2020年1月29日水曜日

昼カンファレンス ~2軸でみる病歴と浮腫~

症例 44歳 女性 主訴:両手、両足の浮腫
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司会「はい、ありがとうございます。
   じゃあ、ここまででどうでしょうか?
   これだけでも、鑑別あがりますよね?」

学生「甲状腺の病気とか・・・
   低Alb血症とか、静水圧が上がる病気とかですか」

司会「そうだね。あとは何か思い浮かべますか?」


専攻医「妊娠とかも考えたいですね」


司会「素晴らしい!
   ここで妊娠を鑑別にあげられるのは、しっかり外来している証拠ですね

   はい、ではもう少し進みましょう」
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Profile:慢性甲状腺炎(橋本病)で年一回外来でフォロー中、内服なし
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司会「はい、ありがとうございます。
   橋本病が背景のある人のようですね?。

   これを聞いて皆さんはどう思いますか?」

学生「甲状腺機能低下や亢進の可能性があがった気がします。」

司会「そうですね。
   これまでの甲状腺機能の推移は気になりますね。

   他にはどういう印象を持ちますか?」

シーン

司会「橋本病という病気は日本人の女性にとても多い病気です。
   でも自己免疫性疾患ですよね。
   
   橋本病があるということは、自己免疫性疾患を起こしやすい背景がある人だ
  
   という認識が大事です。
   
   つまり、関節リウマチやシェーグレン症候群、重症筋無力症といった
   他の自己免疫性疾患も隠れて持っている可能性があるという事です
   

   芋づるのように色々隠れているかもしれないな・・・
 
   橋本病の人をみたら、皆さんそういう風に思ってくださいね

   では、もう少し情報をもらいましょう」
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現病歴

来院1週間前まで元気、インディアカをした
        5日前 右膝の痛みがあり、整形外科を受診した
          痛み止め(ロキソニン、レバミピド)を処方された
         その夜から手の握りにくい感じが出現した
         足も浮腫んだように感じた 

来院当日   体重が+2kg増えており、両手・両足が浮腫んだ感じがあり内科外来受診


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司会「はい、ありがとうございます。

   インディアカは言いたかっただけですね(笑)

   では、他に何か聞きたいことはありますか?」

学生「呼吸苦はありましたか?」

発表者「なかったです」


研修医「痺れや痛みはどうですか?」

発表者「ありませんでした
    右膝の痛みも痛み止めを飲んでからは軽快しているようで、来院時は痛みはなしです」


研修医「日内変動はありましたか?朝の方が握りにくいとか?」


発表者「そういうのはありませんでした」


研修医「痛み止めは処方されてから、ずっと飲んでいたのですか?」


発表者「はい、ロキソニンは朝昼夕でずっと飲んでいたようです」


他のROS
(+)両手・両足の浮腫、体重増加(+2kg)
(-)呼吸苦、痺れ、痛み、日内変動
(?)先行感染、レイノー現象、尿量低下、最終月経、便秘、尿の泡立ち

生活歴:飲酒なし、喫煙なし、妊娠の可能性100%なし

既往・既存:橋本病でフォロー中、数か月前の甲状腺は問題なし
    

内服:市販の痛み止めを生理痛の時にたまに内服


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ディスカッション①:空間軸と時間軸を意識した病歴聴取

司会「はい、ありがとうございます。

   ではもう少し他に聞きたいことはありますか?」


シーン


司会「みなさん、病歴とる時は何を意識してとっていますか?

   空間軸と時間軸、地図と年表の話を聞いたことはありますか?」


研修医「何度か聞いたことはありますが、まだ自分のものにできていません」


司会「病歴で聞いているのは、実はこの2軸のどちらかを聞いているという事です

   と、うちのボスは言っています

   病歴で症状の流れを聞いたのは、時間軸(年表)ですね
   これは病態を示唆することが多いです

   突然発症であれば、血管の問題の可能性があり、
   数日の経過であれば、炎症が病態の可能性があり、
   数か月や数年の経過であれば、腫瘍や変性疾患の可能性といった感じです。


   もう一つ、空間軸(地図)という考え方があります

   空間軸は患者さんの
  体内環境(免疫状態)と体外環境(暴露)を聞く
   
   という事です
   

   体内環境で聞くべきなのは、免疫状態や解剖・臓器のトラブルがないかです
   
   免疫状態は既往や既存症、内服歴、飲酒や喫煙歴、アトピーなどを聞きます

   ROSで聞いているのは、体内の臓器のトラブルが起きていないかを確認しているのです

   皆さん、今回の症例の体内の環境はよく聞けていると思います

   ですが、体外の環境については、まだ聞き足りないのではないでしょうか?」

研修医「仕事は何をしていますか?」

発表者「小さい子供たちの言葉の教室で先生をしています」


研修医「シックコンタクトはありました?」

発表者「ありませんでした」

研修医「時期はいつですか?」


発表者「初夏です」


司会「初夏!?なるほど、完全に冬だと思っていました。
   皆さん、昨年の初夏の症例ですよ。

   ということは初夏に流行った感染症を思い浮かべないといけない。

   何が流行していましたか?」


研修医「ヘルパンギーナです!僕がなりました(笑)
   
    そのせいで、IDATEN休みました(笑)」


司会「はい、それは残念でした。

   ヘルパンギーナ以外に何かありましたか?」

専攻医「パルボとかも流行りましたかね?」

司会「そんな気もしますね」


外科医「インディアカも流行ったっけ?」

司会「それは流行っていません

   みなさん、インディアカから一旦離れましょう!」



司会「はい、ありがとうございます。

   体外の環境についても聞いていただきました。
   では鑑別はどうなりますか?」

研修医「他にはパルボとかも鑑別です」

司会「そうですね、パルボを疑ったら他に何を聞きたいですか?」


研修医「皮疹はなかったのか聞きたいです」

司会「そうですね、
   診察でもその目で見ないと見落とすくらいのうっすらした皮疹の時もよくあります。
   
   なんていったって、昨年僕がかかりましたからね!

   確かに関節が痛くなりました。
   そしてほんのうっすら小紅斑が出ました。

   両手足が浮腫んだように張った感じになって、
   僕の場合、足はとてもかゆい皮疹でしたね。

   パルボのクリニカルコースはわかりますか?」


研修医「最初は感冒症状があり、軽快した後に発疹や関節炎が現れる
    二峰性の経過をとることが多いと思います。

    この方は二峰性という感じではないので、パルボっぽくはないのかもしれません」


司会「はい、ありがとうございます。
   他に鑑別はありますか?」


専攻医「薬も可能性はあると思います。

    ロキソニンによるNa貯留作用で浮腫は起きてもいいと思います

    ちょっと早い気もしますが」


司会「大事な鑑別ですね。
  
   みなさん、浮腫をどのように頭の中で整理していますか?」


研修医「局所性か全身性かで分けています。」

    全身性なら心臓、肝臓、腎臓、内分泌といった感じで考えます。」


司会「そうですね。まずは局所性と全身性の軸があります。

   ですが、南多摩病院の國松先生はもう一つの軸を使って分けると有用であると提唱していますね。

   聞いたことはありますか?」

シーン

司会「それは、炎症の軸です

   局所性で炎症だったら、蜂窩織炎の可能性が高いですよね。

   じゃあ、全身性の炎症だったら、、、
   
   サイトカインで過ぎて血管透過性が亢進し、間質に水分が漏れ出てしまう病態、
   敗血症の初期やTAFRO、クラークソン症候群といった疾患が挙げられます

   クラークソン症候群(systemic capillary leak syndrome(SCLS))は
   アナフィラキシーのように急速に血管内から水分が失われ、すぐにショックになります
   大量の補液(10Lとか)が必要になる特殊な病気ですので、
   頭の片隅にはいれておきましょう

   浮腫を炎症の軸で考えるのは、なるほどなあと思います。」


司会「では身体所見を見てみましょう」

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バイタル 体温36.6、血圧123/73、脈97、呼吸数16
見た目 お元気そう 顔や手足も浮腫んでいる感じもない

心音、呼吸音 問題なし
四肢 浮腫なし
関節 腫脹や圧痛なし
皮疹なし
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ディスカッション②:手が腫れた感じで握りにくいと言われたら?

