2022年10月30日日曜日

悪意のない悪ほど恐ろしいものはない



30歳 女性 
主訴:薬を飲んだ後から、
   喉が腫れたり蕁麻疹がでた
(※症例は一部加筆や修正を加えてあります)


救急車でこれから来院予定の方です


まずこれだけの情報で何を考えますか?

・アナフィラキシー
 エピネフリンの筋注の準備
 気道確保の準備(輪状甲状靭帯切開か穿刺)

・TSS


薬を内服した後に気道症状が出ているため、まずはアナフィラキシーとして考えるのが妥当ですね


来てから慌てるのも嫌なので、どこに何があるかは確認して、
すぐに取り出せるようにはしておく必要があります


    

来院してみると、若干の血圧低下がありますね
呼吸数はやや早く、浅いようです

病歴と身体所見を普通にとりに行く前に、ABCアプローチでいくのが良いでしょう

A  口腔内に腫脹はみられず、声もでる
  stridorやwheezesはなし

B  酸素化低下なし

C  やや血圧低下あり
  蕁麻疹なし



本人は喉がつまるという訴えがあります


さて、どうしましょう?


具体的にはボスミンを打つかどうかですね


ボスミンをうつ禁忌はほぼないと思ってもらって良いです

病歴からは、薬を飲んだ後から症状が出ており、
アナフィラキシーの気道症状として対応してもよいでしょう


アレルギー歴を確認すると、クラビット点眼で目が腫れたことがあるようです


ということで、アナフィラキシーが疑われ、
エピネフリンが筋注されましたが、喉の症状やバイタルは変わりませんでした


本当にアナフィラキシーなのでしょうか?

ABCは安定しているということで、H & Pのアプローチに切り替えて、

詳しく病歴を聴取する必要があります





詳しく病歴をとってみると、腸炎は子供からうつったようです


腸炎症状に対して近医から
・レボフロキサシン
・ファモチジン
・ビオスリー
・メトクロプラミド
・カロナール

が処方されておりました


薬を内服した5分後に喉が詰まったような感じが出現し、
症状が改善しないため、救急車で来院されました

蕁麻疹もあったようですが、来院までの間に消失してしまったようです


さて、病歴を詳細にとったところで、どう考えますか?

   


喉のつまる症状が持続しているため、
アナフィラキシーとしてエピネフリンを打つ

抗ヒスタミン剤を投与してみる

胃腸炎として普通に対応していく

喉が腫れているかファイバーで見てみる



いろいろ意見は出ましたが、もう一つ大事なことがあります


ここですぐにやって欲しいことがありますが、わかりますか?




よくわからない喉の症状といえば・・・


心筋梗塞を疑いますよね



ということで、心電図をとりましょう



アナフィラキシーになった人は、同時に急性冠症候群になる人がいます

kounis症候群として知られています









   


その後、喉のつまる症状の他に眼球上転や手足をバタバタと動かさないといられない症状が出てきました


バイタルは変化なく、一見、不穏様でした

不穏になった場合、まずはショックかどうかを考えますが、
あまりショックのような状況ではなかったようです


この状況でどうしましょうか?


    

血管性浮腫も疑われ抗ヒスタミン薬が投与され、
腹痛に対してブスコパンを投与されましたが、何も変わりませんでした


プリンペランによるセロトニン症候群を疑い、神経診察を行いましたが、
セロトニン症候群らしさはありませんでした



さて、どうしましょう?




パニックや不安が強そうなので、セルシンをうってみるというのはありですが・・・


この状態はメトクロプラミドに伴う不随意運動でしょう



メトクロプラミドに伴う錐体外路症状は年齢によって違います


高齢者の場合は、振戦などパーキンソニズムのような症状が多いですが、
若年者の場合、アカシジアやジストニアのような派手な症状が目立ちます





実際はセルシンが投与されましたが、何も変わりなく、
急に泣き出したりしたようです

(これはBZによる脱抑制でしょう)


その後、神経内科で入院経過観察となり、翌日には症状は軽快し退院となりました


神経内科の先生は心因性という判断でしたが、
メトクロプラミドによる眼球上転発作とジスキネジア、アカシジアだと思います



本症例は薬による害が2つもあった症例です


①レボフロキサシンに伴うアナフィラキシー症状(蕁麻疹、気道症状)

②メトクロプラミドによる錐体外路症状(眼球上転、アカシジア)



この症例から学ぶことは、2つあります


メトクロプラミドによる急性の錐体外路症状には注意しよう!

