2020年6月29日月曜日

昼カンファレンス 〜Red flagよりもwhyが大事〜

症例 80歳 女性 主訴:発熱、腰痛(症例は一部修正・加筆しています)

Profile:下肢の骨折後、ADLは歩行器使用し歩行できるレベル

現病歴:受診の2日前、朝からなんとなく腰痛が出現  
    特にきっかけはなかった
    それまではいつも通り元気であった
    1日前、いつもできていた家事ができなくなった
    座位もとることができなくなってきた
    受診当日、動けなくなってきた本人を見て救急要請

既往:高血圧、骨粗しょう症、胃癌摘出後、腹壁瘢痕ヘルニア
内服:アムロジピン、ラックビー、ペリチーム
生活:息子夫婦と同居

バイタル:血圧120/86、脈77回、体温 37.6度、呼吸数 16回
意識レベル クリア、見た目 not so bad
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ディスカッション①まずはICFを完成させよう


司会「はい、ありがとうございます。

   このように動けなくなった患者さんが来られた場合、
   いきなり病気を診断しよう!

   という感じで、質問し始めてはいけません。


   まだ病気を診断するための問診はさせませんよ 笑
  
   
   ご高齢の方だったり、ADLが落ちてきた人をみる時は、

   そもそものADLを確認しなければ、
  どれくらい悪化しているのかが分かりません。


   点でみるのではなく、線で捉えるイメージです。

   元々の状態のADLがかなり悪い場合があるので、
   まずはICFを完成させましょう。

   みなさん、ICFは知っていますか?」


Y「はい、この前教えてもらいました。」

司会「ありがとうございます。では聞いてみましょう。
   BADLやIADLはどうでした?」


F「 D(着替え)は自分でできます
  E(食事)は自分でできます
  A(移動)は立位になったり歩行するのはできますが、長い距離は歩けません
  T(排泄)は長い距離歩けないので、Pトイレを使っています
  H(入浴)は訪問入浴を利用しています

  S(買い物)は家族です
  H(家事)は簡単なことなら自分でできます
  A(お金の管理)は自分でやっています
  F(食事の準備)は自分でやっています
  T(交通手段)は家族の車です
  T(電話)は分かりません
  T(薬の管理)は自分でやられています」


司会「すごいね。とてもしっかりしている人だね。」

F「はい、とてもしっかりされています。」

司会「ICFをかなり詳しくとってくれて素晴らしいです。
   
   この中で、ぜひ毎回とって欲しい項目があるのですが、分かりますか?」

聴衆「・・・・」


司会「みなさん、外来でご高齢の方が一人で来た時にどうやってその人が来たか気になりませんか?

   この杖をついているお婆ちゃんが、どうやってここまでたどり着いたのだろう?
     
   誰かが送り届けてくれたのか?タクシーできたのか?

   バスを使ったのか?歩いてきたのか?

   と疑問に思うことが重要です。


   今日はどうやってお越しになられたのですか?


   という質問はとてもたくさんの情報が得られる質問です。

   バスを使えるくらいなら認知機能は保たれているな、と思いますし、
   タクシー使うなら、経済的に豊かなのかな?と思いますし、
   誰かに送ってもらったのなら、家族背景も少し見えてきます。
  
   はい、では他のICFを埋めていきましょう。」


Y「何か、参加はされていますか?」

F「特に参加はしていません。畑に行ったりはします。」

司会「介護度は?」

F「要介護1です」

司会「はい、ありがとうございます。
   
   ではそろそろこの人の人となりが理解できましたでしょうか?
   
   では症状について詰めて聞いていきましょう」
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腰痛について追加病歴

F「腰痛は2日前に起きたらいつの間にか痛かったようです
  前日は痛みはなかったです

  痛みを点数で言ってもらわなかったので、自分が感じた点数で言いますと、

  最初は6/10くらいの痛みで、動くと悪化していました
  徐々に痛みが悪化してきて、今は7/10くらいの痛みです。

  寝ていると、痛みは和らぐようです
  ですが、0にはなりません。

  1日前から発熱も自覚しています。
  それ以外のROSは特にありません。」

司会「はい、ありがとうございます。
  この図を描けるような問診をすることが大事ですね。

  痛みを点数で言うことができない人もいますので、
  その場合はこちらで代弁してもいいと思います

  イメージとしては、
 5/10以上の場合は日常生活ができないくらいの痛み、
  と理解しておくと良いと思います。

  時々、VASをつけると、

  10/10で痛いっす。

  って言うわりにけろっとしている人いますよね。
  
  関節リウマチの時の評価にも、患者さんのVASとDrがつけるVASがあります。

  なので患者さんがいうVASの点数ももちろん大事ですが、
  医者がつけるVASも大事です。」

T「尿は出ていますか?」

F「はい、出ています。」

司会「それは、膀胱直腸障害に思いを馳せた質問かな?」

T「そうです。」

司会「なるほど、でもそれだと溢流性の尿失禁でも尿はチョビチョビと出てくるので、
   尿は出ています、という答えになってしまうよ。」

T「そうですね、尿の出が悪いなと感じたり、尿意はありますか?」


F「はい、尿の出は悪くないです。しっかり出ています。」




司会「はい、ありがとうございます。
   他に何か聞きたいことはありますか?」

聴衆「・・・・」


司会「ではみなさん、Red flag signって聞いたことありますか?」

T「あります。えっと、熱があるとかですか?」


司会「そうですね、この人はすでに熱がある時点でflag 立ってますね。
   
   他にもRed flag signってたくさんありますね。
   病歴と身体所見で分けたりもします。   

   体重減少とか、ステロイドユーザーとか、悪性腫瘍の既往とか、・・・


   まあ、ぶっちゃけこんなの覚えなくていいです。 笑

   
   red flag signなんて覚えるものではありません。

   腰痛で見逃してはいけない危険な疾患を想起できれば、
   何を聞けばいいかは自然と湧いてきます

   
   つまり、何を(what)聞けばいいかが大事なのではなく、
  なぜ(Why)その問診をとるのかが大事です



   致死的な疾患ををひっかけるための問診が、red flag signです


   red flag signばかり覚えてしまっては、応用が効きません。

   
   胸痛の時はfour killer chest painって言う格好いい名前がありますが、
   腰痛の時はそんな格好いい名前は、特にありません。

   さて、腰痛で見逃してはいけない疾患は何があるでしょうか?」


T「腸腰筋膿瘍!」

司会「そ、そうだね。(やたらピンポイントで来るな・・・)

   他には?」


Y「大動脈解離とか、急性膵炎とかも、腰痛できますかね?」


司会「そうだね。素晴らしい。
   内臓系も忘れてはいけない鑑別だね。
  
   うちの病院だと、外傷系と内科系で問診票が分かれています。
   
   あれって実は凄まじいバイアスになってしまうんだ。
   (yellow paper biasと名付けます 笑)

   外傷系の紙で腰痛が主訴だったら、
   整形的な腰痛ですね。って頭が勝手に判断して、
   内科的な疾患を想起できなくなることがあります。


   あと、湿布ね。

   湿布貼ってあったら、もう整形的な腰痛にしか見えませんよね。
   (湿布バイアスと名付けます)

    なので、僕は湿布を見つけたらまずは剥がします。
    数分前に貼ったと言われても剥がします。
   
    理由は湿布があると、整形的な腰痛に見えてきてしまうことと
    その下に帯状疱疹の発疹が隠れていることがよくあるからです。


    はい、他に危ない腰痛と言えば何がありますか?」


H「破裂骨折とか、腫瘍とか」


司会「はい、ありがとうございます。
   
  みなさん、ピンポイントで覚えていると忘れますので、
  処置で覚えた方が見落としが少ないですよ。


 ①整形処置が必要になる病気
 (1)ドレナージ:腸腰筋膿瘍、硬膜外膿瘍、椎間板炎
 (2)除圧:硬膜外〇〇系(血腫、膿瘍、腫瘍)、ヘルニア、破裂骨折、骨メタ


 ②内科的緊急疾患
  大動脈解離、AAA、急性膵炎、閉塞起点のある腎盂腎炎




   
  ①の疾患はすぐに整形外科をcallしなければいけない病気です
  ですが、普通にCT撮ってもわからないことが多々あります。

  膿瘍であれば造影しないとわからない時もありますし、
  椎間板炎や硬膜外〇〇の場合、MRIが必要なこともあります。

  硬膜外血腫はCTでその目で見れば見えますが、
  みなさん、あの小さな脊柱管の中に思いを馳せたことはありますか?


