2019年9月29日日曜日

入院患者さんの発熱

入院中の患者さんが熱を出したら、どう考えるかです

よく6Dや7Dという語呂を聞きます
偽痛風、DVT、drug、デバイス、褥瘡、CDI、十二指腸潰瘍などです


ですが、これだと穴だらけなのでしっかり論理的に考えられるようになりましょう


①入院中に介入したこと

②入院の原因となった疾患関係

③偶発的な問題



この3つにわけてそれぞれを考えていきます

入院中の患者さんの発熱は一筋縄ではいきません


大抵難しいです
なので最初からかなり、構えて対応します


そこでポイントになるのは、地図と年表という考え方です

地図というのは、今、体に入っているデバイスや人工物は何があるか、
そしていつから入ったか?

また体内の解剖の変化があれば、それも確認します


年表というのは、新規の薬剤がいつから入って、熱や検査の推移はどうかという事です



この地図と年表をかくと、全体像がつかみやすく、原因が見つかることが多いです


マスギャザリング

感染症セミナー

「忽那先生のグローバル時代の感染対策」のレクチャーメモです

要点は

①旅行者・外国人居住者の増加による感染症の持ち込み

②マスギャザリングによる感染症のアウトブレイクの懸念

この二つがグローバル時代の感染症の注意点です



グローバル時代に突入し、感染症以外も実は大変な問題があります

海外ではコモンな病気に、我々が慣れていないということです

例えば、鎌状赤血球症の人のACS(Acute chest syndrome)です
寒い所にいって発症し、急に呼吸状態が悪化します


来年に向けて勉強することがたくさんありますね・・・


レプトスピラ

感染症セミナーでレプトスピラの症例がありましたので紹介です



レプトスピラを診断するのに、何が大事か?といえば、

それは
レプトスピラを診断する!という情熱です

つまり、診断が非常に難しいのです


疑うきっかけは3つだと思います

①原因不明の○○:黄疸、肝障害、敗血症性ショック、DIC、髄膜炎etc

重症すぎて、バイタル管理にあたふたの状態でエンピリックに抗生剤が入ることが多く、原因までたどり着かないことが多いです


②季節外れのインフルエンザ:発熱、頭痛、関節痛、筋痛といったような症状で来ることがほとんどです

まるでインフルエンザですが、季節がおかしい
そんな時はレプトスピラを疑います
特に充血があれば

→「季節外れのインフルエンザ」参照

③軽症:風邪症状できて自然に治癒してしまっている人もいるでしょう

そんな症例はだれも調べません



疑ったら、追加で聞く病歴があります

よくネズミを見たか?と聞く人がいますが、それはあってもなくてもどちらでもよいです
ネズミの尿から感染するので、見ただけでは明らかな暴露とはいえないかもしれません

感染経路はネズミの尿に侵された水から経皮または経口感染です
ということで、以下のような病歴をとります

・職業歴:農業、畜産、ツアーガイド、土木、下水道作業員、調理師など
・山・川・湖の暴露:水泳、カヌー、カヤック、ラフティングなど
・海外旅行:中南米、東南アジアなど
・国内旅行:特に沖縄でのレジャー・アクティビティー
・被災・ボランティア活動:特に大雨、豪雨災害後


これらが、1~2週間以内になかったかを聴取します
潜伏期がこれくらいだからです




レプトスピラを診断するには情熱がいる

というのは、追加で病歴をしっかりとれる情熱と、
これは絶対にレプトスピラだから検査を出すんだ!という情熱です


普通の病院で簡単に検査できないので、保健所を通じて国立感染症研究所などに相談しないといけません

血清保存だけでなく、全血保存をなるべく多く確保しておくことが大事です



せっかくレプトスピラが話題になったので、上司からいただいたメールを共有します

ちょっと難しい内容ですが、内科医を志すなら見ておいた方がよいと思います
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ゴルフ場に勤務する50歳台の職員が、数日続く倦怠感と発熱で近医受診しました
レントゲンで肺炎、血液検査にて著明な肝腎機能障害があり、
MEPN使用しても意識障害が出現し、低酸素血症が進行するため、当院紹介となりました