というのが、一つです


詳しくはこの二つによくまとまっています













女性患者、小児、30歳未満の成人、
メトクロプラミドの高用量投与患者は、
ジストニック反応を発症する可能性が高い 



まれにstridorや喉頭痙攣で呼吸苦もくるようです

Tianyi et al. BMC Res Notes (2017) 10:32 DOI 10.1186/s13104-016-2342-6




病気で苦しむのは、致し方ないところもあります

ですが、この方はよかれと思って出された薬で、もっと苦しむことになってしまいました


明らかにウイルス性腸炎の患者さんに

・レボフロキサシン
・ファモチジン
・ビオスリー
・メトクロプラミド
・カロナール


を処方された前医の先生は、その後の経過を知っているのでしょうか・・・






「無自覚の悪」「悪意のない悪」
ほど恐ろしいものはありません


というのが、2つ目の学びです


仏教の教えにもあります


阿難という弟子がお釈迦様に、

「悪いと知りながら造る罪」と「悪いと知らずに造る悪」と
どちらが恐ろしいと思うかと尋ねました



それに対してお釈迦様は、
「知らずに造る悪の方がより恐ろしい」と答えています


自分の行いが悪だと知っていれば、悪であることを意識しているので、
なるべく抑えようとしたり、罪の意識が芽生えるかもしれません


ですが、自分の行いを悪だと思っていない場合、
(むしろ善行だと思っている場合もある)

歯止めが聞かず、無自覚のうちに、悪を作り続けてしまうので、本当に恐ろしいです




つくづく、薬は有害ですね

余計な薬は出してはいけないといういい教訓の症例です



薬による副作用はどれだけ注意しても起こりうるものではありますが、


せめて

「薬は良いことばかりではなく、

 悪いことをしているかもしれない」


という自覚は忘れずにいたいものです


2022年10月27日木曜日

体動困難パート2 〜病歴の始まりはいつも同じ〜

症例は80代 女性 主訴:体動困難

(※症例は加筆修正を加えてあります)


既存症に帯状疱疹後の疼痛、糖尿病、うつ病があり、
フォシーガ、メトグルコ、グリミクロン、タケプロン、ジェイゾロフト、ブロプレス、コンスタンを内服中
ADLはフル


近医より紹介状を持参し来院

紹介状の内容
1日前から四肢の関節痛と頸部痛があり
血液検査でリウマトイド因子は陰性、ACPA陰性、ANA陰性でした
食事もとれず、体動困難であり、精査をお願いします



T「この紹介状をよんで、みなさんどんな病気を疑いますか?」


K「頸椎症とか、PMRとか・・・

 でも1日前からとなると・・・」


T「そうですね。一日前からとなると、PMRにしては早い印象ですね。


 体動困難のアプローチは昨日やりましたね。笑

 昨日の復習ですが、体動困難のアプローチは二つに分かれます。

 ①解剖や病態生理を元に考える
 ②老年症候群として考える

 のどちらのアプローチでいきましょうか?」



K「今回は関節痛があるので、関節が痛くて動けていない可能性があるので、
 ①で考えるのがよさそうです」


T「そうですね。痛くて動けていない可能性が高そうですね。
 解剖学的にどこが痛いかを考えていけば、疾患に辿り着きそうですね。

 では追加で聞きたいことある人はいますか?」


M「どこが痛いんですか?」


I「左肩が一番痛いそうです。あとは右の股関節も痛いとのことでした」


C「いつから痛いんですか?」

I「1ヶ月前から首は少し痛かったみたいです。

 6日前にも首が回らないほど痛くて、救急外来を受診しています。
 その時にクラウンデンス症候群疑いで、NSAIDsが処方されています。」


M「NSAIDsは効きましたか?」

I「あんまり効いていなかったみたいです」


M「CRPは前医でとっていましたか?」


I「CRPはとられていませんでした」



T「みんな大好きCRPですね。笑
 
  確かに、このセッティングはCRP非常に重要です。


  他にみなさん、聞きたいことはありますか?」



・・・・



T「みなさん、病歴とるのは得意ですか?」

M「苦手です」

K「苦手です」

C「苦手です」


T「まあ、こういう聞き方したら「得意です!」とはなかなか言えませんよね。笑

 病歴をとって病気を考えるのは、
 自分にとっては、音楽を聞いて何の曲かを当てる作業に似ています。


 病歴はメロディです。

 病気が曲名です。


 みなさんが聞いてくれた病歴は、曲の中のサビのパートです。
 一番、盛り上がる部分ですね。


 症状が出始めて症状について詳しく聞くことは、
 いきなりサビから始まっている感じです。


 ですが、曲はいきなりサビからは始まりません。

 イントロがあります。


 曲の始まりであるイントロ部分が、病歴にもあります。

 

