2017年11月23日木曜日

晩期関節リウマチ

関節リウマチはリウマトレックスや生物学的製剤といった薬が出てきたおかげで、

早期に見つけて、治療介入を早くすることで、

関節を守ることもできるようになってきました


バイオ製剤の恩恵を受けられるメインの人は、これからリウマチになる人々です

しかし、

これまでリウマチと戦ってきて、変形しつくしてしまい、

炎症もおさまってしまっているリウマチ患者さんにとっては、

バイオ製剤はあまり恩恵がありません


最近のガイドラインでは早期診断!早期治療!が叫ばれておりますが、

一方でこのような、晩期の関節リウマチの方はどうしたらよいのでしょうか


晩期関節リウマチ

晩期の関節リウマチをどうみていくかは、今後の高齢化してきた

日本のトピックでもあると思います

非がん患者さんの緩和ケアについての啓蒙が進んでおり、

心不全や末期腎不全、COPD、認知症については語られることも多くなってきました

ですが、リウマチ患者さんの緩和ケアについて、

述べられているものは見たことはありません


実は非常に悩ましい分野だと思っています


関節リウマチの治療は非常にポリファーマシーになりやすいです

DMARDsが複数あったり、

鎮痛薬として、NSAIDsやアセトアミノフェンが入ったり、

骨粗しょう症予防でBP製剤や活性型VDが入ったり、

ステロイドをつかったことがある人は、DMになってしまっていたり、

他の併存疾患で薬を内服していたり、

と圧倒的に薬が増えやすいです


関節リウマチのような炎症性疾患の痛みは麻薬よりも、

DMARDsの方が効果があり、

簡単に中止することもできません

なので、薬の中止のタイミングは非常に迷います




リウマチ患者さんも当たり前ですが、認知症になりますし、

年をとって死んでいきます

死因はリウマチに伴う間質性肺炎やアミロイドーシスといった

古典的な合併症ではなく、

心筋梗塞や脳梗塞、呼吸器感染症、がんといった

普通の死因で亡くなることがほとんどです



なので、晩期の関節リウマチの患者さんを診る時は、

3つの視点が必要だと考えています





①Life(生活)を守る

リウマチで困るのは関節の破壊です

関節の破壊を食い止めることが、治療の目標の一つです

関節が破壊されると、仕事や家事、趣味に支障をきたします

趣味がなくなると、元気がなくなり、ADLが落ちたり、

精神的に落ち込んでしまう人が多いので、

趣味や仕事は生活の中で非常に重要な位置を占めています


生活が守れているかどうかは、ADLやIADL、AADLといった項目で、

一般的には確認するのがよいです

(1) 基本日常生活動作(BADL)
起居動作、移動動作、食事動作、排泄動作、整容、入浴動作、コミュニケーション等の基本動作

(2) 手段的日常生活動作(IADL)
買い物、調理、洗濯、電話、薬の管理、財産管理、乗り物の乗り方等の日常生活上の複雑な動作

(3) 拡大日常生活動作(AADL)
生活の充足度、満足度、時間の使い方や過ごし方、知人との交流、趣味


関節リウマチの治療効果判定には、mHAQというものもあり、

上記を組み合わせたような指標です


なので、生活を守れているかどうかは、関節の機能がうまく保てているかどうか、

ということであり、リウマトロジストとしての腕の見せ所でもあります


②Life(命)を守る

関節リウマチの患者さんは一般の人よりも寿命が短いことが知られています

その原因は古典的な合併症というよりも、

脳梗塞や心筋梗塞、がん、呼吸器感染症といった原因で亡くなることが多いです

そのため、関節だけよく見ている場合ではありません

関節は守れたが、命は守れなかったでは、元も子ももありません


関節予後と生命予後は分けて考える必要があります



高血圧や糖尿病、脂質異常症の管理をしたり、

感染症の予防のため、予防接種を推奨したり、

転倒予防や骨折予防のため、骨粗しょう症の治療をしたり、

リウマチの治療以外にも、たくさんやることがあります

なので、外来が基本のリウマチ診療は、

外来が非常に忙しいのが特徴です


リウマチ以外の診療も適切にこなせるリウマトロジストは、

スペシャリストであり、ジェネラリストでもあります