  よくみると血腫の場合は、highになっていることがあるので、
  疑った場合はその目で見てください。


  ②の内科的緊急疾患を疑った場合に大事なのは超音波検査をすることです。


  腰痛の場合は、この①と②を分けることがとても大事です。
  よくある分け方は、体動での増悪の有無です。

  整形外科的な疾患の場合は、体動で増悪することが多いので、
  体動で増悪があるかどうかは必ず聞きましょう。

  もちろん、体動での増悪がなかったとしても全ての整形疾患の否定にはなりません。
  
  そして内科的な疾患でも腰痛から筋肉の緊張によって筋膜疼痛を合併することがあるので、
  体動での増悪の有無だけでクリアカットに分けない方がいいと思います。


  結局、腰痛の患者さんを見たら(ほぼ)全ての症例で超音波を当てます。


  そのままハイドロリリースに流れ込むことも出来ますし・・・」


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身体所見

心雑音 収縮期雑音あり
肝巧打痛なし
腹部 平坦 軟 圧痛なし
右の腎把握痛が陽性
右の傍脊柱起立筋で圧痛あり
右CVA巧打痛陽性

下肢 筋力低下なし 痺れなし
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ディスカッション②鑑別疾患と今後の対応は?

司会「はい、ありがとうございます。では、ここまでで鑑別をあげてください。」

T「腸腰筋膿瘍!」

Y「腎盂腎炎」

聴衆「圧迫骨折、椎間板炎、硬膜外〇〇・・・」


司会「はい、ありがとうございます。
           腸腰筋膿瘍好きだね。笑

   そうですね。炎症(発熱)+腰痛ですので、
   やっぱり椎間板炎が一番可能性としては考えますね。

   と言うことは、CT撮っても何も鑑別は変わらないと言うことですね。
   CTではなかなか分かりませんから。
  
   圧迫骨折とかあれば、他の代替疾患がわかればいいですけど。

   さて、検査結果はどうでした?」


F「血液検査では炎症反応が軽度上昇していました
  他、特記事項はありませんでした。

  尿検査では白血球が1+でした。細菌尿はなかったです。

    CTでは特に異常所見は指摘できませんでした。

  この時点では腎把握痛やCVA巧打痛、炎症反応あり、
  膿尿の所見から腎盂腎炎としてCTRXで抗生剤の治療が開始され、入院となりました」


司会「はい、ありがとうございます。

   さあ、みなさんどうですか。ご意見ください。

   批判的でもいいですよ。 笑」


H「この時点では椎間板炎も否定はできないと思います。

  椎間板炎だった場合、長めの抗生剤治療になってしまうので、
  できれば起因菌を捕まえてから治療を開始したいです。

  ですので、血培をとって経過観察目的で入院にするかなと思います。」

  
司会「はい、ありがとうございます。素晴らしい、大人の対応ですね。

   とりあえず、発熱+腰痛→腎盂腎炎にしてしまって、早く治療したい!


   という気持ちはとてもよく分かりますが、椎間板炎の治療は待てることが多いです

   鑑別に椎間板炎があるのであれば、起因菌を同定してから抗生剤を開始するのが良かったのかなと思います。


   自分だったらこの症例は、抗生剤フリーで入院にします。

   入院後すぐにMRIをとって、椎間板炎らしさがあれば、
   整形にコンサルトして、穿刺吸引してもらい、
   そのG染色の結果や所見を見て、抗生剤を開始するかなと思いました。」


M「なるほど、そうですね・・・

  その時は、腎臓に嚢胞もあったので、そこに感染していたりするのかな、
  とも思ったりしました。」


司会「そうねえ。でも、体動で悪化するからね。


   ・・・というか、よく見ると腰椎折れてない?」


F「えーーー????」
  

司会「新規の腰椎圧迫骨折ってMRIでないとわからないと言われますが、あれは嘘です。

   もちろん、MRIじゃないとわからないという時は確かにありますが、稀です。


   これまで何人も腰椎の圧迫骨折の患者さんを受け持ってきましたが、ほとんどCTわかりました。

   
   ポイントはsagitalで骨のずれを探します。

   一スライスではなんとも言えないので、数枚のスライスでずれているかを探します。
   そしてよくみると、椎体の中に黒い帯が見えます。


   慣れてくると、折れている部分が目に飛び込んでくるようになります。

   あたかも、3つ葉のクローバーの中に、4つ葉のクローバーがあるような感じで、
   違和感を感じられるようになります。


   でも、この症例、読影でも骨折とは読まれていないでしょ?」


F「何も読まれていませんでした。

  ですので、MRIをとりました。」



MRIでは腰椎の折れていそうな部分に信号変化があった。


司会「うーん、やっぱり折れているように見えるね。
   でも椎間板炎の波及でもいいかもね。

   放射線の先生にまた確認してみてください。」


F「はい。わかりました。」


司会「はい、ということで今日の症例は高齢女性の発熱と腰痛の方でした。

   腰痛の場合、
  red flag を覚えるよりも、 
  whyの危ない腰痛が何であるか、を想起できるようになりましょう。
   
   危ない疾患は整形外科の疾患と内科的疾患で分けて想起することがコツでしたね。


   

   はい、ありがとうございました。」


まとめ
・腰痛は内科的疾患と整形外科疾患が混ざり合うので、鑑別が広く難しい
→体動、湿布、外傷の問診票に騙されないように!

・腰痛の場合のred flag signの意味を考える
→危ない腰痛を想起できれば、red flag signを覚える必要はない

・安易に腎盂腎炎や非特異的な腰痛と言ってはいけない
→椎間板炎を疑ったら、抗生剤投与はいったん保留。起因菌を同定する努力を!







2020年6月28日日曜日

老年医学・高齢者医療の3つの考え方 

老年医学・高齢者医療で大事にしていることは、この3つです

①2つのレール
②適切な仮説を立てて、仮説に沿って進んでいくこと
③診断や治療を目的としてはいけない
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①2つのレール

今まで元気であったご高齢の方が入院しました

だんだん医者として慣れてくると、
その患者さんの最後の落とし所まで想像することができるようになります

高齢者が食べられなくなった場合、血液検査やCT検査、胃カメラはすぐに行われます
そして薬の見直しも重要です


参考:高齢者が食事をとれなくなったら


それらの検査で原因がわからなかった時の落とし所は、
副腎不全やうつ病、結核性髄膜炎といった疾患が考えられます


本気で調べるとしたら、何をするかをまずは考えます(医療のレール)

次に、その全てを実行するのではなく、
患者さんの希望や患者さんのこれまでの人生を聞きます(患者さんのレール)

この2つのレールを重ねていくイメージで検査を進めていきます



この考え方は家庭医療的な学術用語でいうと、

PCCM(patient-Centered  Clinical  Method)、
患者中心の医療の方法と呼ばれます

ですが、いきなりPCCMを全て理解するのは難しいので、
まずは2つのレールという考え方を身に付けてください

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②適切な仮説を立てて、仮説に沿って進んでいくこと

原因不明な状態や今後の見通しが立ちにくい状態では、
仮説を立てるというのは、非常に大事です

近未来を想像できないと手探りの毎日になってしまい、
患者さんも家族もスタッフも不安になります


そんな場合は得られた情報から、適切な仮定を立てます


現状ではこの疾患の可能性が高いので、こんな治療を試してみます
〇〇くらいで改善が見込まれますので、その時点で再評価します

というような感じで、ある程度の具体的な見通しを立てることが大事です


看護師さんとうまくコミュニケーションがとれない先生は、
この仮定ができていないことが多いです


先生が何を考えているかわからない、
今後の予定を教えてください

とよく言われる先生は注意が必要です(自分もですが・・・反省)


仮説を立てる時は、なるべく良い仮説を立てましょう

みんなが頑張れる仮説がいい仮説です


高齢者が食べられなくなった場合、
本当に何を調べても原因がわからない時には、5つ考えるようにしています
(あんまり大きな声では言えませんが・・・)

① アパシーによる食欲低下:アリセプトを試す

②パーキンソニズムによるうつ傾向・食欲低下:Ldopa製剤を試す

③高齢者うつによる食欲低下:抗うつ薬(リフレックス®️など)を試す

④機能性ディスペプシアやGERDによる症状:ガスモチン、六君子湯を試す

⑤副腎不全による症状:ステロイドを試す
 (もちろん、Lapid ACTHできる状況なら診断確定させてから。
  ただ寿命が限られており、余命が1ヶ月以内と判断した場合は検査せずにいれる場合もあり)

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③診断や治療を目的としてはいけない

昔の自分は、病気をなんでもかんでも診断したり、
病気を治療することは、患者さんのためになっている

と 信じていました

今になって考えれば過剰であったと反省しています


診断をすること、治療をすること、
それはとても素晴らしいことですが、それが医療の目標ではありません

そこは氷山の一角で、大事なことはもっと下にあります

本当の目標は、患者さんや家族が幸せになるということです

診断や治療は患者さんが幸せになるための手段であって、
目的ではありません


「人をhappyにする」という信念は、
学生時代に行った北海道の実習先の病院の先生に教えてもらいました

いったん忘れかけていた信念ですが、また思い出しました

人との出会いや言葉の出会いは大事ですねえ(しみじみ)