司会「たまにいますよね。
   浮腫が主訴なのに、他覚的には浮腫が確認できない人。

   よく経験するのは、神経性食思不振症の人でbody imageの歪みがあって、
   ほんのわずかの浮腫が気になってしまうのです

   あとは立ちっぱなしの職業の人が夕方になったら、浮腫んでいる状態です

   浮腫みといっても病気ではない時もかなり多いです


   ですが他覚的に浮腫が確認できないからといって、
   主訴をないがしろにしてはいけません

   本人が浮腫んでいるといったら、浮腫んでいるのです。
   浮腫んでいる原因をしっかり考えましょう。

   今回は手があくぼったくて握りにくいという主訴ですね。

   どういう流れで診断しますか?」


専攻医「爪を隠すように握れるかを確認します。」


司会「はい。そうですね。ありがとうございます。

   では手があくぼったくて握りにくいと言われたら、
   どのように診察するかおさらいしましょう。


  ①まずは、視診で手や指を見て、左右差を確認します
   →指一本だけパンパンであれば、乾癬が疑われます。
    乾癬が疑われれば、爪を見ます

   →すべての指がソーセージのようにパンパンであれば、強皮症を疑います。
    強皮症が疑われれば、NFCCを見ます

  ②そして手を握ってもらってMCPの間のくぼみがあるかを確認します

   手を握ってもらう時に、「爪を隠すように握ってください」とお願いします。
   爪が隠れなければ、握りが甘いので何か原因があるかもしれません

   握ってもらったら、次に横から見ます。
   隙間が空いていたら、しっかり握れていないという事になります

  ③視診の最後に両手を合わせて合掌してもらいます
   手掌の間に隙間があれば、prayer sign(祈りの手サイン)といわれ、糖尿病が強く疑れます。


  ④触診でまずはMCPのsqueezeサインをみます
    squeezeサイン、つまりMCPを握って痛いかどうかで関節炎をスクリーニングします

    痛かったら、真剣に触って関節の腫脹があるかどうか確認していきます
    squeezeサインが陰性であっても、関節の腫脹は確認してよいです

   ⑤手掌側の屈筋腱の圧痛がないかを見ます

    関節リウマチも腱炎が起こることはあります

   
    結局、診察で何をしているかというと、
    手が握れない原因となっている局所解剖はどこか?
    
    を探しているだけです。

    皮下組織全体の浮腫が原因なのか、腱や付着部の炎症か、関節の問題か・・・

    今回はどうでしたか?」

発表者「視診上の浮腫はなくて、しっかり握れました。
    関節も全く腫れていませんでしたし、圧痛もありませんでした」


司会「みなさんどう思いますか?
   これで関節炎は否定できますか?

   できませんよね。
   だってこの方はロキソニンをしっかり内服しているのです。
   
   ロキソニンは対処療法だけの治療ではありません。

   ロキソニンは脊椎関節炎や反応性関節炎の場合は、治療にもなってしまい、
   治ってしまうこともあります。」




専攻医「この方はどうして病院に来たのですか?
    何に困っているのですか?」


司会「いいですね!誰が何に困っているか問題ですね。
   真の受診理由を聞いてみましょう!」


発表者「体重が2kg増えたのを同僚に相談したら、病院に言ったら方がいいんじゃない?
    と言われたからでした。」

司会「なるほど。本人は実はあまり困っていなかったのですね。

   さて、鑑別疾患で何を考え、検査は何を出しましょうか?」


学生「血液検査や尿検査を出します」

司会「そうですね、型のごとく心臓、腎臓、肝臓、Alb、糖尿病、甲状腺・・・
   
   何か引っかかってくれ~って祈りながら出す感じですよね(笑)

   外来でみるような浮腫の場合、
   網を投げるようにぶわっと検査して、そして一気に検査が帰ってきて、何もひっかからないとすごい困る・・・
   
   っていうのが外来のあるあるです。

   
   なのでこの網に引っかからない特殊な浮腫の鑑別を知っておくことが大事です。

   初夏に若年女性がぶわっと急に浮腫むといったら、あの疾患ですよね。」


シーン


司会「nonepisodic angioedema with eosinophilia(NEAE)です

   血液検査の好酸球にも注目したいですね

      あとは皆さん、ここでBNP出しますか?」


研修医「えー出さないですよ!
  
    だって、浮腫んでないんですよ!?」


司会「そうかなぁ。自分だったら、出すかもしれません。
   
   だってBNPめっちゃ高かったら、絶対におかしいでしょ?

   この前、経験した症例だと浮腫が主訴で来た若年女性が、
   結局、甲状腺機能低下症だったのですが、BNPが100超えていました。
   
   そうすると甲状腺機能低下だけが浮腫の原因ではなくて、心臓大丈夫?ってなりますよね

   甲状腺機能低下に伴う心不全やウイルス感染の心筋炎とかが鑑別になります
   好酸球が上がっている場合は、好酸球性の心筋炎も鑑別になります

   心臓に思いをはせる思考のスイッチのような役割になるので
   BNPは自分ならとるかもしれません」


研修医「失礼しました(口癖)」


司会「では皆さん、パルボはこの時点で出しますか?」


研修医「えー出さないでしょ!
  
   だって皮疹もないですし、感冒症状もないですし、暴露もないじゃないですか!?」


司会「皆さん忘れていませんか、暴露はありますよ。

   小さな子供に接する仕事じゃないですか?

   そして地域で流行していた時期ですよ?

   僕なら出すかな。」


研修医「失礼しました(口癖)」


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血液検査
貧血ごく軽度 Hb10(以前から)、好酸球上昇なし
肝酵素上昇なし、腎機能正常、Alb正常、電解質正常
BNP正常、糖尿病なし、甲状腺正常

尿検査 蛋白尿なし 
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ディスカッション③:さてどうしますか?

司会「網が帰ってきました。
   はい、ほとんどの鑑別が消えましたね(笑)

   浮腫の検査っていつも、こんな感じです。


   うーん、どうしましょうね・・・」


研修医「あんまり浮腫もしっかり確認できないのであれば、様子みてもらっていいんじゃないでしょうか。」


司会「うーん、でもやっぱり、パルボなんじゃないですか?

   実際はどうしました?」


発表者「はい。
    この症例でやったことは、ロキソニンによる薬剤性の浮腫だと思いましたので、
    ロキソニンをやめてもらいました

    1週間後にフォローすると、すっかり浮腫はよくなっていました。
    症状もなくなっていて、とても元気でした。」


司会「なるほどー、そっちでしたか。」

   
発表者「やっぱり、ロキソニンの浮腫でよかったですね。
 
    いつも心に薬と結核だなあ・・・


    ってなっていたのですが・・・・

    
    実はパルボのIgM抗体提出していたのです。

    なんとそれが陽性で帰ってきてしまいました。」


研修医・専攻医「えー!!」

司会「なんと!やっぱりそっちでしたか!