③Life(人生)を守る

上の2つがクリアできているリウマトロジストは多くいます

ですが、人生を守れているリウマトロジストはそう多くはないと思います


なぜなら、リウマチ科の先生は基本は専門職であり、人数も少ないため、

落ち着いているリウマチ患者さんや寝たきりで看取る方針になった場合は、

自分で管理せず、開業医の先生にゆだねたり、

一般の内科の先生にお願いしているケースが多いと思います


または、癌になったり、心筋梗塞でなくなるということも多く、

最期は手を離れてしまうことも多いです


なので、「リウマチ患者さんの緩和ケア」がなかなか議論されない背景は、

上記のような理由で、

そもそも、リウマトロジストがそういった看取りに立ち会う機会が少なく、

議論されてこなかったのではないかと思ってしまいます


ですが、数年の経過でリウマチの患者さんをみていると、

最初は躍起になってコントロールをよくしようと頑張ったりしていましたが、

認知症が進行してしまったり、

フレイルが進行し、リウマチどころではなくなってきた患者さんも大勢います


そういった方の場合、リウマチの治療以上に大事なことがあります

それは、治療ではなく、人生のサポートです


ADLや認知機能の低下に応じて、適切な支援を検討したり、

ACPをして、残りの時間をどう過ごすか家族と相談したり、

最期を苦痛なくやすらかに看取ったり、

このように、家庭医や緩和医としての知識が必要になってきます



本物のリウマトロジストはこの3つのLifeが守れるDrだと思います


が、さすがに忙しい外来でそこまでできないと思うので、

家庭医の先生と一緒にタッグを組むのがよいのかと思います



晩期関節リウマチ
・寿命は一般の人よりも短いが、
古典的な合併症で亡くなる人は少ない
・心筋梗塞や癌、呼吸器感染症で亡くなることが多い
・3つのLifeを守るという自覚をもって診療する




性行為感染症

性行為感染症(STI)はカンファレンスではよく議論になりますが、

実臨床で毎回疑えている人は少ないのではないでしょうか

気が付いた時にはすでに遅いこともあるのが、

性行為感染症の怖いところです

診断の遅れが、感染の拡大につながります


HIV患者さんは生涯に4-5人に感染を拡大するといわれています

なので、一人のHIV患者さんを見つけたということは、

感染したかもしれない5人を救ったことになりますので、

とてもインパクトの多い疾患です

経済的にも社会的に本人にとってもHIVは非常にインパクトがあります


HIVは悪性腫瘍よりも難しい診療が求められます

それは医学的側面はもちろんですが、

それよりも告知やフォローが、

HIVの場合は非常にsensitveになります


HIV患者さんは誰にも相談できないのが、つらいと言われています

癌であれば、友人、家族、恋人に相談することもできますし、

同情されることも多いです

ですが、HIVの場合は、

社会的に理解が進んでいるとは決して言えない疾患であり、

差別的な目で見られてしまうことが多く、

誰にも相談できず、職場にも言えず、

一人で思い悩んでしまう人が多く、

非常にうつ病の合併も多いと言われています

唯一の相談相手が、医師であるという人も多いようです


梅毒は性行為感染症の王様的な存在でしたが、

HIVは感染症の王様的な存在です

HIV患者さんは最初から、感染症科の先生のところにはいきません

ある日、普通の内科医のところに来ます

STIを疑うポイント

外来をしている内科医は、STIに対して、

常にアンテナを張っていなければなりません


ひっかけるポイントは

病歴、既往歴、渡航歴、仕事、身体所見が挙げられます



どこかでひっかかったら、

STI関連の問診を仕切り直します

聞き方は

①まずは性行為関連の病歴を聴取する理由や前置きをします

・発熱(関節炎、皮疹などなんでもOK)があるということは、体の中に細菌やウイルスが感染している可能性があります
そういった病原菌は体の外から中へ入ってくることが多く、
入ってくる場所も限られてきます。
口や鼻、尿から入ってくることが多いですが、性行為などでも体に入ることがあります
なのでお聞きしますが・・・・