夜間や休日に他の担当医の患者さんのことで看護師さんから呼ばれたら・・・

当直中や待機の時には自分の患者さん以外でも何かトラブルがあれば、

看護師さんからコールがあります

よくあるのは、転倒です

ある程度、呼ばれる理由も決まっていますし、やるべきことも決まっていますので、
カルテにはフォーマットとして作っておくのも選択肢かと思います
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(以下、記載例)

○時○分、 酸素化低下でコール

ナースより:検温でバイタル測定すると、SPO2 80%と低下あり
      夕食も普通にとれた、痰がらみはなし

バイタル:BP 60/40, P 88,  SPO2  80%, RR  20, T 36.8
     意識 レベルいつもより低下あり

訪室し診察
(S)

(O)

(A)
大腿骨頸部骨折術後、2週間目で数日前から歩行開始となっている患者さん
脳出血の既往あり、抗凝固薬の使用はしていない

鑑別:PE・・・

(P)

みたいな感じです
意識しているのは、

いつコールがあったか?
バイタルはどうか?

ということです
看護師さんのカルテに書かれていることが多いですが、
自分も意識していることを皆さんに伝えるために、あえて書きます
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さて本題

休日の待機:研修医の先生より電話あり

研修医「〇〇先生がみている患者さんで、酸素化低下で看護師さんよりコールがありました。

    大腿骨頸部骨折術後の90歳の男性で、リハビリ中でした
   
    先ほど急に酸素化が低下して、 
    SPO2 80%台になって、血圧も下肢挙上しても60/40しかありません。
   
    肺塞栓とか考えた方が良いでしょうか?」

T「そうだね、その状況ならPEは考えないといけないね。
  じゃあ、造影ルートで点滴とって、採血して、心電図とって対応しようか。
 
  急変時の対応はどうなってる?」

研修医「えっと、DNARになっています」

T「(DNARか・・・)
  了解です、もう少ししたら行きますね。

   家族も呼んでおいてもらえますか?」

研修医「はい、分かりました。」
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夜間や休日に他の担当医の患者さんのことで看護師さんから呼ばれたら・・・

①今の状況を把握する
②過去の人生や物語を知る
③未来を予測する

の3ステップで考えます


①今の状況を把握する

当たり前ですが、今の状況を把握するというのが大事です

何が起きているか?

大事なのは、バイタルと診察と看護師さんからの情報です
そして、最近の治療経過や薬の内容をチェックします

急変時の対応も確認します

注意が必要なのは、急変時の対応を確認されたのが、はるか昔ということもあるので、
いつ最後に家族と急変時の対応について、話合われているかも確認します

①の時点で、ある程度の鑑別疾患を想起し、次に何の治療や検査をすべきかを考えます
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上記の症例でもう少し情報を加えると、

頸部骨折は3ヶ月前で、それ以来、フレイルが進行し寝たきりの状態
今は嚥下が落ちてきており、
そろそろ看取りの可能性も出てきている人であった

食事はとれたりとれなかったりで、点滴も数日前に抜去していた
治療はデジレルしか内服はなかった

血圧はもともと80台で低かった
もともと 受け答えもyes,noくらい

診察しても 指示は入らなかった
血圧は生食が少し入って、80台に戻ってきていた

見た目はるいそうが進んでおり、ぐったりされていた
呼吸は浅い
四肢は浮腫はなく、痩せている
皮膚は乾燥していた 
冷や汗はなく、末梢は冷たい

内頸静脈の怒張はなく、JVPの上昇もみられなかった


ということで、鑑別は肺塞栓や心不全、心筋梗塞、肺炎、脱水が挙げられた

ポイントは、どこまで検査や治療をするかということです

そこを考えるために、過去の人生や物語を知る必要があります
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②過去の人生や物語を知る

人生の終末期に来ている人が、急変した時に侵襲的な治療をするでしょうか?

例えば、カテーテルやtPA、挿管、CV、昇圧薬・・・

もちろん、主治医に電話で確認することも重要ですが、
カルテ記載を見れば、ある程度分かります

カルテはその人の人生の物語の一部です

そして、

今の状態は物語の最後の1ページをみているに過ぎません


最後の1ページをみただけでは、その方の人生は分かりません

ということは、どんな治療をすべきかということも分かりません


時間があるのであれば、これまでの患者さんや家族と主治医の面談記録や
治療経過を確認することが重要です
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この患者さんの場合は、終末期にさしかかっており、
食事摂取も厳しくなってきている状況であった

主治医からも急変のリスクについてやその時の対応については、DNARであることも
今回の入院中に確認されていた
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③未来を予測する

この患者さんが肺塞栓だったとして、果たしてtPAや持続のヘパリン、カテ、手術するかどうか?

血圧が下がったら、昇圧薬使うか、ICU管理するか
酸素化下がったら、NPPV使うか、挿管するか

②が分かっていれば、そのような処置はしないという答えになると思います

となると、検査する意味はあるのであろうか?
どこまで検査すべきか?

という問いになります

ここからはケースバイケースで 、
家族や主治医と相談で話し合って決めるのが良いとは思いますが、
ちゃんとしたカルテが書いてあれば
カルテをみただけでもある程度の判断は可能です


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人手が足りない病院は、
止む無く主治医制(休日、夜間でも1st call1)になっている病院もあると思いますが、
今後、いつまでも主治医制をとることはできません

このコロナ禍では、
自分の患者さんのことで、自分が全部対応するのは難しくなってきています

いつ自分がコロナの濃厚接触者になるか、
いつ体調不良で休むまなければならないか、分かりません

考え方は「絶対に俺は休まない」ではなく、

「いつ自分が休んでも大丈夫なようにしておく」という考え方です


医者の仕事は属人化しやすく、そして属人化することは決して悪いことではなく、
むしろ美学である

という変な空気があります

(特に若いイケイケの医者と、昔のお医者様に・・・
 でも安心してください
 昔の自分はそうでしたので、人は変われます 笑)


私たちの仕事が属人化しないためには、どうすべきかを考えなければなりません

それは患者さんへの責任の放棄ではありません
むしろ患者さんのためです


属人化を防ぐとなると他の人にお願いする機会が必ず出てきます

カルテはそのためにあります

そのことを意識して、毎日のカルテを書きましょう

回診 〜鳥の目の重要性〜

研修医の先生と回診

症例 88歳男性 主訴:浮腫
(症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:高血圧で近医通院中、ADLはつかまりながら歩行可

現病歴:3ヶ月前から下腿浮腫あり
    近医にて利尿剤の調節を受けていたが、改善せず
    来院日、発熱認めたため、近医より蜂窩織炎疑いで紹介

既往歴:高血圧、腰部脊柱管狭窄症
内服薬:ARBとCCBの合剤、ダイアート
生活:妻と二人暮らし

バイタル 体温37.7度、血圧140/90、脈88、SPO2 96%、呼吸16回
呼吸音 清 心雑音なし
腹部 平坦 軟 圧痛なし
下腿 両側共に著明な浮腫あり
発赤はわずか 圧痛はなし

血液検査 CRP軽度上昇、軽度貧血、肝胆道系酵素上昇なし、Cr1.2
電解質異常なし 甲状腺ホルモン正常

尿検査 膿尿や細菌尿なし

CT 左胸水中等量 肺炎像なし その他特記事項なし

ECG 洞調律 STーT変化なし 

UCG 心機能良好、心嚢水なし、DVTなし

血培採取

高血圧で近医通院中の88歳男性
既往はないが、認知症もありそう
蜂窩織炎での紹介であったが、下腿浮腫は著明であるが、
蜂窩織炎様ではなく、全身状態も良好なため抗生剤フリーで経過観察目的に入院
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ディスカッション①何を考える?

T「・・・という患者さんが入院になったね。カルテよんだ?どう思う?」

研修医「うーん、浮腫の原因がよく分かりませんね。

    蜂窩織炎という名目で紹介になっていますが、 
    蜂窩織炎ではなさそうという記載ですし。

    熱源はどこなのでしょうか・・・」

T「そうだね、なんだろうね。
  浮腫の原因は一般的に何があるかな?」

研修医「臓器ごとに考えていくと、
   心臓、腎臓、肝臓、内分泌、あとは薬剤性とかでしょうか」

T「そうだね。

  なんらかの症候に出会った時に、
  病気を鑑別にあげるのと同時に、
  その症候を起こす薬は何があるか、
  という薬の副作用を考えるのも大事です。

   この人だったらカルシウム拮抗薬飲んでるから、怪しいね。

   他にも浮腫を作る薬はたくさんある。

   甘草が入ってる漢方だったり、チアゾリジン系の薬だったり、
   ステロイドなんかもそうだね。
  
   他の浮腫の分け方は知ってる?」

研修医「全身性か局所性かで分けたり、
    炎症があるか、ないかで分けたりします。」

T「その通り。
  この人の場合、両足にあるし全身性なのかな?
   