充血が著明で、眼球結膜に黄染あり
トランスアミナーゼは3桁で、Crは5台
体幹には隆起状の紅斑が散在がみられました
CTでは肝胆道系に閉塞起点はみられませんでした


これは一つの「型」です

簡単にいうと、数日の経過で発熱やインフルエンザ症状、意識障害を呈し、
来院時には高度の肝機能・腎機能障害が中心にあり、
場合によっては肺病変や皮膚粘膜病変を呈しているという一つの「型」です


この「型」に出会った時は感染症を鑑別診断から手放してはいけません
どこまでも感染症として対応します
その過程で非感染症性の疾患に鑑別診断を広げ、組織診を行うタイミングを狙います


この「型」の場合、大切な前提が二つあります

一つ目はHIVのリスクの見積もりです
HIV陽性の場合、鑑別の枠組みが全く変わります

二つ目は海外渡航歴の有無です
マラリアを想定するかどうかです


この「型」を「リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ問題」と呼んでいます
「リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ問題」に出会った時には、以下の抗菌薬4剤の組み合わせを検討します

ミノマイシン
レボフロキサシン
アジスロマイシン
βラクタム系(特にセフトリアキソン)


東北地方におけるツツガムシのシーズンは晩秋~初冬です
長野県は初夏です

山や林の暴露がなくても田舎に住んでいることが自体が暴露のリスクであり、
ツツガムシをはずすことはできません
ミノマイシンは必須です

日本紅斑熱は西南日本での報告が多いですが、日本国内であれば除外は出来ません
重症の日本紅斑熱はミノマイシン+レボフロキサシンでの治療が推奨されます

当然、ダニ媒介感染症のSFTSも想定しますが、有効な治療薬がありません
だたし、原因を同定することは大切ですので検査は検討します


尿中レジオネラ抗原陰性でもレジオネラは否定できません
レジオネラを想起すること、診断することは臨床の中で思いのほか難しいことです
痰が取れれば、抗菌薬投与前にレジオネラ培養を外注で提出します
またレジオネラ抗体をペアでとる準備をします。PCRも提出するかもしれません

しかし除外が難しいのでレジオネラ症として治療します

レボフロキサシンかアジスロマイシンを軸に据えます
これで、マイコプラズマ、クラミドフィラ、コクシエラなどには対応できることになります

レボフロキサシンかアジスロマイシンのどちらかを選ぶかについては、よりアジスロマイシンの方が効果的な感染症をどのくらい想定するかによります(例えば、バルトネラ感染症)

また結核をどのくらい想起するか、それに対してどのくらいの検査が現時点でできているかも、レボフロキサシンとアジスロマイシンの選択で考慮すべきポイントになります


そしてレプトスピラです
当地でも集団発生事例の経験があります
国内でも、海外でも、田舎でも、都市部でもこのプレゼンテーションでは、
レプトスピラを外すことはできません
呼吸器病変も生じます

ネズミとその屎尿には意外と多くの人が暴露されています
レプトスピラは梅毒と同様、治療中にJarisch-Herxheimer reactionを生じます
この知識は治療経過を見守る上で大切です


少し考えればわかりますが、簡単に検査ができずすぐに結果もでない疾患ばかりが鑑別にあがります
このような症例に出会った時は、保健所をつうじて衛生研究所、国立感染症研究所に協力してもらい、どのように検査を出すかを積極的に検討します

