2019年12月31日火曜日

ネコひっかき病

ネコひっかき病の知識をupdateする時代にきたようです


誰もが、そのキャッチ―な病名に耳を疑い、
一度は鼻で笑い飛ばしたことがあるのではないでしょうか

「ネコひっかき病って・・・(笑)」


そして、興味本位で少し、ネコひっかき病を調べてみると、

①ネコにひっかかれる
②同部位に皮疹ができる
③その後、所属リンパ節が腫れる
④無治療でも次第に軽快する
⑤治療するなら、アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど


というのが、古典的な症状でとても覚えやすく、
臨床では、片側のリンパ節腫脹の鑑別で出てきます


ですが、それで終わってはいけないのが、ネコひっかき病です


伝えたいのは、ネコひっかき病と呼ぶ時代は終わったという事と非定型的な症状が意外に多いという事です


ネコひっかき病の原因微生物は、
Bartonellaであり、多くはB.henselaeです

B.henselaeはネコノミがベクターとなって、ネコからネコへ感染伝播します

そして、ネコからネコノミを介して犬にも伝播するため、
ネコひっかき病は、ネコからに限った感染症ではありません

ネコひっかき病、つまり、
B.henselae感染症は犬からも発生します

そして、ひっかかれて感染することが多いですが、
かまれたり、触っただけでも感染することがあります


名前のインパクトが強過ぎて、
ネコにひっかかれていなければ、除外している可能性もあるため、
そろそろネコひっかき病という病名は変えたほうがいいと思います

普通にB.henselae感染症と呼んだ方がよい気がします
(今回は一応、ネコひっかき病で押し通します)


B.henselaeは小型のグラム陰性の単桿菌です
発育が極めて遅く、培養はとても難しく、
臨床では、抗体価やPCRで診断することが多いです



ネコひっかき病の古典的な症状と非定型症状

古典的な症状に、非定型症状が加わることもあり、
播種性とか、全身性とか、合併症といわれます

ただし、古典的な症状が有れば診断は容易ですが、
古典的な症状、つまりリンパ節が腫れることなく、
非定型症状だけでくることもあり、その場合は診断が難しくなります




非定型的ネコひっかき病

Atypical CSDで調べると、山のように報告例が出てきます

中でも注意が必要なのが、CSD-FUOです

なんと、ネコひっかき病は不明熱の原因になります


特に小児領域では、不明熱の感染症の中では、1番頻度が多いともいわれます
(国や時期によって異なります)

小児は古典的な症状を示すことなく、非定型症状で発症することも多く、
有熱期間が長いといわれています


そのため、不明熱の人でネコに接触する頻度が多い場合は、
積極的にネコひっかき病を疑いましょう!

診断は抗体で行われることが多いですので、最初はわからないことが多いです

そして、不明熱なので諸々検査が進み、最初の診断は悪性リンパ腫になることが多いです
理由は体重減少や寝汗、リンパ節腫脹、肝脾腫が見られることが多いからです


CSD-FUOの1/3の症例で侵襲的な検査がされていますが、
これは致し方ないことかと思います

疑ったら、抗生剤治療を行ってもよいと思いますが、気をつけなければならない点があります


①熱はすぐに下がらないかもしれない

 抗生剤の投与にて、有熱期間が短くなるかはわかりません
 平均3ー4週間続くといわれています


②抗生剤を使わなくても自然軽快する

 じゃあ、放っておけばいいじゃないか、

 とはなりません
 視神経網膜炎という合併症があるので、
 CSD-FUOを強く疑った場合は治療した方がよいでしょう

 視神経網膜炎の予後は悪くはないのですが、治療期間が長かったり、
 ステロイドが入ったり、ややこしくなるので、発症しないに越したことはありません


 高齢者の不明熱でよくある巨細胞性動脈炎による失明と対比して、
 小児の不明熱のCSDによる視神経網膜炎という病態を覚えておきましょう


 抗生剤入れて何だかわからないけど、治ったね。とならないように、
 必ず抗体のチェックはしましょう
 コツとしては、はじめの時期に血清保存しておいて後に出せるようにしておきます