  炎症はありそうだけど、浮腫とどう関係があるんだろうね。
  
  浮腫のメジャーな原因はあげてくれた通りだけど、
  このメジャーな原因でなかった場合に何を考えましょうか?」


研修医「うーん、例えば、ビタミンB1欠乏とかでしょうか」


T「そうだね。そんな感じで、マイナーな浮腫の原因も知っておくと、
  メジャーな浮腫の原因でなかった時に、次に進めるんだ。

  マイナーな浮腫の原因も知っておくと、慌てなくてすむようになるよ。




T「じゃあ、見にいこうか」
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実際に診察(そこでの思考は青文字です)

ベッドに腰掛けて座っている
辛そうな様子はない、呼吸も早くない
話しかけると会話可能
ただ、会話の返事や動作がとてもゆっくり
難聴も強い

返事はしてくれるが、なんとなくテンポが悪いなあ
パーキンソニズムの寡動か?
表情も硬いし。。。
ひとまず、意識障害のチェックのため見当識を確認しよう


場所 OK、時間 ×、人 ×
指示入る

離握手可能
しっかりは握り込めない
本人は痛いという

やはり見当識障害はある、認知症なのであろう
手を見ると厚ぼったい手をしている
しっかり握れないのは、浮腫があるためか?
だが、本人は痛いと言っている
ただ浮腫があるのではなく、これは腱や関節の腫脹か?
となると、浮腫+関節炎でRS3PEが疑わしいなあ
よし、万歳させてみよう


万歳してもらうと、両肩が痛くて挙上制限あり

あーやっぱり、PMR/RS3PEだ
だから体が痛くて、動きがゆっくりだから、
パーキンソニズムに見えたのか
PMRの鑑別にパーキンソン病があるから、
あとで、rigidityチェックしよう
PMRを軸にpivot and cluster的に考えると、
IEの除外が必須だ
よし、IEの身体所見をとりつつ、全身の診察をしよう


眼瞼結膜 出血班なし 口腔内 やや不衛生
心雑音なし  呼吸音 左背側下部で減弱

やっぱり呼吸音は左背側で減弱している
CTでも左で胸水あったからそりゃそうだよな
聴打診法してみよう


左で聴打診で音が大きくなる部位が右よりかなり高めだった

胸水みるときはこの所見がやっぱりいいなあ
さて、他のIEらしさとPMRの所見を見てみよう


皮膚 塞栓兆候なし 爪 爪下出血なし
関節 手は全体的に厚ぼったい感じ 
   しっかり握れず
   腫脹:右手、左手、圧痛:右手
ニア 両側陽性、ホーキンス 両側陽性
大腿外側や坐骨結節部位に圧痛あり
背部 巧打痛なし

rigidityなし

インピンジメントサインがしっかり陽性になるし、滑液包炎なのだろう
でも右手関節の腫脹があるし関節炎も合併しているみたいだ
よし、超音波しよう


超音波所見
両側肩関節に滑液包がしっかり確認できた 左>右
右手関節の滑膜炎あり
カラードプラもしっかりのる
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ディスカッション②さあ、何を考える?

T「病気はなんだと思う?」

研修医「PMRでしょうか。PMRやRS3PEにしては浮腫が強い気もしますが。」

T「そうだね、いつ気がついた?」

研修医「先生がインピンジメントサインをとり始めたところくらいからです。」

T「了解。
  
  PMRって実はあんまり細かい診察しなくても、
  動きを観察していれば、なんとなく分かります。

 RS3PEのゲシュタルトやプレゼンテーションってわかる?」

研修医「いえ、教科書的な知識しか知りません」


T「近医から利尿剤使っても治らない心不全で精査加療目的で紹介になって、
 よくよく診察してみると、関節や体中を痛がり、
 そして、臥位から座位への起き上がりが非常に時間がかかる高齢者

 というのが、典型的です。」

研修医「この方じゃないですか?」

T「そうなんだよ。この人のプレゼンテーションなんです。
  ここまで来ると、RS3PEやPMRの診断って簡単そうでしょ?

  でも僕らは初めまして、だからこそわかるんだ


  入院して診察してみると、おかしいところが見えやすいけど、
  一緒にいた家族やかかりつけの先生だと、
  徐々にADLが落ちてきたりすると、まあ歳のせいかなってなるのも無理はないよね

  元々他に何か痛みがある病気(OAや脊柱管狭窄症)があると、
  PMRが加わってもなかなか分かりにくいことも多い

  さらに認知症があると、自分の症状をうまく伝えられないから、
  もっと分かりにくい」

研修医「この方じゃないですか?」


T「そうなんです。
  
 PMRとかRS3PEってみる人がみれば、すぐに診断できてしまうけど、
 その目で見れるかというところに全てがかかっています。

 しかもその目は、身体所見における鳥の目の段階でわかってしまうことが多いです

 鳥の目、つまり、パッとみた印象で、

 あ、PMRっぽいなあ

 となる

 次は、虫の目を使ってインピンジメントサインや関節の所見を探しに行きます
 
 身体所見で鳥の目を意識することは非常に診断に有用です

参考:身体診察


研修医「確かに。。。最初、出会っても全然思いつきませんでした。」


T「そうだね、鳥の目の時点で気がつけないと、
 浮腫が目立つ人だから、浮腫の鑑別のために、
 虫の目を使って心不全の診察やDVTではないか?

 ということが気になってしまうよね。

 鳥の目でPMRを想起できなかった時は、こう考えるくせをつけておくといいよ。

 急に動けなくなった高齢者をみたら、
 必ずPMRを鑑別にあげる

 
 動けなくなったのは、痛みがあるからではないか?と思うようにします
 
 簡単に歳のせいにしてはいけません。」


研修医「なるほど、分かりました」


T「では、PMR/RS3PEを考えたら次はどう考えましょうか?」

研修医「側頭動脈炎とか腫瘍がないかを考えます」

T「そうだね、それも大事。
  
 でももっとざっくり分類して考えるといいですよ。
 
 例えば、PMRの治療はなんですか?」


研修医「ステロイドです」

T「その通りです。

 ですので、治療で分類するという方法はかなり使えます。

 ①ステロイドで効果があるグループ:
  血管炎、ANA関連疾患、リウマチ、偽痛風・痛風
 
 ②ステロイドで効果がないグループ:
  パーキンソン病、薬剤性、骨メタ、骨軟化症

 ③ステロイドで悪化するグループ:
  IE、化膿性関節炎・椎間板炎、膿瘍


 といった感じで、鑑別を考えます
 
 中でも一番大事なのは、感染症です
 
 ですので、
 PMRを疑った時に、
  検査を一つだけするのであれば、絶対に血培をとります

 これは本当に大事なことです。

 これまに何度もステロイド入れようかなという誘惑にかられた時に、
 血培に救われてきました。」




研修医「そうなんですね、分かりました。
   この方も血培は2セットとられています。
   
   追加でとったほうが良いでしょうか?」

T「そうだね、PMRというためにはたくさん疾患を除外しないといけないし、
  ステロイド投与前にチェックしないといけない項目もたくさんあるから、
  どちらにせよ採血はとる必要があります。
  
  IEを疑うなら、3セット必要ですし、血培も1セット追加でとりましょう。」



結局、リウマチ因子が著明高値であった

関節炎所見が目立つことやリウマチ因子が高値であることから、
高齢発症のリウマチがPMR/RS3PE様に発症したと考えた

高齢発症のリウマチは最初はPMRと鑑別が非常に難しい

PMRは急性に発症し、リウマチは徐々に発症するので、鑑別は簡単という先生もいますが・・・

認知症がある高齢者の場合は病歴がうまくとれない時があるので、
やっぱり難しいと思います

PMRと思って治療していたけれど、治療経過でRAに診断を修正することもあります
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まとめ
・認知症が合併している人のPMRやRS3PEは診断が難しい
→急に動けなくなった高齢者をみたら、パーキンソン病かPMRを思い浮かべる

・PMRは外来よりも、入院してベッドで寝たり起きたりする様子をみると、よくわかる
→PMRは鳥の目でみてわかる病気

・原因不明の浮腫の鑑別にRS3PEをあげておく
→マイナーな浮腫の鑑別を知っておくと、外来で困らない

 