この場合、PCR検査などで全血検査が必要になりますので、血清保存のみならず、全血保存をできるだけ多く確保して、後で振り返る準備をします


この症例ではレプトスピラ=リケッチア>レジオネラを想定し、
メロペン+ミノマイシン+レボフロキサシンを開始しました


妄想的に抗菌薬を選択するのではなく、
その段階で使える情報からもっともありうる感染症を想起することが大切です

ここまではあまり悩む時間がありません

さっさとやることをやらないと治療が遅れます
スピードがとても大切です
スピードが大切な時が臨床には少なからずあります
けれども、スピードだけではだめです


患者さんの近くにいることです
絶対に離れてはいけません
一時間の時間の積み重ねが、一時間分の時系列を治療者に垣間見せます

二点が結べれば患者さんが向かうベクトルを推測できることになります

治療を開始したら、それに満足することなく、治療効果をみながら、病歴と身体診察を何度も何度も繰り返します

本人は場合によっては集中管理されていて、話すことができないかもしれません
情報を知っている人からできるだけ様々な患者さんを取り囲む情報を収集します

患者さんの生活を自分の頭の中で映像化できるまで病歴をとります
意外なところに、意外な手がかりがあります
頭の先か、爪の先までくまなく身体診察をします

全身、全ての毛をかきわけ、全ての穴の中まで見て、ふれます
一人では見落とすので複数人が、別にみるとよいでしょう

些細な所見も全体の文脈の中で大きな意味を持つことがあります



臨床はかけ事ではありません
クイズでもありません
わからなくても、絶対に進んではいけない方向だけをおさえて、
残りの方角に少しでも進んでいきます
間違ったときにどこまで戻るか、ベースキャンプを設定しておくことも大切です


「明けない夜はない」ように、臨床上も24時間、動き、考え、議論すれば少しずつ薄明かりがさしてきます
その間に多くの助言を求めることができる仲間を常日頃から培っておくことも大切です

大概のことは48時間すればそれなりに落ち着きます
短時間毎のベクトルの集積が全体の進み行きを指し示すベクトルに成長します
そのことを患者さんとも、患者さんを取り囲む人々とも、医療者とも共有することが大切です

72時間すれば、おおむね皆の覚悟が定まります


そのためにはできるだけシンプルに自分の考えを説明することが大切です
複雑なロジックを説明に使ってはいけません
少し先の目標や分岐点を皆に示すことも大切です

また医療者の不安感を患者さんと、患者さんを取り囲む人々に押し付けてはいけません
自分の不安感を人に押し付けるというのは、必要以上にディフェンシブになることです
必要以上にディフェンシブな説明からは、誰もが治療者の自己保身を感じ取ります

人間である以上、誰もが人はいつか死ぬことを理解しています

人間の力を馬鹿にしてはいけません

皆、覚悟はできているのです
それは治療にたずさわる時の前提です



困難な症例にチームで対応するときに、リーダーの立ち振る舞いはとても大切です
臨床のリーダーとして最も大切なのは臨床力です
政治力ではありません


この症例は消化器内科が主治医となりました
「リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ問題」は消化器内科医に割り当てられることが多いと感じます
それは、肝胆道系酵素上昇が目につき、胆道系閉塞起点の除外が必要になるためです



この症例は後日、ツツガムシ病であったことが判明しましたが、残念ながらお亡くなりになりました



このような症例に取り組んで、患者さんの状況が思わしくない時に、非感染性疾患を常に考えます
治療を開始する最初から非感染性疾患を想定しています
しかし感染性疾患を抑えないで、先にはすすめないために徐々に非感染性疾患の重みがのしかかってきます
それでも初めから非感染性疾患を考え抜き、診療にあたることが大切です


「リケッチア、レプトスピラ、レジオネラ問題」に直面したときに、主には腫瘍(リンパ腫)と炎症性疾患(血管炎、AOSD)を念頭において診療にあたります

常に病歴と身体所見から、リンパ腫や血管炎を念頭においた生検部位を検討しておきます
AOSDはあくまで除外診断です
どのタイミングでどの臓器の生検に入るかを検討し、生検をしてくれる医師と打ち合わせを進めます

骨髄や皮膚、体表リンパ節は比較的アプローチしやすいのですが、
深部リンパ節、肝臓、脾臓、腎臓などは生検の条件がそろわないこともあります

ただし生検をしていただくためには、それなりの信頼を得ていなければなりません
信頼というのは難しいことではありません
その患者さんをひたむきに診療していることが伝われば、大抵の場合困難な状況でも協力が得られることが多いと思います

生検が様々な理由で不可能な時に、傍証を病歴、身体所見、血清学的検査から集め、
ステロイド使用を検討することはよくあることだと思います

大抵はPSL1mg/kg/日を1週間が目安です
ただしどうなったら、どうするかをの見通しなしに免疫抑制療法はできません
その中で様々な結果が戻ってきて、新たな方針を立て治療を修正します

