2022年9月19日月曜日

この患者さんのHCVは治療すべきか?


悩ましいケースに出会いましたので、調べてみました
JAMA風のタイトルです

症例は修正・加筆を加えてあります




ガイドラインでまずは調べてみました






だいぶ、昔と違っていて衝撃的でした





インターフェロンの時代が終わり、DAAが登場したことでパラダイムシフトが起きていました

HCVの患者さんを見つけたら、ほぼ全例治療対象となる時代のようです









ガイドラインには、今回の症例のように意思疎通がとれず、
胃瘻の方の治療については言及はありませんでした



こういった現場が困る症例について、
わかっていることだけでも書いてくれると助かりますが、
ガイドラインでは触れられておらず、現場判断になっているのが現実のようです


ということで、こういった症例報告が出てきます










結論としてはJonsenの倫理の4分割表などを使いながら、個別に考えるしかないようです


この患者さんには、もう一つの悩みがあります


ネフローゼ症候群です



寝たきりでコミュニケーションがとれないので、腎生検は困難です

血液検査ではこれといった原因がわかりませんでしたが、
HCV関連のクリオグロブリン血管炎の可能性はあります















これまでの症例報告や研究






DAA±RTX±PEで60%以上で腎機能が改善している

では誰にどんな治療をすればよいのであろうか?




DAAを遅らせる治療戦略はDAA前から提唱されていたものであり、
DAA時代はDAA治療の副作用も少ないため、
もう少し早くてもよいのでは?とも考えられている

 

2022年9月11日日曜日

見えない力

 本日の症例はまだ診断はついておりませんでしたが、

診断がつかないことはよくありますよね


小学校から大学までの教育では、数学でも国語でも化学でも・・・

問いがあって、答え。がありました


その答えを我々は必死に考え、

「適切な答えに、いかに早く辿り着くか」を競わされてきました


そのせいで、

「答え(診断)があることが前提」という刷り込みを我々は植え付けられてきた気がします



ですが、実際はどうでしょう?



実際の臨床現場には答え(診断)がないことがほとんどではないでしょうか



学校の教育は問題の答えを求められ、知識を問われることが多いです

それは点数化することができて、みんなに「見える力」です



ですが、診断がつかなかった場合にどうやって対応するかの能力は、

点数化することは難しく、みんなには「見えない力」です



病歴や身体所見から的確に診断を下すことができるのは素晴らしいことですが、

それは「診断学」という見える力です


診断学はもちろん、医師が身につける能力の一つではあります


ですが、あくまで一つであり、

診断学を極めれば素晴らしい医師になれるわけではありません


もっと重要なことは、診断がつかない時や答えのない状況にどう対応するかです



学生から医師になっていく中で、

「適切な答えにどう辿り着くか」よりも

「答えのない問いにどのように答えを探し続けるか」が求められます



今回のカンファレンスでは、「見えない力」が言語化・可視化されて、

とてもよかったです


60歳 男性  主訴:動くと息苦しい

(症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:GERDで近医通院中、P-CAB、アコファイド内服中

