2020年9月29日火曜日

昼カンファレンス 〜診断がつかない時の一手〜

 30歳 男性 主訴:心窩部不快感 (症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:生来健康

現病歴:1週間前まで特に何もなかった

    4日前から心窩部不快感が出現  

    2日前から近医受診し、ドンペリドン、H2ブロッカー、ガストームが処方

    当日、症状が改善しないため、救急外来受診


既往:特記事項なし

生活:会社員







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ディスカッション①第一印象は?


T「はい、ありがとうございます。

  若年男性の心窩部不快感ですね、何かまず思いつく病気はありますか?」


T S「そうですね、消化性潰瘍や虫垂炎がまずは思い浮かびます」


T「ありがとうございます。他はどうですか?」


Y「心病変や肝臓、胆嚢の疾患も考慮します」


T「はい、ありがとうございます。そうですね。

 まず頻度的にも消化性潰瘍は多く、鑑別の上位に上がりますね。

 虫垂炎は経過からするとやや長い印象ですが、非典型歴もありますし、

 原曲的に膿瘍化していると分かりにくい症例もありますので、鑑別にあげておいた方がいいですね。


 何か他に聞きたいことはありますか?」

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ROS:

(+)食欲はない、食後に悪化、腹部膨満感あり、体重増加あり

(–)心窩部痛、胸焼け、吐き気、下痢、便秘、血便、黒色便

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ディスカッション②うつ病のスクリーニングについて


Y「今聞くことではないかもしれませんが、うつ症状はありましたか?」


発表者「仕事をとても頑張られている方だったので、うつはなかったと思います。

   直接は聞いてないです」


T「今のはいい質問ですね。

 若い人が病院に来る時、かなりの確率でうつが背景にあることが多いです。

 皆さん、新型うつって聞いたことありますか?」


聴衆 あります


T「誰か説明できますか?」


聴衆 ・・・・


T「あるけど、なかなか説明できる人は少ないのではないでしょうか?」


発表者「休日は活動的になるようなやつですか?」


T「そうそう、それであまり周りの人からうつと思われないのです。

 新型うつに医学的な定義があるわけではなく、ただの概念的なものです。


 典型的なうつ病がありますが、それ以外のうつ病が新型うつと思っていればいいです。

 本当のうつ病は遺伝的・生物学的な異常が背景にあり、特にきっかけなく発症します。

 ですが細かく聞くと、小さなきっかけみたいな感じのイベントはあります。

 そのきっかけは悲しい事ばかりではありません。

 結婚や引っ越しといったポジティブな変化であってもいいです。


 日常でも、抑うつ状態・気分はよくあります。

 近しい人が亡くなったとか、ペットが死んでしまったとか、

 そういう誰もが悲しむようなイベントで気分が落ち込んでしまうのは、普通のストレス反応です。

 抑うつ気分になったとしても、それはうつ病ではありません。


 そして新型うつというのは、例えば不安障害や適応障害の人が、うつ症状を呈していたり、

 発達障害の人が仕事でうまく適応できなくて落ち込んでしまって、うつ状態になっていたり、

 大うつ病以外の疾患によって、うつ病の表現型をとっているものをまとめた概念です。


 そのため、中には活動できる人もおり、

 周囲から本当にうつ病なのか?と思われてしまいます。

 ですが、当の本人は本当に困っていることに違いはありません。


 という事で、何が言いたいかというと、

 元気そうに仕事をしているからうつではない、ということは言えません。


 うつ病を疑った時に皆さん、何を聞きますか?」


Y「抑うつ気分と興味の減退を聞きます」


T「みんな、その二つ大好きですよね。

 でもそれって当たり前すぎて臨床ではあまり使えません。

 うつを疑った時に聴取すべきことは、3つの欲の質と量です。


 3つの欲とは、意欲、食欲、睡眠です。

 そしてこれらの質と量を聞きます。


 うつが重症になってくると、質がまず低下し、その次に量も低下してきます。


 例えば、意欲でいうと、

 仕事にはなんとかいっていますが、やる気がでなくて、ミスばかり目立ちます。

 →これは意欲の質の低下です。


 仕事に行こうとすると、急に億劫になってしまって、週に2、3日は休んでいます。

 →これは意欲の量の低下です

 

 食欲でいうと、

 ご飯は3食食べていますが、どれも美味しくなくて頑張って食べています。

 砂みたいな感じです。

 →これは食欲の質の低下です


 食事は3食は食べられていません。朝は食べてないです。量も減っています。

 →これは食欲の量の低下です 


 睡眠でいうと、

 眠れてはいますが、眠りが浅い感じです、今の睡眠には満足していません。

 →これは睡眠の質の低下です


 深夜に目が覚めてしまって、そこから眠れなくなります。4時間くらいしか寝ていません。

 →これは睡眠の量の低下です


 こんな風にうつの中のどの症状がメインなのかを見極め、

 これらの症状を治療効果判定にしていきます。


 なんとなく、抗うつ薬を入れたらよくなりました。

 ではなくて、意欲、食欲、睡眠。

 この3つがどうなっているかを聴取し、カルテに記載していきます。


 では身体診察にいきましょう」

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バイタル 問題なし

腹部 心窩部に不快感あり

どこにも圧痛点はなし

下肢にpitting edemaあり

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ディスカッション③マネージメントは?