 それはいつまで元気であったか?です。


 NEJMのcase recordsにも冒頭に必ず書いてあります。



 いつまで元気だったか?が確認できなければ、


 目の前の患者さんの病気が
 慢性なのか、亜急性なのか、急性なのか、超急性なのか、突然なのか
 acute on crhonicなのか、全くわかりません


 病歴をopneで聞くと、ほとんどの人がいきなり症状のことを話されます

 その場合、曲の途中を聞いているような感覚に陥ります


 自分の場合はまず患者さんにopenで話してもらった後に、
 第一の質問として、

 「〇〇前から症状がでたとのことですが、振り返ってみて、
 〇〇より前は全く症状がなくて、
 いつも通りの生活が送れていた。ということでよかったですか?」

 と聞きます
 

 コツは患者さんの日常の生活を早めに知ることです。

 学生で学校に毎日通っているのか、
 社会人で毎日仕事に行っているのか、
 主婦として家事ができているか、


 そういった患者さんの日常を早めに理解し、
 その日常から逸脱し始めた時が病気の始まりです


 逸脱の具合で病気の緊急性や重症度がわかります。
 そして患者さんの困り度もわかります。



 聞き方としては、いつから症状がでたかを聞くのではなく、
 いつまで普段通りの生活ができていたか?と聞きます。



 これはよくある落とし穴ですが、

 いつから症状が出たか?

 と

 いつまで元気だったか?

 を一緒に考えてしまっている人が多いです。


 患者さんは、いつから症状がでたか?と言われると、

(痛くて身動きがとれなくなって体動困難になったのは)1日前からです

 となります

 この聞き方ですと、真の発症日が分かりません。

 
 必ず、普段の生活が問題なく、送れていた時期を確認する必要があります。

 というわけで、本症例はいつまで普段通りの生活ができていたのでしょうか?」



I「2週間前までは普段通り生活できていました。

 1ヶ月前から頸部痛は少しあったみたいですが、普通に生活はできていたようです。

 2週間前くらいからだんだん、肩が痛くなり、
 股関節や体全体に痛みが出るようになりました。

 そして1日前からは痛みで寝返りもできないほどになり、
 体動困難となったという経過です」


T「なるほど、ありがとうございます。
 それでは急性から亜急性の経過でどんどん悪化しているということですね。

 そうなると鑑別は何になりますか?」


M「PMRだと思います。」



T「そうですね。この症例の道筋は見えましたね。

 今後はPMRを軸に考えていくのがよいでしょう。
 PMRを一番の鑑別の中心におき、それ以外の鑑別疾患を除外していきます。

 鑑別疾患を挙げる時に重要なのは、
 鑑別の中心においた疾患と治療が対極にあるものを必ず除外するということです。

 
 PMRの治療はステロイドですので、絶対に除外しなければならないのは、
 感染症です。
 特に感染性心内膜炎(からの化膿性関節炎や硬膜外膿瘍、脊椎炎)です。



 他にはtPA対応の脳梗塞の場合は治療の対極にあるのは、
 大動脈解離です。


 このように鑑別疾患を挙げるときは、治療の禁忌のものを対極に考えます。

 そして、その間に残りの鑑別疾患が存在します。



 PMRであれば、ステロイドが効く疾患群
(結晶誘発性関節炎、高齢発症リウマチ、副腎不全、ANA関連疾患)、
 ステロイドが効かない疾患群(骨メタ、パーキンソン病、薬剤性、筋膜疼痛性疾患)
 ステロイドが害になる疾患群(感染症、多発骨折)