前記したステロイドの使い方は鵜呑みにしないでください
各症例のその時の状況を踏まえなければ、総論的に議論ができません



もう一度、最初に記したことを繰り返します
この「型」に出会ったときは感染症を鑑別診断から手放してはいけません
どこまでも感染症として対応します

つまり感染症として、十分に必要な期間治療を加えておくことがなければ、
次のステップに進めないのです
十分にというのは、決してメロペンやバンコマイシンということではないということはご理解いただけたかと思います


内科医を10年やっていれば、このような症例には複数回出会います
どの症例も忘れ難い記憶として残ります
そのぐらい全力で考え、動くからです



最後になります


治療にしても、説明にしても「何をするか」はとても大切です
今まで何をすべきかについて書き記してきました


しかし「何をしないか」はもっと大切なことです
そのことを普段から心がけることが必要です

「全力でなにもしない」というのは心理学者の河合隼雄さんが残したとても大切な言葉です
「全力でなにもしない」ときのたたずまいは、最終的に皆に多くのことを伝えます
そのことは臨床に携わる上でとても大切であることを申し添えて、終わりたいと思います
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感染症はじめの一歩

感染症のはじめの一歩の考え方です

大曲先生や具先生から何度も何度も教えていただきました
大切なことはいつも同じですが、自分なりに改良してみました


①患者背景
まずは患者背景がなんといっても大事です

患者背景は3つに分けて考えると、情報取集しやすいかと思います

(1)免疫:皮膚バリア、局所の免疫(気管支の繊毛運動etc)、好中球、
        細胞性免疫、液性免疫(脾臓の有無etc)、薬、腫瘍、DM、CKD、LC

(2)暴露:食事、人(シックコンタクト、性行為、結核、小さな子供etc)、動物、
       虫、淡水(カヤック、カヌーetc)、海外渡航、職業

(3)余力・全身状態:バイタル、基礎疾患(心臓、腎臓、肺、肝臓etc)、
               認知機能、余命、人生観



②部位
次に感染症を疑うのであれば、感染部位を考えます
市中の敗血症で頻度が多いのは、「5+1」という思考で考えます

5というのは、
中枢神経(つまり髄膜炎)、肺炎、皮膚軟部組織感染、胆道系感染、尿路感染です

この中で胆道系感染と尿路感染(腎盂腎炎)は検査に頼らなくてはならないことが多いです

1というのは、感染性心内膜炎です
1にしているのは、忘れてしまうので特別扱いです


これらの疾患頻度を念頭に病歴や診察、検査、画像で感染部位を絞っていきます


また入院中の発熱に関しては、考え方が変わります
→「入院中の発熱」参照


③微生物
背景と感染部位が分かれば、教科書や参考書を紐解けば、
原因となる部生物は列挙されています

なので①と②が非常に重要で、微生物と治療はレールにのって進む感じです

戦っている相手が見えないと気持ちが悪いですよね

なるべく相手が何者であるかをつかめるように、適切な検体を採取しグラム染色や培養を行います


④治療
ここまでくれば治療も既に決まってしまいます
ですが、感染症の治療で最も重要なことは適切な抗菌薬の選択ではありません

ドレナージやデブリすべきものがないかという観点が最も重要なことです

閉塞起点や膿瘍があれば、抗生剤だけでは太刀打ちできません






患者背景をつかみ、感染部位が分かり、微生物がある程度推測できれば、
病名がわかりますので、治療に入ることができます

が、治療する前に大事なことがあります

治療する前に必ず患者背景をつらぬいて、治療するということです

例えば、

腎機能に合わせてdoseを調整したり、
認知機能が悪く、自己抜去やせん妄のリスクが高いから、
投与回数が少ない抗生剤を選んだり、

余力がなく抗生剤を外してしまうと、明日がない症例には、
エンピリックに治療したり、

逆にピンピン元気だけど、化膿性脊椎炎があるような人は、
血培採取の上、あえてのバンコマイシンは入れずにまずはnarrowで責めたり、