T「さて、診断つきましたか?」


TS「いやあ、ついていないです。 

  でも心窩部に不快感があるのであれば、超音波検査をしたいです。」


T「そうですね、それはいいと思います。

  他には?」


TS「そうですね、胃カメラを予約したいです。」


T「了解です。

  つまり診断をつけるためのさらなる検査をしていく、ということですね。

  

  病歴と身体所見で8ー9割は診断がつくと、偉い先生がおっしゃっていますが、

  現実は診断がつかないことも多いです。

  その時に自分の中での対応策を持っておくと、焦りがなくなります。


  病歴や身体所見で診断がつかない時は、

  もちろん、検査に進んでいきますが、その前に皆さんならどうしますか?」


聴衆 「・・・希望の検査を聞いたりします」


T「そうですね、つまりは?」


Y「か・き・か・え ですか?」


T「そうです。解釈・期待・感情・影響を聞いてみると、

 答えにたどり着くことがあります。


 実は診断にこだわっていたのは自分だけで、

 患者さんが求めていたのは、胃カメラの予約やCT検査だったりすることもあります。

  

 感情は臨床にはやや則していない気もしますので、

 え・か・きでもいいと思います。


 そして全部、聞いている時間がないことがありますので、

 僕がやっていることを紹介します。


 僕は必ず、病歴とは別に(S)の項目を作っています。

 そしてそこには、患者さんが一番困っていることを記載します。


 病歴:1週間前から〇〇・・・

 既往:・・・

 内服:・・・

 生活:・・・


 (S)一番困っていることは、心窩部の痛みというわけではない。

   この症状が続くと、仕事に差し支えがある

   仕事は休みたくないので、早く症状の原因を突き止めたい


 (O )バイタル・・・


  みたいな感じです。


 一番困っていること=主訴 にならないこともあります。

 診断に迷ったら、病名を当てることから一旦離れて、 

 患者さんが一番困っていることにフォーカスしましょう。


 病気は分からなくても、患者さんのニーズには応えられることもあります。

 

  かきかえは、時間がかかるので、

  一番困っていることはなんですか?という質問がおすすめです。」


発表者「今回はそこまで聞いていませんでした。

    ですが、仕事を休みたくないとは言っていました。」


T「はい、ありがとうございます。ではこの後、どういう未来を想像しますか?」


M「胃カメラをして、胃潰瘍があればそれで診断がつきます。

  胃カメラで何もなければ、FDとして対応すると思います。

  六君子湯やガスモチンなどを検討します。」


T「なるほど、素晴らしい、結構先の未来まで想像できるようになりましたね。

 自分が検査をオーダーする時は、

 必ずその検査が〇〇だったら、こうする

 △△だったら、こうする

 ということまで想像してオーダーしましょう。


 ただ惜しかったですね。

 FDとして対応するのであれば、もうワンステップ必要です。

 わかりますか?」


聴衆 ・・・・


T「FDと診断する前には、必ずピロリ菌の検査をして、

 陽性であれば除菌してください。  

  除菌して症状が消えれば、それで終了です。


  さて、ではこの症例はどうなりましたか?」


発表者「えーっとですね、これからいろいろありまして。。。」

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ディスカッション④他に言いたいことはありますか?


T「どうやら、全然違った展開になるようですよ。(笑)

 他に言いたいことがある人はいますか?」


聴衆 ・・・・


T「じゃあ、言わせていただきます。

 

 下腿浮腫と心窩部不快感が心臓由来とすると、

 収縮性心膜炎や心筋炎は鑑別に上がると思います。

 なので心電図とUCGは行いたいです。

 そして甲状腺のチェックも行います。

 あとはIgA血管炎は下腿浮腫や紫斑が出ることがあり、

 腸管の炎症を伴うので、IgA血管炎も鑑別に上がりますので、

 下肢の紫斑がないかはじっくり探します。


 ということで、心臓由来(心膜炎・心筋炎)、甲状腺、IgA血管炎、

 この3つの鑑別でいきたいと思います。」


発表者「ありがとうございました。

   実はこの症例の採血をすると、Albが1.4で、尿中タンパクが大量に出ていました。

   診断はネフローゼ症候群でした。

   心窩部の不快感は、腸管の浮腫の症状でした。」



T「何と。。。

 そう言えば、こっそりROSに体重増加って書いてありましたね。

 普通、食欲無くなったら、体重減少ですよね。。。

  

 それにしてもよく採血しましたね。

 僕がみていたら、この人はピロリ除菌されていたかもしれません。


 体重増加と下腿浮腫にもっと着目していれば、診断にたどり着いたかもしれませんが、

 心窩部不快感が主訴だったら、足までみないかもしれません。


 いやあ、盛大に間違いました。勉強になりました。ありがとうございました。」


まとめ

・(病歴や身体所見で)診断がつかない時の一手

→患者さんに一番困っていることはなんですか?と聞いてみる

 かきかえ(解釈・期待・感情・影響)を聞いてみる

 主訴以外の他の異常所見から攻めてみる


  