2020年6月25日木曜日

肝血管腫 〜いつものあいつが原因?〜

一人の内科医がカバーできる病気や出会える患者さんは、限られています

ですので、カンファレンスや勉強会で、
他の人が経験した症例から学ばさせてもらえることはとても貴重だと思います


今日は外来患者さんの不明熱の相談症例です
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消化器内科N「先生ー、外来で熱の原因が分からなくて困っている人がいます」

T「どうせ、サイトメガロか亜急性甲状腺炎でしょ?」

N「いやあ、でもリンパ節も腫れていませんし、肝酵素も上がっていないんですよ。
  
  そんな、面倒臭がらずに、まあ、聞いてくださいよー

  生来健康な40歳女性で、2週間前からの発熱です
  寒気があって熱を測ると、38度ありました
  他に症状はありません

  薬は飲んでいませんし、既往も特記すべきものはありません

  近医にいって採血とCTがとられました
  血液検査でCRP5と上昇していて、
  単純CTでは肝臓に腫瘤性病変があって、精査目的に紹介になりました

  僕もフィジカルとったんですけど、リンパ節も腫れていなかったですし、
  咽頭もきれいで、甲状腺に圧痛はなかったです
腹部は圧痛はなくて、肝巧打痛もなかったです

  他に身体所見上は熱源になりそうなところはなかったです
  もちろん、IEらしい塞栓兆候や心雑音もなかったです


  造影CTすると、肝の腫瘤は明らかに血管腫でした 
  
  それ以外に膿瘍もないですし、肺炎像もなかったです。
  尿検査も膿尿や細菌尿はありませんでした

  元気だったので、血培やだけとって、また外来フォローにしたんですけど、
  今後どうしたらいいでしょうか?」


T「ふーん、肝臓は血管腫だったんだね。ヘェ〜
  
  (画像見ながら・・・)

  あのさぁ・・・血管腫ってこんなに大きかったっけ???

  10cmくらいあるよ。

  めちゃくちゃ大きいね。これ、やっぱりおかしくない?」


N「あー、まあそうですね、普通の血管腫に比べるとだいぶ大きいですね。
  
  でも血管腫って熱出るんですか?」


T「こんだけ大きかったら、出てもいいんじゃない?
  
 あと凝固異常きたすことあるよね?
 カッサバッハメリット症候群だっけ?
 国試の勉強でやったよね。小児の首の巨大な血管腫のやつ。
 
 凝固大丈夫?」

N「そうなんですね。。。測っていなかったです」


T「じゃあ、また来たら測ってね

  あ、やっぱり巨大な肝血管腫ってFUOの原因になるらしいよ。
  google 先生すごいね〜」


N「そうなんですか・・・」
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肝血管腫について

健康診断のUSや他の目的で撮影されたCTで偶然見つかる機会が増えている

良性の肝臓の非上皮性腫瘍で基本は無症状
サイズも小さいものはフォローは不要のことが多い

女性ホルモンが増大に関与している可能性があり、
増大傾向にある場合、ホルモン剤の使用を聴取する必要がある

10%くらいが多発性


肝血管腫が悪さする時

大きくない血管腫は何もしない
5cm超えてくると悪さする可能性があり、
手術になる時は10cm以上のことが多い

症状出るとすれば、心窩部痛や早期膨満感などが多い

不明熱の原因になることもあるが、非常に稀
膿瘍合併例もあるが、これも稀

大きければ他の構造物を圧排することもあるし、稀に破裂する


大きければ大きいほど、凝固異常を合併する可能性が高くなり、
カッサバッハメリット症候群をきたす

もちろん、悪性が否定できなければ手術が望ましい


悪さをするときが治療を検討するタイミング

治療はTAEや手術になることが多いが、放射線も選択肢になる


肝血管腫とFUO

大きなものはFUOの原因になりうるが、レア
熱だけで、症状はないこともある

他に何もなければ、手術に踏み切る症例もあるが、とても勇気がいる

いきなり熱源を肝血管腫に結びつけるのではなく、
他の原因をとことん探すことが大事


今の時代ならPETまでとって、肝血管腫が光れば、切除の流れになるのかもしれない




まとめ
・人の症例から学ぶ

・肝血管腫は5cm以上あれば、悪さしてくることがある
→小さければ、放置

・肝血管腫はFUOの原因になるが、
他の病気をとことん除外することが大事


参考文献:uptodate
youtubeの追加解説動画:https://youtu.be/4GnGSxBolVc


2020年6月23日火曜日

昼カンファレンス 〜2つのレール〜

95歳 女性 主訴:意識消失で救急搬送

救急隊「施設からの搬送です。
    トイレの後から反応が鈍くなった95歳女性です
    酸素化も低いとのことで、依頼がありました。

    バイタルはBP68/45,P70,Spo2 80%,T ?,RR 24です
    意識は今はクリアです。

    5分後にそちらに到着します。お願いします」



D「・・・・という一報でした。」

司会「はい、ありがとうございます。
   でましたね、トイレ後に具合悪くなるシリーズです。

   僕はですね、普通の症候学が飽きてきたので、
   こういうニッチな症候群をまとめるのがとても好きです

   トイレ後に具合が悪いというのは、実は臨床しているとよく経験します。

   ではみなさん、一緒に考えてみてください。」


学生「迷走神経反射が起きます」

司会「そうですね、排便を我慢していたりすると起こる人もいます。いいですね、
   他にはどうですか?」

学生「大量に下血してしまう人もいますか?」

司会「そうですね、大量に消化管出血を起こして、排便後に失神してしまう人もいますね。」

学生「大動脈瘤破裂」

司会「いいですね、今度はいきんで血圧上がる側ですね。
   血圧が上がって、大動脈解離を起こしたり、脳出血・SAHを起こす人もいます

   あとは、どうですか?」


消化器内科Dr「ずっと寝ている人が久しぶりにトイレに歩いたら、
       肺塞栓とかもあり得ますかね?」

司会「あり得ますね、入院中の肺塞栓の人の発症は自分の経験からは、
   トイレに行こうとしたら、倒れた。というシチュエーションが多いですね。
   
   他にはどうですか?
   例えば、トイレに行った後に頭痛がおきた場合は、脳出血やSAHを考えますが、
   CTで出血なかったらどうでしょう?」


聴衆・・・・


司会「RCVSという血管が脳の攣縮する病気があります。
   RCVSは非常に強い頭痛で、SAHと病歴からは見分けがつきません。
  
   多くはSAHを疑ったが、CTで出血がなかった時に想起されます、
   RCVSには誘引があることが多く、経験したのは、
   トイレやシャワーですね。

   その度にとてつもない頭痛が来るので、患者さんはトイレが怖いと言っていました。」


司会「はい、という感じで、トイレ後に具合が悪い人をみたら、
   血圧下がって具合悪いか、
   血圧あがりすぎて血管が裂けたり、破れたりする疾患を想起します。

   いずれにせよ、かなり身構えますね。」





司会「こういう疾患を頭に思い描きつつ、後5分で来院するとのことなので、
   何か準備しておくことはありますか?」


学生「えっと。。。カルテとかがもしあれば、情報をとりたいです」


司会「そうですね、バイタルがかなりやばそうなので、
   パニック状態になりそうですね。

   後、5分あるからコーヒーのんで心を落ち着かせるというのもありですが、
   貴重な5分なので、情報収集したいところです。

   情報ありましたか?」

D「当院にはカルテの情報はありませんでした」

司会「はい、残念なパターンでした。
   過去カルテや画像がないと、出だしとしてはかなり苦しいです
  
   あとは何を準備しましょうか?」

学生「酸素化が悪いので、酸素の準備とか、点滴の準備をします」


司会「そうですね、ショックの場合、猿も聴診器という覚え方がありますね。
   
   さ   酸素
   る   ルート
   も   モニター
   ちょう 超音波
   しん  心電図
   き   胸部CXR

   ですね、これらの準備をして、心の準備もしつつ迎え入れましょう


   あ、あとは、この症例はJATEC対応するというのもありです。
   
   なぜなら、トイレに行く時、みなさん誰かと一緒にいきますか?

   普通、いきませんよね?

   ですので、トイレの中で何がおきていたかわからないこともあります

   とんでもない転び方で転んでいるかもしれません。

   なので、
  バイタルが危ない人や空白の時間の後に状態が
  悪い人をみたら、まずはJATEC対応する!