   よく出しましたね。」


発表者「仕事での暴露や流行があったのと、症状からパルボも疑っていました。
    
    ロキソニンをやめても症状が続くなら、パルボの可能性もあるかなと思っていたのですが、まさかの結末でした。」


司会「はい、ありがとうございました。
   なるほど、面白い症例でしたね。

   膝の痛みも浮腫もパルボのせいだったのでしょうね。
   ロキソニンはby standerだったか、浮腫の増悪因子だったのかもしれません。

   浮腫の鑑別のいい勉強になりました。ありがとうございました。」



まとめ
・病歴聴取は2軸を意識する
→時間軸(年表)と空間軸(地図)


・浮腫の原因は2軸を意識する
→局所 vs 全身の軸と、炎症のありなしの軸


・いつも心に薬と結核、流行あればパルボもチェック

2020年1月28日火曜日

昼カンファレンス ~鑑別疾患のあげ方~

症例 30歳 男性 主訴:右下腹部痛

Profile:既往のない元気な30歳男性

病歴:2日前 寝ている時に右下腹部痛が出現してきた
       痛みは強くなかったので、経過をみていた
   来院当日、痛みが増強してきたため、開業医受診
   虫垂炎かもしれないと言われて、痛み止め処方され帰宅
 
   夕方、痛みが持続するため、再度近医受診し、
   血液検査施行され、炎症反応高値であり、虫垂炎疑いで紹介受診

痛みは最初は右側腹部くらいだったが、今は右下腹部
嘔吐なし、下痢なし

既往:なし、薬:なし

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ディスカッション①:病歴までで何を考えますか?

司会「はい、病歴は以上ですね。みなさん他に何か聞きたいことはありますか?」

学生「痛みの性状はどうでしたか?」


発表者「ずしーんとした痛みということでした。筋肉痛のような痛みとも言っていました」

学生「何か筋肉痛になるような運動はしましたか?」

発表者「そこまで聞いていなかったです」


司会「はい、ありがとうございます。
   大事ですね。筋肉痛っぽいというなら、筋肉由来かもしれませんよね

   よくあるのは、子供がお腹の上でジャンプしていて、
   腹直筋血腫になってしまったというのが、有名ですけど。

   他に何か聞きたいことはありますか?」

研修医「食欲はありましたか?」


発表者「はい、普通に食べています」


司会「なるほど、それは変ですねえ

   今回の症例は虫垂炎で紹介になっていますが、
   みなさん何を考えていますか?」

学生「虫垂炎です」


司会「そうですね、右下腹部痛といったら、虫垂炎ですよね。

   では、虫垂炎の病状はどのように進行していくか知っていますか?」


専攻医「まずは心窩部痛が出現し、次に吐き気や嘔吐が出てきて、
    右下腹部に限局した痛みになり、白血球上昇や発熱がみられる

    と覚えていました。」


司会「はい、その通りですね。この順番は非常に重要です。

   吐き気や嘔吐の後に腹痛が来た場合は、腸炎を考えます。


   ですが注意点があります。

   虫垂炎は心窩部痛の前に実は食欲低下がみられるといわれます。
   吐き気ではないんですが、なんとなく食べたくない程度ですね


   なので虫垂炎の場合に食欲がある人は稀にいますが、
   食欲があるというのは、虫垂炎らしくはないのです


   虫垂炎を疑った時には、
         CPR(clinical prediction rule)としてAlvarado scoreというものもありますね

   MANTRELSで覚えます

   Migration of pain:心窩部、臍周囲から右下腹部への移動(1)
   Anorexia:食思不振(1)
   Nauzea:吐き気、嘔吐(1)
   Tenderness in RLQ:右下腹部痛(2)
   Rebound tenderness:反跳痛(1)
            Elevated tempreture:発熱37.3度以上(1)
   Leukocytosis:白血球上昇1万以上(2)
   Shift of WBC :白血球の左方移動、好中球75%以上(1)


   7点以上で虫垂炎を強く疑うとされており、
   4点未満の場合は虫垂炎の可能性は低いとされています。

   この症例はすでに2日経っていて、食欲低下も吐き気もない事や
   最初は右側腹部だった事は虫垂炎っぽくはないですね

   では虫垂炎以外にどんな鑑別がありますか?」


シーン


司会「では、学生の皆様に鑑別疾患が自然と生まれる魔法を伝授します

   みなさん、Dual process theoryを聞いたことがありますか?
   システム1とシステム2と呼ばれるものですね

   臨床推論に限らず、我々は物事を考える時にまずは直感的に考え、
   そしてじっくり考えるという、二つの思考プロセスを持っていると言われます

   それは臨床推論でも同様に考えられています

   今回の症例をシステム1で考えると、虫垂炎ですよね。

   では、システム2で考えてみましょう。
  
   システム2で考える時は、ABCで考えます。

   Aはanatomy:解剖です
  
  BはVINDICATE:病態で考えます。
  Bの発音とVの発音が似ているので、Bになっています

  Cはcommon,curable,criticalの3Cで考えます。


  AとBで広げた鑑別疾患を、3Cで狭めていきます

   病気を思い浮かべることが難しくても、解剖や臓器は分かりますよね?
   そうすると、AとBの交点に病気が生まれます。」






司会「こんな感じですね。
   
   さて、今回の症例は病歴で特徴的なところがありますね。

   それは寝ている時に発症していることです。
   寝ている時に痛みで目が覚めるといった時は、絶対病気です

   このまま寝ていたら、死んでしまうという体からのサインだと考えましょう。
   
   朝方発症するような腹痛には何がありますか?」


専攻医「尿管結石です」


司会「その通りです!
   誰もが経験ありますよね。

   でもそれだけじゃないんですよね。朝方に起こる腹痛の鑑別って。
  
   もう一つあります」


専攻医「もう一つですか? 分かりません」


司会「それは精巣捻転です

   なので若い男性が早朝に腹痛できた場合、尿路結石と精巣捻転を考えて、
   眠い眼をこすって診察に入ることが多いです

   USで水腎がなければ、精巣をみましょう

   
   では診察に行きましょう」
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バイタル 体温36.5度、血圧114/74、脈75
すたすた歩いて入室
元気そう

腹部 平坦 軟 圧痛は右下腹部に手のひら大
筋性防御なし、反跳痛なし、tapping painなし、ひざ踵試験陰性
CVA叩打痛なし

腸蠕動音 やや亢進
直腸診 していない
陰嚢 みていない

血液検査 炎症反応軽度上昇


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ディスカッション②:診断は?

司会「はい、ありがとうございます。
   診察まで終わりましたが、診断は何でしょうか?

   虫垂炎でしょうか?」


学生「あまり虫垂炎らしさがない気がします。
   腹膜刺激徴候もないので・・・」


司会「その通りですね。
   では何でしょうか?」

学生「そこまでは分かりません」


専攻医「カーネット徴候は見ましたか?」

発表者「陰性でした」


司会「圧痛は右下腹部に手のひらサイズだったんだよね。
   最強点とかはなかったんだよね?」


発表者「そうです」


司会「どうでしょうか?皆さん診断はつきましたか?」


専攻医「憩室炎か回盲部炎か尿路結石か・・・かなあと思います」

司会「はい、ありがとうございます。
   
   そうですね、この症例はずばり尿路結石でしょう!