2020年9月25日金曜日

学生時代の勉強法

NEJMのclinical problem solvingはとても勉強になります

前回の肝蛭症もそうですが、NEJMのCPSから学ぶことは多々あります


学生や研修医の間で、NJEM勉強会がありますが、

case recordsかCPSが選ばれることが多いと思います


Case recordsは解説が最後にどっさり・・・という感じで結構、読むのがヘビーなことが多いです

誰かコメンテーターがいるのであれば、case recordsを使用しても良いと思いますが、

学生だけの場合は、CPSの方がお勧めです


短いですし、症例として比較的簡単な症例が多いです

何より、段落ごとにコメントが載っているので、それがとても勉強になります


コメンテーターがいない勉強会や一人で勉強したい場合は、CPSの方が良いかと思います



学生時代の自分の勉強方法を少し紹介させていただきます


各科ごとの縦割りの勉強は嫌いでしたが、症候学はとても好きでした

症候学はまさに横の糸のイメージです

縦だけの各科の勉強だけしていても知識として身に付かず、

そこに横の糸が加わることで、知識の定着が格段に良くなりました

あとはその知識を実際に使う練習をします



毎週、NEJMのCase recordsを読む勉強会がありましたので、

それに向けて勉強していました


まずNEJMのタイトルを見て、その症候の勉強をします

 case 31-2010:A 29 year old woman with fever after a Cat Bite


上記であれば、発熱の症候学をまず勉強しまくります

ここで大事なことは、何冊も「発熱」についての症候学を論じている本を読むことです

一冊ではなく、最低3冊くらい・・・


今はいい本がたくさん出ているので、逆に迷いますよねぇ

下記は僕の時代の参考資料っていうことで・・・(13年前くらい)


セイントとフランシスの内科診療ガイド 第2版

→この本のおかげで、たくさんの語呂が頭に残っています


テイラー10分間鑑別診断マニュアル 第3版
→簡潔に重要なことを記載してくれていて、読むたびに凄いなぁと思っていました。大好きな本。

・診察エッセンシャルズ
→critical な疾患は見逃しちゃまずいですからね。
 だんだん「当たり前」になってきたらこの本は卒業です

主要症候からみた鑑別診断学第2版
→困ったらこれに頼りましたが、内容がかたい・・・

・コリンズのVINDICATE鑑別診断法
→この本の使い方は注意が必要です。いきなりこの本を読んではいけません
この本に書いてあるのは、症候学の最終段階です
自分でこの本の内容を作れるくらいしっかり勉強します
いきなり到達してしまってはいけません
大事なのは、病態を絵に描くことと、
VIDICATEで一度自分で全ての鑑別疾患を列挙してみることです
列挙した鑑別疾患を3Cで分類してみる
そして、自分が作ったものとコリンズ先生の本を比べて修正する
答え合わせ的な感じで、この本を使います


学生時代に症候学を学ぶ上で大事なのは小手先のhow toを身につけることではなく、
病態を深く理解することです

そしてそれをアウトプットできるようにする


ここまでしたら、その症候学の知識・型を手に入れたと言えるので、
そこから修行にでます

いきなり、NEJMに挑んでも敵わないので、
まずは日本語の本で練習します

・カトラー臨床診断学
→古い本ですが、とても勉強になりました
 新しいのでないかなあ・・・

・診断力強化トレーニング
→薄いので、症例数をこなしたい時に使います

考える技術 臨床的思考を分析する 第3版
→自分の中のバイブルです
 ボロボロになるまで読みました
 何か一つだけ、と言われたら迷わずこの本をお勧めします


上記のような本の「発熱」の症例を何度か経験して、
「発熱」をみたときの考え方を何度も反復させます

自分の中で「発熱」に対する診療の型ができたと思ったら、
ようやくNEJMの症例を読み始める・・・


読みながら途中で鑑別疾患をあげていく
自分なら次に何を聞くか、次に何の検査をオーダーするか・・・
そういったことを想像しながら、進めていきます


ということで、まとめると
①「症候」についての病態を深く理解する
 →そのために何冊も「症候」の考え方を読んでみる
  そして自分なりの「症候」に対する「型」を身につける