③抗生剤のレジメンや治療期間が定まっていない

 少数の症例報告レベルであり、どの治療が最適かはわかっていません
 なんせ、自然軽快するような病気であり、
 CSDの不明熱といっても、プレゼンテーションが山のようにあるため、
 最適な治療法は不明です

 一つの参考としては、
 uptodateの著者はしっかりレジメンや治療期間を推奨していますが、
 強いエビデンスはありません

 なかなか、見切り発車でこの治療はできないのが現状かと思います
 単一血清でかなり疑われる状況であれば考慮してもよいかもしれません



ネコひっかき病による不明熱患者66人のレビュー







まとめ
・ネコひっかき病はネコにひっかかれなくても起こる
→触っただけでも発症することもあり、犬からも発症することがある

・古典的な症状と非定型症状があることを知る
→特に小児の不明熱では代表的な疾患である

・CSD-FUOを疑ったら、眼科Drにみてもらう
→無症状のこともあり、所見が有れば診断に迫れる

参考文献:
Cat scratch disease presenting as fever of unknown origin is a unique clinical syndrome
2019. Nov.Infectious disease Society of America
小児科診療 2017年 9号(23)1055
J Jpn Soc Pediatr Radiol 2019;35(1):61-65
モダンメディア 第50巻 9号 2004年 猫ひっかき病
感染症誌 84:292〜295,2010
大塚薬報 2012年5月号(No.675)
AFP Volume 83,Number 2 January 15 ,2011






2019年12月29日日曜日

妊娠高血圧症候群


近くの産婦人科病院より、紹介がありました


生来健康な初産の若年女性

分娩は正常分娩で、滞りなく終了
しかし、分娩3日後から血圧が高くなり、尿タンパクが出ており、
頭痛や目がチカチカする症状がある

アダラート®️内服し、血圧は落ち着いてきているが、精査加療目的に紹介となりました

さてどうしましょう?


まず、診断は妊娠高血圧症候群、妊娠高血圧腎症です

そして頭痛や眼のチカチカした症状は、子癇の前兆やPRESの可能性があります
ということで、非常に怖い状態ですが、
すでに分娩後であり、母体のことだけを考えればいいので少し安心です


結局、入院加療となった時点で、すでに分娩後7日経っていました

意識は清明で、血圧は120/80と落ち着いています
浮腫もあったそうですが、今は改善傾向です

今の症状は両手の痺れだけです

頭痛や眼のチカチカした症状は軽快していました
尿タンパクも陰性です
血液検査では、特に異常はありませんでした
MRIでは特に異常は見られませんでした


さて今、この状況はどういう状況で何をするのがよいのでしょうか?

