2024年9月29日日曜日

morel lavallee lesionに気をつけよう!

 症例 20歳 男性 主訴:背部痛 

(※症例は架空です)


柔道部に入っている大学生


病歴:2週間前の部活後から背中の痛みがとれないため受診

既往や内服はなし

ROS:手足の麻痺や痺れなし 膀胱直腸障害なし


診察では、腰椎の棘突起の上に一致した紫斑が三箇所ある

同部位の知覚鈍麻あり


血液検査では異常なし

造影CTではL 1,2,3の筋膜上に淡い高吸収像あり

MRIでも同様の所見であり、その他、脊髄や椎体、椎間板に異常認めず

明らかな血管奇形や動脈瘤なし


診断は?

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morel lavallee lesion(MML)


morel lavallee 病変は1863年にフランスの外科医 

モーリス・モレル・ラヴァレーによって、初めて記述されました


morel lavallee lesionは外傷後に深層筋膜が皮膚および、浅層筋膜から分離し、

潜在的な空間が形成される閉鎖性剥離損傷です



水平方向に働く剪断力によってリンパ管や血管が損傷し、リンパ液や血液が蓄積します


軽症であれば自然に吸収されますが、慢性炎症反応が起こると線維性被膜で覆われ、

壊死した血液や組織、フィブリンで満たされてしまい、感染の温床になってしまうこともあります


多くは交通事故やスポーツ外傷によって生じ、

骨の近くに多く、大腿骨近位部や骨盤、膝、棘突起上が多いです



大腿骨近位部で多いのは、大腿骨の浅い位置関係と広い表面積、

大腿筋膜張筋の強さ、皮下軟部組織の可動性が原因と考えられています


morel lavallee lesionは時間経過によって、

プレゼンテーションが異なります



外傷後、遅れて診断されることが多いですが、

急速に出血が拡大して、出血死してしまうこともあるので注意が必要です


通常、痛みと同部位の腫脹で気が付かれますが、無症状の場合もあります


6分類あるとされ、今回の症例はtype4かと思います



type5の人はみたことありますが、無症状で数年で自然に消失してしまいました


慢性に経過すると、そもそもの外傷を覚えておらず、

主訴が「皮膚の下にしこりがある」になってしまいます


その場合、他の軟部組織腫瘍や脂肪腫、粉瘤などと鑑別が必要になり、

MRI含めた画像評価が必要になります


画像に行く前に、病歴聴取や診察で確認しておくことがあります


病歴では、以前に転倒歴がなかったか?交通事故にあったことはないか?

診察では、MMLの好発部位ではないか?同部位の知覚鈍麻がないか?といったことが重要です



morel lavallee lesion(MML)を知っておく意義としては


①外傷で救急受診した人で、大きな骨折ばかりに目がいってしまいますが、

同部位からの出血多量で命を落とす人もいます

morel lavallee lesionはただの皮下血腫ではありません!


  Not all post-traumatic swellings are haematomas: 

  be alert to a Morel-Lavallée lesion


というタイトルでLacetのクイズにもあります

CLINICAL PICTUREVolume 400, Issue 10345E1July 02, 2022)


②骨折術後の手術部位感染の独立した危険因子となります


③適切に管理されないと徐々に拡大し、皮膚が壊死したり、

 感染を併発する可能性があります



診察や画像でMMLに気がついたらUSを当てて、可能であれば穿刺吸引を行います


穿刺しても液体貯留してくる症例はタイトフォローし、外科的治療を検討します


治療は決まったガイドラインはなく、ケースバイケースです


参考文献:StatPearls [Internet].

Morel Lavallee Lesion Udit Agrawal; Vivek Tiwari.  Author Information and Affiliations Last Update: August 3, 2023.

2024年9月25日水曜日

光と影 〜影の部分に光を当てる〜

 40歳 女性 主訴:倦怠感、食思不振

※症例は架空です


アルコール依存症と神経性食思不振症で通院中の女性が

1週間前からほとんど食事が取れず、倦怠感を主訴に来院されました


軽度の意識障害もあり、採血をしてみるとNaが102であり、

症候性の低Na血症と診断され入院となりました

加えて低K、低Mg血症、AKIもありました


低Naの原因は食事がとれていないにも関わらず、飲酒は続けており、

beerpotomaniaの病態と考えらえ、生食500mlを投与するとNaが106になりました


そして、Naのタイトフォローのため、ICU入室となりました

ICU入室後、血圧が下がり、尿路感染症からの敗血症性ショックとして対応されました

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今回の症例でメインプロブレムは、重度の低Na血症や敗血症ですが、

