、ヘロインのような強い依存ではなく、実はアルコールの方が強いとも言われています

だからと言って安全なわけではありませんが、アメリカのスケジュール1に入っているのはおかしいという議論もあります

身体依存が形成されると、離脱症状が起こります




大麻中毒の行き着く先

精神病を発症してしまう人が多くみられます
特に他の薬物よりも統合失調症への移行が多いです

やめてもフラッシュバックが起こりやすいのも大麻の特徴です

大麻はアルコールやタバコみたいな感覚の国もあり、
吸煙するという心理的にも抵抗が少ないため、
他の薬物の導入になってしまう危険があります

ゲートウェイドラッグとも呼ばれ、結局、覚醒剤やヘロインに手を出して行ってしまうこともあります



カンナビノイド悪阻(嘔吐)症候群(CHS)

はい、きましたカンナビノイド悪阻症候群
これは本当にやばいです

診断も難しいですし、治療も難しい


大麻を慢性に使っている患者さんでみられる病気で、
周期的に嘔吐をメインとした消化器症状+αがみられます


発作の間は本当に辛く、嘔吐や吐き気がひたすら続くという地獄絵図になります
悪阻のひどいバージョンみたいな感じのものが、年に数回やってくる感じです


当の本人は大麻を使用していない時に症状が出現するので、
大麻が関係しているは思っていません

もちろん、使っていても犯罪であることはわかっているので、
誰も「大麻使っています」なんて言いません

当たり前ですが、聞いても言ってくれません


だから、診断が難しい・・・



ですが、この病気を推測するkey questionがあります

それは、「熱いシャワーやお風呂で症状は改善しませんか?」という質問です


このエピソードがあれば、かなり疑いが濃厚になります

ただし、周期性嘔吐症(CVS)も熱いシャワーで改善するという同じ共通点を持っています

これは大麻使用は関係ありません


現実的には、
年に数回、胃腸炎疑い、パニック発作疑いという病名がついていて、
今まで見たことがないくらい嘔吐して、身の置き所のない状態の人を見たら、
熱いシャワーで改善しないか聞いたり、試したりしましょう

もし、熱いシャワーで改善するのであれば、
信頼関係をしっかり構築し、大麻の使用がないかを聞き出す努力をしてください



大麻使用を知ったら、法律上、報告義務が我々にあるために、

大麻患者さんが医療機関にくるのを躊躇っていて、
治療機会が失われています





カンナビノイド悪阻症候群の治療

なんと、この嘔吐にはほとんど薬が効きません

多くは時間が解決してくれるか、
ベンゾジアゼピンで鎮静されるかどちらかです

本人も相当辛いのですが、医療者も見ていて本当に辛い病気です


ですが、発作が終わると何事もなかったように、いきなり復活します


精査しようと思ったら、自然に治ってしまうので、
適当に毒素性の食中毒やパニック発作とされていることが多く、ほとんど誤診されています


後日、精査で内視鏡検査やCTを行っても何も出てきません



なのでカルテには、胃腸炎の既往が溜まっていきます

胃腸炎の既往がカルテに溜まっている人を見たら、
この病気を疑います



大麻中毒の治療

保健所へ報告してもその後は、社会から抹殺されて、普通の生活は送れません

法律通りに報告したとことで、3つのLife(生活、人生、命)は何一つ守れません


3つのLifeを守るためには、治療する(つまりやめさせる)しかありません


アルコール依存や禁煙外来と似たところがありますので、
プライマリケアレベルでも成功するかもしれませんが、
多くは専門施設での治療が必要になります




法律編

通報しても患者さんを誰も責任を持って治してはくれず、仕事ができなくなり、
社会から消されるだけです

それでは3つのLifeを一つも守れません


だからといって、通報しないと自分に罰則が下るのではないか、と思われますよね


通報義務と守秘義務は、守秘義務が勝つので安心してください


ですが、社会正義(大麻使用患者は大抵、普通の生活をしていますので、自動車運転しています)と守秘義務、害することなかれの倫理の問題が絡んで、相当悩むところです



もはや医師としてのプロフェッショナルな枠組みを超えているので、
一人で抱え込まず、多くの人に相談することが大事だと思います


唯一警察に通報すべき時は、自他の危険や他の患者さんへの危険がある時です





法律はたくさんあります

アメリカでの流れと日本の流れ、世界の流れに分けて考えると、わかりやすいです

アメリカに倣うのであれば、アメリカで国として大麻が合法化された場合は、
日本の流れが変わる可能性があります


第二次世界大戦後の流れの変化のように・・・




大麻二法

非常にややこしいのですが、麻薬及び向精神病薬取締法には、
麻薬の所持や輸入についての罰則はありません

ですが、使用(つまり慢性中毒)については罰則を定めています

ただ、慢性中毒の定義がなく、医者が慢性中毒といったら慢性中毒です


つまり医師の裁量によって、報告するかしないか決めなさいというわけです

それってかなり酷なことですよね
医者は患者を治すのが本分であって、報告しても依存症は治せないのですから




所持や輸入、栽培などを規制するために作られたのが、大麻取締法です

こちらには、使用の罪はありません






麻向法を遵守して報告するとどうなるかを知っておきましょう

保健所へ連絡すると、自動的に都道府県知事を介して厚生労働省へ報告が行きます
そして麻薬中毒者台帳に名前が登録されます

すると、マトリが環境調査にやってきます


そこで精神保健指定医の診察が必要かどうか判断されます

必要と判断されれば、精神保健指定医がやってきます

その後、入院が必要と判断されれば入院となりますが、ここ数年入院はありません




この法律の問題点は多数あります

・慢性中毒をどうやって診断するのか
・トライエージは偽陽性もあるので、尿中トライエージで診断してはいけない
・報告すると人権を無視した監視体制に数十年おかれる






まとめ
・大麻は便利な草。非常に奥が深く面白い
→産業用、医療用、志向用、法律の面から見ると、問題点が見えてくる

・大麻中毒の行き着く先を知っておく
→統合失調症を発症したり、他の薬物依存症になったり、カンナビノイド嘔吐症候群を引き起こす

・年に何回か、嘔吐が主訴で勝手に直っていくという人を見たら、カンナビノイド嘔吐症候群を疑う
→熱いシャワーや入浴で改善するかを聞く





トキシドロームと大麻とカンナビノイド悪阻症候群

 毎年恒例の清田先生との症例対決は、自分にとって年に一回の重要なイベントです

 清田先生とのディスカッションは非常に楽しく、今年はZOOMでしたが、

例年と同じくらい盛り上がり、時間を忘れて楽しみました(予定より1時間overしましたが・・・)


今年のディスカッションを詳細に語るのは、いろんな理由でやめておきますが、

印象に残ったことだけ列挙します


カフェイン中毒はピットフォールになるので常に注意

・違法薬物を売っている人の中には、重さを調整するために鉛や重金属、違う薬剤を混入させていることがある

・慢性的に薬物依存の人は、知らない間に鉛中毒になっている可能性がある

・依存症は精神科の先生に丸投げしてはいけない、そこは内科医がプライドを持って対応するところ

大麻の尿中トライエージは偽陽性もあるので、尿中トライエージ陽性だけで通報することはない

・この患者さんが言っていることは嘘ではない。それだけ患者さんが困っているということだ



去年もそうでしたが、清田先生の患者さんの言葉を信じるということが、

いかに大事かを再認識した症例です

去年の対決で言われた言葉がなかったら、自分は診断できていませんでした

今年も夜遅くまでありがとうございました 





















 

気腫性骨髄炎

 

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