   理由は右側腹部から移動している点ですね。
   尿路結石が上から落ちてくると、痛みの部位が変わります。
   
   最初は腎盂尿管移行部でつまると、腰背部痛になりますが、
   大動脈との交差部や膀胱尿管移行部で詰まると、下腹部痛になってきます

   痛みの範囲も明確ではないですし、腹膜刺激徴候もないのであれば、
   それは後腹膜由来の痛みを想起したいです

   ということで、僕の診断は尿路結石ですが、どうでしたか?」


発表者「・・・なるほどね。

    えーっと、CTをとりましたが、尿路結石はありませんでした。
    
    虫垂炎もなかったです」


司会「あ、そうなの」


発表者「回盲部が炎症を起こしていて、周囲に腹水もみられました
    読影では憩室炎という診断でした」


司会「そうなんですね、憩室炎にしては腹膜刺激徴候がない点は不可解ですね。

   確かに虫垂炎を疑って食欲がある場合の鑑別は、
   憩室炎と腹膜垂炎と相場は決まっていますので、
   病歴の時点ではかなりの上位ではありました。

   commonな疾患なので、いろんなプレゼンテーションがあってもいいとは思います。

   
   今回は腹痛を通して、鑑別疾患のあげ方を学んでいただければ幸いです。

   司会が間違える姿も勉強になるとは思います(笑)

   勉強になりました。ありがとうございました。」









ボス回診 ~戦略的な仮説を立てる~

症例 70歳 女性 主訴:浮腫

Profile:封入体筋炎で経過観察中のADLフルな方

現病歴:来院の5日前から左の下腿浮腫が出現
    浮腫が引くかと思い、湿布を張っていた
    特に痛みはなかった

    3日前から右の下腿浮腫も出現
    右下腿にも湿布を張った
    左下腿の湿布は剥がした

    1日前、右下腿の湿布をはがすと真っ赤になっていたので、
    湿布が悪さしていると思い、湿布は張らなかった
   
    その日の夜から右下腿から液体がぽたぽた出てきたので、
    右足はスーパーの袋に入れていた
    
    当日、右下腿から水がぽたぽた垂れるのが、改善ないため外来受診

既往:封入体筋炎を数年前に指摘
内服:なし
生活:ADLフル、封入体筋炎の影響で嚥下がやや悪く、リハビリに通っている

バイタル:血圧130/70、脈80、体温36.7度、SPO2 97%
見た目 お元気そうだが、上半身や顔は痩せている
すたすた歩ける 受け答え普通にできる

頸静脈 張っていない
心音 雑音なし、呼吸音 清
腹部 平坦 軟 圧痛なし
腫瘤ふれず
鼠径リンパ節 1ⅽm弱大数個 圧痛なし
両下腿に浮腫著明

左下腿は発赤あり、圧痛あり
右下腿は表皮は黒色壊死しており、水疱形成している
水疱は一部割れて、中から浸出液が漏れ出ていた

どちらも帯状に色調変化がみられ、湿布を張っていた場所に合致していた

足背は浮腫のみで、発赤や圧痛なし

血液検査 軽度の貧血あり(Hb10)、正球性
     炎症反応上昇あり、Alb低下なし
     BNP上昇なし、CK上昇なし、肝腎機能正常
     甲状腺機能正常 糖尿病なし

尿検査 蛋白なし

UCG 収縮能正常

単純CT  骨盤内でIVCを圧迫する病変なし

DVT-US DVTなし

下肢動脈のUS:優位な狭窄なし

経過
下腿浮腫があり、そこに湿布をしたことで接触性皮膚炎を起こし、
途中で感染合併(蜂窩織炎も合併)していると判断し、抗生剤治療が開始となった

壊死性筋膜炎を疑わせるような発赤範囲を超えた疼痛やバイタルの悪化はみられず、
発赤のマーキングと下肢挙上を行い、入院にて経過観察する方針となった

黒色壊死した表皮や水疱は皮膚科にコンサルトし、デブリしてもらった
その後はワセリンガーゼで保護
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ディスカッション①:湿布による接触性皮膚炎?

研修医「湿布でこんなことになるんでしょうか?」

ボス「ならないでしょ(笑)」


研修医「皮膚科の先生にもみてもらったのですが、血流不全からの問題じゃないか?
    といわれて、下肢の動脈の超音波検査もしたのですが、問題ありませんでした。

    末梢は特に血流低下を疑わせるような所見はなくて、
    血流不全という印象はありません。」


ボス「なるほど。
   動脈性の壊死というよりは、静脈のうっ滞が強そうだし、
   静脈性の潰瘍に近い病態じゃないかな。」

T「下腿潰瘍の原因はたくさんありますよね」



ボス「そうだね、まずは見に行こう」
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診察

両側大腿部の後面にもしっかり浮腫あり

その他所見は特に変わりなし
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ディスカッション②:浮腫の原因は?

ボス「大腿部の後面にも浮腫があったよね?

   大腿部の後面は浮腫があっても見た目では分かりにくくて、
   ルーズな脂肪組織があるから触らないと分からないことも多いんだ


   触ると、ぐにゅっとした厚ぼったい皮膚・皮下という感じでしょ?」


研修医「そうですね。見落としていました。

    でも両側の下腿浮腫の原因は何なんでしょうか?

    心機能もよくて、腎臓や肝臓、薬、内分泌でもないし、DVTでもない。

    しいて言えば、足を下げている時間が多いことくらいでしょうか?」


ボス「そうだね。このパターンはIVCを圧迫するような病変を考えなくてはいけない。


   よくティアニーが言っていたんだけど、診断は出会って5秒で決まるんだ

   それが最近、よくわかるようになってきたんだよ

   
   この症例は膵癌だよ」


研修医「すいがん?」


専攻医「???
    どうしてそう思うんですか?」


ボス「どうしてって言われてもなぁ、膵がん顔なんだよ。」


専攻医「膵がん顔?ってどういう顔ですか?」


ボス「なんて言うんだろう。

   外来とかずっとやっていると、
   あーこの人膵癌だなって、顔みたらなんとなくわかるんだ

   それで膵癌を診断したことが何度もあるから、
   そういう人たちと似ているなあっていう印象だよ

   この人も上半身は痩せていて、下半身が浮腫んでるでしょ?

   多分、膵癌が大きくなってきてIVCを圧迫しているんじゃないかな?」


研修医「うーん、単純CTだけだと確かに、その辺ごちゃごちゃしていてわかりませんね

    そう言われれば、膵頭部もそんな風に見えてきました

    造影CTは予定はしていたので、明日とります」


ボス「そうだね、それがいいと思う

   膵癌って変わった癌で、うつ病の発症とも関連があると言われていたり、
   不思議な症状を出すこともあるよね」
                       Natl Cancer Inst Monogr.2004;(32)57-71.


T「そうですね。Drハウスに出てきていた腫瘍内科医のウィルソンDrも、
     うつっぽい発言があった患者をみて、膵癌の再発を言い当てていました
  
  そういった描写もあるくらい、膵癌とうつ病の発症には関係がありますよね

  でもこの症例が膵癌かは、まだわかりませんよ

     僕の1st インプレッションは、封入体筋炎で嚥下機能悪化に伴い食事量が低下し、
  さらに前腕や大腿の筋萎縮を来しているので、やせているのだと思いました

  そのため大腿の筋力低下に伴い、足動かさずに下にすることが多くなり浮腫んできた

  のだと仮説を立てました」


ボス「・・・ふーん(あんまりピンときていない表情)