・原因がよくわからない発熱(関節炎、皮疹などなんでもOK)の方、
皆さまにお聞きしているのですが・・・

・咽頭痛を起こしたり、リンパ節を腫れさせる病原体として、
EBV、CMV、HIV、コクサッキー、エコー、HSV、マイコプラズマなどが考えられます。
お話しからはどの病原体かを絞るのは困難なため、検査を行わせていただければと思います。ただし、測定できるウイルスが限られており、
EBVやCMVやHIVはすぐに検査で調べることができますので、
調べさせていただいてもよいでしょうか



②実際聞くことは5P

Partners:パートナー
相手の性別、人数(直近1年間)、パートナーが自分以外のパートナーがいるか

Practices:行為の詳細
oral、anal sex、コンドームの使用

Prevention of Pregnancy:妊娠の予防の有無
ピル服用、リング、殺精子剤

Protection from STI:
性行為感染症から身を守るために何かしているか
コンドームの使用

Past history of STI:STIの既往
過去の既往はあるか、パートナーにSTIの既往があるか




2017年11月19日日曜日

足の痺れマップ








痺れマップ

痺れマップ

痺れは難しい症候群の一つで、どう考えてよいものか、

よくわかりませんでした


そこで、

専門医の先生に習った目からウロコのまとめ方です

頻度と神経伝導速度が診断に必要かどうか、

で分けると非常にしっくりきます

コンサルトしないといけない痺れと

コンサルトしなくていい痺れにも分けられるので、

非常に分かりやすいです



基本的に①以外はコンサルトしてもokです

あとはそのスピードです

痺れも急いで、コンサルトしたほうが病態が隠れているので、

気をつけましょう

特に血管炎の場合、ステロイドの治療の時期が遅れると、

不可逆になることもあるので、原因不明で抱え込まないように注意しましょう






2017年11月15日水曜日

膀胱に薬使ってみました

膀胱がしていることや神経がしていることが分かっても、

実際にできることは限られています

膀胱に使える薬はそう多くはありません

これらを上手に組み合わせることで、

症状緩和を目指します

ただし、アセスメントのないまま、症状緩和に走ることは危険です


良識ある内科医なら、悪寒戦慄している人に、アセトアミノフェンだして、

帰宅させませんよね


過活動性膀胱のような頻尿や尿意切迫感があったとしても、

膀胱炎かもしれないし、

前立腺炎や前立腺肥大症かもしれない

まれな間質性膀胱炎の可能性だってあるし、

最悪、膀胱がんのこともある


とりあえず、

症状緩和で安易に抗コリン薬を出して、数日は症状とれても、

もともと残尿が多い人だと、数日後に尿閉になってしまう可能性もあります

薬は上手に使いましょう

そして原因にも思いをはせましょう


畜尿を手助けする抗コリン薬や
β受容体作動薬




出口を広げるαブロッカー

排尿しやすくなると、

尿意切迫感や切迫性尿失禁といった畜尿症状にも有効




排尿を手助けするコリン作動薬



症状がうまく分類できれば、

薬も何が必要かが分かるはずです

上記の薬はあくまで、対処療法です

根本の原因(膀胱炎etc)が分かれば、そちらにアプローチしましょう


若ければ、骨盤底筋体操も有用です

薬物療法以外に、まずは非薬物療法でどうにかならないか試してみることも重要です


排尿障害

内科医は耳鼻科や皮膚科、泌尿器科、精神科が苦手な人が多い印象で、

苦手というよりは、手を出さない人も多いです

でも、手を出さない限り、勉強意欲もわかないので、

できるだけ自分で考える努力はした方がよいと思っています

「うちの科ではありません」とは極力言いたくないものです

専門がないからこそ、患者さん一人一人の専門家を自負するのであれば、

その患者さんのニーズに答えなければなりません


地域で内科医をやる以上は、

苦手な分野を作らない方がよいでしょう

今回は泌尿器トラブルです

膀胱の機能

膀胱は当たり前ですが、

①尿をためて

②尿を出す

ことを生業としています


尿をためることを「畜尿」といい、

尿を出すことを「排尿」といいます


排尿のトラブルで起こる症状を分類すると3つに分けられます

なので、排尿のトラブルがある人をみたら、どれに分けられるか考えましょう


①畜尿症状

膀胱には通常300-400mlの尿を、

途中で漏らすことなく、溜めることができます

溜まったら、脳に「たまってきたよ」と教えてくれます

これが通常の畜尿の過程です


問題が起こると、

膀胱には通常300-400mlの尿をためられなくなる
⇒頻尿

途中で漏らしてしまう
⇒尿失禁

あまり、溜まっていないのに、脳に「たまってきたよ」と教えてくれる
⇒尿意切迫感:過活動性膀胱

といった症状を引き起こします


・昼間頻尿:昼間に8回以上排尿がある
・夜間頻尿:夜間に1回以上排尿がある
・尿意切迫感:我慢できない尿意が急に起こる
・尿失禁:知らない間に尿が漏れる
・切迫性尿失禁:尿意切迫感と同時に尿がもれる
・腹圧性尿失禁:腹圧がかかった時に尿がもれる
・混合性尿失禁:上記ふたつが合併
・溢流性尿失禁:膀胱に尿が充満し、抵抗が弱い尿道から出てくる
 ⇒排尿障害も合併しており、最もひどい病態
・機能性尿失禁:ADLが低下して、トイレに間に合わない

