2023年11月4日土曜日

肺高血圧っぽいプレゼンテーションに出会ったら一度は考える疾患

前回のNEJM case


 86歳男性が6ヶ月前から労作時の呼吸苦が出現してきました


高血圧や脂質異常症、SAS、GERD、うつ、偏頭痛、腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症があり、PPI、SSRI、VD、ICS吸入を行っていました

SABAを呼吸苦の時に吸入していましたが、改善しませんでした


10週間前に腰部脊柱管狭窄症に対して手術が施行されました

手術後、呼吸苦は徐々に進行してきており、生活に支障が出るレベルになってきました


かかりつけ医に相談したところ、Dダイマーが高値であったことから、

精査目的に救急に紹介となりましたが、肺塞栓はありませんでした

CTでは右室や右房の拡大を認めました

心筋虚血を示唆する所見も見られず、経過観察となりました

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この時点で肺高血圧っぽいプレゼンテーションだね、という議論になりました

肺高血圧のどれか?という視点で鑑別が進んでいきました


もしくは二型呼吸不全を呈するような神経・筋疾患・接合部疾患の可能性もあります


ALSの人に頸椎症の手術を行うと、ALSが悪化する可能性があるように、

腰部脊柱管狭窄症の手術によって、症状が悪化しているようにも見えます


もしくは、臥位の時間が長く、ただ筋力が低下しただけかもしれません


CTではtree in budのような病変もあったことから、結核?も疑われました

結核の人が右心不全をきたしたとすると、考えられるのは・・・



収縮性心膜炎ですね

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退院後、さらに呼吸苦は悪化していきました

そして酸素化が低下し再度入院精査となります


ROSでは体重が3ヶ月で11kg減少していました

下痢や間欠的なめまい、臥位で悪化する咳もありました

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ここでは右心不全はありそうですが、

浮腫もあるのになぜ、体重が減るのか?ということが議論になりました


そこでK先生から右心系がやられつつ、下痢もあり体重も減っているとなると、

カルチノイドはどうでしょうか?とコメントをいただきました


正直、カルチノイドのゲシュタルトが自分の中になく、ピンときませんでした


ピュッピュッとホルモン分泌して、喘息やアナフィラキシーの鑑別になるという漠然とした理解しかなかったため、このような進行性の呼吸苦のプレゼンでくるのか分かりませんでした

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診察では毛細血管拡張を頬に認め、JVPが上昇していました

左傍胸骨で汎収縮期雑音を聴取し、拡張期雑音も聴取されました

肝臓が触知され、下肢に浮腫を認めました


そしてUCGが施行され、三尖弁の肥厚や運動制限が見られ、sever TRがありました

肺動脈弁も肥厚しており、肺動脈逆流もありました


僧帽弁と大動脈弁も少し分厚くなっていました

PFOを認め右左シャントを認めました

 

診断は?

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カルチノイド症候群


カルチノイド症候群がこんなプレゼンテーションで見つかるなんて、全く知りませんでした 



カルチノイドは高分化神経内分泌腫瘍です
ゆっくり大きくなりますが、悪性です

回腸にできやすいですが、大きくならなければ無症状です
腫瘍が大きくなってくると、局所症状(腸閉塞)で発見されます

もしくは他の原因でCT撮影された場合に偶発的に見つかることも増えてきています
小腸に腫瘤を見つけたら、一度は疑いましょう



そしてホルモンを分泌するため、カルチノイド症候群で見つかることもあります


ただし分泌された生理活性物質(セロトニン、ヒスタミン)は肝臓で代謝されるため、カルチノイド症候群を呈するためには、
直接、大循環系へ入るか、肝臓に転移していることが多いです

そのため、カルチノイドがあったとしてもカルチノイド症候群を呈することはまれです



有名なカルチノイド症候群(顔面紅潮、下痢、喘息発作、右心不全、毛細血管拡張)ですが、全てが揃う必要はありません


どれか一つのこともありますので、症状から除外することは難しいです

中でもカルチノイド心は、
肺高血圧を疑うような原因不明の進行性の呼吸苦や右心不全のプレゼンテーションできます




セロトニンなどの生理活性物質が三尖弁、肺動脈弁、心腔心内膜を刺激し、
線維化をきたすと考えられています

TRが最も多いです


TRを見た場合は肺高血圧に伴う二次的な弁膜症と考えず、
三尖弁の厚さや動きに注目することで、三尖弁自体の異常を見逃さないことが重要です



セロトニンは肺で不活化されるため、左心系には障害をきたしにくいですが、
今回のようにPFOやシャントが存在すると、左心系も障害されます

もしくは肺カルチノイドの場合です


薬剤性の場合も両側障害されます
カルチノイド心の一番の鑑別は薬剤性です


カルチノイド症候群・・・いつか診断してみたいものです

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NEJMの解説で勉強になったこと

・Platypnea-Orthodeoxia syndrome

座位や立位になると呼吸苦や低酸素が出現し、臥位になると改善する

姿勢の変化で呼吸苦が出現する時には、Platypnea-Orthodeoxia syndromeを疑う


他のpositional dyspneaのパターンとしては、本患者のように臥位で呼吸苦が出現し、

座位になると改善する場合もある

→それはもはや、Platypnea-Orthodeoxia syndromeじゃなくて、

 ただの起坐呼吸ではないか・・・と思ってしまいましたが、

 「姿勢での変化で呼吸苦が出現する時はシャント疾患を思い浮かべよう」という

 パールに換言しました


 Platypnea-Orthodeoxia syndromeは、肺底部病変や心臓内外の右左シャントが原因になります

 今回の症例はPFOが原因で右左シャントが生じており、

 これがPlatypnea-Orthodeoxia syndromeの原因と考えられました



・TRとPS

 TRの診断は末梢のサイン(JVP、肝腫大、下肢浮腫)でおこないます

 雑音はほとんど聞こえません


 TRがseverになると低速系であり、雑音は聞こえなくなります

 にも関わらず、本症例では収縮期雑音が聞こえており、

 これはTR単独では普通ではないことです

 そのため、他の原因を探した方が良いです

 本症例では僧帽弁や大動脈弁、肥大型心筋症のような雑音ではなく、

 肺動脈弁狭窄症が収縮期雑音の原因と考えられました


→昔からボスには、TRの音は心窩部からやや右側に放散するんだ

 ほら聞こえるだろ!と、圧強めに言われていて、

 聞こえていたような気がしていましたが、TRはseverになると聞こえなくなるのですね・・・


倫理の勉強会

TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります  

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