CJDでターミナルケアをしている途中の感染性心内膜炎や全身の多発膿瘍に対して、
ドレナージはせず、緩和ケアで対応したり、、、


といった感じで、実は病名が決まっても治療が決まらないのです

必ず治療の前に患者さんの状態を検討しましょう



治療するとなったら、次は適切な経過観察です

病気が治っていく経過を知っていることは重要です

また、疾患ごとに何をパラメーターに治療するかも大事です

糖尿病ならA1cをみたりするのと同じです


適切なパラメーターは、
全身状態・診断した根拠の所見・微生物の消失の3つです



感染症セミナーに出席したので、実際に症例でこれを使ってみました

はじめの症例はMDS(軽症)で無治療、コントロール不良のDMの人で、
肺の多発結節影と炎症反応高値、意識障害ということで来た人でした

DKAの状態であったので、DKAの治療をしつつ、感染症の治療も行っていた人ですが、
ここでは意識障害+感染症のkey wardが並んだ時点で、
髄膜炎が鑑別になります


DKAや低体温の場合、意識障害があることが多いですが、
この意識障害の原因が髄膜炎なのか、それともDKAや低体温の結果なのかが、いつもいつも悩ましい所です

ということで、自分は迷ったら髄膜炎対応しちゃうことが多いです


結果、この症例はクレブシエラ菌血症による全身の多発膿瘍+髄膜炎の症例でした



次の症例は中国人女性の微熱と腹水で精査加療された人です
不妊治療中で体外受精後に起こっているというのが特徴的な病歴でした

1か月以上続く微熱ということで、亜急性から慢性に続く感染症疾患は限られます

IEや結核・NTM、膿瘍、感染性動脈炎・動脈瘤、寄生虫などです

実臨床では自己免疫性疾患や腫瘍も鑑別になり、難しいところですが、
まずは感染症で考えてみる
次に自己免疫性疾患で考えてみる
最後に腫瘍として考えてみる

と順番に考えていくのがよいと思います


この症例は腹部結核という診断でした



最後の症例は1か月前からの右下腹部痛で、来院前に鮮血便があったということでした

食事の暴露で、卵がありましたので、微生物の原因として圧倒的にサルモネラが疑われました

サルモネラは血管にくっつきやすいので、感染性動脈瘤や膿瘍が疑われました

CTにて右腸骨動脈周囲に腫瘤形成があり、右尿管の閉塞がありました
ということで、この症例はすぐさまステント留置されました


結果的に腫瘤はサルモネラの感染性動脈瘤であったという症例でした


どれも難しい症例でしたが、感染症の原則にそって考えれば、
この患者さんで今、何が起きているのか?が分かると思います

まとめ
・感染症かもしれないと思ったら、
①背景(免疫、暴露、余力)、②部位、③微生物、④治療、⑤適切な経過観察を三角形で考える


・治療する前に、患者背景をつらぬいてから考える


・悩んだ症例こそ、紙に書きだすことが診断の近道になる

2019年9月26日木曜日

昼カンファ~眼振はめまいのバイタル~

発表者:よろしくお願いいたします
    症例は82歳、男性で、主訴はめまいです
    救急車で来院されました。

司会:はい、まためまいですね
   デジャブ感が半端ないですが、やっていきましょう

発表者:プロファイルは腰部脊柱管狭窄症に対して手術したことがありますが、
    ADLフルで元気な方です
    現病歴は、当日、朝4時に起床し、トイレに行きました
    トイレに行く途中から激しい回転性めまいと嘔吐がありました
    トイレに便座で座ってしばらくいると、改善しました
    しかし、また動き出すとめまいが悪化しました

    その後、ベッドに戻りましたが、やはり動くとめまいがするので、 
    歩行ができず、救急車を要請し当院搬送となりました


司会:はい、ありがとうございます
   救急車ですので、まずはバイタルを聞きましょうか

発表者:バイタルは血圧が133/63、脈59(reg/reg)、呼吸数18、SPO2 96%、
       体温35.1度、意識 会話可能で清明でした


司会:さて、何か聞きたいことはありますか

研修医Y:めまいは0になりますか?安静にしていると、めまいはよくなるのですか?