痺れの原因は、妊娠高血圧が関係しているのでしょうか

アダラート内服して血圧は落ち着いていますが、
以前に頭痛や視覚障害があり、マグネシウム製剤は使った方が良いのでしょうか



この領域って、内科医は苦手というより、手出しできない領域ですよね

ということで、ちょっと勉強してみたところ、
敗血症と同じように考えれば、とっつきやすいのではないかと思いました


まず、妊娠高血圧腎症とか、子癇とか、HELLP症候群とか、名前が色々ついていますが、
そこに惑わされてはいけません

結局は妊娠高血圧症候群というのは、

妊娠✖️高血圧✖️臓器障害がおきているということです

そして起きやすい臓器障害が、腎臓や脳、肝臓、血液であり、それぞれに名前が付けられているということだけです

この概念は敗血症も同じです
敗血症と比べながら見ていきましょう


まず定義は妊娠高血圧症の場合は、国ごとや学会でことなりますが、
ここでは大雑把に妊娠✖️高血圧✖️臓器障害としておきます

ただ、臓器障害が出る前に気が付きたいので、
想起するポイントとしては、血圧です

血圧が高くなってきたら、注意が必要です


敗血症の場合はqSOFAで想起します

そして、両方とも重症度を検討します
重症度の検討は各臓器障害の有無を調べる必要があり、
敗血症の場合は、SOFAで数字化できます

妊娠高血圧症の場合は、血圧の値や胎児の状態も考えなくてなりません



敗血症の場合、最も重症になると、敗血症性ショックといわれます

妊娠高血圧症の場合は、どの臓器障害があってもemergencyですが、
臓器障害がなくても血圧が著明に高値になると、高血圧緊急症といわれます



治療は敗血症の場合、すみやかに培養とって、focusを探して抗生剤治療です
そしてドレナージが必要であれば、すみやかに各科コンサルトです

重症であればICUに入り、バイタルをサポートする必要があります


妊娠高血圧症の場合は、軽症の場合、降圧やマグネシウム製剤の有益なエビデンスはないとされており、タイトフォローがメインになります

降圧薬は使ってはいけないわけではないので、現実は使われていることもよくありますし、重症化の兆しがあれば使います

今回は腎症や視覚障害の症状があり、降圧薬がすでに使用されていたのは、当然だと思います
こちらに紹介となった時には、幸い降圧薬が効いたのか、軽快していましたので、
本症例はマグネシウム製剤も使うことなく、すぐに退院していきました



ちなみに痺れの原因は分かりますか?
振ると楽になるそうです


妊婦が手の痺れを訴えたら、あれですよね

手根管症候群です

一応、神経伝導速度もしてもらい確定しました


まとめ
・妊娠高血圧症は敗血症と考え方が似ている
→妊娠高血圧症は、産婦人科医にとっての敗血症!

・妊婦が手の痺れを訴えたら、まずは手根管症候群を考える

参考文献:Intensivist VOL.8 NO.2. 2016-4
                 日本妊娠高血圧学会編  妊娠高血圧症候群の診療指針2015

2019年12月26日木曜日

昼カンファレンス ~腹痛の問診と腹部診察のコツ~

症例 83歳 男性 主訴:腹痛、発熱

Profile:RA、Afで当院かかりつけ、ADL自立

現病歴:来院前日の夕食まで普段通り
    食事は生ものは食べていない
    寝る前に腹部の違和感はあったがが、痛みというほどではなく、
    21時に就寝した
  
    来院日、深夜の2時に腹痛のため起床
    その後、腹痛が増強し、救急車にて5時半に来院

ROS:下痢なし、吐き気なし、食欲低下あり、黒色便なし、悪寒なし
   胸痛なし、背部痛なし

既存症・既往歴:うっ血性心不全、ラクナ梗塞、Af、鉄欠乏性貧血、高血圧
        脂質異常症、RA、肺炎

内服:リウマトレックス、フォリアミン、イグザレルト、アクトネル、
   ワンアルファ、アムロジピン、レニベース、リピトール

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司会「はい、ありがとうございます。さて、この症例どう思いますか。
   まずは1st impressionで」

学生「動脈硬化が強そうで、Afもあるので、SMA塞栓を考えたいです」


司会「すごいね!SMA塞栓はとても大事な鑑別です。

   腹痛+αは色々あるけど、腹痛+Afがあった場合、
   真っ先に考えるのは、SMA塞栓です。

   なので、腹痛の症例をみたら、必ずAfの有無を確認しましょう。
  
   じゃあ、SMA塞栓を疑ったらこの状況では何を追加で聞きたいですか?」


学生「・・・」

司会「抗凝固薬飲んでいるよね、一応。
   だから、この場合はコンプライアンスや薬の管理を誰がしていたかを聞く必要があります」


発表者「家族が管理していて、しっかり内服はできていたようです」


司会「はい、ありがとうございます、他に1st impressionで考えたことはありますか?