②「型」が身についたら、症例で試してみる
 →考える技術がとりあえずお勧め
  一つの症候につき、3症例ほどのっているのでいい練習になる

③「型」を使いこなせるようになったら、NEJMに挑む
 →初学者の場合、CPSがお勧め






学生の皆さんの気持ちとしては、そんなことしている時間ないわ!
って突っ込まれそうですね・・・

でも僕は逆にそんなことばかりしていました


どんなにたくさん知識があっても、使えない知識はただのトリビアです

知識を身につけることがゴールではなく、
知識を使って問題を解決することがゴールです

それを教えてくれたのが、NEJMの勉強会でした


正直、全然わからないことも多かったですし、
勉強したのに全く使えないこともありました


NEJMの壁は、過去の自分にとっては高すぎる壁だったからこそ、
その壁を乗り越えるためにどうすればよいか?
という知恵や姿勢を学んだ気がします


NEJMの勉強会を始めるなら、4、5年生くらいがお勧めです
自分も部活を引退してやることがなくなった秋くらいからはじめました



ちょうど今くらいかなぁ・・・






2020年9月24日木曜日

肝蛭症 〜出会いそうで、なかなか出会えない疾患〜

 肝蛭吸虫症は聞いたことはあるけど、

実際に患者さんをみたことがある人は少ないのではないでしょうか


今年の5月のNEJMのclinical problem solvingに肝蛭症の症例があったので、

まとめてみました


症例を読むと、いつでも出会う可能性がある疾患だということがわかりました

これからはアンテナを張っていようと思います



寄生虫といえば、川のかにを食べたり、生肉を食べたりして、

発症するイメージがありますが、それだけではありません

肝蛭はクレソンにくっついており、
生のクレソンを経口摂取することで感染します





もともと肝蛭は、牛や羊といった哺乳動物の肝臓の中にいます
そこから虫卵が胆管を通り、消化管から排泄されます

排泄された虫卵は川の中でミラジウムに発育し、
中間宿主である貝の中に侵入します

中間宿主の貝は、欧米と日本で異なります
欧米の貝は水陸両棲であり、陸地でも大雨の際には大繁殖するため、
肝蛭症が流行することがあります


貝の中で発育しセルアリアになって、水草にメタセルカリアの状態で付着します
with メタセルカリアのクレソンを生で経口摂取することで感染します


肝蛭症は日本では稀ですが、ヨーロッパやオーストリア、南アメリカではコモンな感染症です
毎年1700万人が感染しており、ほとんどがヨーロッパでの発生です

ヨーロッパでの発生の多くがクレソンのサラダが原因です
肝蛭症を疑った場合は、数ヶ月前の渡航歴も大事になります


日本でもクレソン摂取で発症した症例の報告はありますので、
クレソンを生で摂取する習慣があるかも聴取する必要があります


感染牛の飼育によって虫卵に汚染された藁から感染する例もありますので、
職業も重要になります



肝蛭が経口摂取された場合、小腸に到達した時に脱嚢して腸管壁を貫いて、
腹腔内に迷入します(その時に激痛が走るそうです)


そして肝臓を目指して移動します
時に肝臓にたどり着かず、変な場所で見つかる例もあります


肝臓が居心地がいいようで、肝臓にたどり着くと肝表面から肝臓の実質に侵入していきます
そして肝実質を根城にして、住み着きます


体も黙ってはおらず、好酸球を動員して、やっつけようとします
すると肝膿瘍のような状態になりますが、肝蛭は逃げ出します

そうすると肝膿瘍が移動するように見えるので、
移動する肝膿瘍をみたら肝蛭症を疑います




感染が成立して3ヶ月ほどすると、肝蛭は成長して虫卵を産むことができるようになります

胆管まで浸潤していくと、胆管に虫卵が排泄され便にも虫卵が確認されます


そのため、肝蛭を疑って便の虫卵検査を行っても陰性になってしまうことのは当然です

虫卵検査で証明することは難しく、今は抗体検査で証明することが多くなっています


治療はトリクラベンダゾールを使用します


まとめ

・肝蛭症が見つかる際には、発熱や右季肋部痛、体重減少といった非特異的な症状で発症してくることが多い


・好酸球が著明に上昇することもあり、原因不明の好酸球増多で見つかることもある


・肝蛭症はヨーロッパやオーストラリアへの海外渡航歴やクレソンの摂取歴があればより疑わしい







2020年9月19日土曜日

クリプトコッカス 

 クリプトコッカスは忘れた頃にやってきます

知っているようで知らないクリプトコッカス感染症はとても面白いです


1、クリプトコッカスはどこにいる?

ハト=クリプトコッカスの図式になることが多いですが、

鳩のフンで増殖しやすいので、フンが溜まっていそうな場所がリスクです

木のくぼみや公園、神社が危ない環境です

ハトが密集していると、クリプトコッカスをうつしあっているようで、

3密のハトは危険です


ちなみにハト以外の鳥の消化管にもいます

鳥は体温が高く、消化管にクリプトコッカスは存在できても、

増殖できず、クリプトコッカス症を発症することは稀です


2、クリプトコッカスはどこから侵入する?

吸入して肺に入ります

そして播種すると全身に飛び散ります

ヒトヒト感染はありません

そこはニューモシスチスと違うところです


3、免疫不全者の病気でしょ?

免疫正常者でも肺病変を作ることはあります

ただ自然治癒することも多いです

結節影で見つかり、抗原も陰性のことが多く、

癌と区別がつかず、手術になることもあります


免疫正常者でも時に播種して、髄膜炎を起こします

もちろん、免疫不全者の方がよりリスクは高いです


4、抗原調べればいいんでしょ?

肺病変だけの場合、陰性になることが多いです

むしろ、肺病変だけで、抗原が陽性の場合、

播種性しまっている可能性を考慮します

なぜなら、播種していても無症状のことも多いからです


特に中枢神経への感染が懸念されます

マクロファージに乗ってBBBを通過します

トロイの木馬セオリーです


5、βdグルカンはあがんないんですよね?

上がらないことで有名ですが、たまに上がります

上がらない理由は厚い莢膜があったり、

クリプトコッカスの細胞壁のβDグルカンが検査で測定している1、3ではなく、

1、6だからと言われていますが、時折上がることもあります


6、治療は?

病変部位やHIV合併のある無しで治療が若干異なります

アムホテリシンBやフルシトリン、アゾール系の抗真菌薬に感受性があります

キャンディ系は効きません


髄膜炎の場合、抗真菌薬としては珍しく併用療法が推奨されています

ガイドラインを参考に治療しましょう

髄膜炎の場合、抗癌剤みたいな感じで、かなり長期の治療が必要になりますので、

エンピリックに治療するには、ハードルが高いです


髄膜炎の場合、圧がとても高くなることで有名です

初圧が25以上は予後不良です

ドレナージするかの如く、20未満になるように

繰り返し腰椎穿刺を行います


7、gattiiがやばいんでしょ?

熱帯地域のユーカリにたくさんいるのが、gattiiです

日本でもまれに症例報告がありますが、最初から考える必要はないです


Gattiiは免疫正常者でも発症しやすく、病原性が強いです

培養でgattiiだったら症例報告した方がいいです







2020年9月15日火曜日

昼カンファレンス 〜頸部リンパ節腫脹の考え方〜

 35歳 女性 主訴:頸部痛(症例は一部加筆・修正を加えています)

Profile:生来健康

現病歴:2週間前から左耳の後ろが痛かった

    しこりがあるように感じた

    リンパ腫が心配で来院した

内服:なし 既往:なし



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ディスカッション①さて、どうしましょう?


