血液培養陰性のIEの鑑別になりました
さらに、曝露歴から疑わしい病原微生物を片っ端から調べ、
最終的にはDNAシークエンスにて、リステリアの診断にたどり着きました
最終診断:リステリアによる限局性心筋炎
この症例の使い所
・動物や野山の曝露歴があった場合に
どのような鑑別疾患を挙げれば良いか参考になる
・血液培養陰性のIEを疑った場合の
病原微生物の詰め方を教えてくれる
・IEを疑って行ったTEEが陰性だった時、
それでも心筋の異常を疑っている場合のアプローチの方法がわかる
臨床のパールや自分なりの考えをノートにまとめました。自分のポケットの中だけでなく、皆様にもみていただき、ご意見ご感想を頂ければ嬉しいです。実臨床への適応は自己責任でお願いします。
血液培養陰性のIEの鑑別になりました
さらに、曝露歴から疑わしい病原微生物を片っ端から調べ、
最終的にはDNAシークエンスにて、リステリアの診断にたどり着きました
最終診断:リステリアによる限局性心筋炎
この症例の使い所
・動物や野山の曝露歴があった場合に
どのような鑑別疾患を挙げれば良いか参考になる
・血液培養陰性のIEを疑った場合の
病原微生物の詰め方を教えてくれる
・IEを疑って行ったTEEが陰性だった時、
それでも心筋の異常を疑っている場合のアプローチの方法がわかる
バイタルは安定 意識も清明
腹部は全体的に膨満しており、軽度圧痛ありまとめ
・便秘に刺激性下剤を出し続けることは、不眠にBZ薬を出し続けることと同じ
→その場しのぎの治療は将来に影を落とすことになる
・便秘の治療はコントローラーとリリーバーを考える
→リリーバーをコントローラーとして使ってはいけない
・便秘と下痢が混在した状態はたまにある
→paradoxical diarrheaにご注意
症例は超高齢で寝たきり、
施設入所中の女性の発熱、意識障害、下血、嘔吐の症例でした
来院時は意識障害やショックバイタルがあり、鑑別疾患が絞りきれず、
ショックのアプローチをしていく流れになりました
ショックの診療には3つの世界があります
①病歴をとる人
②診察する人
③検査・治療をする人
この3つの世界が同時並行で進み、時間経過とともにその世界が重なってくるイメージです
そのため、最初は情報がない中で診察しないといけないこともあります
②の世界にいる人は、
ショックの原因を探すために見た目、末梢、JVP、CRT、mottling sign、心音、直腸診を行います
③の人は「サルも聴診器」を行います
②と③だけでもショックの原因は分かります
ショックの原因は、
SHOCKの語呂(septic,spianal,Hypovolemic,Obstructive,Cardiac,アナフィラキシーショックK)で覚えています
病態的には血液分布異常、循環血漿量減少、心原性、閉塞性に分けられます
ここでピットフォールがあります
ショックの原因は一つではないということです
合わせ技一本がいかに多いことか
合わせ技になると、末梢は暖かいけど、頸静脈は虚脱している・・・ような感じで、
身体所見だけでは教科書通りにならないこともあります
バイタルや身体所見だけでショックを診断することは難しい理由の一つは、
ショックの原因が複数あること、
もう一つは薬の関与があることです
オッカムとヒッカムは診断の時によく言われますが、病態を考える時も同じです
高齢者の場合、心臓も弱っているし、敗血症もあるし、出血もあった・・・
みたいなことはよくあります
そのため、ショックの原因かは何か?という
「あり」「なし」ではなく、
血液分布:循環器血液量減少:心臓:閉塞=7:2:1:0みたいな感覚で、
どの要素が強いかを考える必要があります
忘れがちなのは、心臓です
敗血症性ショックだと思って治療していたが、実はたこつぼ心筋症が合併していた
吐血とショックで来院したが、実は心筋梗塞からのストレス性の胃潰瘍からの出血だった
という感じで、ショックの原因が実は心臓だったということはよくあります
ショックの原因を一つ見つけて満足してはいけません、他の原因を見逃さないことが大事です
全ての要素(血液分布、循環血漿量、心臓、閉塞)がどれくらい寄与しているかを見積もる癖をつけましょう
今回の症例では敗血症性ショック+循環血液量減少(脱水+出血)がありそうでした
どの要素が強いかは、その場でわかることは稀です
治療しながら判断することになります
治療する前に予想しながら治療を開始し予想通りに動けば、
見積もりが正しかったことになります
今回であれば循環血漿量減少がメインであれば、輸液のみで改善することが見込まれます
ですが、輸液だけでは血圧が維持できない状態であれば、