学生「食中毒とか?」


司会「食中毒かー。確かにあってもいいけど、食中毒の中でも○○なら、
   救急車でくるかな。
 
   ○○以外の食中毒の場合は、痛すぎて救急車で来るという事はめったにないかもしれないね。
 
   ○○は何かわかりますか?」

学生「キャンピロですか?
   自分がキャンピロになったことあります(笑)」


司会「そうですねえ、キャンピロはどちらかというと、
   インフルエンザlikeのような頭痛や発熱がメインで、
   その後、下痢や腹痛が出てくるという感じで、腹痛メインっている感じではないかもね。」


研修医「エルシニアとかは虫垂炎と似たような感じになりますよね?」


司会「まあ、そうなんですけどね。
   
  ここではアニサキスを疑ってほしいです。

  アニサキスは普通の食中毒とは異なり、アレルギー機序で激烈に痛むので、
  救急車で来ることもしばしばです。」


司会「他に何か病歴で聞きたいことはありますか」


研修医「部位はどこが痛むのですか?」

発表者「臍周囲からやや右側です」


司会「他にどうですか?

   学生さんは、痛みの場合、どんな問診をするように習いますか?」


学生「痛みの性状や増悪緩解因子、時間経過、強さ、放散痛とかを聞きたいです」


司会「そうですね、語呂としては、OPQRST2と言われますよね。
   まあ、自分も以前は使っていましたけど、もう使いません。

   今は痛みの図やグラフを書くようにしています。


   救急車の場合、難しいですが、普通の外来であれば、問診票が手元にあります
   その紙の裏に、痛みの図を患者さんと一緒に完成させていきます。

   痛みがいつ始まったか?どのような発症形式だったか?
   突然だったのか?緩徐だったのか?

   波はあったのか?波があるなら、痛みは0になるのか?
   Maxの痛みは何点か?今、何点くらいか?
 
   緩解・増悪するのであれば、その時に何をしていたのか?

   といった内容を図にしていき、患者さんとその都度確認します。

  医者が一方的に患者さんから病歴をとって、
  それを頭の中でグラフにすると、
  実は患者さんが言っていることと、医者の想像は違う

   ということはよくあります。

   なので、患者さんに確認してもらいながら、痛みのグラフを作るのがポイントです」





発表者「痛みの図はこんな感じです

    寝ることはできたようです

    そして、腹痛で目が覚めました。」


司会「それはいけないね!

   寝ている状態で、起こされる症状というのは大抵危ない

   有名なのは、下痢ですね。
   寝ている間に下痢がおさまっている人は、
   器質的な疾患はないかもしれない。

   一方、寝ている時にも下痢で起こされる時は絶対病気です。


   今回のこの患者さんもこのまま寝ていたら、死ぬかもしれない!寝ている場合じゃない!!
   

   という体からのメッセージなのでしょう。

   そのメッセージを私達は受け止めなければなりません。

   この人、このままだと死んでしまうかもしれないと。。。」

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身体所見

バイタル:BP97/77、P 100-150(ireg/ireg)、RR 20-30回/分、SPO2 95%
見た目 やや足を曲げている 痛みで暴れる感じはなし
末梢冷感なし、冷や汗なし

腹部は平坦 軟 腸蠕動音 亢進・減弱なし

臍周囲から右下腹部にかけて広範囲に自発痛あり
圧痛は右下腹部にあり

反跳痛なし
tapping painなし

ピンポイントでの圧痛点はなし
カーネット徴候陰性

肝叩打痛陰性
マーフィー陰性
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司会「はい、ありがとうございます。

   皆さんは腹部の診察どうやっていますか?



   腹部診察は三次元を意識してとります


   腹痛がある場合、まずは、
   痛みの範囲や最強点の部位を見える化できるくらい丁寧に診察しましょう。


   痛みの天気図をお腹に描けるようにします。


   最強点は指何本か?

   1.2本なら虫垂炎やACNES、腹膜垂炎が疑われます
   3~5本なら憩室炎が疑われます。

   そして痛みの範囲はどこまでかを見極めます、自発痛と圧痛はわけて考えましょう


   というように、まずは平面的に痛みの天気図を書くのが一次元です


   他の次元は分かりますか?」



学生「深さですか?」


司会「その通りです!