T「さあ、左耳の後ろのしこりと圧痛があるみたいですね。

  これはとてもhigh yieldな所見といっていいのではないでしょうか?


      low yieldな所見とは、発熱とか倦怠感といった症状で、

  そこから鑑別を絞り込むのが、大変な症状や所見のことです。

  high yieldな所見は例えば、嚥下時痛というような症状で、

  明らかに原因は食道や咽頭に問題を抱えていそうですよね。

  かなり鑑別が絞られます。


  なので、今回の症状は、鑑別は絞られます。

  さて、snap diagnosisとして、診断はなんでしょうか?」


TSU「耳下腺炎とかですか?」

T「耳下腺はどちらかというと、耳の前にあるから、

 耳の後ろという表現にはならないかな。

 耳の後ろのしこりというと???」


N「リンパ節の腫脹ですか?」

T「そうだね、リンパ節が腫れてるんだろうね。

 なぜ腫れたのか?」


N「ウイルス感染で・・・」

T「もう一声!」


M「風疹ですか?」


T「その通り!風疹が一番有名ですよね。

 じゃあ、もう一つのウイルスは?」


M「・・・わかりません」

T「それはパルボウイルスです。

 風疹とパルボはとてもよく似た皮疹やリンパ節腫脹でくることがありますので、

 注意が必要です。

 僕も一度、騙されたことがありますし、何かの雑誌でも同じような症例が載っていました。


 ということで、耳の後ろのしこりと圧痛と言われたら、

 風疹かな?パルボかな?


 と最初に思ってしまいます。

 では、みなさん、実際この人を前にしたら、まず何をしますか?」


TSU「痛みの性状とかを聞いたりします。」


T「実際はその前にね、病歴をとる前にやってほしいことがあるんだよ。


  それは、痛みの部位を指差してもらうことです。

  そして、痛みのある部位をみて、触ります。

  病歴聞いて、診察して、というのは実際的ではありません。

  

  痛みが主訴だった場合、病歴も大事ですが、 

  それ以上に診察が大事になります。

  長々病歴聞いて、お腹をみたら帯状疱疹だった。

  とかは誰しも経験があるかと思います。


  痛みの主訴の場合、

 なるべく早目にその部位の視診と触診をしてしまいましょう!


N「実際もすぐに痛みの部位を教えてもらいました。

  本人は耳の後ろといっていましたが、

  実際は左後頸部のことを言っていました。

  その痛い部分を触ると、弾性硬から弾性軟のしこりが、数個触れました。

  可動性はあって、圧痛がありました。

  他の部分のリンパ節は腫れていませんでした。

  周りの皮膚も綺麗でした」

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ROS (+)

   (➖):アトピー、寝汗、体重減少、咽頭痛、関節痛、先行感染

   (?):日光過敏、ペット飼育

バイタル 36.3と発熱なし

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ディスカッション②リンパ節腫脹の考え方は?


T「みなさん、主訴やプロブレムリストを作って、

  鑑別疾患をあげると思いますが、ただあげればいいというものではありません

  優先順位や階層を意識して、鑑別をあげることが重要です。

  例えば、浅いところだと、must r/oやcommonなものをまずは考えます

  そして、もしからしたら的なものを考えます

  腹痛なら、ACNESとかね。

  そして、最後に絶対に残ってしまうような疾患を考えておきます。

  僕がRoad to 〇〇というような疾患群です。

  

 さて、頸部のリンパ節腫脹の場合、どういう鑑別疾患が挙げられて、

 どういう階層であげていけばよいでしょうか?」


TSU「サイトメガロとかのウイルス感染」

T「そうですね、他には?」


M「結核は外せないと思います。あとは菊池とかもでしょうか

  これは最後まで残ると思います。」


T「そうですね、頸部のリンパ節腫脹で最後まで残ってしまうのが、

 結核や菊池病、あとはリンパ腫ですね。

 これはパッケージ的に覚えておくといいです。

 つまり、生検することでしか判明しない疾患群です。


 病気を分類する上で、病態や解剖で考える方法もありますが、

 実際的な方法は、検査で分ける方法です。


 例えば、treatble dementiaの場合、

 血液検査でわかる病気:電解質異常、アンモニア、低血糖、甲状腺、ビタミン異常など

 頭部CTでわかる病気:水頭症、CSDHなど

 頭部MRIでわかる病気:脳梗塞など

 髄液検査でわかる病気:慢性髄膜炎、癌性髄膜炎

 脳波でわかる病気:てんかん発作

 

 というように、検査の枠組みで病気を覚えておくといいと思います。

 外来をやっていると、この日はこのカード(検査)を切るというような感じで、

 手持ちのカードを切っていって、どこかでヒントが得られたり、

 診断がつくことが多いです。

 

 もちろん、病歴聴取も重要なカードの一つです。


 外来診療では、入院診療と違った考え方が必要です。

 手持ちの武器(カード)と時間をうまく使うことが求められます。


 リンパ節腫脹の場合、何かの反応性、というのが多いので、

 これは時間が解決してくれます。


 ですので、闇雲にカードを切りまくることは得策ではありません。

 待てる場合は、待つ。

 「時間」という名医を使うことで、見えてくる病気もたくさんあります。


  リンパ節腫脹の場合は、

  簡単に出せる血液検査、全身の造影CT、特殊な血液検査、生検というカードがあります。

  そして、それぞれ感染症 VS 非感染症で分けるといいと思います



M「粉瘤とかも鑑別ですか?」


T「そうですね、粉瘤や脂肪腫みたいな人もまれにいますね。

 あとは神経鞘腫の時も間違えてしまうことがありますね。

 自分もリンパ節腫大だと思って超音波検査をしてみたら、

 神経鞘腫だったことがありました。

  