敗血症性ショックとしてNAを開始したり、出血メインであれば輸血も考慮することになります
このように「治療」自体が、「診断」に寄与することがあります
大事なことなので繰り返しますが、
ショックの治療は「一点買いをしないこと」です
全ての可能性を同時並行で考えて早期に治療に踏み切ることが重要です
具体的に言うと、敗血症性ショックの抗生剤投与です
血液培養さえとっておけば、抗生剤投与で失うものはありません
本症例も熱があり、下血があり、食事もとれておらず、複数のショックの原因が考えられました
敗血症のfocus探しも重要ですが、同じくらい治療も重要です
どの抗生剤を入れるかよりも、いかに早く抗生剤を入れるか、の方が大事な時もあります
Door to baloon timeと同じで、敗血症の場合、Door to ABx timeを意識しましょう
今回の症例は結局、CTにて腸管気腫症と門脈血液ガスが見られました
門脈血液ガスの原因として、最悪なのは腸管壊死です
さらに最悪なのは、クロストリジウム・パーファリンゲンスによるものです
クロストリジウム・パーファリンゲンスによるガス壊疽は激症型血管内溶血をきたします
激症型血管内溶血を来たした場合、死亡率は74%で高率に亡くなります
さらに入院から死亡までが、なんと9.7時間!という急激な経過を辿ることが知られています。
診断は末梢血の塗抹標本を見ることです
Buffy coatのグラム染色を行うことで、菌体が見えることがあります
積み木のような四角のGPRの菌体が見えたら、診断は確定です
参考:J septic クイズ
診断をつける意味は、治療のためでもありますが、家族への説明のためです
数時間以内に亡くなる可能性が高い超重篤な病態であることを伝える必要があります
幸い今回の症例は血管内溶血はなさそうであり、違いそうでした
腸管気腫や門脈血ガスはNOMIが原因のようでした
広域抗生剤を投与し、輸液やNA投与にて蘇生された症例でした
発熱、嘔吐、意識障害、下血、ショックとどこから手をつければよいか、迷いそうですが、
困ったら、ABCの順番でよくしていきましょう
今回であれば、Cの異常がメインだったので、ショックの鑑別や治療を進めていき、
診断にたどり着いた症例でした
まとめ
・ショックの原因は一つではないことも多い
→全ての要因がどれくらい寄与しているか見積もる
血液分布異常:循環血漿量減少(脱水・出血):心臓:閉塞=7:2:1:0
・見積もった上での治療介入は診断の補助にもなる
→見積もりを立てると、治療反応性で見積もりがあっているか、間違っているかわかる
・腸管気腫や門脈血ガスを見たらクロストリジウム・パーファリンゲンスを考える
→Buffy coatのグラム染色を行うと診断できるかもしれないが、
救命は難しいかもしれない
主治医交代
スポーツの世界なら試合の途中で選手が交代することは当然ですが、医療の世界で主治医が交代するときは、引き継ぎを除いては稀ではないでしょうか
医療者側の申し出の交代ならまだしも、
患者さん側から申し出があることは、
何かトラブルがあった可能性が高いと思います
みなさんはこれまでに何度、担当医や主治医を交代することになりましたか?
私はこれまでに二度経験しました。
その経験は私の医師人生において忘れ難い事件になっており、もはやトラウマになっています。
ですが、医師としての自分を形成する重要な出来事だったと今では思います。
1回目の主治医交代劇は、初期研修医になって3ヶ月目のことでした。
ある大学病院の血液内科で研修医としてスタートした私は、
充実した日々を過ごしていました。
血液内科の患者さんは採血が非常に難しく、
毎朝早朝から苦戦しながら採血をしていました。
採取した血液を自分でスライドガラスにうつして塗抹標本を作り、グラム染色のように顕微鏡を覗く毎日でした。
ある日、悪性リンパ腫疑いで入院した患者さんの血液を顕微鏡でみると異型リンパ球がたくさんおり、
結局EBV感染による伝染性単核症だったこともありました。
病棟業務にも慣れ始めた頃、
悪性リンパ腫の高齢女性の担当になりました。
その患者さんは明るく非常に元気でしたが、
中枢神経浸潤が疑われたため、
メソトレキセートの髄注を行うことになりました。
すでに髄注は何度か経験していたため、
いつものように髄注を行いました。
手技中は特にバイタル変化もなく、滞りなく終了しましたが、問題はその後でした。
患者さんが、髄注の数時間後に急に頭を痛がり始めました。
やや錯乱したような痛がり方であり、
只事ではないと思いすぐに上級医に一報を入れつつ、
クモ膜出血疑いでCTを撮影しました。
しかし、出血はありませんでした。
続いてMRIを撮影しましたが、出血や血管攣縮はありませんでした。