発表者:はい、じっとしていれば、めまいは完全によくなるようです


学生:めまいはどんなふうに始まって、何をするとめまいがでますか

発表者:トイレに行く途中で歩いている時に出現したようです
    本人は左向きが好きなようで、左向きになると楽で、
    それ以外の態勢や頭位をとると、気持ち悪くめまいがでるようでした
    
    よろしいでしょうか

学生:はい・・・


司会:せっかくなら、もう少し聞きましょうか
   めまいは、どれくらい続くのですか?

発表者:どれくらい続くか?と聞いても、
    正確な時間はわからないとおっしゃっていました
 
司会:ありがとうございます
   確かに、誰だってつらい症状をストップウォッチで何分何秒と測ったりはしません
   なので、聞き方にコツがあります

   まず、あり得ないような長い時間を聞きます
   「一時間くらい続きましたか?」
    →だいたい、そんなわけはないので、そこまでは続いていません
     ということになります

   「じゃあ、30分くらいですかね?」
    →30分もたいてい続いていません  
   
   「じゃあ、5分くらい?」
    →いや、そんなに長くない、ということになるので

   「じゃあ、数秒ですか?」
    →うーん、数秒ではないけど、30秒とか、1分とかかな

    みたいな流れになることが多いです
    いきなり、何分でしたか?
    と聞くと、うまく聴取できませんが、
    相手に時間の感覚を思い出させながら聞くと上手に時間を聞き出せます


発表者:診察にはなりますが、確かに動くとめまいは出現し、 
    じっとしているとおさまりました
    おそらく、1分前後くらいだと思います




司会:はい、ありがとうございます
   では他に聞きたいことはありますか?

研修医Y:頭痛や耳鳴り、難聴はありましたか?
  
発表者:ありませんでした

研修医N:先行感染はありましたか?

発表者:一週間前に咳があったようです
    自然軽快しているので、それ以上は分かりません


専攻医H:頸部痛はありましたか?

発表者:ありませんでした


司会:頸部痛はどうして聞いたのですか?

専攻医H:めまいの鑑別に中枢性、つまり脳梗塞があるので、
    めまいを起こす脳梗塞とすれば、小脳や前庭の部分にからんだものだと思います

    となると、PICAやAICA、SCAということになり、
    etiologyとして、椎骨動脈解離が考えられます

    なので、頸部痛があれば解離も考えなければならないので聞きました


司会:はい、ありがとうございます。その通りですね。
   では問題です。頸部痛は解離でなければ起こらないのでしょうか?


専攻医H:あーどうなんでしょうか・・・


司会:実は頸部痛や後頭部痛は解離でなくても後方循環系の脳梗塞では、
   起こることが知られています

   前方循環の脳梗塞でもたまに頭痛を訴える方がいます


   台湾からの報告では、7.4%に脳梗塞に頭痛がみられたようです
   特に後方循環系や大血管系のアテローム血栓・心原性塞栓が多いようです

   ただラクナ梗塞で頭痛を訴える人はめったにいません





司会:確かに脳梗塞だけで頭痛を訴える人はいます   
   しかもずっと後遺症のように残ったり、けっこう頑固な頭痛になることがあります

   後方循環系でこれだけ差があるのは、
   ただ解離の症例を見逃しているだけじゃないの?という気はします

   なので大事なのは、
   
   痛みがあれば、まずは解離を疑う事です
   
   しかし、
   脳梗塞でも痛みがでるということは頭の片隅に置いておいてもいいと思います


   さて、では他に何か聞きたいことはありますか

外科U:既往や内服を教えてください

発表者:前立腺肥大症に対して、αブロッカーを内服しています
    他に鼠径ヘルニア手術後、頸部の腫瘍の手術後です
    頸部の腫瘍については、甲状腺だったのか、詳細は不明です

    内服は他に芍薬甘草湯を服用しています


司会:はい、ありがとうございます
   さて、あと何を聞きましょうか
   
聴衆:・・・・


司会:ちなみに、僕は「よくこの症例は病歴が勝負だね」とか、
   「どうせ診察や検査では何もでないんでしょ」
 
   とか言っていますが、ある程度、症候によって
   病歴だけで診断までいけちゃうものがあります

   ですが、めまいに関しては、病歴だけでは診断するのは難しい代表です
   必ず身体診察とセットで考えます

   なぜだと思いますか?