   まあ、そうかもしれないけど、

   膵癌という仮説はあくまで、戦略的に立ているんだよ


T「どういうことですか?」


ボス「確かに実際は足を下げている時間が多くて、
   静脈弁不全という病態があるのかもしれない
   
   でもその仮説の立て方は、戦略的じゃないんだ


   膵癌という仮説を立てると、必然的に造影CTが必要になる
   造影CTを行うことで色んな鑑別疾患が網羅されて、検索できる

   いい仮説というのは、その疾患や病態を証明するために、
  いろんな鑑別疾患が途中で検討されていくんだ
   

   うーんと・・・例えば・・・

   さっき出会った症例だと、
   施設に入っている認知症がある高齢男性が動けないっていう主訴で来たんだ
   
   病歴はうまくとれないけど、数日前から動きが悪くなってきて、
   ベッドから起き上がれなくなってきた

   診察すると、両側の肩を痛がる

   この症例をPMRと仮定して動くと、必然的に鑑別にIEが入ってきて、
   血培が必要になるし、画像検査や超音波検査が必要になる

   そして高齢男性が動けないままになると、筋力低下が進行して、
   廃用をきたして、本当に動けなくなってしまう

   だから、ぎりぎり動けていた高齢者にとっては、
   PMRと早く診断し早く治療してあげることは、すごい大事なことなんだ


   そのスピードを出すには、最初にPMRと仮定して動くことが大事


   まだみんな、理路整然とした鑑別疾患を考えて、
  詰将棋のように診断を詰めていくものだと思っているけど、実際はそうじゃない


   最初に直感でもいいから仮説を立てて、その仮説を検証していくんだ


   でも、ただ仮説を立てるだけじゃない

   それが戦略的かどうかということを考えなければいけない


   例えば、この動けない高齢の男性の仮説を
   もともとたまに痛がる人だったから、とかいう適当な仮説にしてしまったら、
   誰も真剣にみなくなるでしょ?

   リハビリも、ナースも、Drも、家族も、そういう目で見てしまう
   

   最初の仮説は、人をも動かす力があるんだ
   
   
   結核対応しかり、tPA対応しかり、髄膜炎対応しかり、
   
   最初にびしっと仮説を立てて、みんなを動かす力も僕らには必要なんだよ


専攻医「なるほど、ただ直感で鑑別を考えるだけでなく、
    それが戦略的な鑑別として、軸にしてよいかということですね。
   
    勉強になりました。ありがとうございました。」

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経過

造影CTでは膵癌はなかった
IVCを圧排するような腫瘍性病変もなし

UCGでは拡張機能低下の所見あり

収縮能が保たれた心不全、
もしくは座位の姿勢が多く静脈弁の機能不全の可能性を考えながら、
抗生剤投与と利尿剤投与で治療し経過は良好

--------------------------------------------------------------------------------------------------------
ボス「臨床はあて物ではないからね。
   当たったからすごいとか、外れたからダメだっていうことでもないんだ。


   ただ当たった場合も、外れた場合も自分の経験になる
 

   でも何かの仮説を立てないと、経験にもならない

   あれもこれも考えては、いつまでたっても自分の直感は磨かれない」




仮説は鑑別疾患だけに立てる時だけに出てくるものではない

その人の予後予測や未来を考える時も、仮説を立てる必要がある






                                    


2020年1月23日木曜日

急性心不全の考え方 ~一見、HFpEFの先へ~

急性心不全の初期評価

①血行動態はどうか

(1)呼吸不全の有無:呼吸不全あれば、早くNPPVや挿管を!
(2)末梢循環が保たれているか:腎障害、末梢の皮膚、血圧をみる

②原因となる心臓疾患は?

(1)血行再建が必要か:ACSに伴う心不全かどうか
           →循環器内科医を呼ぶ

(2)手術が必要か:急性の弁膜症による心不全かどうか
           →心外に早く送る

(3)機械のサポートが必要か:劇症型心筋炎かどうか
           →循環器内科医を呼ぶ


あとは語呂でMR CHAMPHという覚え方もあります

③増悪因子は何か?

FAILUREという語呂があります

MR CHAMPHと重なっているところも多いです



心不全の分類

心不全の分類はたくさんありますが、時代とともに変わってきました

その時代ごとに作られた意義があります


なので、心不全をひたすら分類するのが目標ではなく、

どうしてこういった分類が生まれたのか?

この分類方法の意義はなにか?

を知っておくことが重要です


そして、分類するだけで終わりではなく、病態まで考えることがとても大事です

最近はHEpEFヘフペフとよく言われますが、

ヘフペフで思考を止めないことが重要です



HFpEFは拡張不全をメインの病態とする心不全です

収縮能が保たれていれば心不全ではないという、間違った認識を消し去った功績はありますが、
もはやEFだけで収縮能は語ることが難しくなってきましたので、EFだけでものをいうのは難しいです

病態のメインが拡張不全なので、拡張能をしっかり評価しないといけないのですが、
これがまた難しいのです

HFpEFという時は、
他の原因(心筋症や弁膜症、収縮性心膜炎など)がないことが前提です

例えば、アミロイドーシスがあって収縮能は正常で拡張能が障害されているタイプの心不全をみても、HFpEFとは呼ばないようです


それはアミロイドーシスに伴う心不全になります


ですが、入口は超音波所見で収縮能が保たれていることがスタートです
原因疾患はその時にはわかりません


実臨床では、一見HFpEFのようにみえる心不全をみたら、
原因疾患がないかを探す努力が必要です



H2FPEF scoreというものがあります

6-9点以上でHFpEFと診断できます
2-5点の時はさらなる検査(BNP、肺病変)が必要です

H:Heavy BMI30以上(2)
H:Hypertensive 2つ以上の降圧薬内服(1)
F:Af (3)
P:Pulmonary hypertension 肺高血圧 ドプラエコーで35mmHg以上の肺動脈圧(1)
E:Elder 60歳以上(1)
F:Filling pressure ドプラエコーでE/e'>9(1)






急性心不全の時に超音波をあてて、収縮がよければ、「あーHFpEFだねー」

で終わっている時もあるのではないでしょうか


HFpEFに原因疾患が隠れていれば、治療はもちろん原因疾患の治療になります

なので、一見HFpEFをみたら、原因をさぐる努力をしましょう



まとめ
・急性心不全の初期評価ができるように!
→①血行動態はどうか、②原因となる心疾患は何か、③増悪因子は何か


・心不全の分類はたくさんあるが、病態を考えるためのヒントくらいに思っておく
→分類して思考停止しないように


・一見、HFpEFで止まってはいけない
→原因疾患が背後に隠れている可能性がある

参考文献:Hospitalist Vol.6 No.4 2018.12


昼カンファレンス ~格好いい循環器Dr~

症例 68歳 男性  主訴:胸痛、呼吸苦、酸素化低下

深夜2時の当直中、うとうとしている時に・・・

ピロリロリン♪


救急隊より
「68歳男性、1時過ぎからの胸痛、呼吸苦を訴えています。
 酸素化は10Lで60%、血圧は測れません、脈は140回です。
 全身の冷や汗が著明です、あと5分で搬送します!!」

(心の中)まじかよ・・・絶対本物やん・・・

医師は2人、看護師2人の状況です

点滴の準備や超音波、ポータブルXpの準備をしていると、
すぐに救急車が到着しました

同僚の人が付き添ってくれていました

病歴(同僚の人より。本人は会話できず)
同じ会社で働いている
寮生活をしている
前日の21時まではいつも通り、普通であったことを確認している
夜の1時くらいに胸痛と呼吸苦の訴えがあり、救急車を要請してほしいと訴えていた

内服なし、既往なし(というか不明)

身体所見
起座呼吸で搬入
全身の冷汗著明、末梢は冷たい
四肢の末端はチアノーゼ出現あり
橈骨触知良好
やや不穏様で、かなり苦しそう
呼吸数30回以上  会話できず  
SpO2 測定できず 血圧測定できず 脈はモニターでQRS波がwideで140前後

呼吸音 wheezesや痰がらみの音が著明
心雑音なし
頸静脈は張っている
四肢浮腫なし
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ディスカッション①:さてどうしましょう?