このような背景の方が入院されるメインプロブレムは様々です


心筋梗塞でもいいですし、膵炎でも、静脈瘤破裂でもいいです


何が言いたいかというと、

メインプロブレムごとに各科に入院となると思われますが、

それは「光」にあたります




当たり前ですが、主治医としては「光」に当たるメインプロブレムを治すことに注力します


ですが、食事がしばらく取れていない人やアルコール依存症の人の場合は、

「影」とも言える問題が隠れています


それは栄養障害です


栄養はどの科が主科になったとしても考えなければならない問題です



今回の症例では、低Naの治療をしないといけないので、

Naの増加は24時間で6以下に抑えたいですが、

脱水やAKI、敗血症性ショックになっているので積極的に輸液をしたいです

→ですが、過剰な輸液でNaの補正が過剰になり、ODSのリスクがあります


低Kと低Mgがあり、積極的に補充しなければならない

→ですが、Kを補充することで、Naが上がるリスクがあります


食事摂取がしばらくできておらず、Refeedingリスクが非常に高いので、

カロリーは10kcal/kgまでに抑えたいです

意識障害はウェルニッケ脳症(WE)の可能性もあり、

VB1はWE doseで投与したいところです

→ですが、WE doseでアリナミンFを入れることで、

 カロリーが多くなりすぎてRefeedingが起こるリスクがあります



・・・と非常に難しい治療となります


何に重きを置いて治療を行うかが、問われている状態です




今回の症例は、

ショック>低K>低Na>WE治療>Refeeding予防のpriorityで治療します


さて、今回は影の部分である栄養障害が目立ちますが、

他の栄養障害の問題についてはどこまで考えますか?


下痢していますが、ペラグラの可能性はどうでしょうか?

ほとんど食事とっておらず、VC不足からの壊血病の可能性はありますか?

VB12や葉酸、Cu、亜鉛欠乏の可能性はどうでしょうか?

カルニチン欠乏もあってもよさそうですね

セレン欠乏はどうですか?



これらの欠乏を証明するために検査を提出しますか?

それとも検査出さずに、補充しますか?

症状がなければ、検査も補充もしませんか?




上記の質問に対する答えは、ケースバイケースですが、


〇〇欠乏の可能性が背景からも高く、

かつ、その病態が現状で明らかな悪さをしているのであれば補充します



例えば、原因不明に拡張型心筋症のような低心機能であれば、セレンの補充を考えます

セレンは、アセレンドという薬が使えるようになってから、脚光を浴びています


皮膚が分厚く、ガサガサしており、露光部に湿疹や角化が目立ち、

下痢がみられるようなら、ペラグラを想起し治療を開始します


低血糖が目立つようならカルニチン欠乏を考慮します



というように、〇〇欠乏と〇〇欠乏症は違います

背景からは〇〇は欠乏していそうでも、

それに伴う症状があるかが重要です



ただ、その症状が本当に〇〇欠乏のせいなのか?という問題は常に付き纏います

これがビタミンや微量元素の難しいところです



アルコール依存症の人や神経性食思不振症のように、

しばらく食事摂取が不十分な人は、起こる病態が似通っています


性行為感染症と同じで、どれか一つを鑑別に挙げたのであれば、

他のビタミンや微量元素欠乏も全て想起しましょう


今回はビタミンのまとめです(微量元素まとめは、またどこかで)