   浅い方から、皮膚、脂肪、筋肉、腹壁、腸、腹膜脂肪、後腹膜臓器、
  
   といった感じでどこに痛みの原因があるかを診察で見極めます。

   なので、まずは平面的に痛みの部位を把握し、その後、深さの診察に入ります。

  
   腹壁よりも浅い病変であれば、痛みは限局し圧痛範囲もかなり限局しています
   そしてカーネットサインが陽性になります

   腹膜に病変が及んでいれば、腹膜刺激徴候が出現します

   後腹膜臓器の場合は、痛みの割にお腹が柔らかく、腹膜刺激徴候はありません。


   では、最後の次元は?」


研修医「時間です」


司会「素晴らしい!

   最初は柔らかかったお腹が、だんだん固くなってきたとか、
   痛みの部位が右下腹部に限局してきた

   とかよく言われますよね
   
   なので、腹部診察は何度も取り直すことが非常に重要です」




司会「さて、この症例はバイタルをみると、qSOFAでひっかかり、敗血症が強く疑われます。腹痛+敗血症となると、どのような病気が挙げられますか?」


学生「胆管炎や膵炎とか、虚血性腸炎でもあるんですかね?」


研修医「虫垂炎の穿孔」

専攻医「腎盂腎炎+尿路結石」


司会「はい、ありがとうございます。そうですね。そんなところだと思います。

   大事なのは、やはり穿孔でしょう。
   
   下部の腸管穿孔の場合、あっという間にバイタル崩れますし、
   早く手術につながないと、予後が悪いので、
   
   鑑別はほどほどで、点滴とってすぐにCTや抗生剤投与することが重要です」

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CTにて虫垂炎が確認された
緊急で手術となり、術中所見では虫垂の一部が穿孔していた


司会「はい、ありがとうございます。
   経過はかなり早い印象でしたが、虫垂炎でしたね。
   
   高齢者の場合、典型的な虫垂炎の経過にならないこともよくあります。


   そして、高齢者の虫垂炎は、虫垂癌が原因のことがあるので、
   基本は手術を選択したほうがよいでしょうね。

   勉強になる症例でした。ありがとうございました。」


まとめ
・痛みの問診で「OPQRST2」がマスターできたら、「痛みの図・グラフ」を描けるように問診しよう
→患者さんと一緒に作ることが大事


・寝ている時に何らかの症状で起きた場合、絶対病気


・腹部診察は三次元を意識する
→平面:部位の確認、深さ:腹膜刺激徴候の確認、時間:何度もとることが大事

2019年12月25日水曜日

椎骨脳底動脈血流不全

めまいの女性が入院となりました
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申し送りを聞くと、

85歳女性 主訴:めまい
Profile:Afがあり、抗凝固薬内服中
    DL、DMがあり、内服治療中
    ADLフル
現病歴:夕方、めまいが出現
    改善ないため、救急受診

受診時も浮動性めまいは持続していた

バイタルはいつもより血圧高値

身体所見では注視方向性眼振や垂直性眼振あり
めまいのため、歩行できず

他の診察は問題なし

救急担当医は眼振の性状から、中枢性を強く疑い、
頭部CTとMRI撮影

しかし、新規の出血や梗塞は認められず
MRAでは明らかな解離はみられず

そのまま入院となった
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①ディスカッション:めまいの鑑別

浮動性めまいがあり、垂直性の眼振がでている時点で、中脳を含めた
後方循環系の虚血が疑われる状況です

めまいの進め方として、中枢性と末梢性に鑑別が分かれます

HINTsPLUSも重要ですが、もっと大事なことは、
歩行できるかどうかと、もともとのvascular riskです

今回の症例は歩行できない時点で、入院が決定します

そして、年齢やvascular riskがたくさんある時点で中枢性がかなり疑われます



しかし、今回は最初のMRIで梗塞像がなかった

これをどう考えるかです


スライス幅の問題?、発症して間もないため?、それとも診断が違う?