   というのは、覚えておいてください。

   JATEC対応としては1st インプレッションがあって、ABCDEの順番に考えていきます

   A:酸素化が低いのは、窒息しているかもしれませんね。
     まずは気道確保が何より重要です
   
   B:酸素化が低いのは、肺に原因があるかもしれません
     PEもあり得ますね。
   
   C:血圧低いですので、ショックと考えた方がよいでしょう。
     外傷の時のショックを覚知する覚え方はなんでしたか?」

D「え?」

司会「SHOCKですね。

   S:skin  皮膚が冷たいかどうか
   H:HR   脈拍
   O:outer bleeding 外表面の出血がないかどうか、これは忘れがちです!
   C:CRT  爪の毛細血管充満時間をみます、高齢者ではうまくいかないことも多いです
   K:血圧です、血圧が一番最後なのがミソですね。

   血圧が下がる前にショックであることを覚知しなければならないのです

   外傷の場合、SHOCKでショックを確認します

   あとはショックの分類ですね。実はこれもSHOCKで覚えます。笑
   ややこしいですね。

   ショックになると、自分もテンパるので語呂で覚えるのは悪くないです。   

   S:septic,spinal(本当はneurogenic)
   H:Hypovolemic
   O:obstructive
   C:cardiogenic
   K:アナフィラキシーショック(K)

   はい、いつもKが苦しいのがSHOCKの覚え方です

   毎回、突っ込んでください 笑  逆に覚えます」



症例に戻って・・・

D「病院にきてからすぐに嘔吐されました。
  バイタルは橈骨はしっかり触れました
  
  BP93/66,P86,T35.5,Spo2 93%(RA),RR 30でした

  みためはややぐったりしてしました。呼吸はあさく早かったです」


司会「はい、ありがとうございます。
  
   身体所見の「鳥の目」でまずは全体像の把握です。

   その中で見ためや1stインプレッションというのは、非常に大事です。
   そこで、重症度をある程度評価します。

   末梢はどうでしたか?」

D「冷たかったです。暖かくはなかったです」

司会「はい、ありがとうございます。首はどうでしたか?」

D「頸静脈の怒張はありませんでした」

司会「はい、ありがとうございます。
   ショックの場合、皮膚見て、頸静脈を見れば、大体原因がわかります。

   今回の場合、皮膚は冷たく、JVPが上がっていないということで、
   考えやすいのは、hypovolemicや心原性ショックです

   他に診察したいところはありますか。ここからは「虫の目」です。
   狙った診察です。」


専攻医「心雑音や呼吸音はどうでしたか?」

D「汎収縮期雑音がありました。呼吸音はwheezesはなく、減弱はなかったです。」

専攻医「直腸診はしましたか?」

D「していません」

司会「はい、ありがとうございます。実際、こういう症例の場合は、
   同時並行で物事が進んでいきます。

   病歴をとる人、
   患者さんのそばにいて、診察をしてバイタルを立て直す人、
   検査や点滴をオーダーする人、
 
   実際はどういう感じでしたか?」


D「はい、その日は看護師さんも二人いて、点滴や検査をしてくれました。
  指導医の先生には病歴をとってもらって、自分が患者さんのそばでマネージメントしました。」


司会「豪華ですね、猿も聴診器はどうでした?
   ここからは「機械の目」ってやつです。
   
   自分のとった身体所見が正しかったのかどうか確認する必要があります。
  
D「すぐに心電図をとりましたが、以前と比較のものはありません
  新規のAfと右脚ブロックと左軸偏移がありました

  超音波検査では、ASとMRがありました
  心機能は良好でした。」

司会「なるほど、でもここで超音波検査をする意味としては、
   その二つの弁膜症はどうでもいいんだよね。」

D「あ、あとはDshapeもありませんでした」

司会「まあ、それも大事なんだけど。。。

   それよりも大動脈解離を狙っているわけだから、
  ARがあるかどうかと
  心嚢水が溜まっているかどうかが気になるんだ。

D「なるほど、それはなかったと思います。」

司会「了解、あとはIVCは?」

D「15mmで呼吸性変動がありました」

司会「うーん、パッとしないが明らかなhypoっていう感じでもないのかな。
   さて、困りましたね。」



司会「この辺で病歴、そろそろ聞いてもいい?」


D「はい、職員さんから病歴を聞くと、
  元々ほとんど寝たきりで、トイレ歩行などはしない方のようです
   
  この日はたまたまトイレにいきたいということで、介助でトイレまで歩いていきました
  ですが、トイレに座ってからは排便や排尿はなかったようです
  
  座っていて途中まで話せていたのですが、
  途中から会話ができなくなり、意識がなくなってしまいました

  その後、横にしたところ、意識が回復してきましたが、酸素化低下があったため、
  救急搬送となってようです。

  元々の血圧は90台とひくめです。

  来院してから、点滴していると血圧も徐々に上がってきました。
  レベルも改善し、酸素化も改善しました。

  血液検査では特記事項はありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。
   
   ・・・・・・身体所見の重要性について、前座でレクチャーしましたが、
  やっぱり病歴が一番大事ですね。笑

   さてこのあと、どうしましょうか?
   簡単にいうと、CTとりますか?入院させますか?」


E「自分だったら、造影CTをとって肺塞栓の検索をしつつ、
  入院してもらいます。」


司会「それはどうでしてですか?」


E「この年齢の人でバイタルが崩れているので、やはり怖い病気が隠れている可能性が
  高いと思うからです」

司会「はい、ありがとうございます。そうですね、
   やっぱり元々寝たきりの人がトイレまで介助で歩いて、
   その後意識を失って、酸素化低下しているので、PE疑いますね。

   他、ご意見ありますか?」


S「自分だったら、輸液でバイタル戻って吐き気もなくなってしまって、
  自覚症状ないのであれば、帰宅にするかな。

  病歴からは、元々寝ている人がトイレにいったら、そりゃ血圧下がるでしょ。

  入院もデメリットはたくさんあるし、あまりいいこととは思えないな。」


専攻医「僕もこの症例は一緒に見ていて、病歴からも起立性低血圧っぽかったので、
    バイタルも落ち着いてので、大丈夫かなと思いました。」


司会「そうですね、その考えもあると思います。

   最近、よく思いますが、2つのレールという考え方を紹介します

   ①つ目のレールは、僕たちの引いた医療のレールです

   この症例でいえば、PEを疑い造影CTをしつつ、
   モニターで不整脈を探しつつ、入院経過観察

   というのが、よくある医療のレールです

   ですが、もう一つのレールがあります


   ②つ目のレールは、患者さんの人生のレールです

   この方は超高齢で人生の終末期に差し掛かっていると思われます
   人生の最終地点に到達しようとしている人の残り少ない時間を、
   入院という医療のレールに乗せることが果たしてよいことなのかを
   考えなければなりません

   
   僕やE先生の場合、①の自分たちのレールに患者さんを乗せようとしていました

   ですが、S先生は患者さんのレールに医療を乗せるイメージですね

   例えば、
   今後も起立性低血圧症状は起こるかもしれないことやその対応方法について、
   施設職員に伝えることであったり、かかりつけの先生にお手紙を書くことです


   医療のレールに乗せることが、一番大事なわけではありません

   あくまで患者さんの人生というレールに、
    少し医療のいいところを乗せるイメージで、
    高齢者医療の場合は考えていく必要があります。


   S先生、さすがです。
   僕もE先生もまだまだでした。
   
   実際どうなりました?」


D「実際は入院しました」


司会「入院したんかーい!」

D「輸液で症状もなくなってバイタルもよかったので、
  帰宅のつもりで進めていましたが、家族がこられてて入院を希望されたので、
  入院になりました。」

司会「なるほど、誰が何に困っているか問題が最後に勃発しわわけですね。
   はい、ありがとうござました」



まとめ
・トイレ後に具合が悪くなる病気は危ない疾患が多い
→血圧下がる病態と上がる病態を考える

・ショックはSHOCKとSHOCKで覚える
→Kが苦しい!でおなじみ

・二つのレールを意識する
→自分のひいたレールが常に正しいとは限らない、患者さんのレールに乗ってみよう

2020年6月22日月曜日

薬剤性の副腎不全 〜いつも心に◯と結核〜

ザイティガ®️(アビラテロン酢酸エステル)という薬を聞いたことはあるでしょうか

去勢抵抗性前立腺癌の治療薬として、2014年に本邦でも承認されています

前立腺癌は男性ステロイドホルモンであるアンドロゲン(テストステロン、DHT、DHEA)が前立腺腫瘍細胞のアンドロゲン受容体(AR)に作用し増殖します

通常、生体内ではアンドロゲン合成は主に精巣で行われ、一部が副腎でも行われています

そのため、アンドロゲン除去療法と呼ばれるホルモン療法が進行した前立腺癌の治療になります

ですが、アンドロゲン除去療法後でも、血清テストステロン濃度が去勢レベルにあるにもかかわらず、病勢の増悪を認める症例があります

そういった前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)といいます

CRPCの増殖には、副腎などの性腺外のテストステロンがアンドロゲンの重要な供給源と考えられています

ですので、副腎でのテストステロン産生を抑えることで、
前立腺癌の治療になるというコンプセトでできた薬がザイティガ®️です


へえ〜

でもそんなマニアックな薬、普通の内科医が知っておく薬なのでしょうか?