ビタミンには水溶性と脂溶性があります

脂溶性ビタミンは肝臓や脂肪内で蓄積されますが、
水溶性ビタミンは蓄積が少ないのが特徴です

特にVB1は体内での貯蔵が少なく、
VB1のない食事を続けていると、2週間で枯渇してしまいます

覚え方は

VB1は2週間
葉酸は2ヶ月
VB12は2年で枯渇します

2の数字を3にしてもいいです、個人差が大きいので大雑把でOKです



ビタミンの中でも最も重要なのが、VB1です


VB1欠乏は、

commonかつ、curableかつ、criticalな3拍子揃った疾患であり、

積極的に疑い、治療閾値低く治療しても構いません


そのため、救急医や総合診療科医はアリナミンFを多用します 笑




そんなVB1やアリナミンについて今回は詳しくみていきます



ビタミンB1が体内でどういった挙動をとるかの俯瞰してみてみましょう



VB1は4種類の総称です

中でも活性のあるTDPが重要です


TDPは赤血球内に90%存在し、残りは組織中に存在します

普段、測定しているVB1は全血の検査なのですが、
全血の理由は赤血球内にTDPが多く含まれているからです


血液中のVB1の検査では、組織中のVB1の量や濃度は不明です

さらに、TDPだけを測定しているものではないので、
VB1の検査が正常だからといって、VB1不足がないとは言えません


VB1検査正常のウェルニッケ脳症はよく経験されます




つまり、日本でできる検査では、検査でVB1不足の白黒はつかないのです

ではどうやって白黒つけるかというと、投与前後の比較です


一応、傍証としてVB1の検査は出しておいて、
評価すべき症状(眼球運動障害、意識障害、浮腫、血管抵抗)や
検査(乳酸値)の値を注目します


元同僚のプラクティスが印象的だったので紹介します

ネオラミンスリービーを使うと、他のビタミンも入ってしまうので、本当にVB1欠乏だけだったかはわかりません

そのため、VB1だけのアリナミンFを入れて、症状の改善をみることで、VB1欠乏が原因であるという証明をするプラクティスをしているとのことでした

自分はそこまでこだわりはないですが、VB1欠乏は治療の反応性でしかものを言えない象徴的なエピソードかと思います 





beriberiはwet,dryだけではなく、
gastrointestinal beriberi(胃腸脚気)もあります


一度だけ絶対、gastrointestinal beriberiだ!と思ったことはありますが、
その目で見ると意外に多い気がします(今日も出会いました)


症状は悪心・嘔吐、食思不振、腹痛といった非特異的な症状です

アルコール依存症の方だと、膵炎や急性肝炎、感染性腸炎にされそうですが、
いずれも否定された場合は、gastrointestinal beriberiを疑ってください

妊娠中の方の場合は悪阻だと簡単に決めつけず、
しっかりVB1を補充しましょう


救急外来では、
VB1欠乏のリスクがある人や脚気心を疑う場合は、最低100mg
リスクが高い人(Refeedingのリスクあり)は、200-300mg
WE の疑いの人は、500mgをまず投与します

その後は反応性をみながら、継続の有無を判断します




ちなみにウェルニッケ脳症(WE)の際には、大量のVB1投与が推奨されていますが、なぜ、WEの時だけこんなに大量に必要なのか考えたことはありますか?


普通の内服のVB1にもかなりの量が入っており、
一日で必要なVB1の量は軽く超えています


WEを内服で治療してはいけないのでしょうか?




もちろん、ダメです



いろんな理由があります


血液脳関門があり、大量のVB1を入れて濃度勾配を作らないと受動的拡散が起きない
普段よりもVB1の消費量が多い
アルコール依存症の人は吸収障害を伴っていることが多い


などが挙げられます



実際、意図せずビタメジンの内服だけになっていた症例をみたことがありますが、
日に日にWEが悪化していきました

その後、気がついてWE doseをIVで投与すると、数日かかりましたが、
フルリカバリーしました



WEはご存知の通り、コルサコフ症候群になると
後遺症が残るので、疑ったのであれば内服でお茶を濁すのではなく、
しっかり治療しましょう



最後はよく使うアリナミンFについてです
アリナミンではなく、アリナミンFです



救急外来でよく使う薬の3本指に入るのではないかと思っているアリナミンFですが、意外に知られていない薬だと思っています





まとめ
・病態には光と影がある。影にも光を当てられるように
→栄養障害はどの科でも対応が必要

・栄養障害を一つ思い浮かべたら、他も全て想起する
→全て検査に出したり、補充する必要はない
大事なのは検査を出すことではなく、疑った状態での診察

・VB1不足はcommon,curable,criticalな疾患
→アリナミンFを閾値低く使える医師になろう



2024年9月14日土曜日

マイベスト・クリニカルパール 




載ることはなかった見本原稿です



・いつも心に薬と結核

51

・脳梗塞は3回騙される

 


<いつも心に薬と結核>

これはS先生から教えてもらったパールである。文章の通りではあるが、薬と結核は忘れがちであり、なおかつ忘れると非常にインパクトが大きい。薬が原因で具合が悪くなっている場合、気が付かないといつまで経っても診断はできない。病気で患者さんが悪化することは致し方ない場合もあるが、薬で患者さんが悪化しているのに気が付かないことはあってはならないことである。このパールの背景には「Do no harm」の精神が隠れている。特に高齢者はポリファーマシーの方が多く、救急外来に訪れた患者さんが病院に来たら、病気を考える前にまずは「薬のせいにしてみよう」という新たなパールに発展させて、研修医の先生には教育を行っている。