司会「やばい状況ですね、さてみなさんどうしましょう?」

研修医「まずは心電図をとりたいです。あとルートも」


司会「そうですね、胸痛なので4killer chest painを考えないといけないですね
   何がありますか?」

研修医「ACSや大動脈解離、肺塞栓、緊張性気胸ですか?」

司会「そうですね。そういった疾患を念頭にまずは心電図をとりたいですよね」


発表者「はい、ありがとうございます。
    
    普通ならそれでよいのですが、この症例はそんな暇はありませんでした
    原因検索よりも救命優先です

    この症例でまずしようと思ったことは挿管です

    実際の様子が伝わらないので、難しいですが、
    印象としてはCPA直前といった感じでした。
  
    なので実際は、現場のスタッフにもうすぐCPAになるよ!と伝え、
    心の準備をしてもらっていました

    救急隊の人もかえさず、心マ要員として残ってもらいました。

    起座呼吸の状態であったので、気道確保をしようと臥位にしたら、
    目が上転し、上肢がかくかく動き、右に目が偏移しました
    (これは反省です)
   
    呼吸は喘ぎ様になり、頸動脈が触れなくなりました

    ということで、CPRが開始となりました

    モニター上は140くらいのwide QRSであり、VTかPEAか迷いましたので、
    パッドの用意をしてもらいましたが、
    CPR数秒で声が出たり、痛がる素振りをみせたのですぐに中止しました

    頸動脈がその時点ではしっかり振れたので、
    DCはかけずとりあえず挿管しようと思いました

    この症例は明らかに、A・Bがおかしかったのでいち早く、
    A・Bを助けないと、命は助からないと思いました

    まずマッキントッシュの喉頭鏡でトライしましたが、
    喉頭蓋谷に泡状の唾液なのか、痰なのかが大量に溜まっていました
  
    全く声帯が見えなかったので、まずは吸引だけで1トライ目は終了しました

    時間もなかったので、次はMacグラスを使って行いました
    相変わらず泡沫状の痰は多かったですが、すぐに挿管できました

    チューブを入れると、ピンク色の泡沫状の痰が湧き出るように噴出してきました
    なので、自分はずっと頭側にいて吸引する係になりました。

    CPAになったので血圧は低いものだと思い、ノルアドを用意してもらいましたが、
    血圧を測ると、なんと200を超えていました。
    鎮静や鎮痛するためのルートすらなかったので、痛みのためかと思い、
    すぐに鎮静や鎮痛を開始しましたが、やはり血圧は200超えた状態でした。

    このピンク色の痰やwheezes、血圧著明高値であったことから、
    いわゆるCS1の電撃性肺水腫であると判断しました」


司会「ありがとうございます。
   ちなみにエコーと心電図はどうでしたか?」

発表者「挿管して、ルートをとってから心電図やエコーをしました。
    心電図は左脚ブロックがありましたが、洞性頻脈でした。
   
    ST-T変化は左脚ブロックのため判断が難しかったです

    エコーはhyperdinamicに動いていました
    心嚢水は著明なものはなかったです

    著明な弁膜症もありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。
   急性の心不全は原因を調べないといけないですよね
  
   虚血の関与があるかが一番大事です
 
   他には不整脈が起きたり、Afterloadが上がったとか、
   急性の弁膜症が発症したとかを考えなければなりません


   今のところ、虚血はあるかもしれないのと、
   Afterload mismacth、不整脈あたりを考えるのでしょうか?」




発表者「そうですね、実はこの症例は救急隊がくる直前にしていたことがあります。
    それは何だと思いますか?」


司会「何だろう。みんな分かりますか?」


外科医「・・・自己紹介した?」


発表者「まだ来てませんって(笑)

    深夜2時ですよ。

    胸痛ですよ、冷や汗ですよ、酸素化めっちゃ悪いんですよ

    明らかにACSや心不全を、肺塞栓を考慮する状況です。
    なので僕は、救急隊が来る前に循環器の待機の先生をコールしました。

    こんな人が今から来ます。多分本物ですと。カテになると思いますと。」


司会「早いね(笑)

   そうかー、俺はそこまで攻められないかもなぁ」


発表者「なんでかというと、深夜だったからです
   
    いざ、STEMIだと分かって緊急カテ!だとなって、循環器Drをよんでも、
    もしかしたら、深夜で寝ているかもしれないですよね。

    
    皆さんがいうとおり、結局ACSの否定ができないのですぐにカテしてほしいんです。
    循環器Drが律速段階になるのは、明らかだったので、
    今回は先制攻撃させていただきました

    間違っていたら、循環器の先生には謝るだけですから」
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経過

上記の流れだったので、すぐに循環器の先生は来てくれました

左脚ブロック波形の頻脈であったため、VTのようにもみえる波形であり、
循環器Drの指示でDC施行しましたが、全く心電図に変化はみられませんでした

その後、ニトロ製剤で血圧を落とし、血圧のコントロールを行いました

CXRでは明らかに肺野のうっ血像と浸潤影がみられたので、
利尿剤の投与も行いました

挿管後は人工呼吸器管理でFiO2 100%でPEEPは高めに設定し、SPO2 90%以上とれるようになっていましたので、
バイタルが落ち着いていることを確認し、CTをとってからカテにいきました

CTでは肺野の著明な浸潤影とうっ血あり
それ以外に解離や特記すべき異常はなし



結局、カテでは冠動脈に有意狭窄はありませんでした
著明な弁膜症を疑う所見もなかった
EFは50%以上はあり


循環器Dr「こんな劇症な肺水腫や心不全なんて、
     腱索断裂とか急性の弁膜症のような病態がないと説明がつかない。
     なにかおかしいなあ・・・

     なんだと思う?」
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ディスカッション②:原因は?

司会「さて心収縮が保たれているタイプの心不全ですね。
   この症例はフォレスター分類でいうとどこにあたりますか?」

研修医「wet and  warmもしくはcoldでしょうか。」


司会「そうですね。CSでいうと1になるのでしょうね。
   なので利尿剤よりも降圧が大事な病態ですね。
   ですが実際はかぶっていることが多いので、利尿もかけることが多いです。

   あとは高拍出性だったという観点で考えるとどうでしょうか?」


研修医「ベリベリとか甲状腺中毒症とかですか」

司会「そうですね、ということでこの症例はお酒を飲んでいるかは気になりますね」


発表者「同僚の方かた聞いた話では、お酒はけっこう飲んでいたようです。

    なのでVb1の補充はwernicke doseで投与していました。
    ですが、VB1の投与で著明に改善したという雰囲気はありませんでした。」

上司「甲状腺はみといた方がいいんじゃない?」

発表者「はい、問題なかったです

    実際は原因まではよくわからず、カテ後はICUにあがりました」
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経過

翌日・・・・

天才循環器Drがある診察をして、自分は驚愕しました

その診察とはなんでしょうか?
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ディスカッション③:原因不明の電撃性肺水腫を見たときに行う診察は?