そうなんです

ザイティガ®️はぜひ、内科医に知っておいて欲しい薬なのです


なぜなら、
ザイティガ®️は必ずプレドニゾロンを併用しないといけない薬だからです

ザイティガのもつCYP17阻害作用のため、テストステロンやDHTだけでなく、
コルチゾールの産生もストップさせてしまいます

つまり、ザイティガ®️を服用している人が、
何らかの原因でプレドニンをのまなかった場合、副腎不全になるのです!

皆様、ステロイドを元々内服している人であれば、副腎不全のことはとても気をつけますよね

ですが、ステロイドを服用していない人でも薬剤性に副腎不全を起こすことがあります


副腎不全は非特異的な症状が多く、疑うことが難しい病気です

そして、疑ったものの、まさかその原因が薬剤だったなんて・・・

というpit fallがあります


副腎不全を疑った場合、その原因が薬剤ではないか?
ということにまずは思いをはせましょう


副腎不全の細かい診断は成書を参考にしてください
ここではよくあるpit fallを解説します

①意外に短期間の使用でも起きてしまう人がいる

②内服だけではなく、関節注射や軟膏でも起きてしまう人がいる

③セレスタミン®️がステロイド入っているとは知らずに、
 他の抗ヒスタミン剤に変更して、副腎不全が起きてしまう


セレスタミン®️は皮膚科から時折でている薬で、抗ヒスタミン薬とステロイドの合剤で、
慢性の蕁麻疹の方などに処方されていることがあります


ステロイドが含まれていることを知らずに安易に薬を中止すると、
副腎不全になり得ますので、注意が必要です

副腎の血流

動脈は複数ありますが、静脈は1本です

そのため、副腎はうっ血しやすい臓器といわれています

静脈血流が障害されると、副腎はうっ血し腫脹します
うっ血が解除されないと、梗塞に陥り、出血します

交通外傷や敗血症でひどいショックの場合、
両側の副腎出血が起こり、副腎不全が起こることがあります

    
両側の副腎出血で副腎不全が起こる前に、両側の副腎が腫大している場合があります
こういった所見を見つけたら、副腎不全に注意しましょう


薬剤性副腎不全が起こる要因はいくつかあります

医師要因 × 患者要因 × 薬要因(薬局)

の3つがあると思います

一番は医師要因でしょうか

ステロイドを使用するときは、患者さんには口酸っぱく副腎不全のことを伝えます
口頭だけではなく、文書にしてお渡しするのが定石です

その上で、確認事項として

患者さんが理解力はどうか?
→薬の副作用についてしっかり理解できる人かどうかを見極める必要があります

薬を管理する人は誰か?
→施設職員さんであれば、まず安心です

他の薬との相互作用はどうか?
→リファンピシン内服していたら、倍量必要になることがあります



機序で分類すると、
コルチゾール生合成阻害、コルチゾールの代謝UP、コルチゾールの代謝down、
副腎出血、免疫チェックポイント阻害薬に分けられます (by up todate)




 ミトタン 、ザイティガ、リファンピシン、ニボルマブ、セレスタミン・・・

どれも内科医にはあまり馴染みはありませんが、
このマルチモビディティ(多疾患併存状態)の時代では、まとめて他科の薬を継続処方することもよくあります

ですので、これらの薬を内服している人が調子が悪くなった場合、
副腎不全を想起することが重要です


機序で覚えるときは正常の流れに沿って覚えるのがいいです

ですが、実際は下記の様な流れで考えていきます



まとめ
・副腎不全は想起するのが難しい疾患なので、普段から閾値低めに鑑別にあげる

・副腎不全が想起できたら、まずは薬剤が原因でないかを考える

・今の症状を全て薬で説明できないか?という思考のくせをつける

you tube解説動画:https://youtu.be/hTGNxRUo8IM

2020年6月17日水曜日

ボス回診 〜君の悩みは高尚だね〜

Y「お願いします、繰り返す腎盂腎炎で困っている方です」
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80台 女性 主訴:悪寒戦慄(症例は一部改変・修正しています)

Profile:先月にも腎盂腎炎で入院歴あり

現病歴:
元々、過活動性膀胱に対して、ベタニス®️内服していたが、
効果がなかったので、ベシケア®️に半年前に変更されていた

1ヶ月前に悪寒戦慄を主訴に来院され、発熱精査目的に入院となり、
尿培からクレブシエラが検出され、CTRXで治療され軽快した

今回も同じように悪寒戦慄があり受診された

既往歴:糖尿病、過活動性膀胱、腎盂腎炎(半年前にも一度あり)、高血圧
内服:メトグルコ、ベシケア、アムロジピン
生活:ADL自立

バイタルは37.5度の発熱以外、問題なし

身体所見上、CVA巧打痛なし
右の腹部双手診で腎把握痛あり

他、熱源となりそうなfocusはなし

血液検査 炎症反応上昇のみ 肝胆道系酵素上昇なし
尿検査  膿尿あり、細菌尿あり
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ディスカッション①繰り返す腎盂腎炎の原因は?

Y「・・・という方です。尿のグラム染色にてGNR largeが見えたので、
  腸内細菌系だと思われましたので、前回同様、CTRXで治療開始し軽快傾向です

  ですが、腎盂腎炎をここ一年で何度も繰り返しているので、今回は原因検索予定です
  今までは特に精査されたことはありませんでした
  
  具体的には、閉塞起点がないか探す目的でまずは超音波検査を行いました。
  そうすると、以前見られなかった両側の尿管が軽度拡張している所見がありました。
  水腎症はありませんでした。
  
  膀胱内に腫瘤性病変はなく、子宮はやや大きめの筋腫がありました。

  排尿後の残尿は50mlでした。

  超音波検査で両側の尿管が拡張している所見がありましたので、
  今後は造影CTや尿細胞診を行なって、癌の検索や後腹膜線維症のような病態がないか
  確認していく予定です

  膀胱尿管逆流がないかは、泌尿器科にコンサルトする予定です

  特に閉塞起点や膀胱尿管逆流がなければ、ベシケアに変更したタイミングなので、
  ベシケアによる排尿障害の可能性もあるので、変更を検討します」


ボス「ありがとう。今のプレゼンどう?何点?」


学生「えっと、80点くらいですか?」

ボス「笑 そう!?まあまあ、よかったんじゃない?100点でいいよ。」

Y「そんなにですか! 笑」


T「気をつけてね、今から落とされるから」

Y「僕もそんな気がしています 笑」


ボス「確かに、おっしゃる通りで腎盂腎炎を何度も繰り返している人の原因検索として、
   閉塞起点を調べるというのは、いいと思う
  
   あとは、VURとはいわないだろうけど、膀胱から尿がうまく出なければ、
   圧が尿管にかかってしまって、逆流したり、尿管拡張してもいいだろうね。
   
   とても論理的でしっかりしていて、そのプランでいいと思うよ

   ただね・・・君の悩みは高尚なんだ。


Y「高尚????」

ボス「そう、高尚なんだ。
   なんでかっていうと、前段が間違っている可能性がある。

 つまり「本当の腎盂腎炎」を繰り返しているの?

   腎盂腎炎と仮定して治療がうまくいったからといって、
   腎盂腎炎という診断にはならないよね

   腎盂腎炎の診断はとても難しいんだ

   市中感染症で敗血症を来しやすい感染症で、5+1の覚え方は知ってる?」


学生「髄膜炎のような中枢神経の感染症、肺炎、蜂窩織炎、腎宇腎炎、胆管炎とIEですか?」


ボス「その通り。その中でも髄膜炎はわかるよね、
   肺炎も呼吸器症状あるからわかりやすい、蜂窩織炎もしっかり診察すれば見落とさない
   難しいのは胆管炎と腎盂腎炎なんだ。
  
   どちらも診断する根拠が乏しいのが難点。

   腎盂腎炎の根拠としてよくあるのが、細菌尿や膿尿だけど、
   それって、無症候性の細菌尿や膿尿かもしれないよね。

   腎盂腎炎というためには、
   他に熱源がないということを証明しないといけないのだけど、
   現実的には毎回精査するのも難しい


   だから、まずは腎盂腎炎と暫定診断して治療を開始して、
   治療経過が思わしくなかったり、
   途中で違う異常所見が出てきたら、修正しながら治療していくんだ

   ただし、うまくいったように見えても、腎盂腎炎とも限らない。
   例えば、調べてなかった子宮留膿腫や肝膿瘍、IEだったかもしれない。

   今回も前回、前々回も、
  腎盂腎炎というのはあくまで「」つきで、
  本当に腎盂腎炎だったかを調べる作業が必要だ

  繰り返す腎盂腎炎の原因を調べるのはその後。





   例えば、本当に腎盂腎炎だったのか調べるとすると、
   尿培と血培の結果が一致したりすると傍証にはなるね

   どうだった?」  

Y「前回は血培は陰性でした、尿はクレブシエラが生えています。」

ボス「身体所見でもCVA巧打痛もなかったのかな?」


Y「前回も今回もありませんでした」

ボス「それって本当に腎盂腎炎なのかな?
   抗生剤入れてから、すっっと治っているのも変だよね。
   
   普通、腎盂腎炎って3日くらい熱が出たりすることもあるのに、抗生剤入れて翌日には解熱しているのも治りが早過ぎる印象だね。

  一過性に菌血症で有名な原因って知ってる?」
-----------------------------------------------------------------------------------------------
ディスカッション②一過性の菌血症の原因は?