もう一つの結核は存在証明も非存在証明も非常に難しい疾患であり、臨床医のすぐ隣にいるような感覚を覚える。これは日本が結核の中蔓延国であるということにも由来しており、パールは地域や国によっても重み付けが異なる。結核のプレゼンテーションは多彩であり、不明熱や慢性の呼吸器症状、結核性髄膜炎による意識障害、結核による単関節炎など典型例を除くと診断が難しい場合が多い。さらには肺結核の場合、空気感染により他者にまで害が及ぶ可能性があり、閾値低めに鑑別にあげ感染対策を講じる必要がある。


薬と結核はどちらも臨床医の頭から抜け落ちがちではあるが、忘れてしまった時のインパクトが非常に大きい2つである。「いつも心に薬と結核」がカンファレンスでのTake home messageになったことは数知れない。自分への戒めのためにも、このパールを心におき診療を行う毎日である。

 

 

<51>

こちらもS先生から教えてもらったパールであるが、毎日のように使用している。S先生は大野博司先生から教えてもらったとのことであった。51は市中の細菌性敗血症の原因を考える時の鑑別疾患の挙げ方である。515とは、髄膜炎、肺炎、胆管炎、腎盂腎炎、皮膚軟部組織感染症の5つである。これは疫学上、頻度の多いものを列挙しつつ、髄膜炎を一番最初にあげることで、毎回「この患者で髄膜炎対応すべきか?」を問われている。なぜなら敗血症の中でも細菌性髄膜炎は、治療の遅れが後遺症や死亡率上昇につながり、早期発見・早期治療が望まれる内科Emergencyな疾患だからである。発熱・意識障害は敗血症でも起こりうるが、より強く細菌性髄膜炎を疑った場合は、他のタスクは一旦、保留にしてでも髄膜炎対応で動くべきである。つまり、人を集めて早急に血液培養を2セット採取し、抗生剤(CTRX,VCM,ABPC)±ステロイド±アシクロビルの投与が必要である。髄膜炎対応しなかった場合は、なぜしなかったか?を言語化することで、精度をあげることにつながる。敗血症を疑った場合、原因をこの5つの疾患から検索することで正解にたどり着く可能性が高い。

 

 最後に+1とは、感染性心内膜炎である。感染性心内膜炎はInfectious EndocarditisIE)と呼ばれることが多く、IEI1に似ていることからも想起しやすい。IEは診断の遅れが有名な疾患であるが、IEを疑った場合、IEを狙った診察(前傾姿勢にして心雑音を聴取、眼瞼結膜や頬粘膜の出血班、手掌・足底の紫斑など)を行うことで診断がつくこともある。明らかに敗血症を疑う患者で5つの疾患でなかった場合、感染源不明になりがちであるが、最後にIEの診察を行うことで早期に診断できる可能性がある。IEは忘れた頃にやってくる疾患であり、51を合言葉に敗血症の患者さんを見るたびにIEを忘れないように頭にブーストがかけられている感覚である。


最近は「5+1には0.5がある」というパールに昇華させて使っている。0.5というのはIEにもなり得るが、ならない時もある血流感染症を意味している。いわゆるprimary bacteremiaを考えるための記憶術である。明らかに感染症らしさが揃っているが、どんなに頑張って熱源を探しても不明な時、翌日にGPC chainが生えました!というのは日常茶飯事である。GGSの菌血症は、蜂窩織炎を伴っていることもあれば、伴っていない時もある。primary bacteremiaの症例の経験を重ねると「この人は明日、血培生えるよ。多分GGSかGNRだね」と言えるくらいゲシュタルトが似ている。翌日の血培陽性にびっくりするのではなく、「やっぱりね」と言えるように血培を待ちたいものである。