などが挙げられます。


②排尿症状

排尿をする時には、排尿筋が収縮し、

膀胱の出口の外括約筋が弛緩して、

尿が出ていきます

そのため、出口の抵抗が上がるような、

前立腺肥大症の症状を想像するとよいと思います

膀胱の排尿筋の収縮低下も原因になります

・尿線分割
・尿線途絶
・尿勢低下
・排尿遅延
・腹圧排尿
・終末滴下

などが挙げられます

③排尿後症状

・残尿感
・排尿後滴下


この3つが、下部尿路症状(LUTS)と呼ばれています

漢字ばかり並ぶと、難しくみえますが、

あまり難しいことではないです


心臓も膀胱も筋肉の塊で、神経に支配されており、

適量たまったら、出すだけの臓器です

うまく内容物をためることが出来なければ、

心臓の場合、拡張不全と言われ、

膀胱の場合、畜尿障害と言われます


内容物をうまく押し出すことが出来なければ、

心臓の場合、収縮不全といわれ、

膀胱の場合、排尿障害といわれます


機能が破綻すれば、

心臓は心不全といわれますが、

膀胱は膀胱不全とはいわれません


膀胱の機能が破綻するというのは、どういう状況かというと、

尿意を強く訴えていた過活動性膀胱の人が、

膀胱の過剰な収縮の末、

膀胱の筋肉が徐々に疲れていき、

低活動性の膀胱となり、

ついには溢流性尿失禁の状態になってしまった

というようなストーリーでしょうか


溢流性尿失禁は膀胱の機能としては、破綻しています


LUTSに強くなる

外来をしていると、LUTSで悩んでいる人はたくさんいます

排尿のトラブルをあまり人には言いたくないもので、

外来で排尿のトラブルを言ってくれたということは、

勇気をもって言ってくれた

相当困っているんだな

と考えなければなりません


すぐに「じゃあ、泌尿器科行ってください」では、

患者さんも報われません


泌尿科に行きにくいから、

内科の先生に相談しているんだということを忘れてはいけません


ある程度、自分で考え、出来る範囲で頑張ってみることも必要です



特に過活動性膀胱はとても訴えが強く、

ADLを激しく落とします

認知症の方の過活動性膀胱は、介護者に大変な苦労をかけます

ですが、過活動性膀胱に安易に、抗コリン薬を出すのは危険です

最低限、残尿量がどれくらいあるのか、もしくはないのかを確認してからにしましょう


排尿のトラブルはどうしても主観的です

なので、よく使われるのはアンケートです

前立腺の時のI-PSS、

過活動性膀胱のOABSSといったものをうまく活用して、

治療効果判定にも使いましょう


神経因性膀胱


排尿のトラブルの人を泌尿器科にコンサルトをすると、神経因性膀胱ですね

という答えが返ってくることがあります

神経因性膀胱って、便利な言葉ですよね

どこかの神経が障害されて、膀胱の機能がうまく行われなくなった状態で、

なんと、広い概念を示していることでしょう


残念ながら、原因が明確になることは少ないですが、

膀胱を支配する神経の仕組みをしっておくと、

部位診断ができるかもしれません

考える力が湧くので、神経の流れを知っておきましょう



排尿調節

排尿中枢には上位と下位があり、

上位排尿中枢が橋にあります

下位排尿中枢はS2-4にあります

それらが膀胱に指令を出し、排尿が行われます


膀胱に尿がたまると

その刺激が脊髄を上向していき、

大脳に伝わります

大脳は抑制中枢とされており、

排尿を我慢させることができます

排尿を我慢させている時は、尿が漏出することはありません

膀胱は弛緩し、膀胱の出口は完全に閉鎖されています


排尿してもよいという、OKサインを出すと

抑制がとれて、

橋の刺激が脊髄を下降し、

S2-4に到達し、

排尿筋を収縮させます

同時に出口である外括約筋を弛緩させます

本来であれば、尿は残らず、完全に排尿することができます

この流れのどこかで問題があると、

排尿にトラブルが生じるので、

それぞれの場所で考えてみましょう









排尿のトラブルに出会ったら
・病歴から、畜尿症状か排尿症状かを見極める
・神経因性膀胱だと思ったら、
 残尿の有無や尿意の有無、
 我慢できるかどうかといった情報から
 問題がありそうな部位を予測する


2017年11月13日月曜日

急性前庭症候群

急性前庭症候群 
Acute vestibular syndrome(AVS)

まず名前が悪いです

前庭がやられていないくても、前庭と名前がついています
(いろいろな経緯で回りまわって、前庭がやられている可能性はありますが・・・)