学生:え・・・
   中枢性を病歴だけだと否定できないからですか?


司会:そうですね、まあ、簡単にいうとそういう事です

   他に意見はありますか?

聴衆:・・・


司会:めまいの患者さんは、気持ちが悪くて、
   往々にして病歴を上手に話せないということが一番の原因です

   めまいになったら分かると思いますが、とても苦痛で気持ち悪く、
   しっかり病歴を話せません
   
   めまいになった時の様子を詳細に語れるほど客観視できません
   それどころではないのです


   なので、めまいという症候群の場合、
   そもそもの病歴の信頼性が揺らいでしまうのです

   ですので、めまいが全くない状態で、しっかり自分の言葉で詳細に病歴を
   語れるときは別ですが、めまいが続いていたりするときは、
   診断は病歴だけでは困難です


   なので、めまいが持続している時点で病歴は半分くらい諦めます

   この症例は、安静にしていれば、めまいは0であり、
   病歴はある程度信頼してもよいと思います

   
   さきほど、中枢性を鑑別にあげるという話がありましたが、
   では他に聞きたいことはありますか?


学生:血管リスクはどうですか?

発表者:高血圧や脂質異常症、糖尿病、家族歴、喫煙歴はありません

司会:vascular riskが全然ないですね
  
   実はvascular riskがないというのは、二通りあって、

   ①本当にないパターン:検査で証明されている
   ②調べてないから知られていないパターン:検査していない

   二つのパターンがあります
   なので、これを見極めるには血液検査はしていますかとか、
   健康診断は受けていますか?と聞かないといけません

   この人はどうでしたか?


発表者:そこまで聞いていませんでした

司会:はい、ありがとうございます
   
   まあ、ない前提で話しをすすめると、
   この症例ではvascular riskがないので、中枢性は否定してもよいですか?

学生:・・・うーん、分かりません

司会:この人、いくつでしたっけ?
   82歳ですよね

   ということは、もはやそれだけで強力なvascular riskです

   高齢者がめまいを訴え、さらに歩けない時点で
  暫定的に診断は「脳梗塞」です


   
司会:さて、では診察にいきますか?
   
   先ほどもお話しした通り、
   実際はめまいの症例は病歴が上手くとれないことが多く、
   早々に目をみることをお勧めします
   
   病歴を長々とるより、目の眼振を見れば、一発で診断できるときがあります
   「目は口ほど物をいう」というやつですね

   別の言い方をすると、「眼振はめまいのバイタル」だと思います!


聴衆:・・・・しーん

司会:・・・あんまり、受けなかったですね・・・(悲しい)


   でも、眼振は本当に大事です  
   
   注視誘発眼振や垂直性眼振があれば、中枢性でしょ!
   とすぐに分かります
   
   眼振がなかったり、水平方向固定性眼振が出ている時は、 
   どちらもあり得るので、一番難しいです

   


発表者:今回は、眼振は安静時にはありませんでした

    脳神経学的な異常所見はなく、
    四肢の麻痺や感覚障害、失調もありませんでした

    歩行に関しては、立位や頭位変換にてめまいが誘発されてしまい、
    評価はできませんでした
    
    頭位を変換すると、めまいが誘発されますが、数秒でおさまりました


司会:頭位を変換すると、すぐにめまいがでるのですか?
   どういった頭位でめまいがでますか?


発表者:すぐにではなく、数秒経ってからです
    そして同じ姿勢になると、おさまります

    頭位に関しては、頭を左右に振っただけで、めまいが出現しました
 

    結局、歩行ができなかったため、入院で経過観察となりました
    

司会:はい、ありがとうございます
   この症例は、めまいの3つのパターンでいうと、どれにあたりますか?

学生:反復性頭位めまいのパターンだと思います




司会:そうですね。でのカテゴリーで中枢性と末梢性を考えます
   ではこのカテゴリーで中枢性は何を考えますか?

   キアリ奇形や腫瘍、変性疾患、MS、脳梗塞といった疾患が鑑別になります

   末梢性はなんですか?


