元々、ADLフルな超高齢の男性が救急搬送されてきた
主訴は意識障害と右片麻痺
MRIで左MCA領域の脳梗塞と判明
同時に心不全・肺炎も合併しており、酸素化が悪い
ひとまず、時間の制約があるtPAの適応から考える
→すでにMRI DWIで高信号が明瞭であり、適応時間もギリギリのため、tPAにはならず
肺炎の治療として、誤嚥性肺炎疑いで抗生剤投与開始
急性心不全として、降圧・利尿剤開始
病歴を聞くと、食事摂取ができておらず、アルコールの飲酒が多量だった
→VB1の補充開始
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ディスカッション①さあ、この患者さんの未来を想像しよう
T「何だか、マルチプルプロブレムだね。
これまでの通院歴もないから、ひとまずわかったことはこれくらいだね。」
専「このあとどうなっていくんでしょうか、あんまり想像ができません」
T「そうねえ。
入院で担当したら、その患者さんの未来を想像しようね。
この患者さんの行き着く先はどこか、毎回考える。
経験を積むと自然に、入院の時に退院までの日程、退院時のADL、退院先の場所まで、
想像できるようになるよ。
最初は精度は悪いけど、だんだん精度が上がってくる。
そうすると、患者さんやご家族に説明しやすくなるよね。」
専「そうですね。僕にはまだ未来は見えてきません」
T「診断がついていないと、未来はなかなか見えないよね。
だから、不明〇〇って常にストレスなんだ。
でも目の前の患者さんの病態が把握できて、
病気がわかれば、大まかな未来が見えてくるよ。
とはいっても、病気の自然経過っていろいろあるでしょ。
例えば、リウマチっていったって、軽いものから、重症のもの、
合併症があるものから、ないもの、
若い人から、高齢者。
いろんなリウマチがある。
これはね、教科書じゃ学べないんだ。
だいたい病気の自然経過は、100症例くらいみればわかってくると言われている
それはその100症例の中に、ベストシナリオからワーストシナリオの症例があるからなんだ。」
専「ベストシナリオとワーストシナリオですか?」
T「そう。
自分が経験した患者さんで、とても順調に回復していった症例や
どんどん悪化していって、苦い思いをした症例が記憶として残っている。
そのベストシナリオとワーストシナリオを経験したことで、
大体の人が、その間を通っていくことが多い。
振れ幅が小さいと、自分の思いもよらないことが起きるから、慌ててしまう。
担当医が慌てている状況ほど、家族からみて怖いことはないよね。
だからこそ、僕たちは何が起きてもパニックになってはいけない。
そのためには、ワーストシナリオをしっかり想像しておくことが大事。
振れ幅の大きさは自分が経験した患者さんで作られるんだ。」
専「あんまり脳梗塞を経験していないので、自分の中では振れ幅があまりないです。
勉強します。」
T「もちろん、それぞれの病気の予後として、一般論的なものは知っておく必要があるけど、
論文や教科書から得られるのって、ただの数字でしょ?
何年後の生存率や何ヶ月後のmRSっていう数字には、
現実世界の血肉や物語がないんだよね。
だから、知識として数字を知るよりも、自分の経験の方が遥かに大事。
これが患者さんから学ぶということ。
うーん、やっぱり違うなあ
学ぶっていう感じじゃないなんだよなあ。
染み付くって感じ。
脳に自然に染み付いて、取れない感じの経験。
そういう経験って、患者さんに真剣に向き合わないと得られない。
患者さんをただの症例としてしかみていない人や
学会に提出するための症例数としてしか興味がない人は染み付かない。」
専「わかりました。」
T「じゃあ、この患者さんの未来を想像してみよう。
その時の考え方のこつとしては、2つある。
①3つシナリオを考えること
ベストシナリオとワーストシナリオと、一番起こりえるであろうシナリオ。
この3つ考えて、家族には説明する。
そして
②急性期と慢性期のシナリオを考えること
この数日以内の短期的な未来と退院を含めた長期的な未来を想像するのだ重要
だいたいの人は病気の急性期を経験しているけど、
病気の慢性期まで経験できているかというとそうでもない
致し方ないところではあるけど、病気のバトンをつないでいる感じだから、
一連の流れとして病気を経験できない
そうすると、長期的な未来を想像するのが難しくなるんだよね。」
専「なるほど。
この患者さんの場合、
急性期であれば、肺炎や心不全が悪くなって呼吸状態が悪化してくることが
ワーストシナリオで想像されます。
その場合は挿管も必要になりそうですが、現実的には酸素投与や治療でいけそうな気もします。
慢性期の状況は、今までの経験では嚥下が難しくなって、
胃瘻を作っていくことしかなかったので、その未来しか見えません。」
T「なるほど。胃瘻ねえ。
胃瘻するかしないかって、procedure oriented な考え方だね。
そうじゃなくて、goal orientedに考えよう。
例えば、車を車検に出した時に、エンジンオイルがどうのこうので、
バッテリーがうんたらかんたらで、ホイールがほにゃららでしたので、交換しますか?
って言われたら、
はい、(よくわからないけど)お願いします
としか言えないよね。
そうじゃなくて、
こっちとしては事故を起こしたくないわけだから、
安全のために部品の交換が必要になるなら、お願いします。
っていうのが真意だよね。
処置ベースで、やるかやらないかっていう議論はもうやめて、
家族がどんなゴールを望んでいるかを聞かないと、
こんなはずじゃなかった・・・っていう胃瘻の人たちが増えてしまう。
胃瘻を作るのであれば、必ず胃瘻を作った先に幸せな未来がないといけない。
とりあえず、命を伸ばすっていう医療は、医師の怠慢でしかない。
だって、家族と話し合わなくていいから、医者にとっては楽なんだ。
命は繋ぎました。あとどうするかはお好きにどうぞ。じゃ、あんまりだよね。
どうしてもICUとかって、たくさんの処置の同意書が必要だから、
procedure oriented になりやすいんだけど、
goal orientedっていう考え方を常に忘れないようにしよう。」
専「わかりました。まずはご家族に患者さんのこれまでの様子を確認して、
ケアについての希望を聞き、一緒にゴールを探していきたいと思います。」
まとめ
・入院した患者さんを担当したら、3つのシナリオを想定してみる
→最初は精度は高くないが、だんだん精度は上がってくる
・ベストシナリオ、ワーストシナリオ、most likely シナリオを急性期と慢性期で考える
→教科書では学べない、患者さんから教わるしかない
・自分の話し方はprocedure oriented ですか?それともgoal orientedですか?
you tube 解説動画:https://youtu.be/M90znH0WIsM