司会「えー、なんでしょうか。みなさん、わかりますか」

研修医「うーん・・・」


発表者「ヒントはCTです」

研修医「この石灰化はなんですか?」

発表者「それは膵石です。たしかにアルコールは飲んでいたのだと思います。
    でもそこではないです。」


専攻医「腎動脈に石灰化がありますね。」


発表者「その通り、ということで腹部の血管雑音を聞いた。が答えです

    すると、シューシュー♪と血管雑音が聞こえました」


研修医「へー」


発表者「これは両側の腎動脈狭窄症に伴う電撃性肺水腫を疑うプレゼンテーションなのです

    格好いいですよね。

    
    でも残念ながら、この症例はその後に腎動脈超音波やカテまで行いましたが、
    腎動脈狭窄はありませんでした。(笑)」


司会「なかったんかーい!」


発表者「はい、でも学ぶことは大変多い症例だなと思いました。
   
    両側の腎動脈狭窄症はこういう原因不明のCS1で来ることがありますので、
    アンテナをはって注意しましょう。
   
    治療は腎動脈の血行再建が必要になります。」



両側腎動脈狭窄に伴う電撃性肺水腫
(Flash pulmonary edema)

この病態には実は名前があります

Pickering syndromeといいます

日本語で調べても全然、ヒットしませんが、英語だとたくさんヒットします


まさにこの症例のように、夜間に急性・突然に発症する左室収縮能が保たれたタイプの電撃性肺水腫が典型的なようです


この病態は繰り返すというのが特徴的で、
予防のためには、腎動脈の血行再建を行う必要があります



腎動脈狭窄はコモンな病態ですが、片側と両側で全く病態が異なります

両側の腎動脈狭窄や機能片腎の腎動脈狭窄があると、
電撃性肺水腫を起こす人がいます

片側の場合はあまり起こりません

なので両側というのがポイントです




治療は急性期は急速に降圧することが大事ですが、
血圧低下に伴い腎機能が増悪する症例も多いです

もう一つの注意点として、RASS系を抑える薬を肺水腫が改善したのに続けていると、
AKIを惹起してしまうということです


肺水腫が安定したら、腎動脈の血行再建を検討します

原因不明の電撃性肺水腫や心不全をみたらこの疾患を一度は考えましょう


まとめ
・救急はいつでもABCの順に守る
→挿管のタイミングを逸してはいけない


・急性の心不全をみたら、原因疾患を考える
→1に虚血、2に虚血、3に虚血、他:不整脈、急性の弁膜症、心筋炎


・原因不明の電撃性肺水腫をみたら、両側の腎動脈狭窄症を疑う
→血管雑音を聞いて、CTで腎動脈の石灰化をみて、USで確認する

参考文献:Heart View Vol.20 No.10,2016
     European Heart Journal(2011)32,2231-2237
     冠疾患誌 2013;19:43-47
     Hospitalist Vol.6 No.4 2018.12

2020年1月17日金曜日

昼カンファレンス ~神経診察!その前に・・・~

症例 59歳 女性 主訴:痙攣後の意識障害

状況:休日の午後の救急勤務中

救急隊より
「59歳女性、昼寝していたら、痙攣発作があり夫が発見しました。
 痙攣はすぐにおさまったようですが、その後から攻撃的な感じになり、
 普段と様子がおかしいので、搬送してもよろしいでしょうか?

 バイタルは意識レベルJCS1-3、BP119/74、P106、SpO2 96%、T35.0度
 瞳孔は4/4、対光反射あり/あり です」


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ディスカッション①:救急隊に絶対に聞きたい項目は?

司会「はい。ありがとうございます。
   じゃあ、皆さんここで、救急隊の人に絶対に聞いておきたい項目って何かありますか?

   救急隊は早く搬送したいので、たくさんの質問はダメです。」


研修医「夫はその痙攣発作を見ていたのですか?
    夫は一緒に来てくれますか?
    ゴミ箱に何かなかったですか?」


司会「ありがとうございます。
   早口で聞いてくれたので、たくさん質問ありますがOKとします。

   ゴミ箱のことを聞いてくれたのはどうしてですか?」


研修医「薬を飲みすぎたりしている可能性もあるかなと思ったからです」

司会「はい、ありがとうございます。そうですね。
   薬を飲みすぎたかどうかの動かぬ証拠を見つけるのは、ここしかないですね。
  
   病院に来てからだと、他の鑑別疾患に夢中になってしまうので、   
   最初が肝心です。すばらしい!」


発表者「夫は痙攣発作を見ていました
    夫は自分の車で後から来るようです
    ゴミ箱や薬の殻とかは、聞いていませんでした。」


司会「はい、ありがとうございます。他に何か聞きたいことはありますか?」

専攻医「あと、どれくらいで来ますか?」

司会「それはとても大事な質問ですね。忘れがちですが、必ず聞きましょう。
   準備に時間をとれるかどうかの目安になります。」


発表者「15分後に来るようです」


司会「わかりました。ではここから15分間は妄想です。
   
   この15分間を有意義に使いましょう。」

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ディスカッション②:患者さんが搬送されるまでに何を考え、何を準備する?

司会「まずは頭の中で何を考えますか?

  そして実際に何を準備しますか?


研修医「意識障害なので、Do Don'tを考えます
    
    D:デキスタ(血糖測定)
    O:酸素投与
    N:ナロキソン
    T:ビタミンB1
     
    です」

司会「そうですね、ただここは日本なのであまり麻薬中毒の患者さんはみませんね。
   都会ならあるのかもしれませんが。

   ナロキソン使ったことある人いますか?」

シーン

司会「あんまり使わないですよね。

   自分も救急の現場では一度だけしか使ったことはありません。


   その時は・・・

   原因不明の意識障害の60歳台の男性で、自損事故を起こして運ばれてきました
   事故後、周りの人が救急要請しましたが、
   搬送中も来院後も、運転手の意識がずっと悪かったのです
 
   目立った外傷もなく、痙攣もありませんでした
   
   一般的な血液検査やガス、頭部CT検査などを行いましたが、
   意識が悪い原因が不明でした
  
   仕方なくカバンをあさると免許証が入っており、名古屋に住所がありました
   どうやらこちらには一人で、旅行かドライブ?で来られていたようです。

   飲んでいる薬も不明で基礎疾患も不明でした。

   さて困ったと思っていたら、
   呼吸数がやたら少ないことと縮瞳していることに気が付きました。

   これはもしや麻薬中毒?と思い、ナロキソンを使うと、
   
   だんだんと意識が戻ってきて、会話が可能になりました。

   あとで分かったことですが、大腸がんで肝転移や骨転移があり、
   モルヒネで鎮痛を行っていました。
   
   主治医に問い合わせると、麻薬による傾眠のためか、
   これまでにも交通事故は何度か起こしていたようです。

   
   自分が救急の意識障害で使ったナロキソンはこの症例だけです。

    
   はい。では症例に戻りますが、
   意識障害と聞いたら、みなさん鑑別をどうやって考えていますか?」


研修医「AIUEOTIPSです」

専攻医「僕もそうです」

スタッフ「俺も」


司会「そうなのですね!みなさん、大好きですね。AIUEOTIPS。

   自分は嫌いなんです(笑)
   