学生:BPPVです


司会:はい、そうですね。

   さて、今日はBPPVの話をしましょう

   BPPVにもいろいろあって、
   後半規管型、外側半規管型、前半規管型がありますが、
   前に耳石がおちることはほとんどないので、
   普通は後半規管型、外側半規管型を考えます

   重力の影響で耳石が落ちやすい後半規管型が一番多いです

   外側(水平)半規管型はカナル結石症とクプラ結石症があります

   でも実は外側半規管型の場合は、勝手に治っていることがあったり、
   正確な診断がついていないこともあり、正確な頻度は不明です





   BPPVの診断のためには、
   「病歴+身体所見+Eple法などの治療で改善」

   この3拍子そろって、はじめて診断できます
   どれかがおかしければ、BPPVといってはいけません
   
   では後半規管型のBPPVを診断するために、行う誘発は何でしたか?


学生:Dixなんちゃらだったと思います

司会:Dix-Hallpikeですね。なんか、かっこいいですよね
   では、どうやるかわかりますか?


研修医N:頭を少し横に傾けて、座った状態から寝てもらって、    
     頭がベッドからはみ出すように下に下げます


司会:その通りですね
   ではなんでそんなことしなければならないのでしょうか?

聴衆:・・・


司会:質問を変えると、後半規管の形は人間についているあるものの形に例えられます
   何かしってますか?


外科Dr U:耳介


司会:はい、その通りです。(本当に何でも知ってる外科医だなぁ・・・)

   耳介ってちょっと傾いてくっついていますよね
   この傾きを修正するのに、少し頭を傾けるのです
   そして耳介の中を転がり落とすようにイメージしながら、
   頭を下げていきます

   半規管の中は液体でみたされていますので、
   耳石はすぐには動きません
   ゆっくり水の中の砂が動くようなイメージで動き出します
   なので、潜時がうまれるのです

   そして頭を動かさなければ耳石はそのまま停滞します
   なので、数秒でおさまるのです

   耳石が動いている時に、めまいと眼振が出現します

   そして、寝た状態から座位に戻すと典型的にはさっきと反対向きの眼振がでます

   
   


新進気鋭の総合診療医M:この前、誘発や治療するときにEpley法を解説してくれている
            you tubeを患者さんと一緒にみながら、誘発手技しましたよ
            そしたら、結構よくて患者さんも納得してやってくれました
  
            めまい誘発するので、絶対に気持ち悪くなりますし、
            嘔吐することが多いので、患者さんへの説明はとても大事です



司会:その通りですね。you tube使うところが、現代っ子ですね

   水平半規管の場合は、自分の体の前で両手を組んで輪をつくったようなイメージです
   だから寝ている状態で、右向いたり、左向いたりするだけで、
   めまいが出現します




司会:さて、この症例はどうなりましたか?


発表者:はい、入院翌日の診察では、
    左右の頭位変換(supine roll法)で、どちらも向地性の眼振がでました
    
    左向きで明らかに眼振が強かったので、
    左の外側半規管型のカナル結石症だと思いました

    そこで、Gufoni法をしたり、バーベキューロールをしたり、
    いろいろ試しめしましたが、あまり効果はありませんでした


    高齢でもあり、脳梗塞はそうはいっても鑑別だったので、
    MRIも撮影しておりますが、新規梗塞はありませんでした


    せっかく、頑張って治療したのですが、効果なくて残念と思っていたら、
    入院3日目にはなんと、めまいは完全に消失しており、
    普通にトイレも行けるようになっていました
 
    なので、やはりBPPVであったのだと思います


司会:はい、ありがとうございます
   素晴らしいですね!よかったですね!
   
   BPPVの治療のEpleyとかも、すぐに効くイメージがありますが、
   すぐではなく、しばらく様子みて、見に行くとおさまっているという
   パターンが多い気がします

   今日は、BPPVのいい復習になりました
   ではこれで終わりにしたいと思います

   
まとめ
・めまい患者の病歴はあてにならないので、早々に目を確認する
→眼振はめまいのバイタル


・BPPVは3拍子そろって、はじめてBPPV
病歴+身体所見+Epley法の治療で改善


・BPPVの誘発を行う時の患者さんへの説明はしっかりと
→you tubeの動画を使うのも手
   

    



倫理の勉強会

TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります  

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