ほっと一安心しつつも、原因不明の頭痛であり、
頭を悩ませました。
頭痛が少し治ったところで診察を行うと、
眼球運動障害や複視、めまい、吐き気が見られました。
自分が投与した髄注に何か問題があったのではないか、と非常に不安でした。
患者さんは頭痛の訴えが強く、食事摂取が低下しADLが落ちていきました。
そんな中、弱っていく母の姿を見ていた娘さんが医療事故ではないかと憤慨されておりました。
髄液注射に何か問題があったのではないか?と疑われ、
実際に現場にいたスタッフや物を用意して現場検証が行われました。
当時は、自分の医師人生はこれで終わった・・・と本気で思いました。
そんな状態で仕事を続けるのは、
とても辛かったですが、なんとか仕事は続けました。
ですが、毎日、上司や同僚のもとで泣いていた気がします。
もちろん、その患者さんの担当は外されましたが、
毎日、患者さんのもとには行きました。
よくよく病歴を聴取すると、
座位や立位で増悪する頭痛であり、
症状からは硬膜穿刺後頭痛(もしくは低髄液圧症候群)であろうと目星はついていました。
「硬膜穿刺後頭痛は腰椎穿刺後の合併症であり、どれだけ予防策(細い針にする、抜く時には内筒を入れて抜くなど)を講じたところで発症してしまうことはあります」
と伝えた所で患者さんやご家族には言い訳のようにしか聞こえません。
今さら診断名を患者さんに伝えるより、
もっと大事なことは患者さんをよくすることだと考えました。
数日が経過し、頭痛や他の脳神経症状は改善していきましたが、
「抗がん剤を打って治療するはずだったのに、病院にきてもっと具合が悪くなってしまった」と
明らかに精神的に落ち込んでいました。
抑うつ傾向であった患者さんを励ます方法はないかと考えました。
医師になって間もない自分に何ができるだろう・・・
そこで考えたのは、
患者さんの経過を記録する日記を病室に置き、
毎日の様子を書き込むことでした。
自分だけでなく、病棟のスタッフやリハビリスタッフの方にもお願いし、
介入したことやできるようになったことをノートに書き込んでいただくことにしました。
自分の中で1時間は患者さんと話すことを業務の一環として毎日、病室に通いました。
正直、病室に入るのは怖かったですが、
自分にできることをやろうと思い、毎日、患者さんの顔を見にいきました。
そこにいた自分は初期研修医ではなく、
患者さんを心配する一人の人間だったのだと思います。
幸い患者さんは後遺症もなく、1ヶ月後に退院されました。
最後に患者さんは、
「今度、入院するときもあなたが担当になってね」と声をかけてくれました。
この事例で学んだことは、
「医師としてできることがなくても、
一人の人としてできることはある」ということです。
医療の世界は時に残酷で、
患者さんを良くしようと思って行った行為が
逆に患者さんを苦しめてしまうことがあります。
私たちは合併症や副作用を避ける努力や事前の説明は行いますが、
もっと重要なことは、その後の対応です。
「責任は自分にはなく、ある一定数起こる副作用であり仕方なかった」
「事前に説明したのだから、後で文句を言われても困る」
という態度は、誠実な対応とはいえないでしょう。
研修医のみなさん
医師としての勤務が始まり、辛いことの連続だと思います。
今はただ辛いだけかもしれませんが、数年後にその意味が分かります。
大事なことはいつも後にしか分かりません。
今はただ、目の前の患者さんをよくすることだけを目指して頑張ってください。
みなさんは医師としては微力かもしれませんが、
一人の人としてできることはたくさんあります。
それを忘れないで下さい。
86歳 女性 主訴:意識障害
(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)
今回の症例は、既往や内服のない高齢者の失神で見つかったDVT-PEでした
その背景に悪性腫瘍が見つかりました
治療に関しては、色々ディスカッションがあります
自分ならヘパリンIV→ヘパリン持続で治療するかと思います
理由は
・ヘパリンなら出血した時に拮抗薬がある
・ヘパリンなら効果を調整しやすい
・ヘパリンの方が早く効果が出る
・トルーソーならヘパリンにエビデンス的な分配がある
今回はDOACで治療が開始となりました
まとめ
・高齢者の「既往なし、内服なし」は安心できない
→むしろ「悪性腫瘍ターミナル」と考えると色々辻褄があうことが多い
・救急隊からの情報収集で大まかな方針を立てられるような質問をする
→なんらかの鑑別疾患を想起できるように
・失神でくる肺塞栓は有名だが、実際は診断が難しい
→失神+α(低酸素、頻脈、胸痛、下肢浮腫)で造影CTへ