 といった感じで鑑別疾患を考えていきます。


 ではPMRを疑った場合、たった一つだけ検査を行えるとしたら、
 何の検査がしたいですか?」


Y「免疫関係の血液検査とかですか・・・」


T「それもしたいですよね〜」


K「超音波検査とかですか?」


T「それもしたいですよね〜 笑

 でも違います。


 PMRを一発で診断できる検査はありません。

 PMRの診断はあくまで除外診断です。

 最も重要な鑑別疾患である感染症を除外しなければなりません。


 ひっかけ問題のように聞こえるかもしれませんが、

 PMRを疑った時に最も大事な検査とは、血液培養なのです。




身体所見では両肩関節炎、肩の挙上が困難、股関節の痛みなど

PRMに矛盾しない所見が得られた

塞栓徴候や心雑音はなかった


血液検査ではCRPは上昇していた

血液培養が採取されたが、陰性であった

CTでも感染を示唆する所見はなく、PRMとして治療が開始された


ステロイドが開始となり、連日、症状は軽快しPRMに矛盾しない治療経過を辿った


T「はい。ということで、典型的なPMRの症例でしたね。


 PMRの典型的な経過としては、ある日を堺に急に両肩や股関節周囲、頸部が痛くなり、

 徐々に悪化していき、寝返りも打てなくなってくる。

 

 まさに体動困難という主訴で来院されますね。


 PMRは高齢者ではコモンな疾患ですが、認知症があったり介護者が傍でみていないと、

 病歴がとれなくなるので、診断が難しくなります。


 PMRの診断が遅れると、フレイルが進み、

 原因不明の寝たきりの高齢者になってしまうので、予後が悪くなります。


 今回の症例は早めに診断がつき、治療もうまく行ってよかったですね」



I「PMRの診断は初めてでした。


 病歴を聞いても、最初はPMRとは思えなくて、だんだん聞いているうちに

 もしやPMR?・・・と思えました。


 病歴を聞いてもまだ、曲のようには聞こえないので、頑張りたいと思います。」


T「ありがとうございます。

  

 皆さん、PMRという疾患は教科書で習いましたよね。

 でも実際に目の前にPMRの患者さんがいると、診断は難しいものです。


 教科書をよんで手に入れた知識は、曲の楽譜をみて音を聞いていない状態と同じです。


 実際に患者さんから病歴(音楽)を聞くことで、

 初めて病気(曲)が実態化してきます。」


I「なるほど〜」


T「知らない曲を聞いてもピンとこないのと同じで、

 診断したことない病気の病歴を聞いても、ピンときません。


 ですが、一回診断したり、こうやってカンファで議論したことがあると、

 次のPMRの患者さんの病歴を聞くとすぐに診断ができるようになります。


 ここにいる皆さんとはPMRの奏でるメロディ(病歴)が共有できたのではないかと思います。

 ありがとうございました。」


まとめ

・病歴の始まりはいつも同じ

→いつまで元気であったか?から始まる


・メロディを聞いて、曲の名前がピンとくることは、

 病歴を聞いて病名がピンとくることは同じ


・鑑別疾患の挙げ方は、まずは中心となる疾患を想定する

 治療が真逆の疾患を対抗馬におく

 他の鑑別疾患はその間に位置する

2022年10月25日火曜日

やっぱり、いつも心に〇なんですよね〜

S「症例は80歳 男性で、主訴は体動困難、めまいです

 セッティングは救急外来です。」




S「ディスカッションポイントは体動困難のアプローチをどうするかを聞きたいです」

T「はい、ありがとうございます。体動困難ね〜
 なかなか難しい症候ですね。

 医学には症候学というジャンルがあります。

 症候学を学ぶと、胸痛とか、
 腹痛とかメジャーな症候群はたくさん解説がのっています。
 ですが、体動困難は症候群の教科書には載っていないことが多いです。

 どうしてかというと・・・

 何でもありだからです。


 そういう症候から突き詰めて行っても、鑑別が絞れないことが多いです。

 そのため、体動困難のアプローチをどうすればよいか?
 と聞かれたら、逆説的ではありますが、


 体動困難以外に注目する。

 というのがよいアプローチです。


 このように診断が絞られない症候は、low yieldと呼ばれます
 直訳は利益の少ないということです

 逆に嚥下障害といった症候はhigh yieldと呼ばれます。

 
 症候群にはlow yieldとhigh yieldがあることをまずは知っておきましょう。

 その上で、なるべくhigh yieldの症候を探しに行きます。」


S「ではhigh yieldな所見がなくて、体動困難しかなかった場合は、
 どうすればいいんですか?」

T「その場合は、体動困難の二つのアプローチを考えます。

 1つ目は、解剖学的にアプローチするやり方です
 つまり、体動困難というのは、うまく動けないということですよね。

 症候群を学ぶときに大事なのは、やられている状態から考えるのではなく、
 正常に機能している状態をまずは考えて、
 そのどこかにトラブルがあるのだろうと考えます。


 うまく体が動くためには、大脳が錐体路の神経に命令を下し、
 上位運動ニューロンから下位運動ニューロンを伝って、
 神経筋接合部に情報伝達を行い、筋肉が収縮し、関節が動き、
 骨が引っ張られるるということです。