   5年前まで喫煙、呼吸苦あり禁煙した

   2年前から悪化

   歩行時や会話時に呼吸苦あり

   4ヶ月から数分の歩行でも呼吸苦出現

   会話でも呼吸苦あり、休むと軽快


BP 160/98, P 70, SpO2  96%, T 35.9 




病歴聴取のポイント


悪化したタイミングは診断のヒントになっていることが多いです


病気が悪くなるきっかけを探しましょう

「なるべくして、こうなっているはず」です


原因もないのに急に症状や病気は生まれません


まずは患者さんに聞いてみることから始めます

ですが、「特に思い当たることはないですね」と言われることがほとんどです


その上で、次に狙って聞いてみます

例)
薬を変えた
薬を始めた
仕事場が変わった
ライフイベントの変化(子供が出て行った)
運動やめた、始めた
趣味やめた、始めた
ペットかいだした

などです


薬や環境、精神状態の変化などに注目しましょう


こういった質問をしていると、
「そういえば・・・」と患者さん自身が考えてくれるようになります


聞き方としては、「季節」を意識して問診を行います


今回であれば、冬から増悪ということで、

「豆炭こたつ」を使っていないかは気になるところです




もう一つ、聞きたいことは、数ヶ月の間、精査はされてこなかったため、


「なぜ病院に来なかったのか?」は非常に重要な質問です



本当に呼吸が苦しければ、すぐに病院に行きますよね



症状がそれほどひどくなかったのか

症状はひどくてすぐにでも病院に行きたかったが、仕事が忙しくてこれなかったのか

家族から行くように勧められたのか

結婚式のスピーチを頼まれており、息が上がってうまくしゃべれないと困るからなのか


など


私たちが思っている以上に病院にくる理由は様々です

ですが、真の理由を言っていない人が多く、そこに隠れたニーズあります



家族の要請であれば、家族を満足させなければ、ニーズが満たされたことにはなりません

お金がなくて病院に来れなかったのであれば、あまり検査を乱発することは望ましくありません



なぜ、このタイミングで病院を受診することになったのか?を
嫌味のないように上手に聴けるようになると、
患者さんの背景やニーズを深掘りできるようになります




さて、たくさん病歴聴取を行いましたが、みなさんはどのタイミングで身体所見に移行するでしょうか?


もちろん、救急外来や初診外来、他の患者さんの混み具合などいろいろな環境要因はあると思います


では、時間無制限に使ってよくて、命に関わるような疾患ではない場合はどうでしょうか?


病歴聴取から身体所見へ移行する時



①病歴で疾患がある程度、想起できた時(仮の診断名がつけられた時)

 身体所見を取ることで確信に向かいます

 これは音楽を聞いて曲名を当てるクイズに似ています
 ある程度、病名が分かった時点で次に進みます

 病名がわかったにも関わらず、ずっと細かく病歴をとり続けることはしません


例)長身の若い男性の呼吸苦
  カラオケにいった時に、胸痛が出現
  日に日に増悪し、歩くと息切れがする

→これだけで気胸かな?と思いますよね
 身体所見で呼吸音減弱を確認すれば、診断はほぼ確定です


 一般的に病歴は感度が高く、身体所見は特異度が高いと言われています


 そのため、病歴聴取の時点で、なるべく多くの鑑別疾患を想起します

 そして、想起した鑑別疾患を病歴で除外する作業を行います

 

②病歴を聞くよりも、診察した方が診断に早く迫れる時

 病歴とほぼ同時進行で診察を行います


 例えば、喘息や帯状疱疹を疑う時です

 お腹がちくちく痛いと言われたら、早々にお腹を見れば一発で診断できます
 喘息の既往のある人が、ゼエゼエ苦しいと症状があれば、呼吸音で喘息発作を確認します


 救急の現場ではこうなっていることが多いです

 致死的な疾患が多いので時間の省略のためです



③病歴を聞いていても全く診断がつかない時(①の逆です)

 病歴をうまく伝えられない高齢者、小児、精神疾患・認知症がある方の場合は
 病歴を諦めて早々に診察へ移行することも多いです


 または病歴をたくさん聞いても、仮の診断さえつかない時があります


 例えば、ALSの初期は不定愁訴になることがあります
 診察しながら、診断へのヒントが見つかることがあります
 
 ALSであれば、筋萎縮が目立つとか、線維束攣縮があるとか
 クッシングであれば、多毛や皮膚線状とかです
 

 患者さんは医学のプロではありません
 
 自分の体に出てきた異常を全て伝えているわけではありません
 
 うまく伝えられていないこともありますし、気がついていないこともあります

 ですが、体には何かしらの変化が刻まれていることがありますので、
 体に直接尋ねるようなイメージです





今回は病歴では肺塞栓が鑑別の上位に上がりました
背部痛の訴えもあり、膵癌からのトルーソー症候群やDVT/PEが考えられました

ですが、会話で呼吸苦が出るというのは、神経筋疾患を疑う状況でした


病歴聴取で、このように仮の診断をつけつつ、診察を行いました

診察では目立った異常はなく、除外も確定もできず、
検査へ進むことになりました



結局、血液検査は異常は見られず、
造影CTでは肺塞栓、膵癌、間質性肺炎などはありませんでした

6分間歩行を行っても酸素化低下は見られないものの、呼吸苦の症状は出現しました

UCGでは肺高血圧の所見はなく、心機能は問題ありませんでした


耳鼻科にて手術が予定されており、手術が行われましたが、
症状の改善はありませんでした


ここまで精査を行ってきましたが、診断が不明な状態です

さあ次どうしましょう?