<脳梗塞は3回騙される>

 これは自分のオリジナルのパールである。まずは臨床症状で騙され、次にMRIDWI (diffusion-weighted image)highに騙され、最後にMRIDWI high,ADC map lowに騙されるというものである。脳梗塞を疑う臨床症状は巣症状が有名である。急に出現した麻痺やしびれ、構音障害など、FASTという語呂で啓発が行われている。tPAや血管内治療が可能になり、早期発見・早期治療が望まれる疾患になった。そのため、症状から脳梗塞を疑うことは全く問題ないが、低血糖やてんかん発作、片頭痛、ミエロパチーといった疾患も脳梗塞と同様の症状をとる。そのため、臨床症状だけで脳梗塞と診断することは難しい。脳梗塞を疑ってMRIを撮ったが、脳梗塞でなかった場合の次の鑑別疾患を思い浮かべておくことが重要である。臨床症状から脳梗塞を疑った場合、MRIを撮影することが多いが、ここでも2回落とし穴がある。MRIを撮った後にまずはDWIを確認するが、DWI highであることは新規脳梗塞を意味しない。時にDWI highを見た瞬間に新規脳梗塞であると勘違いしている方がおり、その方に向けた啓発である。必ずADC lowであることを確認する必要がある。T2 shine through PLESの場合、このような状況になりうる。T2強調像で高信号部位があると、拡散強調像(DWI)で高信号になってしまうことがあり、これはT2 shine throughと呼ばれる現象である。そのため、新規の脳梗塞を疑った場合は、必ずADC mapを確認する必要がある。


 最後にDWI high,ADC map lowで新規脳梗塞を疑う状況であっても、騙されることがある。本当に脳梗塞であった場合でも背景の疾患を見落としてはならないという啓発である。鑑別の一番は、大動脈解離である。大動脈解離にtPAを行い死亡した症例報告は多数存在する。大動脈解離の他にも脳静脈洞血栓症、感染性心内膜炎、トルーソー症候群など、脳梗塞というプレゼンテーションではあるが、その背景に隠れた原因が潜んでいることがある。背景疾患を見落としていると、治療の遅れが転機不良につながる恐れがある。


 脳梗塞の場合は採血結果に背景疾患のヒントが隠れていることも多い。多血症に伴う脳梗塞、謎のCRP上昇から発見されたIE、Dダイマー高値で気づいたトルーソー症候群、Eo上昇で気がついたコレステロール塞栓、LDH上昇で気がついた腎梗塞合併といったような具合である。脳梗塞患者さんで確認する採血項目は、LDLコレステロールとHbA1Cだけではない。無論、採血だけでなく診察も非常に重要である。

脳梗塞の診断はゴールではなく、スタートである。MRIでも騙されることがあるのだと自分に言い聞かせ、脳梗塞の背景疾患を検索する努力を怠らないことが重要である。

 

<最後に>

 以上、私が大事にしているパールを3つ紹介させていただいた。紹介しきれなかったパールはたくさんある。「昨日元気で今日ショック、皮疹があれば儲けもの」のオマージュである「昨日元気で今日めまい、眼振あれば儲けもの」、パーキンソン病の運動症状である「TRAPにはTRAPがある」「腹痛診療は3次元で」「身体所見は5つの目で見る」「〇〇メガネをかけて診察する」「皮疹は目で見るのではなく、手で感じる」「その人の人生に合わないことが起きた時、それは血管イベントか中毒である」「毎日、患者さんに会いに行く時、自分がその患者さんに害を与えていないか?を自問自答しなさい」「その患者さんにどんな疾患があるかよりも、その疾患がどんな患者さんに起こったかが重要です」「全症例、症例報告する気持ちで考える」などもお気に入りである。これらのパールは自分が医師を続けている中で大事にしていることに他ならない。


 パールが生まれる時は必ずアウトプットから生まれる。ホワイトボードの前で症例検討会を行なっている時やベッドサイドティーチングの際に自分でも思いつかなかったような言葉がふとした瞬間に生まれる。おそらく学習者に伝えようとするときに、どうやって伝えれば記憶にとどまるであろうか?ということを頭が勝手に捻り出してくれるのであろう。そのため、パールが生まれるには環境も大事だと思っている。自分一人だけでは思いつかなかったことでも、教育という場面になると自分の限界を超えて良質なアウトプット、パールが生まれる。良質なアウトプットのためには、良質なインプットが必要である。今回の特集から尊敬すべき先生方の至極のパールを是非堪能してほしい。



さいごに自分が出会った初めてのクリニカルパールを紹介して終わりにしたい。


「医師の仕事は考えることではありません。

 judgmentですよ、武田さん」



この言葉は、尊敬すべき先輩である武田先生が悩んでおられた際の矢野晴美先生の一言である。

おそらく、お二人ともこのやりとりは覚えておられないと思われるが、

矢野先生が武田先生に向けて放った言葉は、なぜか隣の私に突き刺さった。


今でもこの言葉は、私の心に深く刻まれている。


この言葉の後から、私はようやく医師としてのスタートが切れた。


とても感謝している言葉である。





 

2024年9月13日金曜日

違和感 



今回の症例では「違和感」を感じ取ってください

※症例は加筆・修正を加えてあります
















































































気腫性骨髄炎

 

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