急性前庭症候群はめまいの分類の中の急性重度のめまいに分類されるものです

つまり、急に持続性のめまいが出現した時に、この概念に落とし込みます

病歴を上手にとらないと、そもそもめまいを3つに分類できないため、注意が必要です


頭位変換時に誘発されるめまいが、BPPVです

頭位変換時に悪化するのが、急性前庭症候群です

ここを間違えては元も子もありません


ポイントは

頭位変換していない時にもめまいがあるかどうかです

吐き気はあってもよいです


急性前庭症候群は頭位変換をしていないのに、

ずっとめまいが続いているような人なので、

BPPVを疑う必要はありません


なので、めまいと一言でくくってしまうと、

BPPVや前庭神経炎や脳梗塞やメニエールなど

ごちゃごちゃした鑑別になってしまうので、

めまいでくくるよりも、急性前庭症候群(AVS)でくくった方が

鑑別がしぼりやすいです

末梢性 VS 中枢性

AVSは末梢性と中枢性があります

その中でも、末梢性では前庭神経炎がほとんどです

中枢性は脳幹梗塞や小脳梗塞がほとんどです

前庭以外がやられても、持続性のめまいを起こすことはあるので、

前庭が関与していない脳梗塞でも、

急性前庭症候群という範疇に入ってしまいます

中枢性の原因としては、脱随や出血、腫瘍もありえますが、稀です



なので、末梢性 VS  中枢性  という構図は、

結局、前庭神経炎(vestibular neuritis) VS 小脳や脳幹の梗塞 となります

脳梗塞でめまいが起こるのは、多くは後方循環系なので、

小脳失調や脳幹の所見を詳しくとることにつきます


めまいがあり、吐き気がひどい時は、小脳失調の評価をしにくいですが、

それでも最低限、守らなければならないルールがあります


それは救急外来で、

例え、めまいが対処療法で改善して、帰宅できそうな時でも、

帰宅させるときは、自分の目の前で歩いてもらうことです

看護師さんに任せて、「点滴終わって歩けたら帰宅」という指示ではいけません

そこで見るべきは、wide baseかどうかです


有名な逸話があります


救急外来に来ためまいの患者さんで、

特に神経学的な異常所見がなく、

点滴していたら、めまいがおさまり、歩行可能となって

帰宅していった人がいました

帰り際、扉をあけて帰る時に

若干wide baseでひょこひょこ歩いて帰っていきました

なんとなく、wideだなあと思っていたら、

翌日、嚥下ができなくなって、呂律不良が出現し、帰ってきました

ワレンベルグでした


脳幹や小脳梗塞の患者さんは、浮腫が起こると症状が増悪してくるので、

最初は目立たず、徐々に悪化してくることがあります

軽度の小脳失調は非常に難しいですが、

帰宅前には必ず歩行をさせましょう

「歩行できなければ、入院」

という標語はよく聞きますが、

「歩行できれば、帰宅」と置き換えてはいけません

「歩行できても、入院」な時があります