 こういう頸部LN腫脹の超音波検査って、ほとんどが反応性と読まれることが多いので、

 あまり診断に役に立ったことはないです。

 神経鞘腫や粉瘤、肉腫とかの見極めは、超音波の方が得意なので、

 そもそもリンパ節かそうではないか、という時には超音波も有効ですね。」

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経過

血液検査では何も問題なし

カロナール処方され経過観察となった

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T「はい、今日はリンパ節腫脹の考え方を学びましたね。

 コツは、この人の行き着く先はどこだろう

 と想像することです。


 ゴールがイメージできれば、

 そこにたどり着くためにいろいろとカード(検査)を切らなければなりません。


 生検した方がよいか、非常に悩む症例もありますが、

 その場合はZ socoreも参考にしてもよいと思います。


 ありがとうござました。」








まとめ

・耳の後ろのリンパ節が腫れて痛いと聞いたら、風疹とパルボを思い浮かべる


・頸部リンパ節腫脹は反応性に腫れていることも多く、時間が解決してくれることも多い

→時間と共に手持ちのカード(検査)を切っていく


・行き着く先をイメージすることで、その人の今後の道が見えるようになる

→Road to 〇〇!!

2020年9月14日月曜日

進化する感染症

 感染症を学ぶ時、病気ごとに習うことが多いのではないかと思います

例えば、腎盂腎炎であれば、

どういう人で多くて、どういう菌が原因で、どういう治療をすればいいか、

ということが教科書には書かれています


これは、縦割りの勉強という感じです

ここでは、横軸で病気を考えていきたいと思います


感染症の5つの原則の5つ目は何かご存知でしょうか?


それは、適切な経過観察です


感染症の治療が失敗するとどうなると思いますか?


熱が下がらない、CRPが下がらないのはもちろんですが、

診断時の病名が進化してきている可能性があります


腎盂腎炎に対して抗生剤治療を行い、解熱が得られない場合は、

閉塞起点や腎膿瘍を疑い画像評価が勧められています


感染症はずっと同じ病態をとるわけではありません

治療がされなかったり、治療がうまくいっていなければ、

病態は変わります


よく臨床で「こじれてきたね」みたいな表現が使われます


ポケモンをやられたことがある方ならお分かりだと思いますが、

ポケモンは進化していきます


感染症も同じです

放っておくと、進化していきます


それぞれの感染症が進化すると、何になるのかをまとめたものはあまりみたことがないので、

自分なりにまとめてみました



感染症が進化(進行)してきた時に考える3つのこと

①急激に悪化してきた場合 → 敗血症

②じわじわ続いていた場合 → 菌血症 → 感染性心内膜炎

③じわじわ、じわじわ続いていた場合 → 膿瘍・血栓性静脈炎 


この病態の理解があれば、入院時から最悪のシナリオを想定できます


例えば、蜂窩織炎の人が入院した場合、

バイタルが悪ければ、TSSや敗血症、壊死性筋膜炎を想定します

バイタルがよければ、こんな風に患者さんや家族の人に説明します


「蜂窩織炎といって皮膚の下で細菌が悪さしている病気です。

 抗生剤で治療を行います。

 ですが今後、抗生剤が効果なかった場合は、

 壊死性筋膜炎といって、もっと深いところの感染症を考慮します。

 その場合は診断するために、小さな手術(試験切開)が必要になる場合があります

 万が一、壊死性筋膜炎だとわかった場合は、

 今度は大きな手術が必要になることもあります

 そしてそれは命に関わる病気ですので、集中治療が必要になることが多いです。

 そうならないように、しっかり治療させていただきますね。」


みたいな感じで入院時から、ワーストシナリオを話しておくことで、

治療したのに、なぜ悪化したのか?という不満を持たせないようにします



肺炎や胸膜炎の場合も一緒です

肺化膿症や膿胸のことも最初にいっておくことが大事です

抗生剤以外に何か処置が必要になりそうな場合は最初から伝えておくことが肝心です


もちろん、軽症の場合は、伝える必要はないので、

局所所見が派手で重症の場合に限って伝ええればよいと思います



進化するには、それ相応の理由があるはずです


そもそも体には、悪いものを排出しようとする機構があるので、

その機構が乱れた時に、感染症が悪化します

つまり、閉塞起点を探すことが重要です


もう一つは免疫(局所と全身)の破綻です

一番身近な免疫不全はなんといっても糖尿病です

血糖コントロールがうまくいっているかは、必ず確認しましょう



※もちろん、順番を飛ばすこともよくあります


まとめ

・感染症は放っておくと進化する

→進化の過程のどこにいるのかを意識する


・進化の段階は、急激に悪化すると敗血症、じわじわくるとIE、もっとじわじわすると膿瘍や血栓

→進化されてしまうと、治療期間は長引き、侵襲的な処置が必要になる


・進化するためには理由があるはず

→閉塞起点と免疫の破綻がないかはチェック、

 特に血糖コントロールは忘れがち

2020年9月7日月曜日

昼カンファレンス 〜そっちで、つながるのね〜

昼カンファレンス(症例は一部加筆・修正を加えています)