ここからが、それぞれの医師の腕の見せ所です




診断がつかない時にどうするか

・病名を探すことよりも本人の困りごと(呼吸苦)にフォーカスする
→暫定、COPDとして吸入薬を開始してみる

・困っていることに対応する方法を伝える
→特に薬以外で生活の中でできること

・患者さんに変化を促し、その経過を観察する
→体重を減らした結果、どうなったか

・信頼関係を作ることで、何度か通院してもらえるように努力する
→診断がつけられないことで信頼が失われると、
 Drショッピングになることがあります

・今わかっている異常にフォーカスをあてて対応する
→SASの治療、肥満の治療

・BPSモデルを駆使して、身体疾患以外の原因がないかを探す
→これも信頼がないと難しいですね

・自分以外・患者さん以外から情報を引き出す
→看護師さんから病歴をとってもらったり、妻から病歴を聴取する


など


たくさんの意見が出ました

どれも素晴らしい意見だと思います



このカンファレンスの目的や意義は、

教科書的な医学知識を身につけることではなく、
実践で使える知恵をつけることです

自分で考え、問題を解決できる能力を身につけていただくことを目的としています




今日はみなさんの見えない力が見えた気がしました




2022年9月10日土曜日

one side cutの概念



N Engl J Med 2019;381:1459-70.