めまい診療の苦手な理由の一つに眼振がよくわからないというのがあります

眼振をとるのも、とられるのも一苦労です

めまいがあると、眼をあけているのもつらく、

ある程度症状を落ち着かせないと評価が難しいです


まず吐き気をとってあげてから評価したほうが、

診察がスムーズなことが多いです


眼振の評価はできれば、フレンツェル眼鏡を使いましょう

そして、眼振の評価に自信がなければ、患者さんに許可をもらって

動画で撮影しておきましょう


動画で撮影するメリットは、

あとでゆっくり眼振の向きを評価できること

時間がたって眼振が消えてしまった時に、

あの時はこうだったという確たる証拠になること

眼振を見た事ない医師への教育として使えること

が挙げられます


急性前庭症候群では、明らかに中枢性である眼振を探すことです

垂直方向性や純粋な回旋性、注視する方向への眼振は、中枢性を示唆します

上記であれば、むしろ、強く中枢性を示唆するので、

診断がついて、ラッキーです


ですが、多くは水平方向固定性眼振で、

水平方向固定性眼振の時が一番、難しいです

これは末梢性でも中枢性でも起こり得る眼振です


前庭神経炎の時は、健側方向へ向かいます

脳梗塞の場合は、健側にいく場合と病側にいく場合があります

眼振では区別できません


頭位を健側下位にしたときに、向地性(地面方向に眼振が増強する)の場合は、

前庭神経炎のことが多く、

向天性(天井方向に眼振が増強する)の場合は、

脳梗塞のことが多いという報告もありますが、

実感としては、

どちらが、増強しているか判断がつかない時も多い印象で、難しいなあと思います

一応、やってみてもよいと思います






ではHITで末梢性と中枢性の鑑別できるかというと、

ほとんどは鑑別ができます


しかし、中枢性の一部では、HITも陽性になる場合があります

まるで、前庭神経炎にそっくりなので、

pseudo vestibular neuritis と呼ばれます

pseudo vestibular neuritisとなる疾患は、

前庭や前庭神経核を栄養しているAICAやPICAの梗塞です

病態が炎症か、梗塞かだけの違いなので、

症状が似ていてもおかしくありません

この場合は、他の症状で見分けるしかありません

AICAの場合、内耳を栄養していることが多いので、

蝸牛症状を拾いましょう





末梢性か中枢性を見分けるために、

必要なのはMRIではありません


病歴や身体所見の方が重要です


後方循環系の脳梗塞では、MRIの感度が発症から48時間以内では悪いので、

必要であれば繰り返す必要があります





急性前庭症候群まとめ
・眼振を伴う急に出現した持続性のめまいのこと
・このカテゴリーに落とし込めば、
 BPPVは鑑別にあがらない
・鑑別は 前庭神経炎 VS 脳梗塞
・末梢性と中枢性の鑑別に大事なのは、
 MRIではなくHINTs Pluse
・眼振の評価が得意になれば、めまい診療が楽しくなる