 68歳 男性 主訴:腹痛

Profile:来院当日の昼まで入院中だった

    2日前にAfに対してカテーテルアブレーション実施

現病歴:当日朝まで元気

    腹痛は見られず、朝食も普通に取れた

    便秘気味だった

    退院後、自宅で昼食も普通とれた

    夕食後、徐々に腹痛が出現

    7/10まで悪化してきたため、救急受診


既往:高血圧、心房細動

内服:プラザキサ、プラビックス、アジルバ、アムロジン、メインテート


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ディスカッション①Afに対するアブレーション

司会「はい、アブレーション後というとても興味深いProfileですね。

   そもそも、アブレーションってどうやるんだっけ?」


T R「肺静脈が左房に入るところが発生学的に違うので、

  その辺がAfの起源のことが多いです。

  なので、Afの起源になっていそうな部分を探して、

  肺静脈の周りを焼いてくることが多かったと思います。


  テンポラリーのペースメーカーを右内頸静脈から入れて、

  右の大腿静脈からワイヤー入れたり、右の大腿動脈にAシース入れてAラインにしたりしています。

  ワイヤーは右房から心房中隔を突き破って、左房に到達させます。」


T「はい、ありがとうございます。

 確かそんな感じでしたね、だから心破裂のリスクがあるというのが、 

 知っておくべき合併症ですね。

 まあ、この症例はカテーテルのアブレーションは何事もなく終わっているようです。

 アブレーションは2日前のようですね。」



T「この症例の1st インプレッションはなんですか?」


D「SMA塞栓かなと思います。

  カテで左房にアブレーションしているので、そこで血栓ができてしまってもいいかと思いました。」


T「そうだよね。普通、そう思うよね。

 あとはSMA塞栓だとすると、他にどういう情報欲しいですか?」


D「他の情報ですか?わかりません」


T「例えば、普通、術前や術中に左房内の左心耳に血栓がないかは確認するんじゃないかな?

  あとは、処置の時に抗凝固薬が中断されていないか?とかは気になるね。

  例えば、偶発的に血腫ができたりして、やめざるを得なかったとか。

  そのへんの情報はどうでしたか?」


Y「左房内の血栓については記載がないので、なかったのだと思います。

  抗凝固薬は中断せず、そのまま処置が行われています」


T「わかりました、ありがとうございます。

  みなさん、SMA塞栓一択でいいですか?」


聴衆 シーン


T「じゃあ、SMA塞栓じゃなかったとしたら、何ですか?


聴衆 シーン


T「こういう考え方は重要です。


 僕らはまず頭に思い浮かべたものに縛られてしまう傾向があります。

 なので、そういう時は、


 じゃなかったら何か?


 ということを必ず自問自答します。

 明らかにこれでしょ!

 ってsnap diagnosisしたくなる時にこそ、やってみてください。


 そうすると、意外に真実にたどり着くことが多いです。」


D「SMA塞栓じゃなかったら、、、、

  虚血性腸炎とか。あとは腸閉塞とか、解離とか、胆嚢炎とかですかね。」


T「いいですね。そんな感じです。そうすると、もう少し聞きたい情報とかも出てきませんか?」

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ROS:腹部膨満あり、元々便秘あり、悪心・嘔吐なし、発熱なし

   冷や汗なし、下痢なし

腹部の手術歴はなし、同居の妻は元気 

解釈モデル:便秘でお腹が張っている


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ディスカッション②便秘が酷くて病院に来る人


T「便秘が酷くて病院に来る人いますよね。

 浣腸してほしいっていう人。

 そういう人って、どういう傾向がある人か知っていますか?」


D「過去に腸閉塞になった人とか?ですか。

  あとは、パーキンソン病で便秘の人とか。

  糖尿病とかで自律神経障害がある人とか。」


T「そうですね、他には?」


Y「ガンがあって通過障害があって便秘になっている人」


T「そうね、それは有名だけど、実はあんまり見ないね。

  あとは薬で便秘になっている人、特に抗精神病薬飲んでいる人とか、

  不安が背景にあったり、認知症の出始めのころとかの人とか。

  不安やこだわりが行動原理の大元になっている人が多いです。


  そういう意味でパーキンソン病の人、

  特に運動症状がまだ出ていない将来、パーキンソン病になりそうな人は、

  便秘を主訴に救急外来を受診しやすい傾向にあります。

  運動症状はTRAPと覚えますが、非運動症状はSCODと覚えます


   Sleep disorder 睡眠障害

      Constipation  便秘

      Olfactory  deficit 嗅覚障害

      Depression   うつ

   

  この4つはパーキンソン病の非運動症状で特異度の高いものです


  パーキンソン病は、ドパミンの異常、つまり報酬系の異常です。

  そのため、やたらとこだわりが強かったり、賭博にハマってしまったりする人がいます。

  中には、自分の排便習慣にこだわりがある人もいます。


  便秘へのこだわりが異常に強い人は、パーキンソン病の初期症状かもしれません。

  そういう研究があると面白いですね。


  便秘は侮ってはいけません。みなさん、自分で摘便したことありますか?」


聴衆 シーン


消化器内科専門医「はーい。今でもやっています。

         え?ていうか、なんでみんな自分でしないの?」


T「そうですね。

 摘便は看護師さんに任せるのではなく、なるべく自分でやりましょう。

  摘便で思い出すのは、Y君という研修医です。


 僕が救急外来に出ていると、前日にY君が見ていた患者さんが、やってきました。

 主訴は便秘と尿がでなくて、お腹が張るでした。

 よく見ると、前日もY君が同じ主訴で、その患者さんを見ていて、

 尿がでないという理由で導尿だけして、帰宅となっていました。

 便秘に対しては何も処置がされていませんでした。


 一見、便秘→浣腸の流れになりそうですが、

 僕は高齢者の便秘に対して安易な浣腸は慎重な立場をとっています。

 何人か浣腸後に穿孔した症例を見聞きしたことがあるからです。

  