 32歳男性の意識障害、頭痛、発熱







解説

既往が出てくるまでは、鑑別疾患は幅広くあげる必要があり、

感染症から非感染症まで考える必要がありました


既往にコントロールに難渋しているベーチェット病の記載が出てきてからは、

旗色が変わりました


一気に神経ベーチェット病 VS 感染症 VS  薬の副作用(脱髄、ループス)という構図に変わっていきました


いつも感染症ばかりを考えていて、感染症以外も考えることも必要であることはわかっていつつも、今回も最後まで感染症を考え続けることが大事な症例だったかと思います



特に生活歴で3ヶ月前に投獄されていたという曝露があり、

結核のことが鑑別の上位に君臨し続けました


IGRAは陰性でしたが、IGRAは知りたい人にこそ知ることが難しい検査で、

高齢者や免疫抑制剤を使用していると偽陰性になることもあり、

IGRAで結核を除外することは難しかったですね



5-30日以内の経過は亜急性の髄膜炎、30日以上となると慢性髄膜炎のカテゴリーとなり、

今回は1ヶ月の経過であったため、亜急性〜慢性髄膜炎のカテゴリーで鑑別を進めました


慢性髄膜炎は以前も出てきましたが、原因が山ほどあり、診断が非常に難しいです


慢性髄膜炎の場合は、脳以外にfocusを当てることでヒントを探しに行きます


特に画像検査では副鼻腔や肺のCT検査が重要になります


今回は副鼻腔に軽度の炎症程度でしたが、アスペルやムコールなどを疑う根拠にもなりますので、慢性髄膜炎を疑った場合は、脳周辺の構造物に目を光らせる癖をつけます


結局、救急外来での簡単なCTや血液検査や微生物学的検査では診断は絞り込めず、入院となりました


そこでの治療をどうするかがディスカッションになりました


具体的には、経過が合わない(長すぎる)が、細菌性髄膜炎のカバーまでするのかどうか、

細菌性髄膜炎として治療するならステロイドは入れるのか、アシクロビルはどうするのか、

といったことが議論になりました


個人的には、こういうシチュエーションでは「ワンサイドカット」という言葉をよく使います


どういうことかというと、細菌性髄膜炎を完全に否定しておく(治療しておく)ことでしか、次のステップに進めないことがあります


今回の症例では鑑別として神経ベーチェットや結核が残るわけで、

そこの治療に踏み込むために外堀を埋める作業が必要になります


結局はステロイドを投与して治療をせざるを得ない状況になるので、

その前に細菌性髄膜炎を否定しておかなければなりません


そのためのワンサイドカット(つまり一般細菌が原因ではないと証明しておく)です


この考え方は臨床では非常に使えます


同じような症例(すぐに診断がつかないけれど、治療しないといけない症例)に出会うとわかりますが、とてもdecision makingに悩みます


いつステロイドを入れるか、いつ結核として治療するか、そのタイミングを見計らっています


それまでに他の疾患が判明すればよいのですが、最終的に診断が不明な場合は、

結核として治療せざるを得ない時があります


結核性髄膜炎でもステロイドを投与することがありますので、

それで自己免疫側もうっすら効いてしまって、さらに混沌とします


もちろん、細菌性髄膜炎としてのデキサートですら、自己免疫疾患や自己抗体関連脳症にも効果は出てしまうので、何も考えずにステロイドを入れると診断がよくわからなくなる可能性があります


今回の症例ではセフトリ、バンコ、ビクシリン、アシクロビルが入っていましたが、

ステロイドは投与されていませんでした


その理由はもともとステロイドを内服されていたからか、バクタを飲んでいたからか、

ステロイドで診断が混沌とすることを避けたからか、どうしてステロイドを入れなかったまでは記載はありませんでした


ですが、しっかり感染側のワンサイドカットはされていました


その上で、DOACを中止し髄液検査を行うと、リンパ球優位の細胞数上昇とブドウ糖の低下を認め、慢性髄膜炎や脳炎が疑われる結果となりました


ここで臨床的に大事なのは、髄液検査の際にたくさん髄液を取っておくということです


腰椎穿刺中に細胞数は分かりませんので、たくさん取っておいて、

細胞数上昇を見た上で、何を提出するかを考えます


細胞数上昇がなく慢性髄膜炎や脳炎の可能性が低いとなれば、

銃弾爆撃的に色々検査を行う必要はありません


細胞数が上がっていた場合は、じっくり検査Planを考えます


よくある状況はあれもこれも鑑別なり、調子に乗って検査を出していると、

髄液が足りなくなる事態になります


それを防ぐために、最初に髄液検査は多めに取っていただき、

余ったら保存してもらうことが重要です



ステロイドや抗生剤が入る前の検体は非常に重要になります


今回の症例はADAや結核のPCR検査の記載はありませんでしたが、実臨床では必ず提出します

結核PCRはすぐに結果は出ますが、ADAは数日かかるのでその数日の間で、

結核らしさを見積もります


そしてADAが高いという結果が帰って来れば、再度髄液検査を行い細胞数や蛋白などを確認し、培養にも提出した上で、結核としての治療に踏み込むことが多いです


もしくは疑っている自己免疫脳炎があれば、ステロイドを投与することになります


今回であれば、結核性髄膜炎が一押しでしたが、MRIを取ると脳幹病変や視床周囲に病変が多発しており、神経ベーチェットらしさに診断が傾きました


MRIの結果より、神経ベーチェットの可能性が高いと判断され、治療Planが組まれていき、

その後の治療経過は良好でした


感染症の5原則の最後の一つにもなっていますが、

「適切な経過観察」はどの領域でも非常に重要です



確たる証拠がないまま治療せざるえを得ないのは致し方ありません


診断がつかないことは、恥じるべきことではありませんが、治療しっぱなしで経過をみないのは恥じるべきです


診断的治療にもなりますが、治療の反応性を見ることで、診断に迫れることもよくあります


特に白質脳症や間質性肺炎急性増悪では、生検ができないこともあり、診断よりも治療が始まることはよくあります


本症例はMRIで所見が得られ、画像的な分布や特徴から神経ベーチェットの可能性が高く、

治療が開始となり、経過は良好でした


そのため、神経ベーチェットが最終診断でしたが、

最終診断よりも診断過程の方が勉強になった症例です


神経ベーチェットの詳しい治療内容よりも、そこにいたった診断プロセスの方が実臨床で使える気がします


もちろん、神経ベーチェットの治療も後半に詳しく書いてあり、勉強になりました

倫理の勉強会

TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります  

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