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入院後診察してみると・・・


めまいは完全に消失していた
一晩ねたら、治ったとのこと

トイレにもすたすた歩いて行ける
眼振も消失
頸部痛なし 
難聴なし

脳神経も小脳所見も何もない

普段通りであるとのこと
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②ディスカッション:何が起きているのか?

さて、何が起きたのでしょうか

改めて病歴を取り直してみると、めまいが出る前に豆電球を交換していたようです
6つくらい交換していたようで、30分くらいはしていました

上を向きながら、両手を上げて作業をずっとしていたようです

その途中で、くらくらして気分が悪くなり、横になって休んでいたが、
改善しないため、救急に娘さんに連れられて来られたようです


こういっためまいは以前もあり、枝木を剪定している際中に同様のめまいが出現したことがあるようです


こういった出たり、消えたりする症状をみたら、鑑別が絞れます


①代謝:高アンモニア血症、尿毒症、低血糖など

②血流不全

③薬

④暴露:CO中毒、有毒なガスなど

⑤機能・発作系疾患:片頭痛、てんかん発作、パニック発作など


ということで、今回は後方循環系の症状(めまい、中枢の眼振)がみられたため、

②虚血(血流不全)であることが一番疑われ、
完全に回復しているので、TIAが疑われます


ここで、大事なのはTIAで終わらせないことです


TIAの中でも椎骨脳底動脈血流不全(VBI)の場合は特別扱いしてください







椎骨脳底動脈血流不全(VBI)

なかなか証明が難しいので、ゴミ箱的な鑑別疾患になってしまうこともありますが、
確実に存在すると思います

VBIの場合は、普通のTIAと同様に考えてはいけません

普通のTIAの場合は、おなじみのABCD2スコアなどをつけて、
抗血小板療法を開始したり、Afのチェックを行います


あとは動脈硬化リスクがあれば、DLやDM、HTに対して介入を行います


VBIの場合もここまでは同じです

しかし、VBIの場合、血流不全に至った原因が、
前方循環系の場合とは異なる場合があります


なぜかというと、椎骨動脈が椎骨の横突起の中の横突孔を通っているため、周りの骨棘や椎間板、首の回旋運動や後屈の影響をもろに受けます


もともとPICA endで終わっていたり、低形成がある人、動脈硬化が進行した人の場合、
首の動きによっては、椎骨動脈の血流が途絶える人がいます

そのため、VBIの場合は、発症時の姿勢や体勢が原因のこともあるのです


そこを見逃してしまうと、どんなに薬をいれても、
また同じ姿勢をとってしまって、再発することになります


そして、椎骨動脈は解離をおこしやすいので、安易な抗血小板薬投与にて、
解離腔が拡大する恐れもありますので、解離にも注意が必要です










 



まとめ
・歩けないめまいは中枢性を疑う
→垂直性眼振は明らかに中枢性(特に中脳)を疑う

・TIAの中でもVBIは特別
→発症時の首の位置や手の位置が診断のkey


・VBIの場合、解離に注意
→ちょっと前に何か首に負担になるスポーツやマッサージをしなかったか聴取

2019年12月20日金曜日

造影剤脳症

昨日、不安定狭心症の人に対して、PCIが行われました

PCIは無事終わりましたが、患者さんを起こすと、
何だか様子がおかしいです

言葉が上手く話せず、意識が悪い状況でした


さて、何を考えますか?


もちろん、カテーテル治療後なのでプラークを飛ばしてしまって、
脳梗塞が起きたのではないか?

と思い、すぐにMRIをとります


ですが、MRIでは新規梗塞や出血はありません


さてどうしましょうか?


①発症して間もないため、DWIでは光っていないだけだ!
 tPAするしかない!!


②いや、痙攣発作が起きたのではないか?
 セルシン投与!


③あーこういうこと、たまにありますよ、経過観察でOKです



皆さんは、どれを選びますか?
























気腫性骨髄炎

 

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