 なので直腸診の続きで、自分でそのまま摘便をしました。

 そうすると、お腹の張りも改善し、排尿が可能になりました。

 尿がでなくなった理由は、頑固な便秘が原因だったのです。


 自分で摘便をするとたくさんいいことがあります

 1、患者さんにとても感謝される 

  → この症例もとてつもなく感謝されました

 2、便の性状や腫瘤がないか医学的情報を取れる

 3、看護師さんに嫌な処置をお願いしなくて済む 


  このエピソードを翌日、Y君に伝えると、とても反省していました。

  今まで、摘便を自分でしたことがなかったそうです。


  その後からY君は覚醒して、

  (その人はいいんじゃないかな・・・と思うような人にも)

  摘便をするようになりました。笑」

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身体所見

バイタル BP 152/93   P 70(ireg/ireg)  T 36.5

歩いてもお腹には響かない

腹部 ややぼってり 

   心窩部に圧痛の最強点あり

   心窩部から周囲にも軽度圧痛あり

   腸蠕動音亢進 マックバーネーの圧痛なし

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ディスカッション③腹部診察の極意は?


T「みなさん、腹部診察の時には何を注意してとっていますか?」


聴衆 シーン


T「あんまり、浸透していないみたいですね。。。。


 腹部診察の注意する点は三つの次元があります。

 

 一つ目は、平面の次元です。

 どこが最強の圧痛点があるかや痛みの範囲はどれくらいかを

 天気図のような感じでイメージできるように痛みの範囲をチェックします。

 そういう意味では心窩部に最強の圧痛点があるというのは、

 注意が必要です。


 みなさん、自分で心窩部を押すと気持ち悪くないですか?

 漢方の診察で心窩部から肋骨のあたりを押して圧痛があるかどうか

 という診察があり、胸脇苦満といいます。


 心窩部を押されると、けっこう痛いし苦しくないですか?

 なので、心窩部の圧痛は病気とは言えないことがあるので、注意しましょう。


 二つ目は、深さの次元です。

 軽く押したり、深く押して、どの深さに痛みの原因があるかを見極めます。

 特に腹膜より上か、下か →カーネット兆候

 腹膜に炎症があるのか、ないのか →腹膜刺激兆候


 という風に、自分の手を超音波のソナーのように診察します。


 三つ目の次元は、時間です。


 よくあるのは、外科の先生を呼んでいるうちに、だんだんお腹が硬くなってきて、

 板状硬があるじゃないか!ってなる感じです。

 心窩部痛→右下腹部に移動するように、腹部診察は時間をかけて、 

 何度も診察することが大事です。


 さて、この症例は何を考えて次に、何をしましょうか?」


     

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ディスカッション④マネージメントは?


M「SMA塞栓を疑っているので、ガスをとって乳酸の値をチェックします

 まずは単純をとって虚血性腸炎や虫垂炎がないことを確認して、

 腎機能みて造影するか考えます」


T「はい、ありがとうございます。なるほどねえ。

 他にご意見はありますか?」


聴衆 シーン


T「え、みんな一緒ですか。僕は全然違いますけど。笑


 僕なら、まず心窩部痛があってアブレーション後ということから、

 心嚢水のチェックを行います。そして心電図を取ります。


 心農水のために心窩部にUSを当てて、

 心嚢水がなければそのまま胆嚢を見て、

 膵臓の腫大や腹水をチェックして、

 大動脈解離や大動脈瘤をチェックして、

 SMAにドプラを当てて、SMA塞栓の有無をチェックします。 

 そして腹部全体をエコーして、腸閉塞があるかを見ます。


 自分の中では超音波は単純CTと同じくらいの情報量だと思っているので、

 超音波の所見をもとに、造影CTをとるか決めますね。


 僕は腹痛が主訴であれば、必ずエコーを一緒に診察室に持っていきます。

 忙しかったからCTに行きましたという言い訳をしないためにです。

  

 エコーは身体診察の一部だと思っています。


 さて、この症例はどうなりましたか?」


Y「すいません、単純CT撮りました。」


T「了解です、この単純CTで気がついた所見は何かありますか?」


R「胃がパンパンに張っています。

  確か、アブレーションをしたら迷走神経のトラブルで、

  胃が動きにくくなるっていうのは聞いたことがあります。」


拡大肺静脈隔離術後に急性麻痺性胃拡張を合併した 発作性心房細動の                                         

                                         Therapeutic Research vol. 31 no. 8 2010


U「確かにあるね、よく知ってるね。笑」

 

T「そうですね、そっちも張ってるけど・・・

 胆嚢もパンパンに張っていますね。

 そして、胆石もある。

 これは胆嚢炎ですね。もしくは胆石発作。」


Y「はい、この症例は結局胆嚢炎で、保存的治療されました。

 よくよく、話を聞いてみると、

 退院後のお祝いで、カツ丼や唐揚げをたくさん食べたみたいです。」


T「なるほど、アブレーションは関係なかったけど、

  退院後の腹痛っていう点では、snap diagnosisできそうですね。


   そうつながるのか〜 興味深いですね。大変勉強になりました。」


まとめ

・自分が最初に思いついた疾患しか頭にない時は「じゃなかったら??」と自問自答する

→今回はSMA塞栓に飛びついてしまい他の鑑別が疎かになってしまって、食事歴をしっかり聞けなかった


・摘便を人に任せず、自分ですることでたくさんいいことがある


・退院後の腹痛は、食事が重要な情報になる

→お祝いの寿司:アニサキス

 お祝いの脂っこいもの:胆石

気腫性骨髄炎

 

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