学生「うーん」

ボス「有名なのは、歯磨きなんだ
   
   そして、もう一つ。胆道系だね。
   胆管って腸管につながってるでしょ。

   そこで閉塞起点、例えば膵頭部癌とかがあって流れが悪くなると、
   一過性に菌血症を起こすこともある。

   だから今回も尿路系の評価も大事だけど、胆道系のところもしっかりチェックしてね。

   口から肛門までの消化管の一本道を
  進んでいく細菌たちは、大抵悪さしないんだ。
   
  でもね、その一本道から横道にそれた時に悪さする。

   
   人間も一緒でしょ?(ドヤ顔)」


T「今の絶対言うと思いました。笑」


ボス「あとは毎回、悪寒戦慄しているのに血培が生えてないって聞くと、
   考えることは、何かな?」

Y「実は悪寒戦慄ではない?とかですか」

ボス「そうだね、でも前回入院中にも悪寒戦慄があったようだし、
   医療者も見ているから多分、悪寒戦慄なんだろうね。

   もう一つは、血培で生えにくい菌の菌血症になっている可能性を考えないといけない。
   日常診療では、嫌気性菌だね。
   
   尿路感染症では嫌気性菌はあまり関与しない。 
   やっぱり胆道系が気になるね。

   あとは胃癌や大腸癌みたいな消化管に腫瘍がある時も同じように菌血症を起こす人がいるね。
   婦人科癌や直腸癌が膀胱と穿通してしまった時は、たくさんのGNRや嫌気性菌が悪さするけど、今回はそんな感じじゃないよね。」


Y「ありがとうございます。すっかり、腎盂腎炎の診断を鵜呑みにしていました。

  カルテの文字だけを拾って、この人は腎盂腎炎を繰り返している人だと
  インプットされてしまっていたので、その前段を考えることができていませんでした。

  繰り返す腎盂腎炎の原因を悩む前に、
 本当に腎盂腎炎でよかったのかどうかを確かめる努力をしす。

 T「画像で何も捕まらなければ、ベシケアを変更するのが現実的かなと思いました。
  もちろん、日常生活でのリスクファクターがあれば指導しようと思います。
   ありがとうございました。」





まとめ
・誰かがつけた「腎盂腎炎」の病名は本当に腎盂腎炎だったのか、疑う癖をつける

・「繰り返す腎盂腎炎」の原因を調べる時は、「繰り返す発熱」に問題を置き換えた方が良いかもしれない

・本当に腎盂腎炎が繰り返されているのであれば、解剖学的な問題と機能的な問題の検索を行なっていく

参考文献:伊藤裕司先生資料

You tubeでの追加解説動画:https://youtu.be/D_Ihu85YKXY




2020年6月13日土曜日

研修医の先生との対話〜ヒエラルキー〜

腎盂腎炎で治療中の患者さんに対して、
週明けに採血をオーダーしようとしていた場面

T「この人の採血、次にいついれる?」

研修医「えーっと、月曜日に入れようと思っていました。」

T「なるほど。
 そうすると、今は金曜日の夕方だね。
 自分のオーダーが今後どんな未来になるか想像できるかな?」

研修医「いやあ、想像できません。」

T「まだお医者さんになったばかりだから、見えないと思うんだけど、
 医者ってかなりの権力者なんだ。

 自分のオーダー一つでいろんな人が動いてくれる。

 そこを自覚しないといけない。
 知りませんでしたのままだと、他職種の信頼は得られない。

 例えば、金曜日の夕方に月曜日の採血をオーダーすると、
 採血スピッツは誰が用意するか知ってる?」


研修医「病棟の看護師さんですか?」

T「そうだね、平日の日中にオーダーすれば、スピッツやラベル貼ってくれるのは、
  検査科の人たちで、スピッツも届けてくれるけど、
  この時間だと、夜勤の看護師さんがスピッツを集めてラベルを自分で出して、
  セットしないといけないよね。」

研修医「確かに。。。それは大変ですね。」

T「採血実習やったでしょ?月曜日の採血どうだった?」


研修医「めっちゃ、大変でした。」

T「笑 そうなんだよね。
  みんな月曜日に採血したいから、オーダーするけど、集中するからね。

  できれば理想は水曜日。病態が落ち着いていればね。
  それが難しいなら、火曜日。
  病態が不安定で、どうしてもみたいなら、月曜日。

  月曜日に採血をオーダーする時は、心の中でごめんなさい。と思いながら、
  オーダーします。」

研修医「なるほど、水曜日ですか。」


T「医者って実はヒエラルキーの一番上にいるんだよ。
  研修医であってもね。
  あんまりその自覚はないと思うけど。

  例えば、この患者さん、尿検査フォローする?」


研修医「はい、腎盂腎炎で入院されたので、明日尿のグラム染色をして、
   菌が消えていることを確認しようと思います。
   
   週明けにもう一度、尿検査をオーダーする予定です。」


T「なるほど。みんな腎盂腎炎の治療効果判定に尿検査をオーダーするよね。
  それって本当にいる?

  僕は一度もオーダーしたことはない。
  
  だって、何がみたいの?

  菌が消えているかどうかをみたいのであれば、自分でG染色したらいいでしょ?」

研修医「確かに。」


T「尿検査、特に尿沈渣の検査ってどうやっていると思う?

 技師さんが顕微鏡をのぞいて、確認してくれいるんだよ。

 1個ならいいけど、何個もあると、とても時間がかかって、大変な作業だね。
 
 だから特に尿沈渣を出す時は、本当に必要かしっかり考えようね。」


研修医「わかりました」

T「知っておかないといけないのは、
 自分たちの指示で多くの人が動いてくれる、
 簡単にいうと人の時間を奪っているんだ。
 
 だから自分の指示には、責任とその自覚がないといけない。

 そしてもう一つ、医師からの指示には他職種は意見を言えないことが多い。
 よっぽど変な指示でない限りね。

 医師が必要と判断したということは、患者さんのためになっているということだから、
 よっぽどのことがない限り、不平や不満、反対意見は出てこない。
 
 なので、医師という職業は自分が出した指示に対して、フィードバックを得られにくいんだ。
 
 フィードバックがないこと=自分が正しい
  
 という構図になってしまって、どんどん傲慢になっていく。
 
 裸の王様にならないように注意しよう。

 そのためには、日頃から話しかけられやすい状態でいること。
 できるだけ、自分にフィードバックをくれるような姿勢でいることが大事だね。」


研修医「わかりました。」 

T「(まあ、君は大丈夫だよ)
  最後に。
  
 自分が出した検査やオーダーはなるべく、自分で処理しよう

  うちの腎臓内科の先生は画像検査をとる頻度が多いんだけど、
  看護師さんに協力して、必ず自分で患者さんを運んでいるからね。

  偉いよね。

  あの姿を見たら、CTや血培オーダーして、
  はい、あとよろしくーってできなくなるよ。


  昔、こんな研修医がいてね。

  看護師さんにバイタル1検にしても良いかと聞かれて、
  研修医の先生としては、3検して欲しかったんだって。

  でも看護師さんの業務量を減らすために、1検にしたんだけど、
  その翌日からどうしたと思う?

 自分で患者さんのバイタルを3検し始めたんだ。


  偉いよね。(猪突猛進系の研修医だったけど。)」


まとめ
・自分が指示した先の未来を想像できていますか?

・自分の指示やオーダーが、誰かの時間を奪って働かせていることを自覚しよう

・裸の王様にならないように常に感謝の心を持ち、自分で出したオーダーは自分で処理しよう
  

気腫性骨髄炎

 

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