 スムーズに動くためには、錐体外路の調節も必要になります。
 つまりこの経路のどこかに問題があれば体動が困難になる可能性があります。

 このように解剖学的に考えるのが、1つ目のステップです。

 基礎疾患がなく、若い人の場合はこのように病態生理で考えた方がうまくいきます。


 逆に2つ目のアプローチは老年症候群として考えるアプローチです。

 老年症候群とは何でしょうか?」


H「フレイルの人がなるというイメージです」

T「そうですね。フレイルがなくてもなりますが、
 フレイルがある高齢者には特に多いですね。


 老年症候群の前にフレイルを知っておきましょう。

 フレイルは虚弱と訳されますが、
 ギリギリのバランスの状態で生活している人というイメージです

 2つのR(reserveとresilience)が低下した状態ともいえます


フレイルを評価する際は、身体機能、神経精神機能、生活機能に分けられます



T「こういったフレイルが進んだ高齢者にacute problemが加わると、
 そのacute problemに特徴的な症状ではなく、違った症状が前景に立つことがあります

 
 つまりはこういうことです


 心筋梗塞の主訴が食べられなくなった
 心筋梗塞の主訴が体動困難
 心筋梗塞の主訴がレベル低下


 敗血症の主訴が食べられなくなった
 敗血症の主訴が体動困難
 敗血症の主訴がレベル低下


 脱水の主訴が食べられなくなった
 脱水の主訴が体動困難 
 脱水の主訴がレベル低下


 つまり、老年症候群の原因(acute problem)は何でもありなのです

 大事なのは、何でもありうるという視点で診察できるかどうかです




T「老年症候群を疑った場合の診察方法としては、3つあります

(1)何かひっかからないかな・・・という視点で網羅的に診察
(2)頻度から狙って診察を取りに行く
(3)見逃しがちなところを重点的に診察



T「体動困難のアプローチをまとめると、

 ①解剖や病態生理から考える
 ②老年症候群と認識する

 のどちらかになります。」

S「わかりました。ありがとうございます。」

T「ではもう少し進めましょう」




S「80歳男性です。もともとPMRに対してプレドニン12.5mg内服中でした。
  BPPVともいわれたことがあり、たまにめまいを自覚されることがあるような人です。

  バイタルは酸素化が少し悪くて、酸素を投与されて救急車で来院されました。
  現病歴としては、いつもの体動で悪化するめまいが、
  4日前から出現して、体調が悪かったようです。

  2日前に一時的に38度の発熱があり、かかりつけ医を受診されました。
  コロナは陰性でした。
  そこでレボフロキサシンとカロナールが処方されております。
  
  その後も改善なく、体調は悪いままで体動困難となったため救急車で来院されました。


T「なるほど〜

  めまいもあるんですね。
  あとは酸素化の低下もある。

  もう少し聞いてみましょうか?」


C「他に症状はありましたか?」

S「特に悪寒戦慄や咳はなく、めまいや食思不振以外に症状はありませんでした。」

M「食事が取れていなかったようですが、薬は飲んでいましたか?」


S「薬はしっかり飲んでいたようです。」


M「何を飲んでいましたか?」


   


S「記載の通りです。」


T「たくさん、のんでいますね。笑

  いつも口を酸っぱくして言っていますが、
  高尚な病気を考える前に薬のせいにしてみましょう。

  例えば、今回であればめまいもあるので、

  ワレンベルグ!

  みたいな病気をいきなり考えるのではなく、
  薬の副作用ではないか?と考えるトレーニングをしましょう。

  薬の副作用はどこかで体系的に習うものでもありません。
  医者になってからもあまり習いません。

  どうやって勉強するかというと、患者さんの薬からその都度学ぶしかありません。
  愚直に毎回調べ、薬から鑑別疾患を考えるのです。

  薬の数だけ副作用はあります。
  今回は最低、10個ストーリーを考えてみましょう。」


①利尿薬やSGLT2の脱水
②血糖降下薬に伴う低血糖
③活性型VDによる高Ca血症
④αブロッカーの起立性低血圧
⑤スピロノラクトンの高K、酸化Mgによる高Mg
⑥SGLT2による正常血糖ケトアシドーシス
⑦抗ヒスタミン薬による眠気
⑧PSL内服忘れによる副腎不全
⑨メトホルミンによる乳酸アシドーシス
⑩利尿剤による低Na