2017年11月10日金曜日

めまい

めまいの診療は内科医の腕の見せ所です

出来る内科医かを見極めたければ、失神か、めまいの人の診療を見れば分かります

めまいは症状が辛く、

おえおえ吐いていては病歴もとれませんし、

身体所見もCTもとれません

めまいの人を見たら、まずやることは労ってあげることです


本当に辛いです


共感出来ない人は、自分の耳に、冷水を入れてみてください

もれなく、めまいと気持ち悪さが出現して、まっすぐ歩けなくなります


めまい10か条を作りました




めまいのまとめです

めまいの病歴も、

痛みと同じで、図に表せるといいですね


そこでのポイントは、吐き気とめまいを一緒にしない事と

頭位変換での悪化を詳しく聞くことです


聞き方を意識しないと、

なんでもかんでも、BPPVになってしまいます

小脳梗塞でも頭を動かせば、

めまいは悪化します

頭をどの方向に動かした時に、めまいが悪化するのか

という事を細かく聞かなければなりません

臥位から坐位や立位で悪化している場合は、

起立性低血圧かもしれません




めまいのpit fallは、たまに起立性低血圧の事があります

耳か、脳か

の問題の前に、

まず大量出血していないか、心臓は大丈夫かと考えましょう



急性重度のめまいの時に

前庭神経炎か脳梗塞か

という事が議論になります

そこでの鑑別方法で、

よく言われているHINTSです

中でも重要なのが、

HITです


HITが陽性であれば、前庭や前庭神経に関わる部位に異常があると言えます

HITが正常であれば、前庭神経は正常に働いているという事であり、

前庭神経に関わらない場所で、めまいが生じているという事になります


なので、

「前庭がやられているかどうかを見極める所見」


と覚えておいたほうが良いです


「脳梗塞か前庭神経炎かを見極めるテスト」と覚えてしまうと、

応用がききません


前庭神経がやられれば、HIT陽性になるため、

前庭神経の核や神経に虚血が生じても同じ結果になります


炎症でも虚血でも脱髄でも


前庭神経がやられれば、HITは陽性になります


なので前庭神経を栄養している血管、

つまりAICAの梗塞の場合、

やられ方によっては、HIT陽性になります


なので、AICA梗塞で出る他の所見を探しに行く必要があります

内耳がやられると、難聴がでますし、

顔面神経がやられると、顔面神経麻痺がでます

前庭神経核を栄養しているPICA梗塞でも起こりえますが、

非常に稀なので、

まずはAICA梗塞をしっかり否定できるようになりましょう


なので、前庭神経炎というためには、

HITがまず陽性になり、

AICA梗塞で出現する他の所見がない

という事を示さなければなりません




もっと簡単に、中枢か、末梢かを見極めるためには、

この4つを注目します

Vascular riskと眼振と

歩行と神経学的異常です


なので、めまいの人は病歴を長々とるよりも、

すぐに眼をみて、どういう眼振が出ているかで、

方針を立てられる事があります


気持ち悪い中、色々、話聞かれるよりも、

眼をみただけて、

今日は入院ですね

と言ってもらえると、患者さんも楽です


まさにめまい診療では、眼は口ほどにものをいうのです





めまいの人の神経診察は脳幹の局所解剖を意識して診察します

脳幹の脳梗塞は横文字の名前がつきまくっているので、

ややこしいです

いつも、名前なんてつけなくてもいいのに

ただの脳梗塞でしょ

と思ってしまいます


ただ、

研修医にこの神経学的な異常のパターンは

Dejerine syndromeだね

というと、

おーーー

となって、なんだか凄そうと思わせる事ができます


いわゆる、猫騙し

ならぬ

研修医騙しです


2017年11月8日水曜日

喘鳴~心不全・喘息・気管支炎問題~

喘鳴にまつわる
心不全、喘息、気管支炎問題です

ここは一番難しいですが、やりがいのある分野です



喘鳴が目立つ肺炎像がある人

この時期増えます


肺炎として、抗生剤治療をするが、

喘鳴はいっこうによくならない


こういう時に、主治医の頭の中では・・・

喘息の既往はないが、喘鳴だけがやたらと目立つから、

喘息がこの高齢で発症したのであろうか?

⇒喘息の治療をしてみたい!


心不全の既往はないが、心不全もあってもいいかもしれない

しかし浮腫もないし、体重増加もない

⇒でも、とりあえずラシックスうってみたい!


そもそも、施設から持ち込んだ何かのウイルス性気管支炎やマイコプラズマか

⇒非定型肺炎の治療も追加してみたい!


といった具合で、なんとなく治療が開始されることが多いです

そして、どの治療もうまくいかず、泥沼化していきます



なぜこうなってしまうのか?