   理由はずばり使いにくい

   
   最近はもはや、直感にたよって勘になってきていますが、言語化すると、
   
   意識障害の鑑別で大事なのは、頭か頭じゃないかです

   もっというと、CTやMRI、脳波、ルンバ―ルで分かるものか
   
   そうじゃないものです

   
   頭か、頭じゃないかを見極めるヒントは何だと思いますか?」


専攻医「血圧ですか?」


司会「その通りです。血圧が上がっていれば、頭蓋内疾患の可能性が高くなり、
   血圧が低ければ(具体的にはsBP120以下)、頭蓋内が原因の可能性は下がります

   今回の症例はどうですか?」


発表者「血圧は119/74です」

司会「あまり高くないですよね。
   これは第一印象としては、頭蓋内が原因ではない可能性を考えたくなります。
  
   つまり、頭部CTで原因が見つからない可能性があるパターンです。


   さて、頭以外の可能性による意識障害の原因を思い浮かべつつ、
   他に待っている間に何かやることはありますか?」

研修医「過去のカルテがあれば、見ておきたいです」

発表者「過去カルテはあって、以前に睡眠薬をフィルムごと飲んでしまって、
    内視鏡で取り出したということがありました
    
    もともとうつ病やアルコール多飲歴もあるようです
  
    今、通院しているかや薬を何飲んでいるかは不明です

    他の既往歴としては、視床出血の既往がありますが、ADLは自立しています
    あと、高血圧、脂質異常症、憩室炎があります」


司会「はい、ありがとうございます。
   
   過去カルテは今回の症例を解きほぐす上でとても大事な情報でしたね。

   アルコール多飲、精神科の薬、脳出血の既往といった全く違った疾患の可能性が、
   一気に上がってきてしまいました。

   頭(脳出血や症候性てんかん)か頭じゃないか・・・という気分で待ち受けます」


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経過

搬送される前に、車内で強直間代発作が3分あり、自然にとん挫

座位の状態で搬送

バイタルはBP185/115、P103、T36.7度、RR24、SpO2 95%
意識 開眼しているが、反応なし 指示は入らず 発語なし

眼は開いているが、ぎょろっとしている
視線は合わない
眼球偏倚はなし

バイタルを測ったり点滴をとろうとすると、四肢をばたばたと動かして抵抗する
落ち着きがない状態

痙攣はしていない

四肢の動きは不随運動ではなく、無造作に動かしている
麻痺はないようだ

口から少量の出血あり
口腔内の詳細な観察はできないが、舌から血が出ている
辺縁を噛んでいるかはよく見えない

指示が入らず診察に非協力的・・・
さてどうしましょう?


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ディスカッション③:次どうしますか?

司会「この患者さんは今、どういう状況なんだろうね。
   医学的にプロブレムリストを作ると、何でしょうか?」

研修医「意識障害です」


司会「そうだね。でも意識障害で本当にいいんでしょうか?

   他の可能性はありますか?」


研修医「・・・わかりません」


司会「この状況は失語の可能性があります。

   ただ言葉が話せず、何を言っているか理解できないだけかもしれない。


   意識障害なのか失語なのかを評価をしないといけない。

   たとえば、ジェスチャーを使って指示を出したり、復唱させてみたりです。」


発表者「この時は失語のことは全然考えていませんでした」


司会「わかりました。
   おそらく意識障害でよいとは思いますが、そういうピットフォールもたまにあります。

   言い忘れましたが、意識障害について自分が大事にしている原則があって、
   
   一つは先ほどの血圧です。

   もう一つは、不穏のように暴れているタイプの意識障害か、
  ちーんと落ち着いた状態の意識障害かです

   

   暴れているタイプの意識障害の場合は、病態の傾向として、
  何かが急に足りなくなった状態のことが多いです

   例えば、酸素が足りない状態、血液が足りないショックの状態、
   アルコールが足りない離脱の状態などです

   

   何かが急に足りなくなると、人は死にそうになるので、もがきますし暴れます


   逆にちーんと落ち着いた意識障害の場合は、
  何かがあり余っている状態のことが多いです

   例えば、尿毒症や肝性脳症、CO2ナルコ―シス、アルコール中毒などです

   
   一つの臓器が機能不全状態になると、生きていけなくなります
   そして、臓器ごとに何かが蓄積してきます
   
   そうすると、その溜まった物質が良い感じに鎮静作用をもたらし、
   苦痛なく逝けるという、体にもともと備わったシステムがあります

   なので溜まる系は落ち着いた状態の意識障害になる傾向があります

   あくまで、傾向です

   
   この原則を知っておくと、意識障害=AIUEOTIPSという短絡思考から、
   もう少し意識障害の原因を絞ることができます

   今回の症例はどうでしょうね」


専攻医「痙攣の後の意識障害なので、post ictal stateによる意識障害と思いました」


司会「そうだね、普通そう思うよね。
   でももう少し診察や検査しないと、痙攣の原因が分からないね。

   痙攣の原因も意識障害とほぼ同じだから、考えることは一緒です

 
   さあ、原因をつかむために次に何しますか?」

研修医「バイタルを再検したいです。
    血圧が来院時高いのは、痙攣や不穏で暴れているせいかもしれません」

発表者「再検しても血圧は高いままでした」


研修医「わかりました、ではできる限りで神経診察をします」


司会「だよね!そうなるよね。でも違うんだなあ~

   ここで神経診察に行く前にやってほしい診察があるんだ。

   何かわかりますか?」


シーン


専攻医「トキシドロームを意識した診察ですか?」


司会「その通り!

   つまり、瞳孔をみて、皮膚の汗ばんだ感じがないかをみて、
   腸蠕動音をきいて、筋トーヌスをみる!

   これがとても大事です!」

発表者「・・・その視点はなかったです。
    汗ばんでいたかは分かりません。」

司会「そうだね、意識しないととれない診察です
   
  意識障害の人に神経診察するのは、学生でもわかる。
  だからそれを忘れることは絶対にない。

  でもトキシドロームの診察は忘れてしまうから、神経診察の前にやるんだ。


発表者「わかりました。」



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経過

暴れている状況で、検査も診察もままならなず、セルシンで興奮を抑えた
その後、徐々に落ち着きを取り戻し、診察や会話ができるようになってきた

神経診察では特に異常はみられなかった
項部硬直なし
頭痛なし

夫から追加の病歴としては、昼ごはんを食べようとしたら手が震えていた
その時は会話は出来ていた

調子が悪そうだったので、ベッドに寝かせていた
すると30分後に両側の四肢をがくがくとさせる痙攣発作があった
1-2分でおさまった

頭部CT 出血や血腫なし 

血液検査 意識障害になるような異常はみられず

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ディスカッション④:ここで考えることは?

司会「セルシンで何だか普通の状態に戻ってきたみたいだね。
   本当は筋注は推奨されていないけど、まあ効きます

   さて、この状況で悩むことは何かわかりますか?」

専攻医「痙攣の原因ですか?」

司会「そうです。具体的にいうと、髄膜炎や脳炎として対応するかどうかです

   セルシンの後、しっかり会話ができて、頭痛もなく発熱もない状態であれば、
   あまり考えないかもしれません

   ですが、意識障害が遷延しているならば髄膜炎や脳炎対応していいと思います
   
   髄膜炎や脳炎はover treatmentを恐れる必要はありません
   
   誤診して治療を開始したとしても、だれも非難しません

   ですが、治療が遅れてしまうと非難されます。


   なので、
  脳炎や髄膜炎は少しでも考えたら、閾値低めに治療を開始してください


発表者「わかりました
   
   実際は追加で夫から病歴を聞くと、かなりお酒をもともと飲んでいたようで、
   それが2日前くらいから飲まなくなったようです。
  
   なので一応、診断としてはアルコール離脱に伴う痙攣発作と考えました。
   
   その後、BZで置換し入院して問題なく退院となっています。」


司会「はい、ありがとうございました。
   意識障害や痙攣の対応を学ぶ非常に勉強になる症例でしたね。」

まとめ
・意識障害=AIUEOTIPSから卒業しよう
→①血圧をみて頭蓋内疾患かそうでないか
 ②暴れているタイプとちーんと落ち着いているタイプで鑑別が異なる


・意識障害の人の診察で大事なのは、バイタル、トキシドローム、神経診察
→トキシドロームを使った診察を忘れないように!


・痙攣や意識障害が主訴の場合、そうでないと分かるまで髄膜炎や脳炎として考える
→閾値低めに検査や治療を

倫理の勉強会

TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります  

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