T「いいですね〜 
  素晴らしい。とりあえず、10個までいけましたね。
  この中で特に素晴らしい鑑別は⑥と⑧ですね。

  命に関わりますし、疑わないと診断できませんからね。

  他にはどうですか?」


Y「ステロイド12.5mgのんでいますが、バクタが入っていないのは気になります。
  PCPとかも鑑別ですかね。
  
  ステロイド関連で言えば、副作用はキリがなくなりますけど・・・

  あとはレボフロキサシンも低血糖になりますね。
  結核もカバーしてしまうとかも、害ですかね。」


T「そうですね。

  約1年前に診断されたPMRに対して、まだPSL12.5mg内服しているというのは、
  だいぶ違和感がありますね。
  
  減らしてきたが、再発したのか、減らせない理由があったのか・・・
  前医に確認する必要がありますね。

  では診察に移りましょう。」



S「めまいの訴えがありましたが、診察中はめまいは消失しておりました。
  
  神経診察では特記すべき異常はみられませんでした。
  
  一般診察では左下肺にcoarse crackleが聴取されました。
  左肩は動かすと痛みが出現しました。」


T「はい。ありがとうございます。

  みなさん、めまいはどうやってアプローチしていますか?」


M「えっと・・。トリガーとか、タイミングとか・・・」

T「この方の場合、どうでしたか?」

S「体動で悪化するとは言っていました。
 今まのでBPPVと同じようなめまいのようでしたが、
 このように体調の悪化や体動困難になるのは、はじめてとのことでした。

 めまいは診察時には消失しており、BPPVとして誘発試験も行いましたが、
 誘発されませんでした。」


T「そうなんです。
 高齢者のめまいは、病歴や診察でスッキリわけられないことが多いんです。
 
  高齢者のめまいは特殊です。

  高齢者のめまいのアプローチはもっと広い視点で考える必要があります。


  まずは、高齢者が正常に歩くための機能を考える必要があります。


  目で視覚的な情報を拾って、深部感覚で自分がどこを歩いているかを感じて、
  小脳や前庭でバランスを保ち、神経から筋肉に命令が伝わって歩行ができます。

  気持ちも大事です。
  
  筋力がなくなって怖いという思いが強いと、歩くのが怖くなり、
  「めまい」という訴えになることもあります。

  高齢者はこれら全部の機能が低下しています。
  合わせ技一本的に「めまい」に繋がります。

  そして、これら全てに影響を与えるのが・・・何でしょうか?」


M「血糖???」


T「まあ、確かにそうかもしれませんが・・・

  さっき、やりましたよね?」


M「あー、フレイルですか!」


T「いや、違います・・・笑

 もう少し後でやりましたよね?」


M「えーっと・・・」


T「薬です!

  さっき、みんなで考えたじゃないですか!」






T「ここでもやっぱり、薬が原因になっていることがあります。
  
 他の筋力低下や視力低下、バランス能力の低下は改善はできないかもしれませんが、
 薬の副作用でそれらが影響されていた場合、
 薬を中止することで改善が見込まれますよね。

 なので、ここでも薬がめまいの原因になっていないか?

 という思考が大事にまります

  
 今回は診察上は、明らかな神経異常はみられませんでした。
 crackleが聞こえましたので、酸素化低下や発熱と合わせて鑑別はどうでしょうか?」


C「肺炎だと思います。
 レントゲンや痰が出れば、培養を出して治療したいです。」


S「レントゲンを撮りました。
 左横隔膜にシルエットサインが陽性になりました。
 
 その後、CTまで撮影しました。 

 CTではびまん性にすりガラス影が見られていて、
 PCPが疑われる画像でした。

 入院後は気管支鏡が行われて、カリニのDNA検査が陽性となり、
 PCPとして治療され軽快しました」



T「何とまあ・・・

  それは最初の主訴では、分からないですね。笑

  ほんと、何でもありでした。


  あ、でも途中でY先生がPCPって言ってましたね。

  結局は薬が悪さしていたことに変わりはありませんでしたね。」


S「自分は最初、そこまで考えられていなかったので、
 すごいなあ〜と聞いていました」


T「さすがでしたね。

 診断上手になるためのコツは、
  薬の有害事象をいかに見落とさないかですね。
  
 大変勉強になる症例でした」

気腫性骨髄炎

 

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