それは軸足がぶれているからです


軸足とは、つまり「診断」です

最初の段階では、診断は必ずしも正しい必要はなく、
暫定的に診断をして、
まずはその暫定診断にのって治療することが重要です


治療はいつもいつも、スパッとスマートな治療ができるとは限りません


絶対この病気!⇒治療!⇒ほら、治った!

なんてことは稀です


現実は、

うーん、A(PMR)かもしれないし、B(RAや脊椎関節炎、偽痛風)かもしれない

でもC(IEや化膿性関節炎)だったら、AやBの治療が非常にまずい

少なくとも、Cに害になる治療はしてはいけない


まだAとBの鑑別は完全にはできていないけれど、

このままではADLがガタ落ちしてしまう

○○の要素があり、現状ではA>Bと思う

だからまずは、Aとして治療だ!


といって治療するのが、現実の臨床です


治療開始は、綱渡りのような感覚で、そろーりそろーりと進んでいく印象です




よく、電解質の治療のところで引用される言い方ですが、

結局は「北」にいけばいいのです


東京から出発して、東へいってもいいし、西へいってもいい

だが、南には行かないようにする

西へいって、何かおかしいと感じれば、

途中で軌道修正すればよく、

だんだんと北へ進めばよい


という教えです


大事なのは、スタートの時点で、

東に行ったり、西にいったり、南へ行ったり、一気に進まないことです

自分が一体どこにいるのかわからなくなります


そして、南にいかないようにすること

つまり、治療をして悪化する病気がないかどうかを考えておく必要があります



そして、途中で何度も立ち止まることです

途中で何かおかしいと感じるためには、

ベッドサイドに頻回に通う必要があります

電解質の補正の場合は、数時間毎のフォローアップが必要でしょう





この教えを知ってから、自分で治療することに勇気がわきました

最初から完璧である必要はなく、

一番大事なのは、軌道修正であることがわかれば、

最初の一歩を踏み出せます




ですが、高齢者では、オッカムの切れ味が落ちて、

ヒッカムの格言が必要になることはあります

つまり複数の病気が合併していることは多々あり、

同時に治療しないとよくならないこともあります


ですが、多くの症例で同時に、

心不全、喘息、ウイルス性気管支炎、細菌性肺炎が起きたという人はまれだと思います

なので、ここではまず、

どれか(心不全、喘息、気管支炎)に
軸足を置く努力をしましょう
軸足をおいたら、徹底的にその治療をします



スルメ
(意味がわからない人はまど・みちおさんの「するめ」という詩を検索してください)

軸足をおく、つまり、暫定診断をするためにはどうしたらよいかというと、

それはやはり病歴や身体所見、検査が重要になってきます

しかし、

認知症があったり、高齢になると、自分の病歴や症状をうまく伝えることができません


流行りのROSをとってみても、

労作時呼吸苦+
喘鳴+
体重増加-
夜間発作性呼吸困難-
起坐呼吸-
血痰-
寝汗-
鼻汁-

といったような感じで、


「で?」


となり、鑑別が進みません


夜中の具合の悪さを本当に見たければ、

ベッドサイドのごみ箱の中のティッシュの量をみたりします

よく観察すると、夜間に痰が増えている人では、

夜にティッシュの消費量が上がっていることに気が付きます



浮腫がないかをみるには、

臥位が続いている人であれば、

脛骨前面ではなく、大腿内側後面や体幹背側をみないと分かりません


病歴が使えない時もありますし、身体所見が一見乏しい時もあります

しかし、それはこちらの受け取り側の問題で、

能動的に患者さんから発していなくても、

こちらにレセプターがあれば、

患者さんからのメッセージを受動的に感じとることができます





無言のメッセージを感じ取ることが、ベッドサイドでは重要です


これは、カンファレンスで議論していても、わかりません

日本のカンファレンスはベッドサイドから離れすぎているので、

やや臨床に即していないカンファレンスが多い印象です


患者さんに出会った瞬間に、カンファレンスでの議論が吹き飛ぶ光景を

何度も目にしてきました


診断に悩んだら、患者さんのところに何度もいく

というのは、忘れがちですが、大事なパールです




気腫性骨髄炎

 

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